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第1章 著作権ビジネス
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【判例ID】   27807520
損害賠償等請求事件
東京地裁昭六二(ワ)一〇四六六号
平2・4・27民二九部判決
原告 三宅康文
右訴訟代理人弁護士 小林秀正 渡邉幸博
被告 Y1〈ほか二名〉
右三名訴訟代理人弁護士 石田義俊 山崎和義

       主   文

一 被告Y1は、原告に対し、一〇万円及びこれに対する昭和六二年八月二二日以降、同被告及び同株式会社Y2は、原告に対し、連帯して一〇万円及びこれに対する被告Y1については昭和六二年八月二二日、同株式会社Y2については同月二〇日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを一〇分し、その九を原告、その余を被告Y1及び同株式会社Y2の負担とする。
四 この判決は、一項に限り、仮に執行することができる。

       事   実

第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは、原告に対し、連帯して五〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被告らは、原告に対し、被告株式会社Y2発行の「ポートフォリオ」「アイデア」両誌に、別紙一記載の謝罪広告を別紙二記載の掲載条件で掲載せよ。
3 訴訟費用は、被告らの負担とする。
4 1項について仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求の原因
1 原告は、昭和五九年七月、レリーフ「樹林」(以下「樹林」という。)を創作し、したがって、樹林について著作権及び著作者人格権を有する。
2(一)(1) 被告Y1(以下「被告Y1」という。)は、千葉大学工学部工業意匠学科(以下「工業意匠学科」という。)に在学中、卒業研究として「タイポグラフィカルアート・凹凸をもった文字たち」を製作したが、同作品は、六点の作品から成り、そのうちの一点は、木を部首にもつ文字五〇文字を使用し、木を素材とした作品(以下「被告作品」という。)である。被告Y1は、故意又は過失により、樹林を模倣して被告作品を製作し、かつ、被告作品を撮影してその写真を作成したものであって、原告が樹林について有する翻案権及び同一性保持権を侵害するものである。
(2) 被告Y1は、被告Y3(以下「被告Y3」という。)及び被告株式会社Y2(以下「被告会社」という。)と共謀のうえ、故意又は過失により、写真によって被告作品を複製するとともに、被告作品の写真が原告の複製権を侵害する行為によって作成された物であることについて情を知りながら、被告作品の写真を、被告会社発行のポートフォリオ(以下「ポートフォリオ」という。)一九八七年六、七月号及びアイデア(以下「アイデア」という。)一九八七年七月号に発表し、これを頒布した。
  被告Y1に右の侵害行為について過失があることは、次の事実に照らし明らかである。すなわち、仮に、被告Y1は、被告作品の写真がポートフォリオ及びアイデア(以下「両誌」という。)に掲載されることを知らなかったとしても、当時デザイン関係の雑誌は、数種類しか刊行されていないこと、両誌の発行部数は、アイデアが三万二〇〇〇部、ポートフォリオが四万五〇〇〇部であり、専門誌としては相当な数であること、両誌は、毎年卒業作品展を特集しており、アイデアにおいては約二〇年前から右作品展が掲載されていること、美術関係の学生で両誌に目を通すものが多いこと、被告Y1の所属していた講座の学生八名のうち五名の作品が両誌に掲載されていることなどの事実によれば、被告Y1は、被告作品の写真が両誌に掲載されることを予見し、掲載されることのないようにすべき義務があるのに、これを怠ったものというべきである。
(二)(1) 被告Y3は、被告Y1及び被告会社と共謀のうえ、故意又は過失により、写真によって被告作品を複製するとともに、被告作品の写真が原告の複製権を侵害する行為によって作成された物であることについて情を知りながら、被告作品の写真を前記両誌に掲載させ、これを頒布した。
(2) 仮に、被告Y3は、樹林の存在を知らなかったとしても、被告会社から卒業製作の写真の提出を依頼されてこれを応諾した者であり、また、工業意匠学科の学年担任として、その学生の管理等学校行政の中心にあったものであるから、卒業製作の写真の提出をするに当たっては、著作権侵害物の提出をすることのないよう調査すべき義務があるのに、これを怠り、被告作品の写真を提供したものであるから、その侵害行為について過失がある。
(三)(1) 被告会社は、被告Y1及び被告Y3と共謀のうえ、故意又は過失により、写真によって被告作品を複製するとともに、被告作品の写真が原告の複製権を侵害する行為によって作成された物であることについて情を知りながら、被告作品の写真を両誌に掲載して、これを頒布した。
(2) 仮に、被告会社は、樹林の存在を知らなかったとしても、両誌を発行するに際し、著作権侵害物を掲載することのないよう調査すべき義務があるのに、これを怠り、被告作品の写真を掲載したものであるから、その侵害行為について過失がある。
3 被告Y1の被告作品の製作が原告の翻案権等を侵害する理由は、次のとおりである。

(一) 樹林及び被告作品(以下「両作品」という。)は、ともに、木偏のつく各種の木を表意する漢字を、偏と旁を別々に、それぞれ大きさや字体を変えて各種の木材を切り抜いて製作し、更に凹凸の差をつけて、右の切り抜き文字を縦横に組合せ長方形の枠内に納めたレリーフである。また、仕上げは、使用した木材の肌合い、色調が残るよう透明仕上げとなっている。
(二) 樹林において使用されている文字総数二一文字のうち、一九文字が被告作品に使用されている。
(三) 樹林は、木立の奥行きを表現するために、使用された文字に大小の差を付けたり、文字を変形させたりしているが、被告作品も、右と同様の変化を文字に施している。また、被告作品において、「楢」、「楠」、「棉」の文字は、樹林と全く同様、用いられた文字のうち最も大きなサイズの文字が使用され、かつ、最も外側に配置されている。更に、平たく変形した「樹」を使用していること、「樹」を「楢」と上下に組み合わせて使用していることも、両作品に共通する。
(四) 樹林の大きな特徴の一つは、大きさの異なる偏と旁の文字を配列していることであり、「楓」、「楡」、「榎」、「桜」、「梅」、「櫂」、「林」がそれである。被告作品でも、「梅」、「楓」、「榎」、「柊」、「櫂」が同様の配列であるうえ、樹林で使用されていない「柊」を除いた四文字は、樹林と同一の文字である。
(五) 樹林のもう一つの大きな特徴は、互いに接した文字の一部を共通にする表現がとられていることであり、「枷」と「架」、「杏」と「楠」、「櫂」と「集」と「林」がそれである。この点においても、被告作品は、同様の表現が施されており、「桑」と「椿」、「櫂」と「集」、「杏」と「枷」などがそれである。これらのうち、「櫂」の旁の一部である「隹」に「木」を結び付けて「集」の文字にする表現は、樹林と全く同一であり、「杏」の冠に、それ自体一つの文字である「加」を結び付けて「枷」の文字にする表現は、樹林における「杏」と「楠」の関係と全く同一の発想であり表現である。
(六) 両作品が、使用する文字の大きさ及び数を異にする点は、被告作品の独自性の根拠とはならず、被告作品が、作品全体を幹の切断面ととらえ、木のもつ雰囲気を醸し出しているとしても、前記の両作品の一致点からすれば、末梢的な問題である。被告作品は、表現形式上、樹林と同一の発想に基づき、樹林を基礎にこれを変形した作品である。
(七) 以上のとおりであるから、被告作品の製作は、原告が樹林について有する翻案権及び同一性保持権を侵害するものである。
4(一) 原告は、被告らの前記行為により、芸術家としての名誉声望を傷つけられる等の精神的苦痛を被ったが、この精神的損害に対する慰謝料の額は、一〇〇〇万円を下らない。
(二) 原告が被告らの前記行為により毀損された名誉を回復するためには、両誌に別紙一記載の謝罪広告を別紙二記載の掲載条件で掲載すること(以下「本件謝罪広告」という。)が必要である。
5 よって、原告は、被告らに対し、損害賠償金一〇〇〇万円の内金五〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の連帯支払並びに本件謝罪広告を求める。
二 請求の原因に対する認否
1 請求の原因1の事実は、認める。
2(一) 同2(一)(1)のうち、被告Y1が故意又は過失により樹林を模倣して被告作品を製作し、原告主張の権利を侵害したとの事実は否認し、その余の事実は認める。同2(一)(2)のうち、被告作品の写真がポートフォリオ及びアイデアに発表され、これが頒布されたことは認めるが、当時、デザイン関係の雑誌は、数種類しか刊行されていないこと、両誌の発行部数は、アイデアが三万二〇〇〇部、ポートフォリオが四万五〇〇〇部であり、専門誌としては相当な数であること、両誌は、毎年卒業作品展を特集しており、アイデアにおいては約二〇年前から右作品展が掲載されていること、美術関係の学生で両誌に目を通すものが多いこと、被告Y1の所属していた講座の学生八名のうち五名の作品が両誌に掲載されていることは知らないし、その余の事実は否認する。
(二) 同2(二)のうち、被告Y3が工業意匠学科の学年担任であった事実は認め、その余の事実は否認する。
(三) 同2(三)のうち、被告会社が被告作品の写真を両誌に掲載し、これを頒布した事実は認め、その余の事実は否認する。
3 同3の主張は争う。
4 同4の事実は否認する。
三 被告らの主張
1(一) 被告Y1の被告作品の製作は、純粋に学問研究、卒業製作のみを目的としたものであって、商業目的、営利目的、又は就職活動に有利に役立てるといったことを目的としたものではなく、また、世間に公表することを目的とするものでもなかった。被告作品は、被告Y1の知らないところで、多数の卒業研究作品の中から選ばれ、その写真が両誌に掲載されたのである。
(二) 被告作品が、樹林から影響を受けているとしても、一般に先人の作品から少なからず影響を受けて作品製作がなされることは多々あることであって、まして、被告Y1のように、学生が大学在学中に勉強あるいは研究目的に作品を製作する場合、先輩等の作品から影響を受けるのは、当然のことである。
(三) 被告の卒業作品は、六点の作品から成っているが、それぞれ独自の発想に基づき、独自の素材を用いて製作したものである。樹林の影響が認められるのは、被告作品一つのみである。
(四) 被告作品の製作発表は、原告の行う樹林の商品展開には、何ら影響を及ぼしていない。
(五) したがって、被告Y1が被告作品を製作した行為は、社会的に相当な行為であって、違法性がない。
2(一) 被告Y3は、被告Y1の在籍した講座とは全く異なる講座を担当していたのであり、被告Y1の卒業作品の製作指導に関与できる立場になく、被告作品の両誌への掲載についても、単なる学年担任として関与したにすぎない。
(二) 当時、樹林は、極く限られた者にしか知られておらず、この程度の作品を多数の作家の膨大な作品の中から捜し出してチェックすることは不可能であり、被告Y3には原告主張のような調査義務は存しない。
3(一) 被告会社が両誌上で卒業作品を特集するに際して、著作権侵害の有無をチェックする体制は、第一次的には、作品を製作する学生に任せ、第二に、各大学の担当教官にチェックしてもらい、作品が提出された後は、被告会社編集部あるいはアートディレクターにより、厳重なチェックを行うというものであった。
(二) 当時、樹林は、極く限られた者にしか知られておらず、この程度の作品を多数の作家の膨大な作品の中から捜し出してチェックすることは、被告会社にとっても不可能であり、被告会社には原告主張のような調査義務は存しない。
4 被告Y1の行為は、原告主張の権利侵害を構成しない。すなわち、被告Y1は、被告作品の文字を、朝日新聞書体を参考にして独自に製作したものであり、使われている文字の大きさ及び数も、樹林と大きく異なっている。被告作品は、作品全体を幹の切断面ととらえ、木のもつ雰囲気をかもし出しているが、これは、樹林には見られない着想である。したがって、被告作品の製作行為は、樹林の翻案権等を侵害するものではない。
5 被告作品は、卒業研究作品として製作されたものであり、両誌上においても、卒業製作作品として紹介されている。他方、原告は、二〇数年のプロの実績を誇る芸術家であって、被告Y1との実力差は明らかであるから、被告らの行為は、原告の芸術家としての名誉声望を傷つけることはなく、したがって、原告に精神的損害が生じるということは考えられない。
第二 証拠関係《略》

       理   由

一 請求の原因1の事実及び同2(一)(1)のうち、被告Y1が被告作品を製作した事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、被告Y1の被告作品の製作行為が原告の翻案権等を侵害するものであるか否かについて判断する。
《証拠略》によれば、被告Y1は、被告作品の製作前に樹林の写真を見たことがある事実及び請求の原因3(一)ないし(五)の事実を認定することができ、右認定の事実によると、被告作品は、樹林に依拠し、これに変形を加えて製作したものであって、その製作行為は、原告が樹林について有する翻案権及び同一性保持権を侵害するものと認められる。

 被告らは、被告Y1は、被告作品に使われている文字の書体、大きさ及び数が樹林と異なっていること、被告作品に存する木のもつ雰囲気が樹林には見られない着想であることなどを挙げて、被告作品の製作は樹林の翻案権等を侵害しない旨主張するところ、前掲証拠によれば、右挙示の要素が認められなくはなく、その点において、被告作品は、樹林をそのまま利用したものではないが、右挙示の要素が被告作品全体に及ぼす影響は大きいものではなく、被告作品をもって樹林とは全く別個独立の著作物の作出とは認められず、かえって、被告作品は、樹林に依拠し、これに変形を加えて製作したものと認められることは、前示のとおりであり、したがって、被告らの右主張は、採用することができない。また、被告らは、被告Y1が被告作品を製作した行為は、社会的に相当な行為であるとして、その事情を主張するところであるが、同被告主張の事情は、被告Y1の被告作品の製作行為の違法性を阻却するものとは認められない。すなわち、被告作品の製作目的が同被告主張のとおりであったとしても、その製作が他人の著作権及び著作者人格権を侵害するものであるときには、著作権者及び著作者の許諾を受けてこれを利用すべきであることは当然であって、右製作目的は、同被告の行為を正当化するものではなく、また、学生が先輩等の作品から影響を受けるとしても、自ら作品を製作するに当たっては、影響を受けた作品の著作権等を侵害しないよう製作するか、又は著作者の許諾を受けて製作すべきであり、更に、被告作品が卒業作品六点中の一点であるとしても、被告作品の製作が樹林の著作権等を侵害するものである以上、その侵害の事実を否定することはできない。したがって、被告らの右主張は、採用しえない。
三 次に、被告らの行為が不法行為を構成するものであるか否かについて判断する。
1 被告Y1について
(一) 前二の認定判断によれば、被告Y1には、被告作品の製作行為が原告の樹林について有する翻案権及び同一性保持権を侵害するものであることについて、少なくとも過失が存したものと認められる。したがって、被告Y1の右行為は、不法行為を構成するものといわなければならない。
(二) 次に、被告Y1が、その余の被告らと共謀のうえ、故意又は過失により、写真によって被告作品を複製したか否かについて判断するに、被告Y1がその余の被告らと共謀したとの事実を認めるに足りる証拠はないが、《証拠略》によれば、被告会社は、工業意匠学科に対し、両誌に掲載する卒業記念作品の推薦及び推薦作品の写真の提供を依頼し、同学科教官らは、これを承諾し、推薦作品の選考を行ったところ、被告作品も推薦作品に選ばれ、被告Y1を含む学生が被告会社に提供する写真を撮影し、これが被告会社に送付された事実を認定することができ、右認定の事実によると、被告Y1は、写真によって被告作品を複製したものと認められる。
  ところで、前二の認定判断及び右認定の事実によると、被告Y1は、原告が樹林について有する翻案権等を侵害して製作した被告作品を写真によって複製して利用したものというべきところ、樹林の著作権者である原告は、右利用に関し、複製権を有するものであるから、被告Y1の右行為は、原告の右複製権を侵害するものといわなければならない。そして、以上の認定判断によれば、被告Y1には、右侵害行為について少なくとも過失があったものと認められる。したがって、被告Y1の右行為は、不法行為を構成するものというべきである。
(三) 被告Y1が、その余の被告らと共謀のうえ、故意又は過失により、被告作品の写真が原告の複製権を侵害する行為によって作成された物であることについて情を知りながら、被告作品の写真を両誌に発表し、これを頒布したか否かについて判断するに、被告Y1がその余の被告らと共謀したとの事実を認めるに足りる証拠はなく,また、後記認定判断のとおり、被告会社が、被告作品の写真が原告の複製権を侵害する行為によって作成された物であることについて情を知りながら、被告作品の写真を両誌に発表し、これを頒布したとの事実を認めることができないから、被告Y1が、これに加担したものと認めることもできない。したがって、右の点については、被告Y1の不法行為の成立を認めることはできない。
2 被告Y3について
(一) 被告Y3が、その余の被告らと共謀のうえ、故意又は過失により、写真によって被告作品を複製した事実、被告作品の写真が原告の複製権を侵害する行為によって作成された物であることについて情を知りながら、被告作品の写真を両誌に掲載させ、これを頒布した事実は、これを認めるに足りる証拠がない。また、被告Y3が、右写真による被告作品の複製及び情を知っての頒布行為に加担したとの事実を認めるに足りる証拠もない。 
(二) もっとも、被告Y3が工業意匠学科の学年担任であった事実は、当事者間に争いがなく、そして、《証拠略》によれば、被告Y3が、被告会社からポートフォリオに掲載する卒業製作の写真の提出を依頼されて、これを応諾した事実を認めることができる。しかしながら、《証拠略》によれば、被告Y3は、被告Y1の在籍した講座とは全く異なる講座を担当し、樹林及び被告作品の属する美術の分野とは専門分野を異にしていたのであって、樹林の存在については知る立場になく、現に知らなかったのであり、また、被告Y1の卒業作品の製作指導に関与できる立場になく、被告作品の写真の両誌への掲載についても、単なる学年担任として関与したにすぎないものと認められ、また、学年担任の職務は、学生の身分異動、講座の振り分け、企業実習の折衝等庶務的なものに限られるものと認められる。そして、他の教官を管理する等の学校行政の中心にあったと認めるに足りる証拠もない。以上の事実によれば、被告Y3には、前示加担の事実はないものというべきであり、また、仮に加担の事実があるとしても、これに過失があると認めることはできない。
(三) したがって、被告Y3については、原告主張の不法行為の成立を認めることができない。
3 被告会社について
(一) 被告会社が、被告作品の写真を両誌に掲載し、これを頒布した事実は、当事者間に争いがなく、また、前認定の事実によると、被告作品の写真は、被告会社が工業意匠学科に対して提供を依頼し、提供を受けたものであるところ、前認定のとおり、被告会社は、美術誌である両誌を発行していたのであるから、一般に、既に公表された美術の著作物については、これを侵害して製作した作品の写真を両誌に掲載することのないよう調査すべき義務があるものというべきである。ところで、《証拠略》によれば、樹林は、創作後、美術誌に掲載され、かつ、原告の個展において展示されて公表され、その存在は、美術関係の学科に在籍する学生であった被告Y1も知っていた程度に、美術の分野で知られていたことが認められる。以上の事実によれば、被告会社は、被告作品の写真を両誌に掲載し、これを頒布したものであるから、前説示のとおり、原告が樹林について有する翻案権等を侵害して製作された被告作品を写真によって複製して利用したものであって、原告の右複製権を侵害するものというべきところ、右侵害行為について少なくとも過失があるものといわなければならない。したがって、被告会社の右行為は、不法行為を構成するものといわざるをえない。なお、右の過失の点に関して、被告会社は、両誌を発行するに際して、著作権侵害の有無を厳重にチェックしたとか、樹林程度の作品をチェックすることは不可能であるとか主張するが、樹林が右認定の程度知られていた以上、これをチェックすることが不可能であるとはいえないから、その過失責任を免れることはできず、したがって、被告会社の右主張は、採用することができない。
(二) 次に、被告会社が、被告作品の写真が原告の複製権を侵害する行為によって作成された物であることについて情を知りながら、被告作品の写真を両誌に掲載して、これを頒布したか否かについて判断するに、被告会社において、被告作品が原告の樹林について有する複製権等を侵害して製作されたものであること、ひいては、原告が被告作品を写真によって複製して利用することに関し複製権を有していたことを知っていたとの事実を認めるに足りる証拠はないから、被告会社が、被告作品の写真が原告の複製権を侵害する行為によって作成された物であることについて情を知っていたものと認めることはできない。したがって、右の点については、被告会社の不法行為の成立を認めるに由ないものといわざるをえない。
4 なお、前示被告Y1及び被告会社の複製権侵害の行為は、その認定判断に照らし、共同不法行為を構成するものと認められる。
四 原告の損害について判断する。
1 前認定の被告Y1の侵害行為並びに被告Y1及び被告会社の共同不法行為の内容に照らせば、原告は、右侵害行為によって精神的苦痛を被ったものと認められる。
2 他方、被告作品が卒業研究作品として製作された事実は、当事者間に争いがなく、そして、《証拠略》によれば、被告作品は、両誌上において卒業製作作品として紹介されている事実が認められる。また、《証拠略》によれば、原告は、二〇数年のプロの実績を誇る芸術家であって、学生であった被告Y1との実力差は明らかである事実が認められるから、右被告らの行為により、原告の芸術家としての名誉声望が傷つけられたとまでは認められない。
  以上の事実を総合すると、被告Y1の翻案権及び同一性保持権侵害による原告の精神的損害に対する慰謝料の額は、一〇万円が相当であり、被告Y1及び被告会社の複製権侵害による原告の精神的損害に対する慰謝料の額は、一〇万円が相当である。また、右のとおり原告の芸術家としての名誉声望が傷つけられたとは認められないから、本件謝罪広告が必要であるとは認められない。
4 原告は、その被った精神的損害に対する慰謝料の額は一〇〇〇万円を下らないと主張するが、右のとおり、原告の芸術家としての名誉声望が傷つけられたとも認められない本件にあっては、慰謝料の額が一〇〇〇万円を下らないものとは認められず、他にこれを認定するに足りる証拠も存しない。原告は、その本人尋問の結果中、樹林の商品展開により一〇〇〇万円以上の利益が予想されていたと供述するが、一〇〇〇万円以上とする具体的根拠は何ら示されておらず、右供述部分から直ちに慰謝料の額は一〇〇〇万円を下らないものと認めることもできない。したがって、原告の右主張は、採用の限りでない。
五 結論
  以上のとおりであるから、原告の請求は、被告Y1に対し、損害賠償金一〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和六二年八月二二日以降、被告Y1及び被告会社に対し、連帯して損害賠償金一〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな被告Y1については右同日以降、被告会社については同月二〇日以降支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、これを認容し、その余は、理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条,九二条本文、九三条一項本文、仮執行宣言について同法一九六条一項の各規定を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 清永利亮)
  裁判官設楽隆一及び裁判官長沢幸男は、転補のため署名捺印することができない。 
(裁判長裁判官 清永利亮)
別紙一 謝罪広告《略》
別紙二 掲載条件《略》


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