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土地売買契約書事件 東京地裁昭和62年5月14日判決
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【判例ID】   27801775
契約書返還等請求事件
東京地裁昭六一(ワ)八四九八号
昭62・5・14民三〇部判決
原告 甲野春子 〈ほか一名〉
右両名訴訟代理人弁護士 乙山太郎
被告 Y
右代表者代表取締役 Y1
右訴訟代理人弁護士 猿山達郎
被告 Y2
右両名訴訟代理人弁護士 藤巻克平
被告 Y3

       主   文

一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告らの連帯負担とする。

       事   実

第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 (主位的請求)
  被告らは原告らに対し、各自売主Y並びに買主甲野春子及び同甲野夏子間の「停止条件付土地売買契約書」と題する書面原本(以下、本件文書という。)一通を返還せよ。
(予備的請求)
  被告らは原告らに対し、各自金一〇〇万円を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 仮執行の宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
  主文同旨
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 被告Y(以下、被告会社という。)は、建設工事の仲介及び設計施工等を目的とする会社であり、被告Y2(以下、被告Y2という。)及び同Y3(以下、被告Y3という。)はいずれも弁護士であり、被告会社の代理人であった者である。
2 原告らは、昭和六一年三月頃から被告会社所有の千葉市黒砂四丁目一三番五所在、宅地二五二・〇七平方メートル(以下、本件土地という。)の購入の交渉を進めており、同年四月一六日以降は原告らの代理人である乙山太郎弁護士(以下、乙山代理人という。)と被告Y3との間で契約の内容の検討及び契約書条文の作成の作業を行っていた。
  すなわち,被告Y3は、乙山代理人作成にかかる「土地売買契約書」に対し、被告会社の意見を盛り込んだ停止条件付土地売買契約書案(以下、Y3作成契約書案という。)を作成し、昭和六一年四月二五日これを乙山代理人に示した。
3 乙山代理人は、なるべくY3作成契約書案の精神を生かした停止条件付土地売買契約書を作成し、タイプによって浄書をして袋綴じにした「停止条件付土地売買契約書」二通(本件文書)を昭和六一年五月二八日被告Y2及び同Y3の法律事務所宛に同日付書簡とともに送付した。 
  右書簡の内容は、右契約書の条項に疑問があれば連絡してほしいこと、右の連絡があれば原告らの真意等を伝えたいことなどである。
4 ところが、被告Y2及び同Y3は、昭和六一年六月四日付書簡をもって、本件土地の売買についての折衝を打切る旨通知してきた。そして、その際、本件文書のうち一通は被告会社の検討資料として使用したので一通を返送するとして、本件文書のうち一通だけを返還してきた。
5 本件文書は原告らの委任を受けて乙山代理人が作成したものであり、その所有権及び著作権は原告らに帰属する。
  そして、本件土地の売買についての折衝は、契約締結以前の準備段階において打切られたのであるが、このような場合には、契約締結を目指して行動した両当事者は、信義則に基づき相互に原状回復をすべき義務(契約締結の準備のために預かった書類等の返還義務)を負うものであり、被告会社は売買契約締結の準備行為をした者として、被告Y2及び同Y3は被告会社の代理人として行動していた者として、原告らに対して本件文書を返還すべき義務がある。
6 本件文書の価値は一〇〇万円を下ることはない。
7 よって、原告らは被告らに対し次のとおり請求する。
(一)主位的に所有権又は著作権に基づいて本件文書一通を返還すること。
(二)本件文書が返還できないときは、予備的に一〇〇万円を各自支払うこと。
二 請求原因にたいする答弁
1 請求原因1項は認める。
2 同2項のうち、Y3作成契約書案が乙山代理人作成の契約書に対する対案であることを否認し、その余は認める。
3 同3項のうち、乙山代理人作成の停止条件付土地売買契約書がY3作成契約書案の精神を生かしたものであることは否認し、その余は認める。
4 同4項は認める。
5 同5項は争う。
  なお、著作権の対象となる著作物は思想又は感情を表現したものでなければならないが、本件文書は原告らの希望する契約条件ないし意思を被告会社に伝達するための文書にすぎないから、著作物には該当しない。また、本件文書の作成者は乙山代理人であって、原告らはその著作者ではない。
6 同6項は争う。
三 抗弁
  本件文書の所有権は被告らにある。
  すなわち、本件文書は原告らの希望する契約条件を伝達するための文書であって、実質的には手紙と同様の文書なのであり、これを意思の伝達の手段として相手方に交付するのであるから、相手方に交付されあるいは到達した時点において、意思の受取人である相手方に所有権が移動する。
四 抗弁に対する答弁
  抗弁は争う。
第三 証拠《略》

       理   由

一 請求原因1項の事実、同2項のうちY3作成契約書案が乙山代理人作成の契約書に対する対案であるという点を除くその余の事実、同3項のうち乙山代理人作成の停止条件付土地売買契約書がY3作成契約書案の精神を生かしたものであるという点を除くその余の事実及び同4項の事実は、いずれも当事者間に争いがない。
二 右の当事者間に争いのない事実によれば、原告らと被告会社との間の本件土地の売買についての折衝は途中で打切られ、契約の締結には至らなかったものであることは明らかである。したがって、本件文書は右折衝の過程で原告らが被告会社に提示した契約書案であって、両当事者の間で既に合意が成立した契約の内容を記載した契約書ではなかったことになる。
  このように、契約を締結しようとしていた当事者の一方が相手方に送付した契約書案を記載した文書の所有権は、これを送付した当事者が特に相手方に対し契約締結に至らなかったような場合には返還するようにとの意思を表示してその所有権を留保した場合あるいはその文書に何らかの経済的価値がある場合などを除いては、送付された時点において相手方に移転するものと解するのが相当であり、このように解することが当事者の合理的意思に合致するものと考えられる。
  本件において、原告らが本件文書の所有権を留保する意思を表示したこと、あるいは本件文書に何らかの経済的価値があることについては何ら主張立証がないから、本件文書の所有権はこれが被告らに送付された時点において被告らのいずれかに移転したものであって、原告らはもはやその所有権を有するものではない。
三 本件文書の記載内容は、「思想又は感情を創作的に表現したもの」であるとはいえないから、著作物ということはできない。
四 以上のとおり、原告らの本訴請求は、主位的請求及び予備的請求ともに理由がないから、これらを失当として棄却することとする。
  よって、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 矢崎秀一)


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