ビジネス著作権法

ビジネス著作権法

第6章 著作隣接権-実演家、レコード製作者、放送事業者及び有線放送事業者の権利

第6章 著作隣接権-実演家、レコード製作者、放送事業者及び有線放送事業者の権利

第1節 総論

1 著作物の職業的利用者と伝達行為

著作物の利用者とは、一般に、経済的利益獲得行為を行う職業的利用者である。この職業的利用者には、出版社、レコード会社、音楽CDやDVDのレンタル店、放送局、有線放送局、自動公衆送信事業者、実演家、映画の興行会社(映画館)などがある(第5章第1節、1参照)。この職業的利用者が、経済的利益獲得行為を行いながら著作物を一般大衆に伝達することによって、一般大衆が著作物を豊かに享受することができるのである(第1章第3節)。その意味で、この著作物の職業的利用者は著作物の伝達者という重要な役割を担う者である。

そうすると、こうした職業的利用者が担う著作物の伝達行為が円滑に進むことが、著作者の経済的利益の実現に資するし、また一般大衆による文化の豊かな享受にもつながるという関係にある。そこで、著作権法は、ある特定の職業的利用者については、その事業者を著作物の利用者と見るだけではなく、著作物を一般大衆に伝達するという役割に鑑みて、一定範囲で保護の主体(権利者)としての地位を与えることにしている。

ただ、こうした事業者の営みは、著作物を創作する著作者のそれとは異なるので、著作権に隣接する権利として著作隣接権を付与することにしている(著作権法第4章参照)。

また、著作隣接権は、職業的利用者一般に付与されているわけではなく、「実演家」、「レコード製作者」、「放送事業者」及び「有線放送事業者」だけに付与されている。それ以外の職業的利用者、例えば「出版者」に権利が付与されていないのはなぜだろうか。その理由に関して、上記職業的利用者の営みは、著作物の創作活動に準じたある種の創作活動が含まれるため、著作権に準じた権利を与えているというような説明がされることもある。

確かに、実演に関しては、そこに準創作的行為が存在することを否定できない。例えば、芝居においては、その演じ方により鑑賞者に伝わるものが異なるのであって、そこに準創作的行為を見出すことができるし、音楽の演奏や歌唱についても同様であろう。しかしながら、レコード製作者や放送事業者の行為を創作活動に準じるものということができるのかどうか疑問がなくもない。むしろ、こうした事業を遂行するためには多額の資本を投下する必要があるので、その投下資本の回収保護にあるという方が正確であろう。

そうすると、結局、著作隣接権は、著作物の伝達事業のうち、特にインセンティブを与える必要がある事業に対して与えられているのであり、そしてこれを与えるか否かは政策的判断に基づくと理解されるべきである*1。したがって、著作隣接権の付与を受けている事業者は、著作隣接権を勝ち得ているといいうるのであって、その意味で、出版者が著作物の大量利用者であり、伝達者であるにもかかわらず著作隣接権の付与を得ていないのは、いまだ権利を勝ち得ていないということになる。

*1 田村・知的財産法424頁も同旨である。

2 著作隣接権一般

(1)保護の客体-著作隣接物

「著作権」に関する著作権法の規定は、保護の客体として「著作物」があって、この著作物を創作した者を「著作者」とし、著作者に対して「著作権」を与えるという構造になっている。

これに対して「著作隣接権」の場合は、まず保護の客体は、「実演」、「レコード」、「放送」及び「有線放送」である。これらの保護の客体は、「著作物」と対比させるなら「著作隣接物」といってもよいはずであるが、そうした呼び方は一般ではない。これは、著作物の場合は著作物性の要件さえ満たせば著作物であるとされ、著作権法の著作物規定も例示にすぎない(10条1項)のに対して、著作隣接権の場合は、保護の客体が①実演、②レコード、③放送、④有線放送に限定されているからであろう。ただ、本書においては一般的ではないものの、この「著作隣接物」という用語が便利な時はこれを用いることにする。

尚、著作隣接権者が保護される理由は著作物の伝達という重要な役割を担う点にあるが、著作権法の著作隣接権制度では、その保護の要件に関して著作物との関連性を要求していない。すなわち、伝達の対象が著作物である必要はないのであって、著作隣接権者の行為それ自体、またはその作成に係るものそれ自体を著作権保護の枠組とは別個・独立のものとして、保護の対象としている。したがって、演ずる対象,レコードにする対象,放送・有線放送する対象が,著作物である必要はない。また,その対象が著作物である場合でも著作権の保護期間内にある必要もない。例えば,保護期間の切れたクラシック音楽をレコードにした場合,レコードはレコードとして別個・独立に保護される。

(2)保護の主体-著作隣接権者

次に、保護の主体は、保護の客体(著作隣接物)となる行為を行う者、またその客体を作成する者であって、次のとおりである。

  • 1) 実演については実演家
  • 2) レコードについてはレコード製作者
  • 3) 放送については放送事業者
  • 4) 有線放送については有線放送事業者

尚、上記主体を総称して「著作隣接権者」という。

(3)無方式主義

著作隣接権が発生するためには、いかなる方式の履行も必要でないことは、著作権の場合と同様である(89条5項、無方式主義)。尚、cと同様な機能を営むものとして、℗がある。これはレコードの保護に関し、無方式主義の諸国と方式主義の諸国を架橋する目的で、実演家等保護条約やレコード保護条約において規定されているものであり、発行レコードの複製物又は容器・包装に℗*2、第一発行年及びレコード製作者の権利を有する者の氏名を表示すれば、方式要求国における方式を満たしたものとして取り扱われる制度である。

*2 ℗はphonogramの頭文字である。

3 著作隣接権の内容

著作権法は、著作隣接権については,著作権の場合と異なり、①利用禁止権、ないし許諾権としての権利と,②他人の利用を禁止する権限まではないものの,著作隣接物の使用者に対して使用料や報酬の請求ができる権利の2つの性格の異なる権利を設けている。ただ、②の請求権に関しては、許諾権ではなく使用料請求権しか与えていないという方が正確である。

それでは、著作隣接権の内容を、著作隣接権者ごとにみることにする。ここでも、各著作隣接権の説明の順序は、条文の記載の順序ではなく、論理的な順序に従っている。


第2節 実演家の権利

第1 実演家の権利総論

1 実演事業

(1)事業内容

著作権法は、「実演」を、著作物などを演劇的に演じ、舞い、演奏し、歌い、口演し、朗読し、又はその他の方法により演ずることであり、これには、これらに類する行為で、著作物を演ずるものではなくても芸能的な性質を有するものを含むと定義している(第2条1項3号)。

したがって、「実演事業」とは、舞台や映画の撮影現場で脚本やシナリオに従い演技をしたり、舞ったり、またコンサート会場で音楽を演奏し、歌唱などする事業である。事業という用語には違和感もあるが、実演することによって経済的利益を獲得するという意味で事業ということができる。

そして、この事業者としては、俳優、舞踊家、演奏家、歌手などという実演家がいる。

(2)著作物の利用関係

実演事業においては、脚本その他の言語著作物、舞踊の著作物、音楽の著作物などが主として利用されるが、実演に関し権利処理が必要な著作権は、次のようになる。

(3)保護の理由

実演家は、著作物を解釈して伝達することにより、一般大衆が著作物を豊かに享受することに関して重要な役割を担っているが、特に実演家に著作隣接権が付与されたのは、まず、著作隣接権者による著作物の解釈及び伝達行為(演技、演奏など)は準創作的活動であるので、こうした準創作的活動に携わる事業者にインセンティブを付与するのが妥当であるということが、第一の理由である。

次に、録音・録画技術や放送技術の発展・普及により生実演の機会が減るとともに、自らがコントロールできないところで実演が利用される機会が拡大したことも、その理由であろう*3

*3 田村・知的財産法421頁は、複製技術の普及により実演の機会が奪われるので保護されるとし、吉田大輔「著作隣接権制度の形成と発展」(横浜国際経済法学第4巻第2号(平成8年3月)221頁)は、レコード技術の発達や放送技術の発展にともない自らコントロールしえない実演の利用が拡大し、また生実演の機会が減少するという事態が生じたからであるとする。

2 保護の客体と主体

(1)保護の客体

「実演」である(本章第2節第1、1参照)。著作物を演ずるものではないが、芸能的性質を有するものを含むので、例えば、奇術や曲芸も「実演」である。ただ、スポーツは、競技であって演ずるものではないので「実演」ではない。

具体的な保護の客体は、ある特定の時間、ある特定の場所で演じられる「実演」である。したがって、別な機会に演じられる実演は、たとえ演じる内容が同一であったとしても保護の客体としては別個の「実演」である。例えば、歌手がある時間にあるコンサート会場で歌唱したらその歌唱が一個の実演として保護の客体となり、そしてまた別な時間や場所で歌唱すれば、同じ曲目であってもそれは別個の実演として保護の客体となる。

また、物真似は、真似られた実演とは全く別の実演であり、それ自体が保護の客体となるものであり、真似られた実演の複製などと観念されるものではない。

実演は、「公に」行われる必要はない。誰もいない個室で行った実演も保護の対象となる。

尚、実演の利用は、生実演を利用する方法以外に、その録音・録画物を用いてする方法が大きなウエートを占める。そして、著作権法は、生実演と録音・録画された実演でその保護の範囲に差異を設けている(本節第1、3、(2)以下参照)。

(2)保護の主体

「実演家」である。「実演家」とは,俳優、舞踊家、演奏家、歌手その他実演を行う者及び実演を指揮し、又は演出する者をいう(2条1項4号)。

すなわち、保護の客体である実演を行う者をいう。保護の客体である実演を行う者が「実演家」であるから、プロの実演家である必要はなく、素人が実演を行えばその素人も実演家であって、その実演の保護の主体となる。

尚、実演を指揮し、又は演出する者、すなわち、指揮者や演出家も「実演家」であることに注意する必要がある(2条1項4号参照)。舞台の演出家は、映画でいえば映画監督と同様な立場にある者であるが、演劇が著作物でないことと相まって(第2章第3節、11参照)著作者とはされていない。これらの者は、実演を行う者と同じく実演家とされている。

レコード製作者や放送事業者の場合は法人も保護の主体となりうるが、実演家は自然人だけしか観念できない。また、職務著作の適用もない(本章第6節参照)。共同実演の場合は、共同著作権行使の規定(65条)が準用されている(103条)。

3 実演家の権利の内容と特徴

(1)権利の内容

実演家に付与されている権利は、禁止権と使用料などの請求権であって、以下のとおりである。

① パッケージ型ビジネス
1) 録音・録画権(91条1項)
禁止権
2) 譲渡権(95条の2、1項)
禁止権
3) 海賊版輸入行為等禁止権(113条1項)
禁止権
4) 国内頒布目的商業用レコード輸入行為等禁止権(113条5項)
禁止権
5) 商業用レコードの貸与権(95条の3、1項)
禁止権
6) 商業用レコードの貸与報酬請求権(95条の3、3項)
報酬請求権
② ノンパッケージ型ビジネス
1) 放送及び有線放送権(92条1項)
禁止権
2) 商業用レコードを使った二次使用料請求権(95条1項)
使用料請求権
3) 送信可能化権(92条の2、1項)
禁止権
③ 集客型ビジネス
権利なし
上演権、演奏権、上映権は付与されていない。
④ ビジネスの方法とは無関係なもの
1) 翻案等に関するもの
権利なし
2) 私的録音・録画補償金請求権(102条1項及び30条2項)
補償金請求権
3) 権利管理情報に関する権利(113条3及び4項)
禁止権
⑤ 実演家人格権(90条の2、90条の3)
禁止権
(2)権利の特徴

ここで、実演家の権利の特徴を見ておこう。

①「生実演」と「録音・録画された実演」

著作権法は、生実演をコントロールする権利と録音・録画された実演をコントロールする権利に分けて、後者に対する権利を縮減している。さらに、後者の中でも、映画の収録物を用いる場合、録画物を用いる場合及び録音物を用いる場合について、それぞれ異なった取扱をしている。このような著作権法の規定内容を理解するためには、実演の録音・録画物に関し、以下のように分類できることを理解する必要がある。

さらに、上記映画収録物や録音・録画物が、録音・録画権を有する者(通常は、実演家)の許諾を得て作成されたか否かにより、適法映画収録物と違法映画収録物、また適法録音・録画物と違法録音・録画物に分けることができる。

そして、著作権法が実演家に付与している権利のうち、以下の通り、権利の範囲に差異を設けている。

i) 生実演
実演家の権利がストレートに働く。
ii) 違法映画収録物及び違法録音・録画物
録音・録画権を有する者(通常は、実演家)の許諾を得ないで作成された映画収録物または録音・録画物を用いてする実演の利用については、実演家の権利がストレートに働く。録音・録画に関し実演家の許諾がないのであるから、この場合に、その権利が縮減される理由がないからである。
iii) 適法映画収録物及び適法録音・録画物
録音・録画権を有する者(通常は、実演家)の許諾を得て作成された映画の収録物に関しては、実演家の権利は一切働かない。また、許諾を得て作成された録音・録画物に関しては、一定の利用方法に関して、実演家の権利が働かない場合がある。
このように適法映画収録物と適法録音・録画物を用いてする実演の利用に関しては、生実演を利用する場合より実演家の権利が縮減されている点が、実演家の権利の特徴である。その趣旨は、著作権ビジネスに携わる事業者間の利用調整を目的とするものである(本節第6参照)。
② 集客型ビジネスに関する権利

集客型ビジネスにおいては、実演家に何の権利も付与されていないのも一つの特徴である。詳細は、本節第4参照。

以下において、各権利ごとに解説する。

第2 パッケージ型ビジネスにおける権利

1 録音・録画権

(1)原則

実演家は,その実演を録音し、又は録画する権利を専有する(91条1項)。

ここでいう録音とは、音を有体物に固定することをいい(2条1項13号)、録画とは、影像(映像)を連続して有体物に固定することをいう(同14号)。これによって実演家は、自己の実演が録音・録画されるところで権利を行使することができる。この権利は、自己の実演を公衆に提供するための手段となる実演の録音・録画物の作成権であり、パッケージ型ビジネスにおける基本権である。

さらに著作権法は,録音・録画とは、その固定物を増製する、つまり音や映像が固定された有体物をリプレスすることも含むと規定している(2条1項13号および14号)ので、実演家は、自己の実演の録音・録画物が増製されるところで権利を行使することができる。すなわち、実演の最初の固定時(マスターテープの作成時)はもちろんのこと、すでに存在する録音・録画物(マスターテープもしくはその増製物)から別個の録音・録画物を作成する場面でも実演家の権利が働くということである。したがって、例えば、演奏の録音物から音楽CDをリプレスしたり、上演の録画物からビデオクリップを増製したりする場面や、音楽CDを音源として、これをサーバのハードディスクに保存するなどの場面でも実演家の権利が働くことになる。

尚、録音・録画の過程で実演に何らかの変更を加えても、実演の同一性がある限りでは、実演家の録音・録画権が働くと解すべきである(田村概説522頁)。例えば、ステレオがモノラルに変更されたり、白黒フィルムに色づけされたり、前後を省略されたり、トリミングされても、当該実演であることが識別される限り、権利の範囲内にあると解すべきである(田村概説523頁、尚、翻案については、本節第5、1参照)。

また、著作権法は、実演家は「録音・録画権を専有する」と規定し、「複製権を専有する」とは規定していない。つまり、実演家には複製権のうち録音・録画権に限って付与されている。したがって、実演をスケッチしたり、写真に撮る行為には、実演家の権利は及ばない(ただし、パブリシティ権の問題は発生することがある。)。

(2)権利調整
① 適法映画収録物

実演家の録音・録画権は、録音・録画権者(通常は、実演家)の許諾を得て映画の著作物において録音され、又は録画された実演については働かない(91条2項)。すなわち、適法映画収録物がある場合に、この収録物を増製することに関しては実演家の許諾は不要である。典型的には、映画のマスタープリントから上映用プリントを作成し、また映画をビデオ化する場合である。適法映画収録物の場合に実演家の録音・録画権が制限されるのは、映画は配給のために増製物が必要であり、またビデオ化も通常予想される利用の範囲であるからということであろう*4

以上の趣旨からすると、当該映画での実演利用でない場合は実演家の権利は働くことになると解される。たとえば、映画の中から一部の実演を取りだして当該映画とは別個の編集録画物を作成するような行為に対しては、録音・録画権は働くものと解すべきである。こうした利用は、映画プリントを作成し、またビデオ化するという通常の利用の範囲外だからである。ただ、当該映画の編集や部分利用については、権利を働かないと解されよう。尚、静止画として増製に関しては、上述の通り著作隣接権侵害の問題は生じないが、パブリシティ権の問題にはなる。

尚、録音・録画を許諾するとは、生実演の録音・録画の許諾だけではなく、実演の録音・録画物を用いて映画へ録音・録画することを許諾する場合を含む(加戸講義482頁)。

*4 舞台やライブ演奏などの録音・録画物については、配給は通常考えられないから増製物は不要であるし、またビデオ化等も一般ではないので、録音・録画権が働くことになっている。

例外

映画に録音・録画された実演を録音物に録音する場合は、実演家の権利が働く(91条2項かっこ書)。すなわち、サウンドトラックに入っている演奏を抜き出してサントラ盤レコードを作るような場合である。

② まとめ

増製に関する実演家の権利をまとめると次のようになる。

  • 適法映画収録物→権利なし。
  • 適法録音・録画物→権利あり。

2 譲渡権

(1)原則

実演家は、その実演をその録音物又は録画物の譲渡により公衆に提供する権利を専有する(95条の2、1項)。

これによって実演家は、自己の実演の録音・録画物(一般には、マスターテープの増製物)が譲渡の方法で提供されるところで権利を行使することができる。パッケージ型ビジネスにおいて働く権利である。

尚、録音・録画物が一度適法に譲渡された後は、譲渡権は消尽する。これは、著作者に与えられた譲渡権と同様である(95条の2、3項参照)。

(2)権利調整
① 適法映画収録物及び適法録画物

適法映画収録物については、実演家の譲渡権は働かない(同条2項2号)。これは、録音・録画権に関して説明したところと同じ趣旨に基づくものである。そのため、適法映画収録物の増製とその譲渡というパッケージ型ビジネスでの実演利用に関しては、実演家の権利は働かない。

さらに、適法録画物についても実演家の権利は働かない(同条2項1号)。すなわち、譲渡権に関しては、適法映画収録物だけではなく、適法録画物についても実演家の権利は働かないのである。

適法録画物の意義

ここで「適法録画物」の意義について説明をしておく。

まず、実演家の許諾を得て生実演を録画して作成された録画物(マスターテープ)は適法録画物である。

次に、録画物は、上記マスターテープを増製することによって作成することができるが、この増製も録画であり実演家の権利が働く。したがって、マスターテープが適法に作成されたものであっても、増製について許諾がなければ、当該録画物(増製物)は「適法録画物」ではない。当該増製に関して許諾があって始めて「適法録画物」となる。

したがって、「適法録画物」か否かは、個々の録画物ごと(マスターテープや増製物ごとに)に判断されることになる。尚、映画の場合は、増製に関して実演家の権利は働かないから、増製に関して実演家の許諾がなくても「適法映画収録物」となる。

以上のように、適法録画物に関しては譲渡権は働かないものの、適法録画物の作成(マスターテープの増製)に関して実演家の権利が働くので、実体としては、パッケージ型ビジネスでの録画物利用に関するコントロール権はあいかわらず実演家が持っていると考えてよい。

② 適法録音物

適法録音物については、実演家の権利が働く(尚、適法録音物の意義については、上記適法録画物について述べたところと同様である)。

録音物の譲渡を行うビジネスとは、基本的には、商業用レコード(音楽CD)の販売である。この場合、音楽CDを販売するためには、実演家の譲渡権について権利処理を行っておく必要がある。

③ まとめ
  • 適法映画収録物→権利なし。
  • 適法録画物→権利なし。
  • 適法録音物→権利あり。

3 海賊版輸入行為等禁止権

内容は著作者の権利と同様である(113条1項、第3章第2節第2、3参照)。

4 国内頒布目的商業用レコード輸入行為等禁止権

内容は著作者の権利と同様である(113条5項、第3章第2節第2、4参照)。

5 商業用レコードの貸与権と貸与報酬請求権

(1)原則
① 貸与権

実演家は,実演が録音されている商業用レコードを,貸与によって公衆に提供する権利を専有する(95条の3, 1項)。

これによって実演家は、実演が録音されている商業用レコードが貸与の方法で提供されるところで権利を行使することができる。この権利は、パッケージ型ビジネスにおいて働く権利である。

ただし,禁止権としての貸与権が働くのは,商業用レコードが最初に販売された日から最長で1年間である(政令で定められる。同条2項)。これ以降は、次の貸与報酬請求権となる。これは、商業用レコード発売後のレンタルとレコード販売とが競合する期間だけ,レコードの貸与を禁止することができることにしたということである。

② 貸与報酬請求権

貸与禁止期間を経過した商業用レコードについては,実演家は、公衆への貸与を営業として行う者(貸レコード業者)に対して相当な報酬を請求できる(同条3項)。

この報酬請求権は、国内において実演を業とする者の相当数を構成員とする団体でその同意を得て文化庁長官が指定するものがあるときは、当該団体によってのみ行使することができる(95条の3、4項、95条5項)。これを受けて、社団法人日本芸能実演家団体協議会(以下、「芸団協」という)が指定され、徴収業務を行っている*5

*5 貸レコードの歴史と背景、実演家に対する報酬の分配の仕組みなどのビジネス実務については、安藤和弘・よくわかる音楽著作権ビジネス(基礎編)184頁~207頁に詳しい。

(2)権利調整

貸与権及び貸与報酬請求権の規定は、「商業用レコード」に関する規定であって、適法映画収録物や適法録画物、商業用レコード以外の適法録音物の貸与に関しては、実演家にこうした権利は与えられていない。

尚、商業用レコードとは、市販されている音楽CDなどのことである(詳しくは、本章第3節第3、2参照)。

これをまとめると、次の通りである。

  • 適法映画収録物→権利なし
  • 適法録画物→権利なし
  • 適法録音物→商業用レコードの場合だけ権利あり。

第3 ノンパッケージ型ビジネスにおける権利

ノンパッケージ型ビジネスにおける権利に関しては、著作者には公衆送信権が付与されているが、実演家にはそのうちの放送・有線放送権と送信可能化権(自動公衆送信権とその他の公衆送信権は与えられていない。)が付与されている。

1  放送権・有線放送権

(1)原則

実演家はその実演を放送し,または有線放送する権利を専有する(92条1項)。

これによって実演家は、自己の実演が放送・有線放送されるところで権利を行使することができる。この権利は、ノンパッケージ型ビジネスにおいて働く権利である。

(2)権利調整1(適法映画収録物と適法録音・録画物)
① 適法映画収録物と適法録音・録画物

適法映画収録物と適法録音・録画物を用いた実演の放送又は有線放送には、実演家の権利は働かない(92条2項2号)。

ただ、商業用レコードを使って放送・有線放送が行われた場合には,「二次使用料請求権」が発生する(後述(3)参照)。

これをまとめると次の通りである。

  • 適法映画収録物→権利なし。
  • 適法録画物→権利なし。
  • 適法録音物→権利なし。ただし、商業用レコードが用いられた場合は、二次使用料請求権がある。
② 二次使用料請求権

放送事業者及び有線放送事業者は、適法に実演が録音されている商業用レコードを用いて放送又は有線放送を行つた場合(当該放送又は有線放送を受信して放送又は有線放送を行つた場合を除く。)には、当該実演に係る実演家に二次使用料を支払わなければならない(95条1項)。

上記の通り、適法録音実演については実演家の放送・有線放送権は働かないが、音楽CDなどの商業用レコードが放送・有線放送において大量に使われることになると、歌手等の実演家が生で実演する機会が減少する。そこで、実演家のこうした機会的失業を補償するという趣旨で、実演家に商業用レコードに関する二次使用料請求権を与えている(加戸講義505頁)。

尚、放送又は有線放送を受信して放送又は有線放送を行つた場合には、二次使用料支払義務は生じないことになっている(括弧書き参照)。

二次使用料の請求も、貸与報酬請求権と同じく指定団体により権利行使されることになっており(95条5項)、芸団協がNHK,日本民間放送連盟などと協議し、具体的な使用料を決定した上で請求を行っている*6

*6 実演家の二次使用料請求権に関する芸団協の役割、具体的な分配方法などのビジネス実務については、安藤和弘・よくわかる音楽著作権ビジネス(基礎編)170乃至176頁に詳しい。

(2)権利調整2(放送される実演)

放送される実演を有線放送する場合は実演家の権利は働かない(92条2項1号)。すなわち、有線放送事業者は、実演家の許諾なく、放送される実演を受信して有線放送(放送の同時再送信)することができる。これは、放送事業者はその放送に関し有線放送権を有するので(本章第4節第3、1参照)、有線放送による同時再送信が予定されるところでは、放送事業者のところで一括して対価の徴収を行うという方法で、実演の利用の便宜を図ったものである(加戸講義486頁参照)。

2 送信可能化権

(1)原則

実演家は、その実演を送信可能化する権利を専有する(92条の2)。

これによって実演家は、自己の実演が送信可能化されるところで権利を行使することができる。この権利は、ノン・パッケージ型ビジネスにおいて働く権利である。

著作者に付与されている公衆送信権のうち、放送権と有線放送権は付与されていないものの、自動公衆送信権に関してはその一部である送信可能化の限度で権利が付与されている。

この権利は、近年のインターネットの発展・普及により、実演のインタラクティブ送信という形での利用形態が急速に普及してきたことに対応して、平成9年著作権法改正で付与された権利である。

(2)権利調整規定
① 適法映画収録物及び適法録画物

適法映画収録物と適法録画物を用いた実演の送信可能化には、実演家の権利は働かない(92条の2、2項)。

② 適法録音物

適法録音物を用いた実演の送信可能化には、実演家の権利が働く。したがって、音楽CDなどを音源にしてサーバーにアップロードする行為などには、実演家の送信可能化権が働くことになる。

③ まとめ
  • 適法映画収録物→権利なし。
  • 適法録画物→権利なし。
  • 適法録音物→権利あり。
(3)権利の内容

平成9年の著作権法改正において、新たにインタラクティブ送信に関する権利が実演家に与えられたという説明は、実は正確でない。この改正が行われる前も、実演家には「有線送信権」というインタラクティブ送信(送信可能化の限度ではなく、送信行為自体)を禁止できる権利が与えられていた。そうすると、実演家に送信可能化権を付与するといっても、自動公衆送信のうち送信可能化権の限度でしか権利が付与されていないのだから、むしろ権利の働く範囲が狭くなったともいえそうである。ただ、「有線送信権」は、放送・有線放送と同様、適法映画収録物と適法録音・録画物を用いて行う実演の送信については権利が働かなかった。そうすると、音楽CDを音源とする音楽のインターネット配信については、実演家の許諾は不要であり(著作者である作詞・作曲家の許諾は必要)、しかも、インタラクティブ送信は放送・有線放送ではないので、二次使用料請求権もなかったのである。そのため実演家(歌手・演奏家)は早急に何らかの権利が与えられることを望んだのである。そこで改正法は、実演家に送信可能化権を与えるとともに、適法録音物についても権利が働くことにしたのである。付与する権利の内容に関し、放送・有線放送の場合と同様に、禁止権(許諾権)ではなく、二次使用料請求権とすべきであるという議論もあったが、改正法は、許諾権としての送信可能化権を与えたのである。したがって、この適法録音物に送信可能化権が働くとされた点においては、新たに権利が付与されたといってよい。そして、このことは、音楽CDを音源とするインターネット配信について、実演家もその諾否を決定する権利を与えられたことになる。

ただ、適法映画収録物及び適法録画物を用いた実演の送信については、実演家の送信可能化権は働かないとされた。これは、実演家に権利を与えたくないという映像制作者(特に、映画製作者)側の強い意向が新規立法の過程で反映されたことによる。

また、実演家に付与されている権利が、自動公衆送信権ではなく送信可能化権の限度である理由は何であろうか。自動公衆送信を与えなくても、送信可能化権を与えるだけで実演家の保護をはかるには充分であるというような説明もなされるが、そうであるなら著作者に自動公衆送信権まで与える理由の説明がつかない。結局、これは、著作者の権利と著作隣接権者の権利には若干の差をつけたいという趣旨であり、そして、この趣旨が反映された条約との整合性をはかったものであろう*7

*7 WIPO実演・レコード条約は、実演家とレコード製作者に送信可能化権を付与することにしている。

3 その他の公衆送信権

実演家には、公衆送信権のうち、「その他の公衆送信権」は付与されていない。

この理由については、こうした権利を与えてもあまり意味がないからと説明される。例えば、録音・録画物を用いて実演を自動的に送信できるにもかかわらず、これをアクセスした者の一人一人に一回ごとに手動でメールして送信するなどというサービスは考えにくいということである。ただ、著作者には与え、実演家に与えないことに合理的な理由はないであろう*8

*8 実演家に「その他の公衆送信権」は付与されていないので、この部分は有線送信権が与えられていた旧法時代よりも権利の範囲が狭くなったということになる。

第4 集客型ビジネスにおける権利

実演家は、上演権、演奏権・上映権などの集客型ビジネスに関する権利は付与されていない。

生実演の場合は、実演家が望まないときは上演や演奏をしなければよいのだから、特に権利の付与がなくても問題はない。これに対して、録音・録画物を用いて集客型ビジネスを行う場合には、実演家はこれを物理的にコントロールすることはできないのに、実演家との権利処理は不要であるということになると、実演家の経済的利益の観点からは、保護が手薄であるということができる。著作者の上演権や演奏権が、録音・録画物の再生を含むのと大きな差があることになる(2条7項参照)しかも、二次使用料請求権すらないのである。

これは、実演の鑑賞は、生実演(ライブ)が基本であって録音・録画物を再生して鑑賞させるビジネスは考えにくいし、公衆の集まる場での音楽の再生演奏に関しては、旧附則14条によって著作者にすら権利行使が認められていなかったことによるものである。また、映画を除く録音・録画物については、増製のところで権利が働くので、それなりの権利保護がはかれるということもある。

ただ、音楽に関しては旧附則14条が撤廃されたことにより、著作者の権利は、音楽CDの再生による演奏にも全面的に働くことになったので、こうした場合に実演家の権利は全く働かないことは今後は問題になるであろう。

第5 ビジネスの方法とは無関係な権利

1 翻案権等

翻案権などの付与はない。当該実演が利用されているかどうかが問題なのであるから、その利用があれば録音・録画権や送信可能化権を侵害することになるだけである。

2 私的録音・録画補償金請求権

録音・録画ともに権利がある。第7章第3節参照

3 権利管理情報に関する権利

内容は著作者の権利と同様である。第5章第8節参照

尚、著作権法の用語の使い方として「著作隣接権」には「報酬請求権」を含まないとされている(たとえば、89条6項参照)が、実演家及びレコード製作者の有する、商業レコードに係る二次使用料請求権及び貸与報酬請求権についても管理情報を用いた処理がなされることも想定して、これらの請求権に関する情報も保護の対象としている(2条1項21号参照)。

第6 事業者間の権利調整

事業者間の権利調整規定は、相当程度に複雑なので、再度、ここで横断的にその内容をまとめておく。

1  適法映画収録物を用いる場合の権利調整規定

映画の著作物において録音・録画された実演には、実演家の権利が働かないという規定についてまとめると、まず、91条2項の規定により、映画の著作物の収録物を増製することについて権利が働かない。さらには、92条2項2号ロ、92条の2、2項2号、95条の2、2項2号の各規定により、91条2項の規定により作成された増製物を利用する場合を含めて、譲渡権、放送権、有線放送権及び送信可能化権のいずれの権利も停止する(貸与権については、そもそも権利がない。)。したがって、実演家は、映画への出演契約を締結する際に(この時、録音・録画を許諾する。)、上記利用行為のすべてに関し自己の権利は一切働かないことを前提にして対価の交渉と決定を行うべきであり、この機会を逸すると以後、対価に関する交渉を行う機会は設けられていない。これをワンチャンス主義という。

これらの規定は、映画の著作権者である映画製作者の利用の便宜をはかるものである。すなわち、映画の著作権が映画製作者に集中的に帰属することを規定した第29条と同じように、映画に関する権利は実演家に帰属させないことにして映画製作者に集中させ、その利用の円滑化を図るという趣旨である。

このワンチャンス主義については、その妥当性・合理性について古くから議論があるところである。そして近年では、ビデオカセットに加えDVD形式で映画が多く増製され、またブロードバンドの発展・普及は、ノンパッケージ方式による映画の配信も可能にしてきている。こうした新しい利用方法による場合にも現行法の解釈としてはワンチャンス主義の適用があることになるが、実演家としては、何らかの実演家保護を図る法改正が欲しいところである。

ただ問題は、仮に実演家に利用禁止権を与えるとなると多数の実演家との間で権利処理が必要になるため、映画の利用が阻害されることである。したがって、実演家側に多数の実演家との間の権利処理が簡便になし得るような体制ができない限り、実演家に許諾権を与えるという解決は困難であろう*9

*9 この点を指摘するものとして、実演家のためのデジタルハンドブック75頁。

2  適法録音・録画物を用いる場合の権利調整規定

適法録画物については、増製に関して実演家の権利が働くことを除いて、適法映画収録物と同様の取扱がなされている。すなわち、91条2項の適用はないものの、92条2項2号イ、92条の2、2項1号、95条の2、2項1号の各規定により、譲渡権、放送権、有線放送権及び送信可能化権のいずれの権利も停止する(貸与権については、そもそも権利がない。)。増製に限っては権利が働くが、それ以外ではワンチャンス主義である。これも、録画物に対する権利者、その所持者などの利用の便宜を図るものである。

また、適法録音物の場合は、92条2項2号イの規定により、放送・有線放送権が停止する(ただし、商業用レコードの場合は、二次使用料請求権はある。)。これも、この範囲で、録音物の所持者などの利用の便宜を図るものである。ただ、増製、譲渡及び送信可能化については権利が働くので、それなりの実演家の利益保護が図られていることになる。

第7 実演家人格権

1 実演家人格権総論

実演家に対しては、著作隣接権者の中で唯一、「人格権」(「氏名表示権」及び「同一性保持権」)が付与されている。

著作者に対しては、従来から著作者人格権(公表権、氏名表示権及び同一性保持権)が付与されていたが、著作隣接権者に対してはそうした権利は与えられていなかった。これは、著作隣接権の保護の対象は伝達の手段であって、人格権的保護を与える必要性もないし、またそもそもそうした保護になじまないと考えられていたからである。しかし、実演に限っては人格の発露という要素が多分にあるので、著作者の人格と同様に実演家の人格も保護の対象となってもおかしくない。例えば、氏名表示権などは、当然実演家に与えられるべき権利である。また、同一性保持権に関しては、これまで実演が改変されるなどということは想定できなかったが、デジタル技術の発展は、録画された演技や表情を改ざんするとか、俳優の顔そのものをすげ替えるとか、また録音された演奏の音質を変えるとかいったことを可能にする。したがって、ここにきて、実演家に同一性保持権を付与する必要が生じたのである。

そこで、平成14年著作権法改正により、実演家人格権として「氏名表示権」と「同一性保持権」が実演家に与えられた。

2 氏名表示権

(1)氏名表示権の内容

実演家は、その実演の公衆への提供又は提示に際し、その氏名もしくはその芸名その他氏名に代えて用いられているものを実演家名として表示し、又は実演家名を表示しないこととする権利を有する(90条の2、1項)。

したがって、例えば、歌手が発売される音楽CDのジャケットに歌手名を表示するよう請求したり、映画に出演した俳優がエンディングロールに俳優名を表示するよう請求したりすることができる。また、歌手の歌唱をテレビ放送する場合に、その歌手名をアナウンスするよう請求することができる。

(2)表示方法

実演を利用する者は、その実演家の別段の意思表示がない限り、その実演につき既に実演家が表示しているところに従って実演家名を表示することができる(2項)。また、実演家名の表示は、実演の利用の目的及び態様に照らし、「実演家であることを主張する利益を害するおそれがないと認められるとき」または「公正な慣行に反しないと認められるとき」は、省略することができる(同条3項)。著作者人格権の場合は、上記2つの要件を満たさなければ省略できないが、実演家人格権の場合は、いずれか1つの要件を満たせば省略できることになっている。前者は、デパートなどでBGMとして音楽CDを流すような場合である。後者は、例えば、音楽ライブのバックバンドの構成員の氏名や映画のエンディングロールへのエキストラの氏名表示を省略するような場合である。こうした場合は、すべての実演家を表示することは不可能であり、かつそのような場合は表示しないことについて公正な慣行があるからである(加戸講義475頁)。

3 同一性保持権

(1)同一性保持権の内容

実演家は、その実演の同一性を保持する権利を有し、自己の名誉又は声望を害する実演の変更、切除その他の改変を受けないものとする(90条の3、1項)。

著作者人格権の場合は「意に反する」ことが要件とされているが、ここでは実演家にとって意に反する改変があっただけでは足りず、「実演家の名誉又は声望を害する」改変があることが要件となる。

したがって、例えば、映画を二次利用するにあたって再編集し、短編とし、トリミングを行うなどしても、ここでの改変には該当しない。ここでの改変に該当するものとしては、例えば、実演家の演技中の顔や体型をみにくく変えたり、裸にしたり、奇妙な声に変えたりすることによって、実演家の名誉や声望が害される場合である。

(2)やむをえない改変と公正な慣行に反しない改変

同一性保持権の規定は、実演の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変又は公正な慣行に反しないと認められる改変については、適用しない(同条2項)。

これは、実演が編集を経て利用されたり、また部分利用されることが多いため、実演の円滑な利用が妨げられないように同一性保持権が働かない場合を規定したものである。ただ、そもそも1項で「名誉又は声望を害する」改変のみが禁止されるのであるから、名誉又は声望が害されているにもかかわらず、2項で改変が許される場合を想定するのが困難である*10。実演の円滑な利用が妨げられることのないように念のために置かれた規定ということになろうか。

「やむをえないと認められる改変」とは、機器の性能や特性のために音声や映像が変化するような場合をいい、「公正な慣行に反しないと認められる改変」とは、放送時間にあわせて映画や録音物の再編集をしたり、紹介のために映画の中の一部の実演を見せたりすることをいう(加戸講義478頁)。

*10 藤原浩「実演家の権利をめぐる問題点」(コピライト498号14頁、2002年10月)

4 公表権

公表権の規定はない。実演は、通常公表を前提として行われるものであって、公表権を認める実際的な意味がないからであろう。

5 名誉・声望保持権

著作者に付与されている名誉・声望保持権(113条5項)に対応する規定もない。


第3節 レコード製作者の権利

第1 レコード製作者の権利総論

1 レコード製作事業

(1)事業内容

レコード製作事業とは、典型的には、レコード会社が演奏家(歌手)による楽曲の演奏と歌唱をスタジオでレコーディングすることによって録音物を作成する事業をいう。

この最初の録音物を作成するところを、著作権ビジネスでは、「原盤」、又は「マスター・テープ」(以下、「原盤」という。)の作成というが、著作権法はこれを「レコード製作」といっている。すなわち、ある音(演奏・歌唱)を最初に記録媒体に固定(録音)する行為をレコード製作というのである。

尚、レコード製作事業は、当然、原盤から音楽CDをリプレス(原盤増製)する事業、そして音楽CDの販売事業と続くわけであるが、著作権法が着目して保護の対象としているのは、レコード製作の場面である。

(2)著作物と著作隣接物の利用関係

レコード製作においては、一般に音楽著作物と実演(演奏・歌唱)が、利用される。したがって、著作権者との間では、録音権の処理を行う必要がある。一般には、ジャスラックから許諾をとる。実演家との間でも、録音権の処理をする*11

尚、引き続いて行われる音楽CDのリプレス及び販売に関しても、著作権者及び実演家の録音権及び譲渡権に関して権利処理を行う必要がある。

*11 実演家とレコード製作者との間で締結される専属実演家契約などのビジネス実務については、安藤和弘・よくわかる音楽著作権ビジネス(応用編)9頁以下に詳しい。

(3)保護の理由

レコード製作者は、我々が音楽(著作物)や演奏・歌唱(著作隣接物)を豊かに享受することに関して重要な役割を担っている。

そして、レコード製作事業を遂行するためには多額の費用がかかる。そのため、レコード製作者の投下資本の回収と事業の存続、発展のためには、レコードの利用行為について一定の禁止権や対価の請求権を付与する必要がある。

尚、レコード製作においては、演奏や歌唱を録音することに関して高度な技術が要求され、そこには準創作的な要素が含まれることをもって、レコード製作者の保護の理由とする見解がある。しかしながら、現実にレコード製作者とされる事業者は、そうした技術を発揮するミキサーという職種の人ではなく、原盤製作の費用を拠出する事業者であるという実体をみるとき、保護の理由は投下資本の回収にあると言わざるをえないであろう*12

*12 加戸講義26頁は、音の固定にあたっては、著作物の場合と違って、創作性は必要ないという。また、原盤に対する権利の保有者の具体例及びビジネス実務を紹介するものとして、安藤・基礎編36頁以下参照。

2 保護の客体と主体

(1)保護の客体

「レコード」である。ただ、この概念は、一般的な意味での「レコード」とは全く異なるので注意を要する。

著作権法は、「レコード」を「蓄音機用音盤、録音テープその他の物に音を固定したものをいう。」といい(2条1項5号)、また「レコード製作者」を「レコードに固定されている音を最初に固定した者」と定義している(同6号)。そうすると、レコード製作とは、音(一般的には演奏と歌唱)を何らかの記録媒体に固定(録音)して「原盤」を作成する作業であり、この原盤に固定(録音)された音(演奏・歌唱)を「レコード」という。たとえば、実演家が演奏・歌唱をするとする。これだけでは、レコードは生まれない。この演奏・歌唱の際、これを記録媒体に固定すると、当該記録媒体(原盤)に固定された演奏・歌唱というものが生まれる。この固定された演奏・歌唱を「レコード」というのである。そうすると、上記実演家の演奏・歌唱がある記録媒体に固定され、またこれとは別の記録媒体にも固定されたとすると、ここに2個の原盤が作成され、そこには同じ演奏・歌唱ではあるものの、別個の2個の「レコード」が誕生したことになる。

そして、ある原盤に固定された演奏・歌唱がある特定のレコードであるから、これを音源として当該演奏・歌唱が他の有体物の上に再製されるとき(増製物の作成)、そこには同一のレコードが存在することになる。すなわち、当該原盤に固定され、そこから再製されたという属性をもつものが同一のレコードである。さらに、その増製物を用いて別個の増製物が作成されたときも、同一のレコードが存在することになる。

そして、この意味での「レコード」が保護の客体となる。

尚、「レコード」概念からは、音をもっぱら影像とともに再生することを目的とするものを除く(2条1項5号括弧書き参照)。この場合は、映画の著作物としての保護を受けるという趣旨である。

固定の対象

固定される対象は、音であって音楽に限定されない。口述、口演、朗読などでもよいし、さらには、著作物ではない単なる音、例えば川のせせらぎや波の音、セミの鳴き声などを固定したものも「レコード」である。

MIDIデータの作成

通常、レコード製作は、生演奏を録音機器を使って録音する作業であるが、例えば、オルゴールのように機械的に演奏音を出せるような機器を作成することも音の固定であるから、これもレコード製作である。したがって、シンセサイザーなどの電子音楽機器を用いれば音の再生ができるMIDIデータを作成して記録媒体に固定することも音の固定であり、レコード製作である。この意味で、カラオケ用音楽データの作成者や着メロデータの作成も、レコード製作である。

(2)保護の主体

「レコード製作者」である。ある特定のレコードを最初に固定した者であって、それは原盤製作者である(2条1項6号)。原盤の再生音を録音する者や原盤からリプレスなどの方法で増製する者は,ここにいうレコード製作者ではない。つまり、スタジオなどでレコーディングを行い,これから販売する音楽CDの音源となる原盤を作成した者がレコード製作者で,この原盤を増製して販売用の音楽CDを作る作業は,ここでいうレコード製作ではなく,たんに増製物を作っているということである。

また、レコード製作の現場において、技術的に音の録音を担当するエンジニアやミキサーといわれる人は、レコード製作者ではない。原盤を作成することを決定し、資金を用意し、演奏家との契約の名義人となる法的な主体がレコード製作者である。ここでも、映画製作者と同様、レコード製作者という用語が使われている。したがって、法人でもレコード製作者たりうる。

尚、レコード製作者は、いわゆるレコード会社だけではなく、音楽出版社やプロダクションなどがレコード製作者であることも珍しくない。また、我々が、音(演奏・歌唱)を市販のカセットテープなどに初めて録音すれば、その質の問題は別にしても、我々がレコード製作者ということになる。

3 レコード製作者の権利の内容と特徴

(1)権利の内容

レコード製作者に付与されている権利は、禁止権と使用料などの請求権であって、以下の通りである。

① パッケージ型ビジネス
1) 複製権(96条)
禁止権
2) 譲渡権(97条の2)
禁止権
3) 海賊版輸入行為等禁止権(113条1項)
禁止権
4) 国内頒布目的商業用レコード輸入行為等禁止権(113条5項)
禁止権
5) 商業用レコードの貸与権(97条の3、1項)
禁止権
6) 商業用レコードの貸与報酬請求権(97条の3、3項)
報酬請求権
② ノンパッケージ型ビジネス
1) 放送権・有線放送権
権利なし
2) 商業用レコードの二次使用料請求権(97条、1項)
使用料請求権
3) 送信可能化権(96条の2)
禁止権
③ 集客型ビジネス
権利なし
④ ビジネスの方法とは無関係なもの
1) 翻案権等に関するもの
権利なし
2) 私的録音・録画補償金請求権(102条1項及び30条2項)
補償金請求権
3) 権利管理情報に関する権利(113条3及び4項)
禁止権
(2)特徴

レコード製作者は、パッケージ型ビジネスにおいて販売される音楽CDなどの音源を作成する者であるから、まず、パッケージ型ビジネスに関する権利が与えられている。

ノンパッケージ型ビジネスにおいては、放送権・有線放送権の付与がなく、商業用レコードの二次使用料請求権が与えられているだけである。ただし、近年、インターネットなどのネットワークを用いてレコードの配信が可能になっているところ、実演家と同様、送信可能化権が許諾権として付与されている。

集客型ビジネスにおいては、実演家と同様、権利の付与はない。

第2 パッケージ型ビジネスに関する権利

1 レコードの複製権

レコード製作者は,そのレコードを複製する権利を専有する(96条)。

これによってレコード製作者は、自己のレコードが複製されるところで権利を行使することができる。この権利は、レコードを公衆に提供するための手段となる複製物の作成権であり、パッケージ型ビジネスの基本権である。

複製は、具体的には、原盤をリプレスしてレコードを増製する場合がまずこれにあたる。これが事業としてなされる複製である。また、市販の音楽CD(レコードの複製物)から増製物を作成するのもレコードの複製である。例えば、市販の音楽CDをMDやCD-Rにダビングするとか、PCのハードディスクに保存することは複製となる。MP3といった圧縮技術を使って保存することももちろん複製である。次に,音楽CDを再生して、再生音を録音するのも複製である。さらにCDの再生音の放送がある場合に、これを録音することもレコードの複製である。

結局、記録媒体に固定された音が、ある原盤に固定された音(レコード)である場合は、そのレコードの複製ということになるのである。

尚、レコードが音楽の演奏・歌唱である場合は、レコードの複製を行うと、必然的に「音楽著作物」と「その演奏・歌唱」の複製があることになる。

また、実演家の場合のような映画製作者や録音・録画物の作成者との間での権利調整規定はないので、映画や録音・録画物に再生音を収録することを許諾しても、その後の利用の場面(たとえば、増製や送信可能化)では、レコード製作者の権利はストレートに働く。

2 譲渡権、海賊版輸入行為等禁止権、国内頒布目的商業用レコード輸入等禁止権、貸与権及び貸与報酬請求権

譲渡権について97条の2、海賊版輸入行為等禁止権について113条1項、国内頒布目的商業用レコード輸入禁止権について113条5項、貸与権について95条の3、1及び2項、貸与報酬請求権について同条3項に規定がおかれており、これらの権利の内容には、実演家のそれと全く同様であるので、実演家の権利の内容に関する解説を参照されたい。

尚、貸与報酬請求権の団体行使については、社団法人日本レコード協会が指定され、徴収業務を行っている。

第3 ノン・パッケージ型ビジネスに関する権利

1 放送権・有線放送権

禁止権としての放送権及び有線放送権は付与されていない。

放送・有線放送事業者の便宜を図る規定であり、これにより両事業者は、レコード製作者の許諾を得ることなく、音楽CDを再生して放送することができる。したがって、レコードの利用に関しては、これら事業者に特権が付与されているという言い方もできる。

2 商業用レコードの二次使用料請求権

放送・有線放送事業者はレコード製作者の許諾を得ることなくレコードの放送・有線放送ができるが、放送・有線放送事業者が、商業用レコード(録音物のうち、商業用レコードに限定。)を用いて放送・有線放送を行った場合には、レコード製作者は二次使用料を請求する権利を有する(97条参照。)。この権利の内容は、実演家のそれと全く同様である。

ただ、レコード製作者に二次使用料請求権を与えた理由は、実演家の場合と異なる。放送・有線放送と商業用レコードの関係は、放送・有線放送において商業用レコードが頻繁に使われるとその売上が低下するという関係にはなく、逆にその音楽の認知度が上がることによって売上も上がるという関係になる*13。したがって、二次使用料請求権が与えられた理由は、放送事業者などが自由にレコードを放送できるという特権を与えられた結果、これらの者は通常の予定を超えたレコードの使用によって収益をあげることになるから、この一部を還元させるべきであるという考え方に基づくものである(加戸講義541頁)。

結局、放送・有線放送事業者は、録音物に関して実演家の権利も働かないのとあいまって、実演家からもレコード製作者からも許諾を得ることなく、音楽CDを使って放送・有線放送を行うことができるのである。

尚、レコード製作者の二次使用料請求権も、指定団体により行使されることになっており(95条4項)、日本レコード協会がNHK,日本民間放送連盟などと協議し、具体的な使用料を決定した上で請求を行っている*14

*13 そのため、商業用レコードの発売当初は、レコード会社の担当者がラジオなどの放送局に詰めて、放送を依頼するなどといったプロモーションが行われる。

*14 レコード製作者の二次使用料請求権に関する日本レコード協会の役割、具体的な分配方法などのビジネス実務については、安藤和弘・よくわかる音楽著作権ビジネス(基礎編)178乃至183頁に詳しい。

商業用レコード

商業用レコードとは、市販の目的をもって製作されるレコードの複製物である(2条1項7号)。具体的には、市販を目的として製作される音楽CD、録音テープ、オルゴール、MIDIデータや着メロデータを記録した媒体などである。インディーズ系の音楽CDも商業用レコードである。書籍でいう自主出版というレベルでも、市販の目的があれば商業用レコードである。

コンサート会場での演奏を録音し、後日のプロモーション活動のためにダビングして複数の録音物を作ったようなものとか、友人に配布するために自分の演奏をMDに収録したものなどは、商業用レコードではない。

二次使用料請求権の発生を商業用レコードを用いる場合に限定したのは、商業用レコード以外は一般にこれを用いて放送する方法がないし、あるとすればなんらかの契約のもと録音物を取得する必要があるからであろう*15

*15 加戸講義506頁は、立法時においては「商業用レコード」以外の「音の固定物」を用いた放送が一般化していなかったからという。

3 送信可能化権

レコード製作者は、そのレコードを送信可能化する権利を専有する(96条の2)。

これによってレコード製作者は、自己のレコードが送信可能化されるところで権利を行使することができる。この権利は、ノン・パッケージ型ビジネスにおいて働く権利である。

レコード製作者には、著作者に付与されている公衆送信権のうち、放送権と有線放送権は付与されていないものの、自動公衆送信権に関してはその一部である送信可能化の限度で権利が付与されている。これは、実演家と全く同様の扱いである。

この権利も、実演家の送信可能化権と同様に、近年のインターネットの発展・普及により、レコードのインタラクティブ送信という形での利用形態が急速に普及してきたことに対応して、平成9年著作権法改正で付与された権利である。改正前においては、レコード製作者には放送権・有線放送権の付与がなかったのはもちろんのこと、その他の送信関連の権利も全くなかったので(実演家には有線送信権があった)、改正法がレコード製作者に送信可能化権を与えたことは画期的である(二次使用料請求権の限度で権利付与すべきとする議論もあったが、実演家と同様、許諾権が付与されている。)*16*17

これによって、音楽CDを音源としたインターネット配信という事業分野では、実演家とレコード製作者も主導権を握れることになったのである。

尚、レコード製作者に付与された権利が送信可能化権の限度であることの理由、「その他の公衆送信権」が付与されていないことについては、実演家にところで説明したところと全く同様である。

*16 例えば、音楽CDをMP3形式で複製したファイルを無許諾でインターネット上で交換する行為は、著作権者の送信可能化権もしくは自動公衆送信権を侵害するだけでなく、実演家とレコード製作者の送信可能化権も侵害する(第10章第5節第4、ファイルローグ事件参照)

*17 演奏・歌唱及びレコードの送信行為が、放送・有線放送の範疇であれば実演家及びレコード製作者の権利は働かず、インタラクティブ送信の範疇であれば送信可能化に対して権利が働くのであるから、実演家及びレコード製作者にとって当該送信行為がいずれの範疇に含まれるかは非常に重要である。この区別についての詳細は、本章第5節第4、2参照。

4 音楽配信事業

ここで、インターネット上での音楽配信に関して必要な権利処理を見ておこう。

まず、著作権者との関係では、著作権者(一般にはジャスラック)から自動公衆送信に関する許諾を取得する必要があるが、ジャスラックの管理楽曲については使用料も一律に定まっており、使用料さえ支払えば、許諾を取得することができる(第5章第5節4参照)。そして、MIDIデータを自ら作成するなどして音源を確保すれば、インターネット上での音楽配信が可能となる。MIDIデータを音源とした着信メロディ配信事業も著作権者との間で権利処理を行うことによって可能となる。ただ、この場合、あくまでも自ら作成した音源を使う必要がある。

次に、音源として音楽CDを用いる方法がある。ただし、この場合、上述した通り実演家とレコード製作者の送信可能化権が働く。したがって、音楽CDを音源としてインターネット配信を行おうとする者は、著作権者の権利処理に加えて、実演家及びレコード製作者の権利の処理が必要である*18。着うた事業には音源として音楽CDが必要なので、これを行おうとする事業者は実演家とレコード製作者からの許諾を得る必要がある。しかし、実演家とレコード製作者の有する権利は許諾権であるから許諾しないこともできるのであって、どのようなビジネスモデル(許諾して許諾料をとるか、誰に許諾するか、許諾せずに自ら配信事業を行うか)にするかは、基本的に実演家とレコード製作者が決定できることになる*19

ところで、音楽の流通に関しては、パッケージ型ビジネスである音楽CDの販売が伝統的かつ基本的な手法であるが、インターネット上での音楽配信はこれに取って代わる可能性があることについては、第3章第2節第3、4参照。

*18 ビジネス実務においては、実演家とレコード製作者との間の専属実演家契約において、原盤に録音された実演家の実演に関する著作権法上の一切の権利がレコード製作者に譲渡されることが多いので、音楽配信事業の実際はレコード製作者が主導権を握って事業が進められていることが多い。

*19 独占禁止法上の問題が生じることはある。

第4 ビジネスの方法とは無関係な権利

1 翻案権等

翻案権などの付与はない。当該レコードが利用されているかどうかが問題なのであるから、その利用があれば複製権や送信可能化権を侵害することになるだけである。

2 私的録音・録画補償金請求権

録音、録画ともに権利がある。第7章第3節参照

3 権利管理情報に関する権利

第5章第8節参照

音楽CDの音源の特定に関し、ISRC(International Standard Rcording Code)というISO(国際標準化機構)による規格があり、日本でもJIS規格になっている。これはいわば音源の背番号で、マスターテープ製作時に必ず、国、会社、録音年、レコーディング番号の12桁コードを付番することになっており、これによって著作隣接権者名がわかるので、2条1項21号ハにいう権利管理情報ということになる。


第4節 放送事業者の権利

第1 放送事業者の権利総論

1 放送事業

(1)事業内容

「放送」とは、「公衆によって同一の内容の送信が同時に受信されることを目的として行う無線通信の送信」をいう(2条1項8号)。すなわち、公衆に対する無線による送信で、同一内容・同時受信(一斉同報)の送信形態のものをいう。そして、「放送」を業として行う者を「放送事業者」という(同条同項9号)。

典型的には、一般のテレビ放送やラジオ放送が放送であり、これを事業として行っているテレビ放送局やラジオ放送局が放送事業者である。

音声多重放送の副音声部分の送信、文字多重放送で送られる文字や図形などの静止画像の送信なども放送である。

(2)著作物の利用関係

放送の対象は著作物に限定されないものの、放送事業は、言語著作物、美術著作物、音楽著作物、映画著作物などを放送しているので、あらゆる分野の著作物を大量に利用する事業である。したがって、これら著作物の著作権者との間で放送に関する権利処理を行う必要がある。実務では、放送事業者の団体である社団法人日本民間放送連盟(以下、「民放連」という。)が民放各社から委任を受けて、原作、脚本、音楽などの各権利者団体と各種の実務的な協定、覚書などを取り交わしている*20

また、実演を放送したり、音楽CDを用いた放送も行うので、実演やレコードなどの著作隣接物も大量に利用する。ただ、実演に関しては、適法録音・録画物や映画の増製物を使った放送については実演家の放送権は働かず(商業用レコードの場合は二次使用料支払請求権がある。)、又レコードに関しては、レコード製作者にはそもそも放送権が与えられていない(二次使用料支払請求権はある。)ので、生実演を放送する場合を除いて、放送権に関する権利処理は不要である。

*20 放送ハンドブック127頁以下。

(3)保護の理由

放送事業者は、大量の著作物や著作隣接物を視聴者に伝えるという点において、我々が、著作物や著作隣接物を豊かに享受することに関して重要な役割を担っている。

そして、放送事業を遂行するためには、まず放送設備を用意する必要があるので多額の設備投資資金が必要であるし、安定した放送を継続して提供するためには、設備維持の資金、人件費、その他諸々の費用がかかる事業である。

そのため、放送事業者の投下資本の回収とその存続、発展のために、放送の利用行為について一定の禁止権を付与しているのである。

2 放送事業の実態

放送事業者に付与された権利の内容を見る前に、この権利の内容を理解するために必要な放送事業の実態について説明をする。

特に、キー局とネット局のネットワーク化の実態を知ることなしに、著作権法の規定を理解することは困難である。

(1)ネットワーク化(キー局とネット局)

現在一般に地上波放送(VHFとUHFという周波数帯で放送されているもの。)と呼ばれる民間テレビ放送は、日本テレビ網放送、東京放送、フジテレビジョン、全国朝日放送、テレビ東京という東京の民放局をそれぞれキー局とし、これらキー局と各地方の放送局(キー局に対してネット局と呼ばれる。)との間でネットワーク協定が締結され、ネットワークを形成している。

こうしたネットワークが形成された理由は、次の通りである。まず、地上波放送の担い手は、上記民間放送局と日本放送協会(NHK)であるが、放送行政において、日本放送協会(NHK)が単一企業体により全国規模で放送を行っているのに対し、民放は、その搬送範囲(サービスエリア)は県単位とされている。そのため、県単位で民間放送局が設置されることになるが、キー局に対し、後発の各地方局は、番組制作能力と営業能力(コマーシャルを販売する能力)がなかったことから、東京キー局から番組の提供を受けてこの提供番組を中心に番組編成を行い、若干の時間、ローカル番組を放送するという運営形態がとられることになり、キー局が番組を制作してこれをローカル局に送るというネットワークの関係が形成された。また、これによって、系列全体で同一番組の放送が可能となって、スポンサーに対し日本全体に放送されるコマーシャルの提供が可能となり、キー局を通じた番組制作費の効率的な調査ができるという大きなメリットが得られることになった*21

また、ラジオ局においても、テレビ局と同様なネットワークが形成されている*22

そして、キー局からネット局に対する番組の提供方法としては、NTTのマイクロ回線などを利用して構成されたネットワークを使う方法(マイクロネット)が一般的である。他方で、VTRの再生用テープそのものを放送局間で物理的にやりとりする方法(テープネット)もある*23

*21 前掲278乃至286頁参照

*22 前掲442頁参照

*23 前掲406頁参照

(2)衛星放送(多チャンネル化の開始)

地上波放送と呼ばれるテレビ放送に加えて、衛星放送というものがある。これは赤道上の静止軌道衛星に打ち上げられた人工衛星に地上から電波を打ち上げて反射させ、地上に送り返すことによって視聴者が受信するものである。衛星放送には、放送衛星(BS=Broadcasting Satellites)による放送と通信衛星(CS=Communication Satellites)による放送の2種類がある。

BS放送は、放送専用の大出力の衛星を使う放送である。他方、通信衛星は通信用の小出力衛星であり、家庭用のアンテナでは受信ができなかったが、技術の急速な進歩によりそれが可能となったため放送用として使われるようになった。そして、小出力であるために通信衛星は数十本の中継器を搭載しており、これを放送用に使うことによって多チャンネル化を実現することができるようになった*24

そして、平成1年に電波法及び放送法の改正が行われ、以後通信衛星を利用した放送が法的にも可能となった。また、この時の放送法の改正において、それまで放送事業者とは放送番組の制作と送信をあわせて行うものとされていたのを、これを分離するという新たな制度が導入された(委託放送制度の導入)。すなわち、改正法は、ハードの事業者(送信設備所有者、すなわち通信衛星を所有・管理する事業者)とソフトの事業者(放送番組の制作を行うもの)を分離して、前者を「受託放送事業者」、後者を「委託放送事業者」とした。そして、放送設備をもたない事業者でも、委託放送事業者として放送事業に参入することができるようになったのである(放送法第3章の2及び3参照)。

*24 前掲422頁参照

(3)放送のデジタル化

さらに、放送はデジタル化されることになる。すなわち、平成8年にCSデジタル放送が開始し、その後BSデジタル、地上波デジタルと進行しているところである。これによって、次のような効果が生み出されている。

① 多チャンネル化

デジタル化は周波数の帯域圧縮によって、送信可能な情報量を増大させ、従来のアナログ放送1チャンネル分の帯域で複数の番組の送信が可能となる。そのため、多チャンネル化に拍車がかかる。

② 高画質、高音質

加えて、デジタル化により、高画質、高音質の映像、音声の送信が可能となる。これはまた、視聴者の手許で、高画質の映像や高音質の音楽の複製物が簡単に作成できるという副次的効果を生むことになる。

3 保護の客体及び主体

(1)保護の客体

「放送」である。「放送」とは「無線通信による送信」(2条1項8号)をいうが、保護の客体となる「放送」とは、電波(搬送波)ではなく、電波(搬送波)に載っている、音声信号や映像信号に変換された音や映像である。すなわち、音や映像を送信するときは、音や映像を音声信号や映像信号に変換するが、この信号は銅線などの伝送媒体を通してそのまま送信できるものの、長い距離を送信するにはそれに適した周波数があるし、また無線送信では使える周波数が決まっている。そのため、送信したい音声信号や映像信号の周波数を搬送波の周波数に変えて(変調)、搬送波に変調後の音声信号や映像信号を載せる。この操作をした上で無線送信をするのが、「放送」である。そして、送信後には音声信号や映像信号は搬送波から分離され、この音声信号や映像信号から音や映像が再生される。そして、このある搬送波により送信されたということを属性とする音や映像が、著作権法上の保護の客体となる。

そうすると、音や映像そのものではなく、ある特定の電波(搬送波)に載ってきた音や影像が保護の対象であるから、同一の音や映像であっても、それが他の電波(搬送波)で送信されたものであるときは、別個の保護の客体となる。別な放送局から送信された音や影像は、別個の電波(搬送波)に載ってきたものであるから別の放送ということになるし、同じ放送局から送信された放送であっても、別な機会の放送であれば別個の「放送」である。ネットワークによる放送も、それぞれの局の放送はそれぞれ別個の放送である。

また、ここで保護されるのは、放送される番組の内容といったような著作物を保護する趣旨ではない。放送される音や映像が著作物かどうかという観点とは全く別に、電波(搬送波)を媒介とした音や映像そのものを保護するものである。

(2)保護の主体

「放送事業者」である。「放送事業者」とは,放送を業として行う者をいう(2条1項9号)。

放送事業者は、一般の放送事業の場合は免許(電波法4条)、委託放送事業の場合は認定(放送法52条の13)、受託放送業者は免許(電波法4条)を取得する必要があるが、著作権法上はこうした許認可を受けることを放送事業者の要件としてない。したがって、ミニFM局(免許不要)はもちろんのこと、海賊局でも放送事業者ということになる。

委託放送制度における放送事業者

委託放送制度において、「放送事業者」とは、「受託放送事業者」か、「委託放送事業者」か、それともいずれも「放送事業者」と考えてよいのかが問題になる。

1つの考え方としては、現実に電波の送信事業を行うのは「受託放送事業者」であり「委託放送事業者」ではないから、「受託放送事業者」が放送事業者であるとするものがある。

しかしながら、著作権法においては、「放送事業者」を権利の主体としつつ、そこで保護の対象としているのは放送された音又は映像である。そして、その作成主体は、「受託放送事業者」ではなく「委託放送事業者」であるから、権利保護の主体としては「委託放送事業者」であるとするのが正しい解釈であろう。また、放送事業者には、番組制作上の特権が与えられているが(本節第6参照)、これらの特権が付与されるべきは、番組を制作する委託放送事業者であるべきことは明らかであろう*25

また、「委託放送事業者」が放送事業者とされるべきであるとしても、「受託放送事業者」も放送事業者と解してよいかが別個の問題となる。著作権法の規定によれば、「放送事業者」に複製権などの著作隣接権が付与され、また番組制作上の特権が付与されているが、「受託放送事業者」にこうした権利や特権が付与されることへの直接の利害関係はない。また、著作権法に規定された義務の観点から見ても、例えば「受託放送事業者」を二次使用料の支払義務者とするのは、放送にかかる音又は映像の作成者ではないことからすれば合理的ではない。さらに、「受託放送事業者」が著作権法違反などを理由とした他の権利者からする放送の差止請求の対象となるのも合理性はない。なぜなら、現行放送法の下では、「受託放送事業者」に対し「委託放送事業者」への役務の提供義務を課し、正当な理由なく放送の委託を拒絶してはならないと規定しているし(放送法52条の9)、さらには「受託放送事業者」は放送番組の編集責任に関する規定の適用を受けないことになっているからである(放送法52条の12)。

したがって、放送にかかる音又は映像の作成者である「委託放送事業者」だけが著作権法上の放送事業者であり、「受託放送事業者」のように放送にかかる音又は映像を作成することなく伝送行為を行うにすぎない者は、放送事業者ではないと解すべきである。

尚、スカイパーフェクトTVのようなプラットフォーム事業者も、放送事業者ではない。プラットフォーム事業者は、委託放送事業者の送出する番組を衛星に送信(アップリンクという。)したり、視聴者と委託放送事業者間の加入契約、その後の顧客管理、視聴料の徴収手続などを、そのプラットフォームに加入している全ての委託放送事業者の代わりに行うものであって、放送を業とする者ではない。委託放送事業者と受託放送事業者の分離により生じた両者の中間業務と、有料放送であることによる顧客管理業務を一社に集約させたものである。

*25 「第一興商第一事件」(東京地裁平成12年5月16日判決、判時1751号128頁、判タ1057号221頁)でも、「委託放送事業者が、送信される素材の収集や番組の編成など番組の送信過程の主要部分を自ら行っており、本件番組の送信の主体ということができる者であるから、電波の送信行為を自ら行っていないとしても、放送を業として行う者というを妨げない。」と判示しており、結論において妥当である。ただ、その理由において、「番組の編成」や「番組の送信」の主体であるなどといっているが、保護の客体は「番組」ではないから、「音又は映像の送信」の主体というべきであろう。

4 権利の内容と特徴

(1)権利の内容

放送事業者に付与されている権利は、すべて禁止権である。

これらは、放送を受信して行う特定の行為を禁止するもので、以下の通りである。

① パッケージ型ビジネスに関する権利
1) 複製権(98条)
禁止権
2) 海賊版輸入行為等禁止権(113条1項)
禁止権
② ノンパッケージ型ビジネスに関する権利
1) 再放送権・有線放送権(99条1項)
禁止権
2) 送信可能化権(99条の2)
禁止権
③ 集客型ビジネスに関する権利
1) テレビジョン放送の伝達権(100条)
禁止権
2) その他の権利はない。
④ ビジネスの方法とは無関係な権利
1) 翻案権
権利なし
2) 私的録音・録画補償金請求権
権利なし
3) 権利管理情報に関する権利(113条3及び4項)
禁止権
(2)権利の特徴

パッケージ型ビジネスに関して複製権が付与されているが、放送番組のパッケージ化はビジネスとしてある(この場合、著作物のパッケージ化ということになる。)ものの、放送された音や映像(著作隣接物)をパッケージ化して販売するビジネスは存在しない。したがって、現実には、複製権は放送の複製物の作成を禁止するという側面(パッケージ化を許諾するという働き方ではなく)において働くことになる。

ノンパッケージ型ビジネスで実態があるのは、放送を受信して行う有線放送事業である。そのため、放送事業者には、有線放送権が付与されている。また、現実のビジネスとしての実態はないが、有線放送権とともに再放送権も付与されている。また、近年のブロードバンド化により、放送のインタラクティブ送信が実用段階に入ってきたので、送信可能化権が許諾権として付与されている。

集客型ビジネスでは、テレビジョン放送を受信して大型スクリーンを使って公衆に見せるといった事業がある。そのため、テレビジョン放送の伝達権が付与されている。

また、放送を受信して有線放送された音又は映像に関して(有線放送事業者ではなく)放送事業者の権利が働くことも、ここでの権利の特徴である。すなわち、著作権法は、放送された音又は映像だけでなく「放送を受信して有線放送された音又は映像」に関しても、放送事業者の複製権(98条)、送信可能化権(99条の2)、テレビジョン放送の伝達権(100条)が働くこととしている。これは、放送を受信して行う有線放送は、有線放送事業者が放送を同時かつ何らの変更も加えないで伝達するにすぎないものであるため、元の放送を行う放送事業者を権利の主体とするものである。

第2 パッケージ型ビジネスに関する権利

1 複製権

放送事業者は,その放送又はこれを受信して行う有線放送を受信して,その放送にかかる音又は影像を録音し,録画し、又は写真その他これに類似する方法により複製する権利を専有する(98条)。

これによって放送事業者は、自己の放送(自己の放送を受信して行う有線放送を含む。)が録音・録画、又は写真複製されるところで権利を行使することができる。

ここでの権利の内容は、まず、録音・録画権である。ラジオ放送やテレビ放送をテープに録音・録画するのが典型である。ハードディスク収録型のビデオレコーダーに録画するのも録画である。テレビ放送を受信できるPCを用いてその放送を保存するのも録画である。圧縮技術を利用して圧縮して保存することも録音・録画であることに変わりはない。さらに、録音・録画という概念には、増製することを含む(2条1項13及び14号)ので、テープをダビングすること、PCのハードディスクに保有してある録音・録画物の複製物を作ることも録音・録画である。

次に、写真その他これに類似する方法で複製する権利である。典型的には、テレビの一画面を写真撮影することである。また、記録媒体から、ある一場面を静止画として取り出すような行為も禁止権の対象となる。

2 海賊版輸入行為等禁止権

著作者の権利と同様である(113条1項、第3章第2、3参照)。

ただ、放送事業者に譲渡権を付与されていないので、放送の違法複製物の頒布行為には、本条項のみが働く。

第3 ノンパッケージ型ビジネスに関する権利

1 放送の再放送権及び有線放送権

放送事業者は,放送を受信してこれを再放送し,又は有線放送する権利を専有する(99条1項)。

これらによって放送事業者は、自己の放送を受信して、これが再放送又は有線放送されるところで権利を行使することができる。

ここでいう「再放送」という意味は、別な送信主体による再送信という意味であり、視聴率の高かった番組を再度放送(リピート放送)するという意味ではない。有線放送については、文字通り、放送を受信してこれを有線放送設備を用いて有線放送する権利である。

ここで禁止される利用形態は、「放送を受信して行う」再放送、又は有線放送である。したがって、受信した放送をいったん録音・録画したものを放送し、又は有線放送することを含まない。これは、録音・録画権でカバーされる(加戸講義553頁参照)。

放送を受信して再放送するという事業は、現在の放送事業では存在しないと思われる。したがって、放送事業者に放送権を付与することは、海賊局の再放送を禁止できるという点において意味がある(加戸講義557頁)。これに対して、放送を受信して行う有線放送は、有線放送事業者の事業として重要である。ここにおいては、有線放送事業者に対して、放送事業者の権利が働くことになる。また、放送事業者に有線放送権を与える本規定は、他の権利者との関係で有線放送をすることを認める規定ではないから(ただし、実演家との関係では権利調整規定あり。92条2項1号)、有線放送事業者は別途、これらの権利者との間で権利処理が必要である。

2 送信可能化権

放送事業者は、その放送又はこれを受信して行う有線放送を受信して、その放送を送信可能化する権利を専有する(99条の2)。

これによって放送事業者は、自己の放送(自己の放送を受信して行う有線放送を含む。)を受信して、これが送信可能化されるところで権利を行使することができる。

近年、インターネットの送信容量が増大し、また送信速度が飛躍的に高速化するといういわゆるブロードバンドの時代を迎えつつある。こうした大容量かつ高速の送信が可能となってくると、インタラクティブ送信による放送の再送信事業が実用化されることになる。

こうしたブロードバンド時代の到来という状況の中で、放送事業者を保護する趣旨で、放送を送信可能化する権利が付与された(平成14年著作権法改正)。

ここで禁止される利用形態も、「放送」又は「放送を受信して行う有線放送」を受信して行う送信可能化であるから、受信した放送をいったん録音・録画したものを送信可能化することを含まない。これも、録音・録画権でカバーされる。

したがって、一般に送信可能化の態様とされる以下の五態様のうち、本条の対象となるものは、①、④及び①もしくは④の行為を伴いながら行う⑤ということになる(加戸講義560頁)。

サーバーが既にインターネットに接続されている場合

① サーバーの公衆送信用記録媒体(そこに情報を記録すれば自動公衆送信されてしまう領域)に情報を記録する。放送又はこれを受信して行う有線放送を受信して、これを記録媒体に記録することによって送信可能化するものであるから、本条が働く。

② 情報が記録された記録媒体をサーバーの公衆送信用記録媒体として加える。すでに録音・録画されたものを送信可能化する場合であるから、本条は働かない。

③ 情報が記録された記録媒体をサーバーの公衆送信用記録媒体に変換する。すでに録音・録画されたものを送信可能化する場合であるから、本条は働かない。

④ サーバーに情報を入力する。放送又はこれを受信して行う有線放送を受信して、これを入力すれば自動公衆送信されてしまう領域に入力することによって送信可能化するものであるから、本条が働く。

サーバーがいまだインターネットに接続されていない場合

⑤ サーバーをインターネットに接続する態様。①乃至④のうち、①もしくは④をともないながら、接続する場合に本条が働く。

第4 集客型ビジネスに関する権利

1 テレビジョン放送の伝達権

放送事業者は,そのテレビジョン放送又はこれを受信して行う有線放送を受信して,影像を拡大する特別の装置を用いてその放送を公に伝達する権利を専有する(100条)。

これによって放送事業者は、自己の放送(自己の放送を受信して行う有線放送を含む。)を受信して、映像を拡大する特別の措置を用いてその放送が公に伝達されるところで権利を行使することができる。

この権利が働く対象はテレビジョン放送であって、ラジオ放送は対象外である。ラジオ放送を受信して、その音声を拡大する特別な装置を用いて伝達するなどという事業の実態がないからである。

また、伝達装置として、家庭にある一般的なテレビ受像器などではなく、映像を拡大する特別の装置を用いる場合に限定される。競技場やビル壁面に設置された大スクリーンが典型である。著作者には受信装置一般を用いて公に伝達する権利が付与されているのと相違する(23条2項)*26

*26 但し、権利制限規定により、通常の家庭用テレビを用いる場合は権利行使できない(38条3項)。

2 上映権

放送の録音・録画物を公に再生する権利、すなわち上映権は付与されていない。録音・録画権でカバーされるという趣旨であろう。

第5 ビジネスの方法とは無関係な権利

1 翻案権等

翻案権などの付与はない。当該放送が利用されているかどうかが問題なのであるから、その利用があれば複製権や送信可能化権を侵害することになるだけである。

2 私的録音・録画補償金請求権

権利はない。理由については、第7章第3節、4、(3)参照。ただ、録画に関しては、著作権者として分配を受けている。

3 権利管轄情報に関する権利

第5章第8節参照

第6  著作物・著作隣接物の利用に関する特権

1 総論

ここまで、放送事業者には著作隣接権が付与され、その放送が保護されることについて説明したが、このように放送が保護されることに加え、放送(音又は映像)の作成過程における著作物や著作隣接物の利用に関して、数々の特権が付与されている。すなわち、放送事業者が著作物や著作隣接物を利用(放送、又は放送のためにする録音・録画など)する場合は、著作権や著作隣接権に関する権利処理をする必要があるのが原則であるが、放送事業者が著作物や著作隣接物の大量利用者であることから、その便宜を図るために、利用に関する特権が付与されているのである。

著作権者及び著作隣接権者との間で一時的固定の制度(44条1項)、実演家との間で、放送のための固定(93条)及び放送のための固定物等による放送(94条)の制度などがある。以下、説明する。

2 放送事業者による一時的固定

放送事業者は、放送権を侵害することなく放送することができる著作物又は著作隣接物(実演、レコード、放送、有線放送)を、自己の放送のために、自己の手段又は当該著作物もしくは著作隣接物を放送することができる他の放送事業者の手段により、一時的に録音し、又は録画することができる(44条1項、102条1項)。

この規定は、「著作権の制限」と「著作隣接権の制限」という権利制限規定(その制度趣旨は、第7章参照)の中に置かれているが、一般的な権利の制限規定というよりは、著作物と著作隣接物の利用に関し、放送事業者に与えられた特権に関する規定である。

難解な条文であるが、要するに、実際の放送は、生放送よりも事前にビデオテープなどに収録しておいたものを放送することが多いことから、保存の目的ではなく、放送をスムーズに行うという目的のために、一時的に録音・録画することを許す趣旨である。すなわち、放送事業者は、放送の許諾を得るだけで(別に録音・録画の許諾を受けなくても)一時的固定ができるということである。

その要件としては、以下のとおりである。

① 自己の放送のため
まず、一時的固定は、「自己の放送のために」だけ行うことができる。したがって、キー局がネット局の放送のために一時的固定をすることはできない。
② 自己の手段又は他の放送事業者の手段
次に、「自己の手段により」とは、自社の施設、設備を用いて録音・録画するということであって、録音・録画を外部の番組制作プロダクションなどに行わせることはできない。したがって、また、こうしたプロダクションは、放送事業者に委託されて番組を制作するものであっても、この特権を享受することはできない。
ネットワークで利用するための一時的固定物

著作権法は、「自己の手段により」一時的固定をする場合に加え、「当該著作物又は著作隣接物を放送することができる他の放送事業者の手段により」一時的固定をすることを許している。この趣旨は、キー局とネット局がそれぞれ放送の許諾を得ている場合に、ネット局はキー局の施設、設備を用いて一時的録音・録画物を作成することができるという意味である。すなわち、放送の許諾を得たネット局が、ネット局の放送のために、キー局の施設、設備を用いて(委託等の方法によって、物理的にはキー局が作成するが、法的には作成主体をネット局として)一時的固定物を作成することができるのである。平たくいえば、ネット局においても放送の許諾を得ていれば、キー局においてネット局による放送のための一時的固定物の作成が可能になるという規定であり、これによってテープネットが可能になる(テープネットの意義については、本章第4節第1、2、(1)参照)。これは、内部で全国的に放送網を有するNHKと民間放送事業者間のネットワークの均衡を図るという目的によるものである(加戸講義290頁)。

③ 一時的固定

一時的に録音・録画することができるとは、放送権を侵害することなく放送(生放送)ができる場合に、保存ではなく放送をスムーズに行うという目的のために事前に録音・録画取りをすることができるということである。したがって、この録音・録画物は、録音・録画の後6ヶ月を越えて保存することはできないし、その期間内に放送があったときは、その放送の後6ヶ月を超えて保存することはできない(同3項)。

「第一興商第一事件」*27は、通信衛星を用いた音楽ラジオ放送100チャンネルを運営する委託放送事業者が、音楽放送のために音楽CDを音源としてレコードを保有サーバに蓄積し、編成された番組にあわせて蓄積されているレコードを送出して放送していたところ、レコード製作者が、こうした蓄積は本条項にいう一時的固定に該当せず、複製権を侵害していると主張した事案である。委託放送事業者は、100チャンネルの音楽番組を運営するために、蓄積されているレコードを繰り返し放送し、また多数の異なる番組及びチャンネルで放送することになるので、このような蓄積が一時的固定の要件を充足するか否かが問題になったものである。判例は、頻繁に放送されることになる曲については、特定の放送が終了しても消去されないまま次の放送のために蓄積が継続する事態も生じうるが、それは具体的な放送予定が反復して入ることによって結果的に生じる事態にすぎないから一時的固定ということの妨げにはならないという。さらに、本条3項が、放送後6ヶ月以内は録音物をなお放送のために保存することを認めていることからすれば、一度の放送によって消去されることなく、その後の放送において再び使用することを予定した録音であっても一時的固定として許容されているとし、そうでないと複数回の放送に使用することが具体的に予定されている曲であっても、個々の放送予定が終了する都度これを消去し、次の放送のために再びこれを蓄積することを繰り返さざるをえないが、このようなことを要求してもレコード製作者に格別の利益をもたらすものでもないと判示し、一時的固定の要件を満たすものとしている。

*27 東京地裁平成12年5月16日判決(判時1751号128頁、判タ1057号221頁)

3 放送のための固定と固定物の利用

この制度は、実演の利用に関する特権であって、実演の放送について許諾を得た放送事業者は、固定について許諾を得ていなくても、その実演を放送のために固定することができる。そしてこの固定物を用いてリピート放送をすることも許され、またキー局からその固定物の提供を受けてネット局が放送することもできる。これを実演家の立場からみると、ある放送事業者との間で実演の放送を許諾するときは、その実演が固定されてリピート放送されること、またネットワーク全体で放送されることを前提に許諾するかどうかを決する必要があるということである(リピート放送やネット放送があった場合は、別途報酬は支払われる。)。

一時的固定の制度が、一時的固定であるので権利者の利益を損なうことはないという判断のもと、録音・録画放送が行われる場合の放送事業者の便宜を図ったものであるのに対して、この制度は、実演の効率的利用という観点から、実演家の権利を縮小し、リピート放送やテープネット放送が行われる場合の放送事業者の便宜を図ったものである。

(1)録音・録画物の作成に関する特権

実演の放送について放送権を有する者(通常は実演家。所属プロダクションなどの場合もある。)の許諾を得た(出演契約を締結した)放送事業者は、その実演を放送のために録音し、又は録画することができる(93条1項本文)。すなわち、実演の放送に関し許諾を得た放送事業者は、別途録音・録画に関する許諾を得なくても、その実演を放送のために録音し、又は録画することができる。したがって、実演については、一時的固定の制度を使わなくてもその実演を録音・録画して放送することができる。録音・録画ができるのだから、録音・録画物の増製もできる。

ただし、契約に別段の定めがある場合、すなわち、録音・録画はしないことに合意した場合は録音・録画はできない。また、放送を許諾した番組とは異なる別の番組で使用する目的で録音・録画することもできない(93条1項但書き)。このような目的での録音・録画は、リピート放送やネット放送が行われる場合の放送事業者の便宜を図るという趣旨とは相容れないからである。

尚、ここでの録音・録画物に関しては消去義務はないので、目的外使用をしない限り、永遠に放送のために保存ができる。

(2)リピート放送とテープネット放送に関する特権

放送事業者は、93条1項の規定によって作成された録音・録画物を用いてリピート放送を行うことができる(94条1項1号)。ただし、この場合、相当な額の報酬を支払わなければならない(同条2項)。

また、この録音・録画物は、テープネットで使用することもできる。まず、この録音・録画物を作成した放送事業者(通常はキー局、「以下原放送局」という。)は、その録音・録画物をネット局に提供し、ネット局はこれを用いて放送をすることができる(94条1項2号)。この場合、ネット局は、実演家から放送の許諾を得ている必要はない。また、ネット局は、これを用いてリピート放送をすることもできる。ただし、いずれの場合も、原放送局が相当な額の報酬を支払わなければならない(同条2項)。

結局、この録音・録画物は無許諾録音・録画物であるから、92条2項2号イの適用はなく同条1項の放送権が働くはずであるが、94条1項1号又は2号の規定によって禁止権としての性格は否定され、2項の報酬請求権だけになっているのである。

ただ、以上の特権は、あくまでもリピート放送とテープネット放送における実演の利用の便宜を図るための規定であるから、この枠組みからはずれる使用は禁止されることになる。

  • ① 契約に別段の定めがある場合(94条本文参照)。例えば、録音・録画物を使用してネット放送を行うことには同意するが、リピート放送については同意しないという合意がある場合は、リピート放送に使用することはできない。
  • ② 放送の目的以外に使用し、又は提供すること(93条2項1号)。
    たとえば、ホールでの上映や演奏(録音・録画物の再生)、ビデオグラム化、有線放送事業者への提供、自動公衆送信事業者への提供などである。
  • ③ 許諾された放送番組と異なる内容の番組に使用し、又は提供すること(93条2項1号、93条1項但書)。
    たとえば、録音・録画された実演を別番組の中に収録することはできない。
  • ④ ある放送事業者(通常はキー局)から録音・録画物の提供を受けた放送事業者(通常はネット局)が、さらに別の放送事業者に提供すること(93条2項2号)。
(3)マイクロネット放送に関する特権

以上が、放送のための固定(93条1項)の規定により作成された録音・録画物を使ってする放送に関する放送事業者の特権である。ところで、ネットワークを構成するキー局とネット局の間では、テープネットに加え、マイクロネットによる放送も行われている。そこで著作権法は、録音・録画物の使用を伴わないマイクロネットの場合にもテープネットの場合と同様の趣旨の規定を置いている。すなわち、放送の許諾を受けた放送局(通常はキー局)は、マイクロネットを経由してネット局に番組を供給し、ネット局はこれをそのまま放送することができる(94条1項3号)*28

ただし、この場合も、原放送局は、相当な額の報酬を支払わなければならない。

*28 この場合、その放送を一時的に固定して異時放送することもできる。すなわち、本号の規定により、ネット局は放送権を害することなく放送することができることになるので、102条1項→44条1項の規定の適用がある(加戸講義501頁)。

4 一時固定と放送のための固定固定物を使用した放送

上記の通り、ある番組を放送のために固定する場合には二通りの方法があるが、著作物とレコードについては44条、実演については93条の固定をすることになるであろう。ただこうした使い分けをしても、著作物とレコードについての権利処理がなければ、6か月後には全体を消去しなければならない。

5 その他の特権

上記方法で作成された固定物を使ってする放送はいずれも無許諾録音・録画物による放送ということになるが、適法録音・録画物もしくは映画の増製物を用いて放送する場合(92条2項2号)には実演家の権利が停止するので、放送に関する実演家の許諾は不要である(本章第2節、第3、1参照)。

また、レコードに関してはレコード製作者に放送権が付与されていないことなども、放送事業者に付与された特権ということもできる。

6 テレビ番組の性格

ここで、テレビ番組に対する著作権法の取扱についてまとめておく。

(1)著作隣接物であり著作物であること

通説的な見解によれば、録画物は極めて例外的な場合(固定カメラによる街頭の録画など)を除き、映画の著作物とされる。そうすると、放送のための録画物を作成する作業は、放送されることによって著作隣接物となる音又は映像を作成することを超えて、映画を作成しているということになる。その結果、録画物が放送されると映画という著作物としての保護と放送にかかる音又は映像という著作隣接物としての保護が与えられることになる。これに対して、生放送の場合は映画(著作物)は存在しないので(著作物が存在しないという理解に私見は反対であるが、ここでは通説的な見解に従って説明する。)、放送にかかる音又は映像という著作隣接物としての保護が与えられるだけである。

尚、ラジオ放送用に録音物が作成された場合は著作隣接物となるレコードが作成されたことになる。したがって、録音物が放送されるとレコードとしての保護と放送としての保護が与えられることになる。

(2)テレビ番組の二次利用

録画物の作成は映画の製作であるとすると、映画の製作においては、総監督(著作者)が映画製作に参加しているときは映画製作者に著作権が帰属する。また、実演家の権利に関しては、実演家が、実演を映画に録音・録画されることを許諾した場合は、ワンチャンス主義の適用により、以後、実演家の権利は全ての場面において働かなくなる。したがって、映画製作者は、クラシカルオーサーに関する権利について権利処理を行えば、これをいかようにでも利用することができる(第4章5参照)。

ところが、放送事業者による自社製作のテレビ用の映画(=録画物)に関しては、これと事情が著しく相違する。まず、総監督が外部の者である場合には(職務著作とならない場合)、放送事業者に帰属する著作権は、放送に関するものに限られる(第4章6参照)。次に、実演家との関係では、テレビ用映画は、劇場用映画と異なり、録音・録画権の処理をすることなく、放送のための固定の規定(93条1項本文)により録音・録画がなされているのが通常である。つまり、実演家が実演を放送することを許諾した場合でも、実演の録音・録画までも許諾したことにはならないが(103条→63条4項)、他方で放送事業者は、放送のための固定の規定を使って実演の録音・録画を無許諾で行うことができる。そして、放送事業者はこの特権をフルに活用し、実演家には放送の許諾のみを取り、無許諾で録音・録画し、その録画物を保存しているのである。

そうすると、この実演は、リピート放送及びネット放送において利用することができるが、それ以外の利用(イベント会場での上映・演奏、ビデオ化、有線放送事業者への提供、自動公衆送信事業者への提供など)に関しては、実演家の権利が働くことになる*29

したがって、近年、テレビ映画の再利用に注目が集まっているものの、劇場用映画と異なり、出演している全ての実演家から再度許諾を取らない限り、二次利用はほとんどできないというのが実態である*30

*29 この趣旨を実務家の立場から明らかにするものとして、コピライト1998,2「テレビ番組と実演家の権利」日向発言

*30 放送ハンドブック131頁以下、権利団体との間でルールづくりがなされている点もある。例えば、CATVに放送番組を提供する場合の権利処理は、文芸三団体および実演家の団体との間で権利処理ルールが確立されている。136頁


第5節 有線放送事業者の権利

第1 有線放送事業の権利総論

1 有線放送事業

(1)事業内容

「有線放送」とは、「公衆によって同一の内容の送信が同時に受信されることを目的として行う有線電気通信の送信」をいう(2条1項9の2号)。すなわち、公衆に対する有線による送信で、同一内容・同時受信(一斉同報)の送信形態のものをいう。そして、「有線放送」を業として行う者を「有線放送事業者」という(同条同項9の3号)。

放送が無線による送信であるのに対して、CATV(ケーブルテレビ)や有線音楽放送などのように有線による送信であるのが有線放送であって、これを事業として行っているCATV局や有線音楽放送局などが有線放送事業者である。

CATVは、法律上は「有線テレビジョン放送」と呼ばれている。難視聴対策として放送の再送信業務を行うために登場したものであるが、都市型CATVの発達とともに自主制作番組もしくは購入番組を使った自主放送も行うようになった*31。そのため、その業務は放送事業者のそれと近似してきたため、昭和61年の著作権法改正で、有線放送事業者にも著作隣接権が付与された。

有線音楽放送などは、法律上は「有線ラジオ放送」と呼ばれている。レストランや店舗などにBGM音楽を供給する事業を中心に発展してきたが、個人の居宅への放送も行っている。ここでは音楽だけでなく、語学学習チャンネル、子供向け童話チャンネルなどもある。

業務内容は、「放送の同時再送信」と「自主放送」がある。

*31 放送ハンドブック231頁では、日本でのCATVの発展形態を①テレビ放送の難視聴解消用施設 ②自主放送も含めた大規模化 ③CSを使った番組供給事業者による多チャンネル化 ④通信サービスを含めたフルサービス化 の4段階があるという。

(2)著作物の利用関係

こうした有線放送事業も放送事業と同様、あらゆる分野の著作物と著作隣接物を大量に利用(有線放送)する事業である。したがって、放送事業と同様の著作権と著作隣接権に関する権利処理が必要である(本章第4節1、(2)参照)。

尚、放送の再送信を行う場合には、放送事業者との間で権利処理が必要である(99条1項)し、その他の権利者との関係でも、放送の許諾とは別個に有線放送に関し権利処理が必要である。

(3)保護の理由

放送事業者と同様である。

2 有線放送事業の実態

(1)再送信と自主放送

有線テレビジョン放送の業務内容は、「放送の同時再送信」と「自主放送」がある。後者を受けて著作隣接権が付与されたが、業務としては前者も重要な割合を占める。

有線ラジオ放送でも、「ラジオ放送の同時再送信」と「自主放送」がある。

ただ、「放送の同時再送信」の場合は、有線放送事業者に対する権利の付与はない(後述3、(1)参照)。

(2)ネットワーク化

ネットワーク化の実態はない。

(3)デジタル化

デジタル化は進行中である。

3 保護の客体及び主体

(1)保護の客体

「有線放送」である。「有線放送」とは、「有線電気通信の送信」をいうが(2条1項9の2号)、保護の客体となるのは、放送と同様に、搬送波の上に載っている音又は映像である。技術的にいえば、搬送波が有体物である伝送路を伝わるところが放送と違うだけである。

尚、「放送を受信して行う有線放送」は保護の客体となっていない(9条の2、1号の括弧書き参照)。すなわち、放送の同時再送信という形態で有線放送された音又は映像に関しては、有線放送としての保護はない。これは、同時再送信の場合受信した番組をそのまま流すだけであるから、こうした有線放送に関しては有線放送事業者を保護する必要がないという理由に基づくものである(加戸講義115頁)。したがって、この場合は、代わって放送事業者が保護の主体とされている(98条、99条の2、100条参照)。

(2)保護の主体

「有線放送事業者」である。「有線放送事業者」とは,「有線放送」を業として行う者をいう(2条1項9の3号)。その典型例は,CATV局や有線音楽放送局である。尚、引き込み端子数501以上のCATV事業は許可事業、それ以下は届出事業であり、また、有線音楽放送事業は登録事業である。但し、著作権法上は許認可を得ていることが有線放送事業者の要件としていないので、海賊局でも有線放送事業者ということになる。

4 権利の内容と特徴

(1)権利の内容

有線放送事業者に付与されている権利は、すべて禁止権である。

これらは、有線放送を受信して行う特定の行為を禁止するもので、以下の通りである。

① パッケージ型ビジネスに関する権利
1) 複製権(100条の2)
禁止権
2) 海賊版輸入行為等禁止権(113条1項)
禁止権
② ノンパッケージ型ビジネスに関する権利
1) 放送権・再有線放送権(100条の3)
禁止権
2) 送信可能化権(100条の4)
禁止権
③ 集客型ビジネスに関する権利
1) 有線テレビジョン放送の伝達権(100条の5)
禁止権
2) その他の権利はない。
④ その他の権利
1) 翻案権等
権利なし
2) 私的録音・録画補償金請求権
権利なし
3) 権利管理情報に関する権利
禁止権
(2)権利の特徴

放送事業者の権利と基本的に同じである。

ただ、再送信(放送を受信して行う有線放送)に関して有線放送事業者に権利が付与されていないことは、前述の通りである。

第2 著作隣接権の具体的内容

有線放送事業者に付与されている複製権、海賊版輸入行為等禁止権、送信可能化権、有線テレビジョン放送の伝達権については、放送事業者のそれと全く同様である。

放送権および再有線放送権については、有線放送事業者は,有線放送を受信してこれを放送し,又は再有線放送する権利を専有する(同100条の3)。

ここで禁止される利用形態は、「有線放送を受信して行う」放送、又は再有線放送であるから、受信した有線放送をいったん録音・録画したものを放送又は再有線放送する場合を含まない。

有線放送を受信して放送する事業については、ビジネス実態はない。再有線放送については、貸しビル業者が有線放送を受信して、ビル内の個々のテナントに有線で流すような場合に、この権利が働くことになる(加戸講義565頁)。

有線テレビジョンの放送の伝達権に関しては、テレビだけでラジオを含まないので、有線放送で音楽を流す場合を含まない。したがって、有線放送を受信してBGMとして流すのに、有線放送事業者の許諾は不要である。

第3 著作物・著作隣接物の利用に関する特権

1 一時的固定

有線放送事業者は、有線放送権を侵害することなく有線放送ができる著作物、又は著作隣接物(実演、レコード、有線放送、「放送」は除外されている。)を、自己の有線放送のために、自己の手段により、一時的に録音し、又は録画することができる(44条2項、102条1項)。

有線放送事業者も自主放送を行うのであるから、一時的固定に関して、放送事業者の場合と同様の規定がおかれている。したがって、放送を受信して行うものは除かれる(44条2項括弧書き)。この場合は、独自に番組を制作するわけではないから、特権を付与する必要がないからである。

次に、固定物の作成方法は、「自己の手段に」よる場合に限定される。これは、有線放送事業者にはネットワークという実態がないため、自己の手段により録音・録画する場合に限定をしているのである(加戸講義292頁)。

2 有線放送のための固定

実演の固定、固定物を使ったリピート放送、テープネット・マイクロネット放送に関する特権は、有線放送事業者には与えられていない(93条及び94条は、放送事業者だけに関する規定である。)。

3 その他の特権

一時的固定の規定により作成された固定物を使ってする有線放送は、無許諾録音・録画物を用いてする有線放送ということになるが、適法録音・録画物もしくは映画の増製物を用いて放送する場合(92条2項2号)にも実演家の権利が停止するので、有線放送に関する実演家の許諾は不要である(本章第2節、第3、1参照)。

また、レコードに関してはレコード製作者に有線放送権が付与されていないことなども、有線放送事業者に付与された特権ということもできる。

さらに、放送の再送信の場合には実演家の許諾が不要である(92条2項1号、本章第2節、第3、1参照)。


第6節 著作隣接権に関するその他の問題

1 「放送・有線放送」と「自動公衆送信」の区別

(1)「放送・有線放送」と「自動公衆送信」の取扱の差異

「放送・有線放送」と「自動公衆送信」はいずれも「公衆送信」であるが、「公衆送信」の中で「放送・有線放送」に該当するか、「自動公衆送信」に該当するかによって、その扱いには大きな違いがある。

まず、「放送・有線放送」に関しては、これを業とするものは著作隣接権者として権利が付与される(第4章第4及び5節参照)が、「自動公衆送信」を業としても著作隣接権者としての扱いはない。

次に、実演の利用に関し、適法録音・録画物や適法映画増製収録物を使った送信をする場合、当該送信が「放送・有線放送」にあたると、実演家の権利は働かない(商業用レコードの場合は二次使用料請求権がある。)。また、レコードの利用に関しては、レコード製作者にはそもそも放送・有線放送権が与えられていない(二次使用料請求権はある。)。したがって、音楽CDを音源とした放送・有線放送については、実演家及びレコード製作者との間では権利処理は不要である。一方、当該送信が「自動公衆送信」にあたると、適法録音物については、実演家及びレコード製作者に「送信可能化権」が与えられているので、自動公衆送信の前提として実演家及びレコード製作者から送信可能化に関する許諾を得なければならない。すなわち、録音物(主として商業用レコード)を用いた送信に関し、「放送・有線」とされれば実演家やレコード製作者に許諾権はなく、「自動公衆送信」とされれば送信可能化の限度において許諾権があるのである。

さらには、放送・有線放送事業者には、著作物や著作隣接物の利用に関し、一時的固定の特権が付与され、また放送事業者には、実演の固定とその利用に関する特権も付与されている。

(2)両者の区別

そこで、両者の区別が重要となる。

両者の区別に関しては、著作権法の定義規定から、「放送・有線放送」は公衆に対する同一内容・同時受信(一斉同報)の送信形態であり(2条1項8及び9号)、「自動公衆送信」は公衆からの求めがある場合に自動的に送信される送信形態である(同9の4号)との説明がなされるのが一般である。

同一内容・同時受信かどうかを区別の基準とするとき、ホームページにアクセスしてサーバに蓄積されたある著作物を閲覧するとか、その著作物をダウンロードするような場合には、区別の基準として明確である(これは、同一内容・同時受信ではない。)。ところが、インターネット技術の進展は、ストリーミングなどの技術を発達させ、著作物などをサーバに蓄積することなく送信する方法も用いられるようになっている。これは、一般に「インターネット放送」などと呼ばれるが、この場合、一定の指定された時間にアクセスしなければ著作物を受信できないという意味で、同一内容・同時受信の送信形態である。そうすると、インターネット放送は、放送・有線放送ということになる。

そこで、公衆の要求があって(アクセスがあって)はじめて情報が端末に送信されるのが自動公衆送信であり、要求がなくても情報が常に端末まで届いている(受信者はテレビやラジオのスイッチをひねるだけ)ものが放送・有線放送であるというような説明もなされている*32。なるほど、この説明は放送の場合は説得的であるが、有線放送の場合も同じようにいえるのであろうか。有線放送は、同軸ケーブルをツリー状に次々に枝分かれする形で各家庭まで引いた構造になっており、常に端末まで情報信号が来ている構造ではない。その意味で、この説明も合理的な基準とはなりえない。

結局、情報が常に端末まで来ているかどうかではなく、自動公衆送信装置(自動公衆送信用サーバ)に情報が入力されるかどうかでその区別がなされるというのが、送信可能化の定義規定(2条1項9の5)の規定ぶりから導かれる正しい理解であろう*33

そうすると、プッシュ型送信(受信者がその都度アクセスすることなく、受信者が設定した要求内容に従って自動的にサーバから情報を送信するもの)も、自動公衆送信ということになろう。

これに対して、電気通信役務利用放送法*34による放送・有線放送は、通信回線を使用するものであるが、自動公衆送信装置に情報が入力された後に送信されるものではないので、その送信は放送・有線放送である*35

*32 文化庁=通産省編・改正解説60頁以下。

*33 上原伸一「ネットワーク社会における放送と著作権制度(『ネットワーク社会と著作権制度・平成14年度関東・関西地区著作権研修講座講演録』、125頁以下、社団法人著作権情報センター)は、日本の送信可能化権は、自動公衆送信装置に情報を入れるかどうかで決まる、すなわちサーバを介するかどうかで決まり、一度サーバに情報が入れば、そこからは有線放送ではなくウェブサイトにおける送信であるという。また、岡本薫「二十一世紀の権法制に係るいくつかの検討課題」(半田先生古希記念論文集『著作権法と民法の現代的課題』536頁、法学書院2003年)は、著作権法においては、サーバを用いている場合は「放送・有線放送」ではなく「自動公衆送信」に該当するという線引きがなされており、概念の曖昧化は防止されているという。

*34 この法律(平成14年1月28日施行)は、通信衛星、光ファイバ等により電気通信回線が広帯域化したことにより、電気通信回線を放送の伝送路としても利用することが技術的に可能になったので、法律上も通信回線を利用した放送を行うことを可能にしたものである。

*35 その結果、電気通信役務利用放送・有線放送事業者は、著作権法上の著作隣接権者であり、また放送・有線放送事業者としての特権も付与されることになる。

音楽のインターネット配信とデジタル放送配信

「第一興商第一及び第二事件」*36は、通信衛星を用いたデジタル音楽ラジオ放送100チャンネルを運営する委託放送事業者が、音楽放送のために音楽CDを音源としてレコードを保有サーバに蓄積し、編成された番組にあわせて蓄積されているレコードを送出して放送するものであり、しかもその番組編成は、100に及ぶチャンネルを設け、音楽を100のジャンルに細分化した上、視聴者の選択によりその嗜好にあったジャンルの楽曲を聴取できるようにしており、それぞれのチャンネルにおいて同じ曲目のセットが番組制作上の編成を加えずフルサイズ同一周期をもって間断なく送信されていた事案である。こうした形態は、ニア・オンディマンドなどといわれるが、聴取者の聴きたい曲がリクエストすれば何時でも聞けるという状態に相当程度に接近した仕組みを提供するものであって、その意味で楽曲のインターネット配信と機能的に近づくものである。

ただ、機能面の類似性が認められるにしても、この音楽配信事業が放送事業であれば、実演家及びレコード製作者との権利処理は不要であり、著作権者(ジャスラック)から許諾を得さえすれば適法に事業を遂行することができることになる。これに対して自動公衆送信事業であれば、両著作隣接権者の許諾がない限り、適法に事業を遂行することはできない。そして、上記送信行為を見る限り、これが放送であることは疑いないところである。

ただ、事業者が、前もって聴取者に対し、放送される曲目、アーティスト名、曲目の放送順序、番組開始時刻等を予め知らせるならば、聴取者は、デジタル放送される目的の曲をMDその他の媒体にデジタル方式で録音をすることによって、音楽CDとほぼ同等の録音物を無償で取得するができる。こうなると、実演家及びレコード製作者に対して甚大な不利益を与えることになりかねない。そこで、本事案では、上記のようなニア・ディマンド型のデジタル放送で、実質的にインターネット配信と同機能を営むものは、「放送・有線放送」に該当しないという主張がなされた。

判例は、放送事業者と実演家及びレコード製作者との間に実質的な利益の不均衡が生じていることは認めながらも、著作権法の解釈論としては、「放送」の定義規定に該当することが一義的に明らかな送信について、実質論のみから「放送」に該当しないとすることはできないと判示している。特定・多数者への配信

通信衛星を利用して、小売業者がその会員に対してする情報の配信、予備校がその予備校生に対してする授業の配信などは、放送・有線放送となるのであろうか。また、一般人がメーリングリストを作成し、多数のリスト掲載者に対してする情報の配信などはどうであろうか。

著作権法は、「公衆」を「特定かつ多数の者を含む。」(2条5項)と下上で、「公衆送信」を「公衆によって直接受信されることを目的とした送信」というのであるから、上記送信は「公衆送信」となることは間違いない。そして、公衆送信のうち、自動公衆送信装置を介さない一斉同報方式のものが放送・有線放送であるなら、上記送信は「その他の公衆送信」ではなく、「放送・有線放送」ということになろう*37

*36 いずれも東京地裁平成12年5月16日判決(判時、判タ1057号221頁)

*37 これ自体、結果としては適切でないとも思われる。放送法、有線テレビジョン放送法などとの関係においては、これらの法律が公衆概念について「不特定多数」としているので、上記事例においては受信者が特定人であることを理由に、「放送・有線放送」であることを否定することが可能である(例えば、総務省情報通信政策局放送政策課・平成13年12月26日「通信衛星を利用した通信・放送の中間領域的な新しいサービスに係る通信と放送の区分に関するガイドラインへの類型追加等」、同省ホームページ掲載参照)。しかしながら、特定多数も公衆としている著作権法上の解釈としてはこれを肯定せざるをえないと思われる。

2 その他の職業的利用者と著作隣接権付与の可能性

実演家、レコード製作者、放送・有線放送事業者以外にも、著作物の伝達を担い、そのため著作物の大量利用者である事業者は多いが(第5章第1節、1参照)、これら事業者のうち、著作隣接権の付与の是非が議論されている事業者について見てみよう。

(1)出版者

出版者には、出版権の制度が設けられ(第5章第3節参照)、著作物の利用者としての立場で特別の保護が与えられている。

さらに、出版物の複写的利用に対しては、著作隣接権を付与すべきであるとの提言がなされている。「判面権(ハンヅラケン)」と呼ばれるが、出版物の特定頁の構成を決める作業における準創作性を保護するものであるなどといわれる。

ただ、今日まで立法化されるには至っていない。創作性が薄弱であるという主張もあるが、レコード製作者や放送・有線放送事業者に権利が与えられた理由が創作性の有無の問題ではないとすると、結局、判面権が付与されるかどうかはこれを勝ち取れるかどうか(政治力)の問題であると考えられる。

(2)データベース提供事業者

創作性のないデータベース提供事業者の保護の方法として、著作隣接権を付与する方法によるべきであるという主張がある。著作隣接権が付与される場合の理由が、行為の創作性と無関係であるとするならば、必要があれば、これを著作隣接権者として著作権法に取り込むことに理論上の障害はないと思われる。

(3)自動公衆送信事業者

自動公衆送信事業は、インターネットの発展、普及とともに登場してきた新しい著作権ビジネスであり、新聞記事、小説、音楽などのインターネット配信に加え、インターネット網のブロードバンド化に伴い写真、画像、映像、さらには映画などの配信事業も登場している。これらの事業が発展し、普及するにつれて、こうした事業者は、放送・有線放送事業者などと同様の著作物の大量利用者となり、かつ重要な伝達者となりうる立場にある。

ただ、著作権法における自動公衆送信事業者の地位は、現在のところ、著作物の通常の利用者という立場にとどまるものであって、著作物などの利用に関する特権もなければ、著作隣接権者でもない。

そのため、他の著作隣接権者(具体的には、放送・有線放送事業者)との取扱いの差異に合理性があるかが問題となる。これについては、放送・有線放送事業者の権利及び特権が縮小される方向で権利の平準化が進むことを示唆する見解がある*38。しかしながら、一度付与された権利や特権を縮小することは現実的に困難であろう。自動公衆送信が放送・有線放送と同じ機能を営むのであれば、両者に差異をつけることの合理性はないはずであるから、今後は自動公衆送信事業者の権利の強化が図られる方向で法改正が進むことが予想される。

*38 岡本・前掲537頁は、当面は放送、有線放送と自動公衆送信を区別して評価するが、将来的には放送事業者の特権を減らしていく形で両者を近づけていくというのが、世界の多くの関係者が想定しているシナリオであるという。

3 著作隣接権者

著作者において、誰が著作者かということを検討したのと同様な意味で、著作隣接権者とは誰かが問題となることがある。

(1)著作隣接者と著作隣接権者

著作権に関しては「著作者」と「著作権者」の区別があるが、著作隣接権に関しては「著作隣接者」と「著作隣接権者」の区別はない。これは、これまで必要がなかったからである。すなわち、映画の著作物のように著作者と著作権者が分離するような制度もないし、著作者に一身専属的に帰属する著作者人格権のような権利もなかったからである。

しかし、実演家に人格権が付与され、しかもこれは一身専属権である(101条の2)から、今後は、著作隣接者と著作隣接権者の区別が必要となる。

(2)著作隣接者の特定

次に、著作隣接者は誰かという問題を検討しよう。

実演の場合、実際に実演を行う自然人が実演家である。法人が実演家になることはない*39。複数名での実演がある場合も、主体は1人1人の自然人である。

レコード製作の場合、原盤作成を発意し、主導し、費用の負担をする者がレコード製作者である。ミキサーやレコーディングの技術者は、レコード製作者ではない(本章第3節、2、(2)参照)。法人がストレートに著作隣接者になることができる。

放送・有線放送の場合、送信する音声信号や映像信号を作成し、これを搬送波に載せて送信する者が放送・有線放送事業者である。通常は、必要な設備、機器を所有・管理し、そうした作業を行う者である。通常は放送局である法人である。この場合も、法人がストレートに著作隣接者になることができる。

*39 棚野正士「実演家の権利をめぐるビジネス」(知的財産関係訴訟法715頁)

(3)共同著作隣接物

次に、共同著作物と同じ意味での共同著作隣接物というものも概念することができる。

実演に関しては、複数名での実演であり、これを分離して利用することが困難なものは共同著作隣接物ということになる。これについては、共有著作権に関する規定(65条)の準用がある(103条)ので、共有著作隣接権の行使は全員の合意によらなければならない(65条2項)が、正当な理由がない限り合意の成立を妨げることができない(同条3項)。著作者人格権の規定(64条)については準用がない*40

レコード製作に関しては、共同での費用負担もよくあるところである。また、放送・有線放送の場合は、例えば、その設備が共有であるような場合に、共有関係が発生することがあるであろう。いずれの場合も、共有著作権に関する規定(65条)が準用される(103条)。

*40 その理由に関し、前掲藤原14頁は、準用の必要がある場面を想定できないし、また関係団体との調整がつかなかったからという。

(4)職務著作・法人著作

実演家が主催者と雇用契約を締結して実演を行っているような場合に、職務著作(15条)の規定の準用があるかが問題になる。

これについては、職務著作の規定は著作物に関するものであるところ、著作隣接権の規定においてこれを準用していないので、たとえ雇用契約があったとしても実演家の権利は使用者ではなく実演家に帰属する。したがって、上記共同著作隣接物という扱いになる。


第7節 著作隣接物の利用

1 著作権と著作隣接権の関係

著作隣接物の利用は、あわせて著作物の利用をも伴うことが多い。こうした場合には、著作隣接権に関する規定(第4章の規定)が著作者の権利に影響を及ぼすものと解釈をしてはならない(90条)。すなわち、著作権と著作隣接権は別個独立に働く権利であって,互いに影響を及ぼすことはないのであり、その結果、著作隣接物の利用によって著作物も利用することになる場合は、著作隣接権者の許諾と共に、当然著作権者の許諾も必要である(権利が重畳的に働く)。

これを音楽著作物を例にとって見ると、音楽著作物の演奏(実演)を録音するときは,録音について実演家の許諾を得る必要がある(91条1項)。これに加え、音楽著作物の録音(複製)もあるから著作権者の許諾も必要である(21条)。音楽CDを録音する場合は、実演家とレコード製作者の許諾が必要であるが、さらに音楽著作物の著作権者の許諾も必要である。音楽CDの再生音の放送を録音する場合は、実演家、レコード製作者及び放送事業者の許諾が必要であるが、音楽著作物の著作権者からの許諾も必要である。

2 著作隣接物の利用者

(1)著作隣接物の利用者

著作隣接物の利用者は、基本的に、著作隣接物の利用行為を禁止した著作隣接権の各支分権の内容をみれば分かる(第5章第1節、1参照)。

① 実演
i) 録音・録画権及び譲渡権
実演の録音・録画物を作成し、譲渡する事業者である。
録音物については、レコード製作者が典型である。
録画物については、プロダクションや演劇、コンサートなどの主催者である。また、映画においては、映画製作者である。
ii) 貸与権
音楽CDのレンタル事業を行う事業者である。
iii) 放送権、有線放送権
実演を放送・有線放送する事業者である。テレビ局、ラジオ局、CATV局などが代表である。
iv) 送信可能化権
実演を自動公衆送信する事業者である。
v) その他の利用
例えば、劇場での上演やコンサート会場での演奏などの利用者は主催者である。しかし、その利用は、実演家が上演や演奏をその意思で行わないことによってコントロールできるから、著作権法による規律の対象とはしていない。また、録音・録画物の再生による方法の場合も、保護の対象としていない。
② レコード
i) 複製権及び譲渡権
レコードの複製物を作成し、譲渡する事業者である。これは、レコード(原盤)製作者=レコード会社の場合は、禁止権としてだけ機能することになるが、近年はレコード製作がプロダクションなどによって行われる場合も多く、この場合、利用者はレコード会社ということになる。
ii) 貸与権
音楽CDのレンタル事業者である。
iii) 放送権、有線放送権
レコードを放送・有線放送する事業者である。ただし、二次使用料支払義務しかない。
iv) 送信可能化権
レコードを自動公衆送信する事業者である。
v) その他の利用
CDの再生による演奏という方法での利用は、多くの事業者が利用している。しかし、レコード製作者に権利はない。
③ 放送・有線放送
i) 複製権
放送を複製してその複製物を販売する事業の実態はない。したがって、これは禁止権としてだけ機能することになる。ビデオ化などは、放送番組(映画の著作物など)の複製物の作成であり、放送の複製ではない。
ii) 再放送権及び有線放送権
放送事業者や有線放送事業者である。
iii) 送信可能化権
放送・有線放送を自動公衆送信する事業者である。
(2)デジタル化・ネットワーク化による利用者層の多様化と拡大

デジタル化とネットワーク化による利用者層の多様化と拡大化という現象(第5章第1節、2参照)については、著作隣接物の利用についても同様に当てはまるところである。

3 著作隣接物の利用方法

(1)権利処理

著作隣接物を利用する場合の権利処理も、著作物を利用する場合の権利処理と異なるところはない(第5章第2節参照)。利用許諾契約を締結するか、著作隣接権の譲渡を受けることになる。

(2)集中管理事業

著作隣接権の保護及び著作隣接物の利用の円滑化をはかるために著作隣接権の集中管理事業が整備され、発展することが望ましいことも著作物の場合と同様である。したがって、著作権等管理事業法は、著作隣接権も管理事業制度の対象としている(管理事業法1条参照)。

従前から、著作隣接権の分野では、芸団協とレコード協会が権利者団体として存在していたが、管理事業法の施行を受けて、いずれも管理事業者としての登録を行っている。尚、日本民間放送連盟(民放連)は、管理事業業者としての登録を行っていない。放送の利用については、管理事業を行うほどのビジネスの実態がないからであろう。

① 芸団協

俳優、歌手、演奏家、舞踊家、演芸家、演出家、舞台監督などの実演家の団体で構成する公益法人であり、実演の録音・録画、譲渡及び貸与に関して管理事業を行うとしている。

② レコード協会

レコード会社などのレコード製作者で構成する公益法人であり、レコードの複製、譲渡及び送信可能化に関して管理事業を行うとしている。

(3)指定団体と指定管理団体

著作権等管理事業者は、事業者が任意に設立し、任意に管理事業を営むものであるが、著作隣接権者の以下の権利の行使については、文化庁長官が指定する団体がある場合は当該団体によってのみ権利行使ができるとされており、指定団体による行使が義務づけられている。芸団協と日本レコード協会が指定されている。

  • ① 商業用レコードの二次使用料を受ける権利(95条5項、97条3項)
  • ② 商業用レコードの貸与報酬を受ける権利(95条の3、4項、97条の3、4項)*41

また、私的録音録画補償金請求権に関しては指定管理団体によって権利行使を行う制度となっており(104条の2、第7章第3節、4、(4)参照)、私的録音補償金管理協会と私的録画補償金管理協会が指定されている。

*41 尚、貸与権の許諾に係る許諾料を受ける権利についても、報酬を受ける権利と一括して処理することができるように指定団体による行使ができることになっている(95条の3、5項、97条の3、6項、加戸講義534頁)ので、芸団協と日本レコード協会が権利行使を行っている。この場合は、本来管理事業法の適用があることになるが、著作権法の規定を優先適用することになっている(管理事業法25条)。