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私は貝になりたい事件 東京地裁昭和50年3月31日判決
本判決は、第一法規株式会社様のご厚意によりデータの提供を受けて掲載しております。

【判例ID】   27755025
損害賠償等請求事件
東京地裁昭和四九年(ワ)第二三七号
同五〇年三月三一日民事第二九部判決
原告 X
被告 Y
右訴訟代理人弁護士 酒巻弥三郎 外一名

       主   文

原告の請求を棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。

       事   実

第一 当事者の求めた裁判
一、原告
(一)原告が、映画及びテレビ映画「私は貝になりたい」の脚本につき、著作者人格権を有することを確認する。
(二)被告は、原告に対し、金五〇万円を支払え。
(三)訴訟費用は、被告の負担とする。
との判決を求める。
二、被告
主文同旨の判決を求める。
第二 当事者の主張
一、請求原因
(一)映画及びテレビ映画「私は貝になりたい」の脚本は、原告と被告が共同で創作した共同著作物である。すなわち、原告は、昭和三二年九月、株式会社☆☆☆☆(以下「☆☆☆☆」という。)美術部勤務の訴外Sに対し、原告が創作した別紙記載のとおりのドラマ「私は貝になりたい」の原案(以下「本件原案」という。)を口頭で伝達したうえ、同人から☆☆☆☆編成局長に対し、☆☆☆☆においてしかるべき脚本家を選定して本件原案をそのまま採り入れて脚本化した、昭和三三年度芸術祭参加番組として製作、放送するよう伝達することを依頼した。☆☆☆☆は、テレビ映画「私は貝になりたい」を製作し、昭和三三年一〇月、昭和三三年度芸術祭参加番組としてテレビ放映し、また東宝撮影所は、同年一二月、映画「私は貝になりたい」を製作し、上映した。右テレビ映画及び映画「私は貝になりたい」は、「私は貝になりたい」の脚本(以下「本件脚本」という。)に基づくものであるが、本件脚本は、被告が本件原案をそのまま採り入れて作成したものであつて、原告と被告の共同著作物である。
(二)ところで、共同著作物の著作者人格権は、著作者全員の合意によらなければ、行使することができないのに(著作権法第六四条第一項)、被告は、原告に無断で、本件脚本を被告単独の著作物として公表し、原告が本件脚本について有する公表権及び氏名表示権を侵害し、現在に至つている。
(三)よつて、原告は、被告に対し、原告が本件脚本について著作者人格権を有することの確認及び原告が有する右著作者人格権の侵害に対する損害賠償として慰藉料金五〇万円の支払いを求める。
二、請求原因に対する被告の答弁及び主張
(一)請求原因(一)のうち、☆☆☆☆がテレビ映画「私は貝になりたい」を製作し、昭和三三年一〇月、昭和三三年度芸術祭参加番組としてテレビ放映し,東宝撮影所が同年一二月映画「私は貝になりたい」を製作上映したことは認めるが、その余の事実は否認する。原告と☆☆☆☆美術部勤務のSとは、原告が昭和三一年暮ころ☆☆☆☆美術部にアルバイトで来ていたことによる顔見知りで、原告主張のころ、偶然西荻窪駅前の路上で会い一緒にお茶を飲んだことはあるが、原告からSに対し、本件原案の話はされなかつた。本件原案は、テレビ映画「私は貝になりたい」の断片的シーンを、原告が右テレビ映画を見たときの記憶に基づいて羅列したものに過ぎない。
(二)同(二)のうち、被告が本件脚本を被告単独の著作物として公表し今日に至つていることは認めるが、その余の事実は否認する。本件脚本は、被告単独の著作物であつて、原告の創作は何ら加わつていない。 
(三)原告の主張は、それ自体失当である。すなわち、原告は、Sに本件原案を口頭で伝達した旨主張するが、原案ではいまだ著作物とはいえない。また、原告の主張によれば、原告が本件脚本を自ら書いたという事実もないのであるから、原告は、本件脚本の著作者とはいえない。原告は、本件原案を被告に提供したから、本件脚本の共同著作者である旨張するが、共同著作者たりうるためには「数人ノ合著作ニ係ル」場合でなければならないところ(旧著作権法第一三条第一項参照)、前述のとおり原告の主張自体から原告には本件脚本についての著作行為がなく、原告が本件脚本の共同著作者たりえないことが明らかであるから、原告の主張は、それ自体失当である。
第三 証拠関係〈省略〉

       理   由

 原告は、本件脚本は原告と被告の共同著作物である旨主張し、被告はこれを争うので、この点について判断する。
  本件脚本が原告と被告の共同著作物であるというためには、原告と被告が、本件脚本自体について、共同してその創作に関与したことを要するものと解すべきである。ところで、
原告は、本件脚本が原告と被告の共同著作物である根拠として、原告から訴外Sに対し、原告が創作した本件原案を口頭で伝達したうえ、右訴外人から☆☆☆☆編成局長に対し☆☆☆☆においてしかるべき脚本家を選定して本件原案をそのまま採り入れて脚本化するよう伝達することを依頼したところ、被告が本件原案をそのまま採り入れて本件脚本を作成したものであるから、本件脚本は原告と被告の共同著作物である旨主張する。しかしながら、仮に右の事実がそのまま認められたところで、それは原告が本件原案を創作したというにとどまり、その事実だけからは、原告と被告が本件脚本自体について共同して創作に関与したということにはならず、原告がそれ以上に本件脚本自体の創作に被告と共同して関与したとの主張立証をしない本件においては、原告の、原告が本件脚本の共同著作者であることを前提とする本訴請求は結局その理由がない。のみならず、原告本人尋問の結果中、本件原案は原告が創作しこれを右訴外人に伝達したものである旨の供述部分にしても、原告のその余の供述部分及び〈書証〉の記載内容に照せば、これをそのまま信用することは難しいし、他にこれを裏付けるに足りる証拠もない。
  そうすると、原告の本訴請求は、その余の争点について判断するまでもなく、理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(高林克己 牧野利秋 清水利亮)


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