判例一覧
恐竜イラスト改変事件 東京地裁平成10年10月26日判決
本判決は、第一法規株式会社様のご厚意によりデータの提供を受けて掲載しております。

【判例ID】   28040849
損害賠償請求事件
東京地裁平八(ワ)第三三八五号
平10・10・26民事第二九部判決
原告 X
右訴訟代理人弁護士 木澤克之
同 藤原浩
同 石島美也子
同 鈴木道夫
被告 株式会社Y1(以下「被告Y1」という。)
右代表者代表取締役 Y2
被告 株式会社Y3(以下「被告Y3」という。)
右代表者代表取締役 Y4
右訴訟代理人弁護士 久保貢
被告 株式会社Y5(以下「被告Y5」という。)
右代表者代表取締役 Y6
被告 株式会社Y7(以下「被告Y7」という。)
右代表者代表取締役 Y8
被告Y5、同Y7両名訴訟代理人弁護士 古田茂
右被告四名訴訟代理人弁護士 堀口磊蔵

       主   文

一 被告Y1及び被告Y3は、原告に対し、連帯して金三五万円及びこれに対する平成七年九月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告の被告Y1及び被告Y3に対するその余の請求、並びに被告Y5及び被告Y7に対する請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、原告と被告Y1及び被告Y3との間においては、原告に生じた費用の八分の一を同被告らの負担とし、その余は各自の負担とし、原告と被告Y5及び被告Y7との間においては、全部原告の負担とする。
四 この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

       事実及び理由

第一 請求
  被告らは、原告に対し、連帯して金二〇〇万円及びこれに対する平成七年九月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
  本件は、原告が、その著作物である恐竜のイラストについての被告らの利用行為が原告の同一性保持権の侵害に当たるとして、被告らに対し、慰謝料二〇〇万円の内金一五〇万円及び弁護士費用相当額五〇万円の支払を求めた事案である。
一 争いのない事実等(証拠等を掲記した事実以外は、当事者間に争いがない。)
1 当事者
  原告は、動植物等のイラストを得意とするイラストレーターである。
  他方、被告Y1は、多数のイラストレーターから作品の登録を受けて、そのポジティブフィルム(以下「ポジ」という場合がある。)を預かり、管理及び貸出を業として行っている会社であり、被告Y3は、被告Y1の右業務についての代理店であり、被告Y5は、宣伝広告に関する一切の代理業務等を業とする会社であり、被告Y7は、オートバイ部品、用品の製造販売等を業とする会社である。
2 原告の著作物
  原告は、ティラノサウルスを中心に大きく配置し、その後方に飛翔する翼竜を小さく配置したイラスト画(以下「本件著作物」という。)を創作して、本件著作物の著作権を取得した(甲二、一八)。
3 本件委託契約の締結
  原告は、被告Y1と、平成五年六月五日、次の内容の作品貸出業務委託等に関する契約(以下「本件委託契約」という。)を締結した(甲一、二)。
(一)原告は、被告Y1に対し、自己の作品を登録し、その貸出業務を委託する。
(二)原告は、被告Y1が発行するカタログに登録作品が掲載されるに当たり、次のとおり、作品ごとに用途制限を付けることができる。
「扱いA」・・・用途制限のないもの(但し、消費者金融、風俗産業、特定の政治・宗教団体を除く。)
「扱いB」・・・制限内容を予め具体的に明記するもの
「扱いC」・・・利用申込みの都度、貸出の可否の判断を行うもの
  被告Y1は、登録作品カタログ「THE BEST ILLUSTRATIONS VOL.3 増補改訂版」を発行する際、本件委託契約に基づき、多数の原告作品を掲載した。
  右カタログの八七頁には、本件著作物について、用途制限「扱いC」と指定されて、掲載された(番号3―C―KET―189)。
4 本件著作物の使用の申入れ
(一)被告Y7は、自己の販売する製品カタログの製作を、被告Y5に対して依頼した。
(二)被告Y5は、右カタログの表紙デザインを行うに当たり、被告Y1のカタログ中から本件著作物を選び、被告Y1の代理店である被告Y3に本件著作物の貸出を打診した。
(三)被告Y3は,本件著作物が、利用申込みの都度、貸出の可否について、著作者たる原告の判断を必要とするものであったため、「ポジ貸出打診書」(以下「本件打診書」という。)に所定事項を記入した上、欄外に、本件著作物を模したイラストを描き、その内の翼竜に対応した部分に丸印を付け、そこから引かれた矢印の先に「P.S.この飛んでいる恐竜を、つぶして使用したいとの事ですが、いかがなものでしょうか?(合成使用したい為)」と付記した上、平成六年一一月二五日、被告Y1に送付した(甲四、乙一)。 
(四)被告Y1は、同日、被告Y3から送られた本件打診書に、「※おいそがしいところ、どうぞよろしくお願い申しあげます」と書き添えた上、原告に送付した(甲四、乙一)。
5 原告の回答と被告らの行為
(一)原告は、本件打診書に記載されたクライアント、仲介者、使用媒体、使用期間、著作権料について了解し、同日、被告Y1に対し、貸出承諾書(以下「本件承諾書」という。)を送付した。その際、本件打診書欄外の付記に対する返答として、「翼竜をカットすることについて、異存はありません。」と付記した(甲五、乙二)。
(二)被告Y1は、原告から送られた本件承諾書のうち、宛先欄の「殿」の文字を斜線で消した上、文書の左上に被告Y3の担当者名を書き加えて、同被告に送付した(弁論の全趣旨)。
(三)被告Y3は、被告Y5に対し、本件著作物のポジを貸し渡した。
(四)被告Y5は、本件著作物中の翼竜をカットし、また、ティラノサウルスの輪郭を変え、描写をぼかし、異なる図柄を浮き上がらせ、色を変えた上で、被告Y7のカタログの作成に利用した(以下「本件利用」という。)。
(五)被告Y7は、完成したカタログを広く業者向けに頒布した。
(六)なお、本件利用について、原告と被告らとの間では、本件打診書と本件承諾書のやりとり以外の連絡はなかった。
二 争点
1 同一性保持権侵害の成否
(原告の主張)
  被告らによる本件利用は、原告に無断で、本件著作物について著しい変形及び色変換等の改変を加えたもので、原告の同一性保持権を侵害する行為である。
  原告は、緻密でリアルな描写を特徴とする作家である。本件著作物もそのような手法で描かれ、緻密で生態学的に精密であることを至上とする作品である。しかるに、本件利用では、全体の色調、肌の模様・質感や、目・鼻孔・口腔・舌・歯・足・爪等各部分の形・色彩を変え、首から背にかけて突起物を付加し、全体的にぼかして細密な描写をつぶすなど、本件著作物にほとんど原形をとどめないような改変を加えている。
(被告Y3の反論)
(一)同一性保持権は、著作権法上保護される「著作者の表現」の同一性を保持することが保護客体である。したがって、著作者の表示がされているか、されていなくてもなお著作者が明らかである場合のみ、同一性保持の問題となる。本件では、被告Y7のカタログには原告の著作物であるとの表示はされていないし、原告が著作者であることが明らかともいえないから、同一性保持権侵害に当たらない。
(二)同一性保持権は、著作物の変更、切除、その他の改変を受けないことであるが(著作権法二〇条一項)、本件利用は、合成使用であり、単なる変更、切除、改変ではないし、また、商業イラストとして「素材」の利用にすぎないから、原告著作物の表現の同一性保持権侵害には当たらない。
2 承諾の有無
(被告らの主張)
  被告らは、前記一4、5のとおりの手続を踏むことにより、本件利用について原告の承諾を得たものであるから、本件利用は、原告の同一性保持権の侵害には当たらない。
  本件著作物は、多数の利用者の種々の要望に沿う素材として制作され、カタログ、パンフレット等の商業印刷物を飾る素材として使用されていたものである。したがって、最終的に使用される場合には、素材の個性よりも印刷物の全体のイメージが優先することはやむを得ない性質のものである。現に、本件著作物は、過去に数回他のクライアントの他の媒体に使用されているが、適宜トリミングされたり、他の素材と組み合わされたりして使用されている。これらについて原告からクレームが付けられたことはない。
  今日、デザイン業界で「合成使用」といえば、ディジタルデータ化した上での組合わせ、変形、色変換の作業を指すことが常識となっている。原告は、イラストレーターとして、雑誌等で右技法を喧伝していた。
  原告は、右技術に関する知識を持っていながら、本件打診書にある「合成使用したい為」との文言に対し、本件承諾書で特に異議を述べず、また、特に問合せもしなかったのであるから、原告は、組合わせ、変形、色変換を内容とする合成使用につき、承諾を与えたものと解すべきである。
(原告の反論)
  原告は、右改変を承諾したことはない。
  被告Y1から原告に送られた本件打診書に記載された改変利用についての伺いメモは、あくまで翼竜をつぶして、本件著作物のうちのティラノサウルスのみを利用することについて、承諾を求めるものであり、括弧内の記載は、ただ一部をつぶす理由が「合成使用したいため」であるという説明を加えているにすぎない。
  原告は、これを受けて、ティラノサウルスのみを使用し、白地ではない別の背景と合成することは特段問題がないと考え、本件承諾書に翼竜のカットについて了解する旨を付記したものである。
  右のやりとりの中で、被告Y1から原告に対し、右伺いメモ以外に特別の説明は一切なかったから、本件利用のような形態について、原告が予め承諾したと解する余地はない。
3 被告らの過失の有無
(原告の主張)
  被告らはいずれも、次のとおり注意義務に違反したことにより、原告の同一性保持権の侵害を惹起したものであって、いずれも、過失がある。
(一)被告Y1
  同被告は、イラストレーターからの委託に基き、イラスト作品の貸出しを業として行っているものであるから、代理店及び顧客に対し、無断改変利用とならないよう注意を促し、
さらに、改変利用の希望がありこれを著作権者に取り次ぐ場合には、改変の内容、方法、範囲等について代理店又は顧客に確認した上、正確に著作者に伝え、承諾の可否について打診し、そして著作者が了解を与えた内容を顧客に正確に伝える等、顧客による著作者人格権の侵害が発生することのないよう細心の注意を払うべき注意義務がある。
  しかるに、被告Y1は、代理店への周知徹底を怠り、代理店である被告Y3に同一性保持権の重要性を十分認識させず、もって同被告に改変内容の不正確な把握、記載という事務処理を生じさせた。また、同被告から送られた本件打診書に簡単なメモが記されていただけであったのに、同被告及び被告Y5に詳細を確認することもなく、そのまま原告に送付した。そして、原告からの本件承諾書に改変承諾の限定があるにもかかわらず、その範囲を正確に被告Y5に伝えることを怠り、もって同被告の無断改変利用行為を生じさせた。
(二)被告Y3
  同被告は、イラスト作品貸出業の代理店業務を行うものとして、顧客に無断改変利用を行わないようあらかじめ注意を促す義務があり、特に、改変利用の希望がありこれを著作権者に取り次ぐ場合には、改変の内容、方法、範囲等について顧客から具体的に聴取した上、被告Y1ないし著作者に右聴取内容を正確に伝える義務がある。
  しかるに、被告Y3は、これを怠り、一部改変希望を申し出た被告Y5から十分な聴取をしないまま、翼竜をつぶすことが主たる改変内容であるかのような簡単なメモを付記したのみで、被告Y1に本件打診書を送った。
(三)被告Y5
  同被告は、宣伝広告業務において日常的に各種著作物利用に関する事務処理を行っているのであるから、Y7カタログの表紙デザインに本件著作物を使用する際に、改変利用を企画し原告から承諾を得ようとする場合には、改変の内容、方法、範囲等について明確にした上、これを書面化するなど改変内容等が原告に正確に伝わるように配慮する等して、著作物の改変利用に当たり、著作者人格権侵害とならないよう注意すべき義務がある。
  しかるに、被告Y5は、これを怠り、もって被告Y3の不正確な事務処理を招き、その結果、原告の許諾範囲を誤り原告の予期しない方法で本件著作物を利用した。
(四)被告Y7
  同被告は、自社の商品カタログの表紙デザインを業者に発注し、デザインを協議決定する過程で、使用作品の著作者の権利処理について注意を払うべき義務があるにもかかわらず、これを怠り、被告Y5の無断改変利用行為を看過したまま、完成したカタログを頒布利用した。
(被告らの反論)
  被告らには、次のとおり、注意義務に違反する行為は何ら存在しないから、被告らに過失はない。
(一)被告らの過失について
(1)本件では、本件委託契約に基いて、通常の貸出業務の手続に従って手続が行われ、通常の貸出料金が支払われている。被告Y1及び被告Y3は、原告に対して、「合成使用」したいと初めから言明し、原告の了解を得たと理解して、本件利用は行われている。したがって、被告らに過失はない。
(2)本件著作物の貸出は、被告ら及び原告の営利事業の一環である。被告Y5が支払った本件著作物の貸出価格は六万七〇〇〇円である。これから、事前の合意に従い、原告に二万二七八〇円、被告Y1に二万二一一〇円、被告Y3に二万二一一〇円が分配されている。したがって、被告らの注意義務の程度は、さほど厳格なものではない。
(二)被告Y1の過失について
  同被告と原告は従前から取引を行っている。被告Y1は、従前から、作品の使用希望者から打診を受けるとすぐに、これをファックスで作家に伝え、作家から承諾が出ると、これを使用希望者に伝え、できるだけ正確迅速に貸出業務が行われるように努めるとともに、各作品の利用状況について毎月レポートを提出し、作家が安心できるよう管理業務を行ってきている。本件においても右手順どおり手続をした。被告Y1は、エージェンシーとして、注意義務を果たした。
(三)被告Y3の過失について
  イラスト作品貸出の代理店として、顧客に対し無断改変利用を行わないようあらかじめ注意を促す義務があることは、一般論として認めるが、被告Y3は、かかる義務を果たしている。また、著作物の改変希望が出されたときは、改変の内容等について顧客から具体的に聴取し、その内容を正確に著作者に伝える義務があることも、一般論としては否定しないが、取引の実際としてどこまで具体的に細部にわたり伝えることを要するかは、デリケートな問題を含む。特に、本件のように通常の取引で、その対価がわずか数万円程度のものでは、自ずと限界がある。また、デジタル技術を前提とすれば、当初から使用結果を想定してこれを提示することには、一定の限界がある。
  本件では、被告Y3は、前記のとおり通常の貸出手続を経て、合成使用につき原告の許諾を得たのであるから、右の注意義務を果たしており、したがって、過失はない。
(四)被告Y5の過失について
  被告Y5は、被告Y7から同社カタログの制作を依頼され、その表紙をスピード感のある口から火を吐く恐竜のイメージで飾ることとし、本件著作物を素材として採用し合成使用してデザインすることにした。そこで、被告Y5のデザイン担当者は、本件著作物の掲載されたカタログの送付元であった被告Y3に対し、平成六年一一月二五日、電話をかけ、右趣旨を説明し、本件著作物をコンピュータで合成処理したいこと、そのためイラストの一部をカットしたいことなどを伝え、ポジの貸出を打診したものである。
  その後被告Y3から被告Y1を経て原告に順次被告Y5の意向が伝えられ、これを受け、原告の許諾が、被告Y1を経て被告Y3に伝えられた。
  そして、被告Y5は、被告Y3から、合成使用につき原告から許諾を得られた旨連絡を受け、「※合成用の為、飛んでいる恐竜をカットする。↓OK11/25作家X氏本人より」との記載のある写真貸出票と共に、本件著作物ポジを借り受けた上、本件利用を行った。
  被告Y5は、前記のとおり、被告Y3に対し、本件著作物の貸出し打診に際し、合成使用したいこと、その方法、その際飛んでいる恐竜をカットしたいことなどを伝えた。これに対し、被告Y3は、被告Y5に対し、特段の留保なく本件著作物の合成使用を承諾すると共に、本件著作物を貸し出した。
  被告Y3は、作家から著作物の寄託を受け、これを貸し出すことを業とする会社である。そのような会社が顧客に対し作品を貸し出す場合、当然、必要な著作権処理を行っているはずであるし、顧客もそのように信頼する。
  被告Y5は、被告Y3に対し、同社が求める情報を提供し、同社から合成使用についての原告の許諾がある旨連絡を受けて本件著作物のポジを借り受けたのであるから、本件著作物の合成使用に必要な著作権処理は被告Y3において尽くされていると信じていた。したがって、被告Y5には過失はない。
(五)被告Y7の過失について
  被告Y7がカタログの制作を依頼した被告Y5は、これまでも多くの広告やカタログの制作を行ってきた広告代理店である。被告Y7は、昭和五七年ころから被告Y5と取引を開始し、平成四年ころから同社にカタログの制作を依頼するようになったが、これまで著作権法違反などのトラブルはなかった。被告Y7は、同社のカタログの納品からほぼ一か月以内に配付を完了したが、その配布中に、原告その他の第三者から何のクレームも指摘も受けたことがなかった。被告Y7には、右改変行為が原告の著作者人格権を侵害するものかどうかを確認する方法も機会もない。
  したがって、被告Y7は、同社のカタログを配付した際に、被告Y5の改変行為が原告の許諾の範囲を超えるものであることを知り得なかったから、被告Y7には過失がない。
4 損害の有無及び額
(原告の主張)
  原告は、被告らによる著作者人格権侵害により、次のとおりの損害を被った。
(一)慰謝料
  原告は、豊富な実績を有する著名なイラストレーターであり、その作品は業界で高い評価を受けている。原告は、本件著作物を周到な準備を経て手作業により膨大な時間と労力を費やして制作し、これに深い愛着を有している。原告は、本件委託契約に基き本件著作物を登録するに際し、「扱いC」として貸出しの前に許否の判断ができるようにしていた。
  被告らは、当然果たすべき注意義務を怠り、原告の意思に反して、本件著作物を原形をとどめない程度まで著しく改変し、しかも無断でデジタル化までして利用したものであり、侵害の態様は悪質で程度は著しい。
  さらに、被告らは、原告が侵害の事実を発見し被告Y1に抗議した後も、誠意ある対応をせず、内容証明郵便による警告も無視する状況だったため、訴訟提起に踏み切らざるを得ず、その後も早期解決への姿勢をみせなかった。
  このような事情によれば、原告の受けた精神的苦痛を慰謝するに足りる金額は二〇〇万円が相当であり、本訴ではその内金一五〇万円を請求する。
(二)弁護士費用
  著作者人格権侵害に関する困難な訴訟活動を行う場合に、弁護士に依頼することは避けられない。原告は、訴訟代理人に対し、東京弁護士会の定める報酬会規に基づき弁護士費用を支払う旨約した。右金額は五〇万円を下らない。
  著作者人格権に関する裁判において認容される慰謝料額が低額となる場合に、弁護士費用以外の認容額を基準として一律に扱うことは、著作者の権利行使を躊躇させ、不当な結果となる。
(被告らの反論)
  原告の主張は争う。
  被告らは、ビジネスの一環として、通常の貸出手続に従って原告の承諾を得た上、正規の使用料を支払って、本件利用を行ったものであり、原告からの抗議にも、被告らの立場で誠意を持って対応しているから、原告には慰謝すべき損害はない。
  弁護士費用についても、被告らに不法行為責任を問うこと自体不適切であるし、東京弁護士会の定める報酬会規によれば、弁護士費用は五〇万円には至らない(被告Y1の主張)。
第三 争点に対する判断
一 争点1(同一性保持権侵害の成否)について
  本件著作物は、ティラノサウルスが中心に大きく描かれ、その後方に飛んでいる翼竜が小さく描かれているものであり、その描写は、細部まで緻密に描かれたものである(甲一、
一八)。
  被告Y5は、被告Y7から依頼を受けて同社の商品カタログを作成したが、その際の本件利用の具体的内容は、本件著作物中の翼竜をカットした他に、ティラノサウルスについて、全体の色調を黄、赤系統の色調に変更し、首から背にかけて連続した突起物を加えるなどして輪郭を変え、元々細緻に描かれていた肌の細かい模様や目・鼻孔・口腔・舌・歯・足・爪等の形をぼかして、はっきりと判別できないようにした上、別個の模様を浮き上がらせるなどしたものである(甲三)。
  このような本件利用の態様に照らすならば、本件利用は、本件著作物について原告の有する同一性保持権を侵害する。
  なお、被告Y3は、本件利用に際して原告の著作物であるとの表示がされておらず、また、本件利用は、本件著作物を素材として合成して使用したものであるから、同一性保持権侵害には当たらない旨主張する。しかし、著作者の表示の有無は、同一性保持権の成否に影響をもたらさないこと、及び本件利用が本件著作物の変更、切除、その他の改変に当たることは、いずれも明らかであるから、この点の同被告の主張は理由がない。

二 争点2(承諾の有無)について
  被告らが、本件著作物を利用するに当たって、原告が承諾を与えたか否かを検討する。

(1)原告と被告Y1は、本件委託契約を締結し、これに基づき、原告は、利用申込みの都度貸出の可否の判断を行うものとして、本件著作物を同被告の発行するカタログに登録していたものであること、(2)本件著作物の利用申込みがあったので、被告Y1は、原告に対し本件打診書を送付し、これに対して、原告は被告Y1に対し、本件承諾書を送付したこと、(3)本件打診書には、欄外に、本件著作物を模したイラストが描かれ、その内の翼竜に対応した部分に丸印が付けられ、そこから引かれた矢印の先に、「P.S.この飛んでいる恐竜を、つぶして使用したいとの事ですが、いかがなものでしょうか?(合成使用したい為)」との記載があり、本件承諾書には、右変更について、「翼竜をカットすることについて、異存はありません。」との記載があること、
(4)本件利用について、原告と被告らとの間では、本件打診書と本件承諾書のやりとり以外の連絡はなかったことは、前記第二、一記載のとおりである。
  以上の事実を前提に、検討する。まず、本件打診書には、欄外に、本件著作物を模したイラストが描かれ、その内の翼竜に対応した部分に丸印が付けられ、そこから引かれた矢印の先に、「P.S.この飛んでいる恐竜を、つぶして使用したいとの事ですが、いかがなものでしょうか?(合成使用したい為)」と記載されており、右記載内容及び体裁を素直に理解するならば、本文は、本件著作物中で後方に小さく描かれている飛んでいる翼竜を削除して、本件著作物を利用することについての承諾の申入れであって、括弧内は、右申入れの理由を記載したに過ぎないものとするのが自然である。また、本件承諾書には、「翼竜をカットすることについて、異存はありません。」と記載されており、翼竜の削除以外の変更には一切触れていないことから、原告は、翼竜の削除についてのみ承諾したものと理解するのが自然である。そうすると、原告は、本件打診書に対して本件承諾書を送付したことによって、本件著作物中の飛んでいる翼竜を削除して本件著作物を利用すること、及びティラノサウルスの背景を変更することまで、承諾したものと認められるが、その範囲を超える変更について、承諾したものと認めることはできない。したがって、被告らのこの点の主張は理由がない。
  なお、被告らは、本件著作物の性質、「合成使用」という語の用法等を挙げて、本件利用のような組み合わせ、変形、色変換について、原告が承諾したものである旨主張する。しかし、前記認定のとおり、本件打診書の「(合成使用したい為)」という曖昧な文言により、色調、輪郭、細部等についての大幅な変更まで原告が承諾したものと解することはできず、被告らの主張は採用できない。
三 争点3(過失の有無)について
  各被告の過失の有無について順次検討する。
1 被告Y1の過失について
  被告Y1は、イラストレーターからの委託に基き、イラスト作品の貸出しを業として行っているものであるから、改変利用の希望があり、これを著作権者に取り次ぐ場合には、改変の内容、方法、範囲等について、誤解の生じないような態様で、正確に著作者に伝えて承諾の可否について打診し,著作者が了解を与えた場合はその内容を誤解の生じないような形で正確に顧客に伝えるなど、顧客による著作者人格権の侵害が発生することのないよう細心の注意を払うべき義務がある。
  しかるに、被告Y1は、被告Y3によって本件打診書に記載された被告Y5からの改変希望の内容が、誤解を生じやすい不明確な文言のものであったにもかかわらず、被告Y3及び被告Y5に詳細を確認することもなく、そのまま本件打診書を原告に送付した。そして、右承諾の申入れが不明確な内容のものであった結果、これを受けた原告からの改変承諾の範囲に誤解を生じやすい状況となったにもかかわらず、原告に何らかの確認をすることもなく、そのまま本件承諾書を被告Y3に送付し、その結果として、被告Y5の無断改変利用行為を生じさせ、もって原告の同一性保持権の侵害を惹起したものであり、同被告には、右の点において過失がある。 
  なお、同被告は、同被告が従前から原告とイラストの貸出についての取引を行っており、本件利用についても本件委託契約に基いて通常の貸出手続が採られたこと、本件著作物の貸出価格が数万円にすぎないこと等を理由に、その過失がない旨主張するが、これらの事情を考慮に入れても、前記結論を左右するものではない。
2 被告Y3の過失について
  被告Y3は、被告Y1の代理店としてイラスト作品貸出に係る代理店業務を行う者として、顧客から改変利用の希望があり、これを著作権者に取り次ぐ場合には、改変の内容、方法、範囲等についての顧客の希望を、誤解を生じることのないような形で正確に、被告Y1ないし著作者に伝えるなど、顧客による著作者人格権侵害が生じないよう十分注意する義務がある。
  しかるに、被告Y3は、これを怠り、被告Y5から後記3のとおり聴取した改変希望の内容を明確に記載せず(丁三)、誤解を生じやすい不明確な文言を本件打診書に記入した上、被告Y1に送付した。そして、右承諾の申入れが不明確な内容のものであった結果、これを受けた原告からの改変承諾の範囲に誤解を生じやすい状況となったにもかかわらず、被告Y1から本件承諾書の送付を受けるや、被告Y1ないし原告に何らかの確認をすることもなく、そのまま被告Y5に本件著作物のポジを貸し渡し、その結果として、被告Y5の無断改変利用行為を生じさせ、
もって、原告の同一性保持権の侵害を惹起したものであって、同被告には、この点で過失がある。
  なお、同被告は、同被告が従前から原告とイラストの貸出についての取引を行っており、本件利用についても本件委託契約に基いて通常の貸出手続が採られたこと、本件著作物の貸出価格が数万円にすぎないこと等を理由に、その過失がない旨主張するが、これらの事情を考慮に入れても、前記結論を左右するものではない。
3 被告Y5の過失について
  被告Y5は、宣伝広告業務において、日常的に各種著作物利用に関する事務処理を行っているのであるから、著作物の改変利用に当たっては、著作者人格権侵害とならないよう十分注意すべき義務があり、イラスト作品の貸出を業として行っている被告Y1及び同Y3から、本件著作物を改変して利用するために借り受けるに際しては、同被告らが著作者である原告から被告Y5が意図する改変について正確に承諾を得ることができるよう、改変の内容、方法、範囲等について明確にした上、誤解のないような形で被告Y3に伝えなければならない義務を負うというべきである。
  そこで、同被告に、右の点の注意義務違反があったか否かについて検討する。丁一ないし四及び争いのない事実を総合すれば、次の事実が認められる。
(1)被告Y5は、被告Y7から同社カタログの制作を依頼され、検討の結果、本件著作物をもとにして、これにコンピュータで合成処理を加えてデザインをすることにした。そこで、被告Y5のデザインの担当者であったZは、平成六年一一月二五日、本件著作物が掲載されていたカタログの送付元である被告Y3に対し、電話をかけ、同被告の担当者に対し、本件著作物の使用目的、本件著作物をコンピュータで合成処理したいこと、そのためイラストの一部をカットしたいこと、具体的な合成の方法等を伝え、ポジの貸出を打診した。
(2)その後、被告Y5は、被告Y3から、合成使用につき原告から承諾を得られた旨連絡を受け、「※合成用の為、飛んでいる恐竜をカットする。↓OK11/25作家X氏本人より」との記載のある写真貸出票と共に、本件著作物ポジを借り受けた上、先に説明した方法により合成処理を加えて本件利用を行い、平成七年一月、右カタログを完成させた。
(3)そこで、右Zは、同年二月六日ころ、借り受けたポジを郵送で返却し、これに右カタログの表紙のサンプルも同封した。数日後、被告Y3から、「※御使用見本の提出、どうもありがとうございました。次回の御注文もお待ちしております。」と記載された送り状と共に、ポジ返却処理をした写真貸出票が返送された。その際、被告Y3からは、サンプルの内容について何らの指摘もなかった。そして、同月二八日、被告Y5は、被告Y7に対し、受注したカタログを全冊納品した。
  右認定した事実によれば、被告Y5は、被告Y3の担当者に対し、本件著作物の使用目的、本件著作物をコンピュータで合成処理したいこと、そのためイラストの一部をカットしたいこと、具体的な合成の方法等を伝え、ポジの貸出を打診したところ、同被告から、合成使用につき原告から承諾を得られた旨連絡を受けて、本件著作物ポジを借り受けたものであり、さらに、カタログを被告Y7に納品するに先立って、制作したカタログの表紙のサンプルを被告Y3に送付した際にも、同被告からは、サンプルの内容について、何らの指摘も受けなかったのであるから、作品の貸出を営む者に対して、顧客の地位に立つ被告Y5としては、前記のような措置を採ったことで、その注意義務を果たしたものというべきであり、同被告には過失はない。
4 被告Y7の過失について
  被告Y7は、前記のとおり、オートバイ部品、用品の製造販売等を業とする会社であるところ、自社の製品カタログの制作を被告Y5に依頼し、その後、完成したカタログを受け取り、これを業者向けに配付したものである。被告Y7がカタログの制作を依頼した被告Y5は、従前からパンフレットやカタログ等の制作を業として行っている者であり、被告Y7は、このような者にカタログの制作を依頼した顧客であり、同被告には、原告が主張する注意義務違反はない。
四 争点4(損害の有無及び額)について
  被告Y1及び被告Y3は、その過失により原告の本件著作物についての同一性保持権を侵害したものであるから、次のとおりの損害を連帯して賠償する責任を負う。
1 原告は、自然科学分野において、資料に基いた正確、緻密でリアルなイラストを得意とするイラストレーターであり(甲八ないし一五)、本件著作物も、恐竜を細部まで緻密に描いたものであるところ、本件利用による本件著作物の改変の具体的内容は、本件著作物中の翼竜をカットした他、ティラノサウルスについて、全体の色調を黄、赤系統の色調に変更し、首から背にかけて連続した突起物を加えるなどして輪郭を変え、元々細緻に描かれていた肌の細かい模様や目・鼻孔・口腔・舌・歯・足・爪等の形をぼかして、はっきりと判別できないようにした上、別個の模様を浮き上がらせるなどしたものであって、右改変は、原告のイラストの特徴点を全く失わしめるような大幅な改変であり、原告は、右改変行為によって、精神的な損害を被ったものということができる。そして、右改変の状況及び本件に現れた諸事情を考慮すると、原告の被った精神的な損害に対する慰藉料としては、金三〇万円が相当であると認められる。
2 本件事案の内容等、諸般の事情を考慮すると、右被告らによる本件利用行為と相当因果関係のある損害としての弁護士費用は、金五万円が相当である。
五 以上のとおり、原告の本件請求のうち、被告Y1及び被告Y3に対し、連帯して、慰謝料三〇万円及び弁護士費用相当額五万円の合計三五万円及びこれに対する不法行為発生後である平成七年九月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、同被告らに対するその余の請求並びに被告Y5及び被告Y7に対する請求はいずれも理由がないから、これを棄却する。
(裁判長裁判官 飯村敏明 裁判官 八木貴美子 裁判官 沖中康人)


メニューに戻る
トップページに戻る