02.法的措置が可能な人格権の侵害となる名誉毀損とはどのようなものですか?

名誉棄損の法的保護の対象となる名誉にも、次のような概念があります。

① 外部的名誉
「人の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価」をいいます。経済的信用を含む「信用」も、名誉に該当します。

② 名誉感情
自己が自身の価値について有している意識や感情のことをいいます。自尊心といったものです。

そして、まず保護の対象とされるべきは、外部的名誉、すなわち社会から受けている評価になります。そして、これを棄損する、すなわちその客観的評価を低下させる行為が名誉棄損となります。

なお、虚名も保護されます。これについては後述します。
名誉棄損が成立するための要件は、下記のとおりです。

① 書き込みが公然となされること
「公然と」というのは、不特定または多数の人が認識できるということです。公然でない場合、たとえば、1対1のメールなどで誹謗中傷を行っても、社会から受ける客観的評価が低下することはありませんので、名誉棄損には当たりません。ただ、不特定または多数の人に伝搬されうる形態による場合は、公然性が満たされることがあります。

② 事実適示の有無は問わない。
刑法における名誉棄損の罪は、「公然と事実を適示し、人の名誉を棄損する」(刑法230条)と規定されており、ここでは、具体的な事実を示しながら誹謗中傷が行われた場合に名誉棄損が成立することになります。しかしながら、民事上の責任を追及する場合は必ずしも事実の摘示は必要ではありません。

「事実を適示し」とは、具体的な事実を示すことによって、人の社会から受ける客観的評価を低下させるということです。具体的な事実というのは、示された情報が真実であるかどうかを証拠によって決定できる対象となる程度に具体的な事実ということです。同じ名誉棄損行為でも、具体的な事実を示しながら行われる場合の方がより客観的評価が低下しますので、刑法の場合は、この場合に限って、名誉棄損罪が成立するとしています。

たとえば、「芸能人の○○は不倫をしている」とか、「○○は過去に詐欺罪で逮捕されたことがある」などと示すことは、具体的事実の摘示にあたります。

ただ、事実の摘示を行わずとも社会的評価を低下させることもありえます。たとえば、「○○の行為は詐欺罪に該当する。」というような意見を表明することで、その評価を低下させるような場合です。ただ、事実の摘示を伴わない表現が、社会的評価を低下させているかどうかの判断は微妙な場合も多くなります。

意見・論評については、同じ事実を前提にしても様々な意見がありうるし、多様な意見・論評が表明されることそのもの意義があります。したがって、意見・論評については、名誉棄損が場面をより限定的に解し、かつ抗弁事由を緩やかに認める必要性があります。

「意見」と「事実」の違いは、証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項か否かによります。

「ある人が犯罪を犯した」という表明は証拠で存否を決することができるが、「ある政治家が提唱する政策は間違っている」という表明については、これを証拠によって決めることはできないのであって、基本的には、多くの人が多様な意見・論用を戦わせることが自由にできるとされるべきですから、名誉棄損が成立する場合は限定的なものとされることになります。

なお、一般的な意味で言われる誹謗中傷については、その表現の具体性、長さ、言い回しなどにおいていろいろなレベルのものがあり、一概に名誉棄損や侮辱等の不法行為が成立するどうか言えません。

判例では、「性格ブス」、「人格チビ」、「乞食野郎」、「××高校の恥」を社会的評価の低下を伴うものとして名誉棄損としたものがありますが、こうした表現は、名誉感情を傷つけるものとして侮辱として扱われるべきという学説もあります。

③ 摘示された事実が虚偽である必要はない
名誉棄損となるためには、摘示する事実が真実であるとしても、それによって相手方の社会的評価が下がるのであれば、名誉棄損になります。虚名も、保護されるのです。