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SM写真事件 東京地裁昭和61年6月20日判決
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【判例ID】   27804584
損害賠償請求事件
東京地裁昭五八(ワ)第九二九号
昭61・6・20民事第二九部判決
原告 X
右訴訟代理人弁護士 元田秀治
被告 Y
右代表者代表取締役 Y1
右訴訟代理人弁護士 川尻治雄
右訴訟復代理人弁護士 須田徹

       主   文

一 被告は、原告に対し、金三九八万六〇〇〇円及び内金三六二万六〇〇〇円に対する昭和五八年二月二二日から内金三六万円に対するこの判決言渡の日の翌日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は三分し、その二を原告の、その余を被告の負担とする。
四 この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

       事   実

第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、原告に対し、金一二九六万三五〇〇円及びこれに対する昭和五八年二月二二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告は主として女性のヌード写真等を手がけているカメラマンであり、被告は月刊雑誌「SMファン」等の雑誌その他の書籍を出版している出版業者である。
2 原告は、別紙写真目録の「雑誌名」欄の雑誌(以下「本件雑誌」という。)に掲載された写真のうち同目録「写真表題」欄の表題の下の各SM写真を撮影した。
  原告は、右SM写真の撮影にあたつては、撮影現場において、シチュエイションを考慮し、モデルの女性の個性、肉体的条件に適合した絵柄を考え、アングルポジション及びライティングを決め、雰囲気を盛り上げながら、モデルに種々の細かい手足のポーズ、顔の向き、表情を指示するなどして撮影したものであるから、右SM写真の著作者は原告であり、その著作権はいずれも原告に帰属する。
3 被告代表者は、被告の業務の執行として、本件雑誌に別紙写真目録の態様で前記SM写真を掲載した。
4 被告代表者は、原告の著作権を侵害することを知り又は過失によりこれを知らないで、右3のとおり前記2のSM写真を本件雑誌に掲載したものであるから、被告は、原告に対し、右SM写真が掲載されたことによつて原告が被つた損害を賠償すべき義務がある。
5(一)原告は、被告の前記2のSM写真の掲載行為により著作権使用料相当額の損害を被つた。右著作権使用料は、カラー写真の場合、雑誌一頁当たり一万五〇〇〇円であり、白黒写真の場合、雑誌一頁当たり五〇〇〇円である。別紙写真目録記載のとおり、カラー写真の掲載頁数は合計で七八三頁であり、白黒写真の掲載頁数は合計で二六頁である。したがつて、次の式のとおり、著作権使用料相当額の合計は、一一八七万五〇〇〇円である。
  15,000×783+5,000×26=11,875,000
(二)また、原告は、被告が右損害賠償義務を任意に履行しないため、やむなく弁護士元田秀治に委任して本件訴訟を提起し、その費用及び報酬として一一七万八五〇〇円を支払うことを約した。
6 よつて、原告は、被告に対し、著作権使用料相当額の損害金の内金一一七八万五〇〇〇円及び弁護士費用相当額の損害金一一七万八五〇〇円の合計金一二九六万三五〇〇円及びこれに対する不法行為の日の後である昭和五八年二月二二日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2の前段のうち、別紙写真目録「写真表題」欄番号1、5、12、14、21(第四頁のみ)、31、35、36、37、41(第一ないし第八頁、第一五頁)、92、115、116、119、123(第一頁のみ)、124、126の表題の下の各写真を原告が撮影したことは否認し(この点は後述する。)、その余の写真については不知。
  同2の後段のうち、原告が撮影現場の雰囲気を盛り上げながら、モデルに種々の細かい手足のポーズ、顔の向き、表情を指示するなどしてSM写真を撮影していることは認めるが、その余は否認する(この点は後述する)。
3 同3の事実は認める。
4 同4の事実は否認する。
5 同5の事実は否認する。
三 被告の主張
1 撮影者について
  原告主張のSM写真のうち、別紙写真目録「写真表題」欄番号1、5、36、37、41(第一五頁のみ)、92、115、116、119、126の表題の下の写真はAが、14、21(第四頁のみ)、31、35、41(第一ないし第八頁)、123(第一頁のみ)、124の表題の下の各写真はBが撮影したものである。
2 著作物性について
  原告主張のSM写真は、いずれも女性を全裸にし、もしくは煽情的な衣服の脱がせ方で半裸にし、縛縄したうえ、種々の姿態を取らせているものであつて、専ら性欲を刺激、興奮させることを目的とした公序良俗に反する写真であり、著作権法で保護の対象となる著作物には該当しない。
3 著作権の帰属について
(一)原告主張のSM写真が仮に著作物に該当するとしても著作権は被告に帰属する。原告主張のSM写真の撮影には、被告の編集者、カメラマン、その補助者、モデル、縛り師、DPE処理者等多数の者が関与しており、右写真は、これら関与者全員の創意、工夫、協力によつてでき上がつている。このように多数の者の関与によつて写真が製作されている場合において、誰に著作権が帰属するかは、関与者の行為態様、関与の度合、関与者とその総括者たる出版社との関係、諸費用の負担関係等を総合考慮して決せられるべきである。
(二)編集者は、SM嗜好者のニーズを把握し、そのニーズにあわせた表現を創作するよう心がけ、テーマを企画する。そして、そのテーマ、イメージに沿って、場所、モデル、小道具を選定、段取りし、縛り師、カメラマンを手配する。縛り師、カメラマン、モデルに編集者の抱いているイメージを説明し、あるいは話合いをしておおまかな構図を決める。撮影現場では、モデルに姿態を指示し、縛り師にどこをどのように縛るかを指示し、あるいは縛り師、カメラマンと相談しながら、ポーズや小道具の配置を決め、時にはアングルを決め、照明を指示する。
  縛り師は、縛り師なりの知識、経験、技術をもつて縛り方を考える。SM写真は、縄で拘束することによつての美しい表現、緊縛美を追求するものであつて、どこをどのように縛り、モデルにどのような格好をさせるか、縄の結び目をモデルの体のどの部分に設定するかというようなことが作品の出来不出来に大きな影響を及ぼすから、この意味でSM写真における縛り師の役割は大である。
  カメラマンは、モデルに種々の細かい手足のポーズ、顔の向き、表情を指示し、雰囲気を盛り上げながら写真にとらえる。SM写真においては、ライティング、アングル、シャッターチャンスも重要な要素であり、それらの点については、カメラマンが主要な役割を果たすが、編集者がこれらを指示することもあるし、縛り師が注文を出すこともある。
  モデルもまた重要な要素である。モデルの体形、顔立ち、雰囲気、モデル自身の体感力、表現力も作品の形成に寄与しており、このようなモデルを選定するのは主として編集者である。
  このように、SM写真は、カメラマンだけの感性なり精神作用によつてのみ創作されたものではなく、関与する者全員のそれの集合によつて作り出されたものであることが明らかである。しかも、カメラマンの関与の度合は、編集者、縛り師のそれに比較し、大きいとは言えない。これに対して、編集者は、SM写真のテーマを決定し、写真製作の全過程に関与してその主導権を握り、関与者を調整統括しているのであつて、写真製作に寄与する度合はカメラマンのそれより大きいということができる。
(三)原告主張のSM写真の製作関与者のうち、編集者は被告の従業員であり、その業務として、縛り師、モデルは被告との契約によつて、それぞれ写真製作に関与している。これらの者の給料ないし賃金はすべて被告が負担しており、撮影するにあたつて必要な、スタジオ代、衣裳代等の諸費用も被告が負担している。これに対し、カメラマンである原告が負担しているのは、写真機材、撮影補助者の給料、フィルム代、現像代だけである。
(四)これらの事実関係からすると、原告主張のSM写真の製作については、被告が主たる役割を果たしており、原告のそれは従たるものにすぎないこと、また、費用についても、被告が大部分を負担しており、原告は一部を負担しているにすぎないことが明らかであるから、原告主張のSM写真の著作権は原告ではないと考えるべきである。
四 被告の主張に対する原告の反論
(著作物性について)
  本件雑誌は、一般書店で取り扱つているもので、刑法第一七五条の猥褻物に当たるとして、被告の代表者や編集者が検挙されたこともない、いわば許された範囲内のものであつて、違法なものではない。SM写真は一般的ではないとしても、価値観の多様な現代社会においては、一定の限度内では許されるものであつて、これを一方的に否定したり、切り棄てられるべきものではなく、その許容範囲にとどまつている限りは、著作権法の保護が与えられるべきである。
  また、原告が撮影した多数の写真の中から、本件雑誌に掲載した写真を選択したのは、被告の編集者等スタッフであつて、このように被告自ら選択し、掲載しておきながら、その後に至り公序良俗に反する旨主張することは、禁反言類似の法理、公平の原則から許されない。

       理   由

一(請求原因1について)
  請求原因1の事実は当事者間に争いがない。
二(請求原因2について)
1 〈証拠〉によると、原告が別紙写真目録「写真表題」欄表題番号5、36、82、101、115、119を除く表題番号の表題の写真(以下「本件写真」という。)を撮影したことを認めることができ、〈証拠〉中右認定に反する部分は採用することができず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
2 〈証拠〉によると、本件写真を撮影するに当たつて、被告の従業員である編集者が、SM写真のテーマの企画、カメラマン、モデル及び縛り師の選定依頼、撮影場所の確保、撮影に必要な小道具類の準備等を行つたこと、撮影現場においては、編集者、原告及び縛り師らが話合いながら、シチュエイション、縛り方等を決め、縛り師がモデルを縄で縛つたこと、その後、時には編集者又は縛り師がカメラアングル、ライティング等について要望ないし注文を出すこともあつたが、原告自身が構図、カメラアングル、ライティング等を決めたうえ、助手に指示してライティングを行い、モデルに種々の細かい手足のポーズ、顔の向き、表情を指示するなどして(この点は当事者間に争いがない。)、原告の判断でシャッターチャンスを選択し、原告自らシャッターを押したこと、撮影したフィルムは、カラー写真の場合には専門業者に依頼し、白黒写真の場合には原告自身が現像及び焼付を行い、これら現像ずみフィルム又は写真を編集者に手渡していたこと、カメラマンとしての原告に対する報酬等の支払は、他のカメラマンの場合には日当払い又は時間給払いの方法が採られることもあるが、原告の場合には、雑誌に掲載の都度、掲載頁数に応じた金員が「原稿料」として支払われていたことが認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。右事実殊に構図、カメラアングル、光量、シャッターチャンスを原告自らの判断で選択・調整していた事実に鑑みると、本件写真の製作に必要な精神的創作活動は原告が行つたものというべく、本件写真の著作者は原告であり、その著作権は原告に帰属すると認めるのが相当である。
3 被告は、本件写真が公序良俗に反する写真であるから、著作権法で保護の対象となる著作物に該当しない旨主張するところ、本件写真の複製を自ら発行する雑誌に掲載しておきながら、後にその使用料相当額の損害賠償等を訴求されるや、一転して本件写真が公序良俗に反するなどと主張することが、信義則上許されるかどうかについては、疑問がないわけではないが、この点をしばらく措くとしても、〈証拠〉により認められる本件写真の内容に照らすと、未だその著作物性が否定される程までに公序良俗に反するものとはいえず、右主張は採用することができない。
  また、被告は、被告の従業員である編集者がテーマを決定し、写真製作の全過程において主導的に関与しているうえ、費用も大部分を被告が負担しているから、本件写真の著作権は被告に帰属し、原告はその著作者でない旨主張する。しかしながら、先に認定したとおり編集者が主導的立場にあつたというのは専ら企画及び撮影準備活動においてであるにすぎず、撮影現場においては、編集者らの要望等を受けることはあつたにしても、原告自らの判断で、構図、カメラアングル、シャッターチャンス等の選択・調整を行つていたものであるから、原告は、その著作者であるというべきである。また、費用の負担は、精神的創作性とは無関係であるから、被告のこの点に関する主張は主張自体失当というべきである。
三(請求原因3について)
  請求原因3の事実は当事者間に争いがない。
四(請求原因4について)
  以上によれば、被告は本件写真を本件雑誌に掲載したことにより、原告に帰属する本件写真についての著作権を侵害したというべきであり、以上の事実と弁論の全趣旨によれば、被告代表者にはこの侵害行為につき、少なくとも過失があつたものと推認することができる。したがつて、被告は、この侵害行為によつて原告の被つた損害を賠償すべき義務がある。
五(請求原因5について)
1 〈証拠〉によると、原告が撮影したSM写真を本件雑誌のようなSM雑誌に掲載するとき、原告が「原稿料」として受け取つていた金員は、最初に雑誌に掲載する場合(以下「一次使用の場合」という。)、雑誌一頁当たり、カラー写真については一万円ないし一万五〇〇〇円、白黒写真については四〇〇〇円ないし七〇〇〇円であること、一たん雑誌に掲載されたことのある写真を繰り返し使用する場合や写真そのものは掲載されたものでなくても一次使用された写真と同一機会に撮影された写真を使用する場合(以下「二次使用の場合」という。)には、これら写真の著作権使用料は、カラー写真、白黒写真の場合とも一次使用の場合の半額となること、本件写真の本件雑誌への掲載はいずれも二次使用の場合に当たること、以上の事実を認めることができ、〈証拠〉中右認定に反する部分は採用することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。右事実に弁論の全趣旨を総合すると,本件写真を本件雑誌に掲載するについての著作権使用料は、カラー写真については雑誌一頁当たり五〇〇〇円、白黒写真については雑誌一頁当たり二〇〇〇円と認めるのが相当である。
  また、〈証拠〉によると、本件写真中、別紙写真目録表題番号83、102の写真については被告において著作権使用料を支払ずみであること、本件写真の本件雑誌への掲載頁数は、別紙写真目録表題番号27及び33については三頁、同95及び96については各八頁であるが、その余は別紙写真目録「掲載頁数」欄のとおりであつて、著作権使用料を支払ずみである右表題番号83、102の写真を除くと、カラー写真については合計で七一六頁、白黒写真については合計で二三頁であることが認められる。 
  そうすると本件写真(別紙写真目録表題番号83、102を除く。)の著作権使用料は、次の式で算定されるとおり、三六二万六〇〇〇円となり、原告は、被告が本件写真(前同表題番号83、102を除く。)を掲載したことにより、右金員に相当する額の損害を被つたことになる。
  5,000×716+2,000×23=3,626,000
2 本件事案の内容及び性質、審理経過、前記認容額等諸般の事情を考慮すると、被告の本件写真(前同表題番号83、102を除く。)についての著作権侵害行為と相当因果関係がある損害として認めるべき弁護士費用の額は、三六万円とするのが相当である。
3 右1、2の損害金合計は、三九八万六〇〇〇円となる。
六(結論)
  よつて、本訴請求は、前記損害金合計三九八万六〇〇〇円及び内金三六二万六〇〇〇円に対する不法行為の後である昭和五八年二月二二日から、内金三六万円に対する本件訴訟の判決言渡の日の翌日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 元木伸 裁判官 安倉孝弘 裁判官 一宮和夫)
別紙 写真目録〈省略〉


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