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文藝春秋あさま山荘短歌改変事件 東京高裁平成10年5月28日判決
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【判例ID】   28042167
謝罪広告等請求控訴事件
東京高裁平九(ネ)五〇五五号(甲事件)
東京高裁平九(ネ)五二五一号(乙事件)
平10・5・28民一四部判決
甲事件控訴人・乙事件被控訴人(以下「一審被告」という。) 乙山春夫 ほか一名
右両名訴訟代理人弁護士 喜田村洋一
同 林陽子
甲事件被控訴人・乙事件控訴人(以下「一審原告」という。) 甲野太郎
右訴訟代理人弁護士 伊東良徳

       主   文

一 原判決を取り消す。
二 一審被告らは一審原告に対し、各自金二五万円及びこれに対する平成八年六月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 一審原告の一審被告らに対するその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用は、一、二審を通じてこれを二〇分し、その一を一審被告らの、その余を一審原告の各負担とする。
五 この判決は、第二項に限り仮に執行することができる。

       事実及び理由

第一 当事者の求めた裁判
一 一審原告
(甲事件)
  控訴棄却
(乙事件)
1 原判決を次のとおり変更する。
2 一審被告らは一審原告に対し、朝日新聞の全国版朝刊社会面に原判決添付目録一記載の謝罪広告を同目録記載の条件で一回掲載せよ。
3 一審被告らは一審原告に対し,月刊誌文藝春秋に原判決添付目録二記載の謝罪広告を同目録記載の条件で一回掲載せよ。
4 一審被告らは一審原告に対し、各自金五五〇万円及びこれに対する平成八年六月三〇日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。 
5 訴訟費用は一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 一審被告ら
(甲事件)
1 原判決中一審被告ら敗訴部分を取り消す。
2 一審原告の請求を棄却する。
3 訴訟費用は一、二審とも一審原告の負担とする。
(乙事件)
  控訴棄却
第二 本件事案の概要は、原判決の事実及び理由の「第二 事案の概要」欄に記載のとおりであるから、これを引用する(なお、一審原告は、本件記述一、二等により名誉を毀損されたこと及び本件改変により著作者人格権を侵害されたことによる慰謝料は五〇〇万円を下らないものと主張して、合計五〇〇万円の慰謝料を請求し、その内訳を明示していないが、右の趣旨は、名誉毀損及び著作者人格権侵害の各慰謝料についてそれぞれ五〇〇万円を下らないものと主張し、ただその請求の上限を画して合計五〇〇万円を請求するものであると解される。また、原判決別紙一は、月刊誌文藝春秋記載のものであり、単行本においては、同別紙一の一枚目二段目の「成田空港公団今井総裁」が「成田空港公団今井栄文総裁」、同一枚目三段目の「杉並署四面道交番」が「荻窪署四面道交番」、同三枚目二段目の「警察庁長官宛の小包爆弾」が「警察庁長官宛ての小包爆弾」、同四枚目二段目の「昭和四十七年一月三日」が「昭和四七年一月三日」と記載されている。)。
第三 当裁判所の判断
一 争点1について
1 本件記述一が一審原告の名誉を毀損するか否かは、一般読者の通常の注意と理解の仕方を基準として、記述内容自体が名誉毀損事実の存在を読者に印象づけるかどうかによって判断すべきであるところ、本件記述一を読んだ一般読者は、記述された一連の爆弾事件が、現実に京浜安保共闘によって引き起こされたものであるとの印象をもつものといわざるを得ないことは、原判決書二二頁八行目から同二四頁一一行目までに記載のとおりであるからこれを引用する(ただし、原判決書二二頁八行目の「甲二の一」の次に「、乙二一、乙二四」を加える。)。
  なお、一審被告らは、本件出版物は日本社会の耳目をそばだたせる重大事件の警備に当たった著者一審被告乙山の経験、行動を著したもので、一般読者は、本件記述一は一審被告乙山を含む警察当局及びマスメディアの見解を紹介したにすぎないことを直ちに了解できるものである旨主張する。しかし、本件記述一は、前記認定のとおり一審被告乙山等の当時の見解を紹介したものであると明言されている部分はなく、何らの留保を付けることなく昭和四六年から昭和四七年初め頃までの出来事として記述されているものであって、一般読者においては、前記記述の体裁からして右記述における爆弾事件が京浜安保共闘によって惹起されたものとの印象を受けることは避けられないというべきであり、本件記述一が単に一審被告乙山を含む警察当局及びマスメディアの見解を紹介したにすぎないことを直ちに了解できるものであるとはいえないから、一審被告らの右主張は採用しがたい。

2 一審被告らは、仮に一般読者が、京浜安保共闘が爆弾事件を引き起こしたとの印象をもつとしても、それによって一審原告個人の名誉が毀損されることはない旨主張する。
  しかしながら、本件記述一においては、京浜安保共闘が爆弾事件を敢行したとの印象を持たせる記事に続いて、「連合赤軍誕生」との小見出しをもうけた後、「昭和四七年一月三日、新党を結成し、中央委員として赤軍派から丙川竹夫、丁原梅夫、戊田春夫、京浜安保共闘から甲田花子、甲野太郎(一審原告)、乙野夏夫、丙山秋夫の合計七名が選任された」旨の記述がされているのであって、この記述の位置、順序、流れ、文脈からみて、爆弾事件における一審原告の具体的な役割分担についての記述こそないものの、一般読者をして一審原告が京浜安保共闘の中心的人物として右一連の爆弾事件に深い関わりを有していたものと推測させるものであると認めるのが相当である。
  したがって、本件記述一は、一審原告の名誉を毀損するものといわざるを得ないから、一審被告らの右主張は採用することができない。
二 争点2について
  本件記述二は一審原告の名誉を毀損するものとは認められない。その理由は、原判決の事実及び理由の「第三 当裁判所の判断」欄の「二」に説示するとおりであるから、これを引用する。
三 争点3について
  一審被告乙山による本件改変は一審原告の著作物の同一性保持権を侵害するものであると認められるが、本件改変が一審原告の名誉を毀損するものとは認められない。その理由は、原判決の事実及び理由の「第三 当裁判所の判断」欄の「三」に説示するとおりであるから、これを引用する。
四 争点4について
  本件記述一は、前記のとおり一審原告の名誉を毀損するものと評すべきものではあるが、右記述は一審原告に焦点を当てて記述しているものではなく、直接的には、連合赤軍結成に際して京浜安保共闘の代表の一人として連合赤軍の中央委員に選出されたことを記述するものであるにすぎず、一審原告が右爆弾事件に関係していることを具体的な役割を明示するなどして明記しているものではないこと、他方、本件記述一が掲載された月刊「文藝春秋」の発行部数は数十万部に及び本件単行本も一二刷を数えていることのほか、本件出版物が出版されたのは、浅間山荘事件から約二〇年後、一審原告の死刑判決確定からも約三年後のことであり、また右記述にかかる一連の爆弾事件からは約二五年後のことであること等本件に関する諸般の事情を総合勘案すると、右記述及びその出版により一審原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料としては一〇万円が相当である。
  次に、本件改変は一審原告の著作者人格権を侵害するものであるところ、本件短歌は、引用された前後の文脈からすれば、一審被告の後日における心境を歌ったものとしてエピソード的に挿入されたものと認められ、短歌自体の評価を特に問題としたものではないこと、一審被告乙山において読点を二箇所打ったものであるが、それにより特に短歌の意味合いを変えようとしたものではないこと及び本件出版物の単行本第一一刷(平成九年二月一〇日付)からは、右短歌から読点をはずしていることなどの諸事情を考慮すると、右侵害により一審原告が被った著作者人格権侵害による慰謝料としては一〇万円と認めるのが相当である。
  そして、本件各不法行為と相当因果関係があると認めるべき弁護士費用は五万円が相当である。
  なお、一審原告は、原告の名誉を回復するためには謝罪広告の掲載が不可欠である旨主張するが、本件改変行為による著作者人格権侵害により一審原告の社会的声望名誉が毀損されたとまでは認められないし、また前記認定の諸事情を考慮すれば、本件記述一による名誉毀損について損害賠償のほかに謝罪広告の掲載まで必要であるとは認められない。
五 以上によれば、一審原告の本件請求は、一審被告ら各自に対し本件記述一による名誉毀損による慰謝料一〇万円及び本件改変による著作者人格権侵害による慰謝料一〇万円及び本件各不法行為と相当因果関係の認められる弁護士費用五万円の合計二五万円の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容すべきであるが、その余の請求はいずれも理由がないのでこれを棄却すべきである。
  ところで、一審原告の請求する本件記述一による名誉毀損に基づく慰謝料請求と本件改変による著作者人格権侵害に基づく慰謝料請求とは訴訟物を異にする別個の請求であるから、慰謝料額をそれぞれについて各別に特定して請求し判断されるべきものであるところ、原審はこれを明確にすることなく漫然と右各請求のうち合計三〇万円を認容し、その余を棄却しており、この点において判決に影響を及ぼすべき違法があるといわなければならない(最高裁判所昭和五八年(オ)第五一六号、昭和六一年五月三〇日第二小法廷判決・民集四〇巻四号七二五頁参照)。
  そこで、原判決を取消したうえ、一審原告の本訴請求について当審においてあらためて判決することとするが、前記のとおり一審原告の本訴請求は一審被告ら各自に対し右各慰謝料と弁護士費用の合計二五万円とこれに対する不法行為の日である平成八年六月三〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるのでこれを認容し、その余の請求は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六七条、六五条、六一条、仮執行宣言につき同法二五九条を各適用し、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結日 平成一〇年三月一〇日)
(裁判長裁判官 小川英明 裁判官 宗宮英俊 長秀之)


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