第3章 著作者の権利
第1節 著作者の権利総論
1 著作者の権利
本章では,著作物を創作した著作者が,著作権法上どのような権利を付与されるのかについて見ることとする。
著作権法は,著作者は,「著作者人格権」と「著作権」を享有すると規定している(17条1項)。また、これに加え、「権利管理情報」と「権利の技術的保護手段」を保護する規定もおいている。
(1)著作権
第1章で解説したとおり、「著作権」とは、経済的利益の獲得が可能と思われる著作物の利用行為を禁止する権利である。すなわち、著作物の複製、譲渡、貸与、放送・有線放送、自動公衆送信、上演、演奏、上映などを禁止することができる権利である。著作者が、著作物の利用行為を独占することによって、経済的利益を獲得するのである。
他方で、この独占的な利用権の使い方としては、著作物を利用したい人がいたら,許諾料をとって利用許諾を与えたり(ある特定の人に利用の禁止を解除する。)、著作権を譲渡する方法もある。
(2)著作者人格権
「著作者人格権」とは,著作者の自分の著作物に対する人格的または精神的利益を保護するための権利である。すなわち,経済的利益を獲得するために著作者に付与されている著作権とは別に,自分の著作物を公表するかどうかを決定する権利(公表権)、どのような氏名を付するかを決定する権利(氏名表示権)、自分の著作物が勝手に変更されることを拒絶できる権利(同一性保持権)、また著作者の名誉や声望を害する方法で著作物を利用することを禁止できる権利(名誉声望等毀損行為禁止権)が与えられている。
そのため、著作権法は、著作者に対して、「公表権」、「氏名表示権」、「同一性保持権」及び「名誉声望等毀損行為禁止権」を付与している。
(3)その他の権利及び制度
著作権法は、上記の通り、著作物の経済的利用に関しては著作権を、著作物に対する人格的利益に関しては著作者人格権を付与しているが、これに加え、著作物に対するものではないが、著作者などが付した著作権や著作者人格権などの権利に関する情報が改変されることを禁止する権利を付与する(113条3及び4項)。また、著作者に権利を付与するものではないが、複製防止技術などのように権利を侵害する行為を技術的に防止又は抑制する手段を保護する制度を設けている。
2 権利成立の要件
(1)無方式主義
著作権と著作者人格権は、いかなる方式の履行も必要とすることなく、創作と同時に権利が発生し、著作者に帰属することになる(17条2項)。権利が発生するために©などの表示や登録、納本などの手続きを取る必要がないということであり、こうした制度を「無方式主義」という。
これに対して、権利発生のために一定の方式が要求される制度を「方式主義」といい、中南米諸国で採用されているほか、近年まで米国もこの方式を採用していた。
また、我が国においても、特許その他の工業所有権の制度においては、出願などの方式を踏んだ後に特許権などの権利が発生することになっているので方式主義が採用されていることになる。
(2)©マークについて
著作物は国境を越えて流通するため、一国内の保護では不十分であり、国際的な保護が求められる。そのため、ベルヌ条約とか万国著作権条約などといった多国間の条約が締結されてきた。
ところが、前記の通り、世界には無方式主義を採用する国と方式主義を採用する国があり(1988年までは米国もそうであった。)、方式主義を採用する国では要求されている方式を満たさない限り保護はないので、仮に条約を締結したとしても、無方式主義の国の著作物は方式主義の国では保護されない結果になる。
そこで、1952年に成立した万国著作権条約において、条約締約国は自国法令において方式主義を採用している場合においても、©表示が付されていれば、当該方式を満たしているという取り扱いをすることにした。これによって、この条約に加盟している無方式主義の国の著作物も、©を表示していれば方式主義の国でも保護されることになったのである。この条約は、著作物の国際的保護のために、方式主義の国と無方式主義の国とを結ぶ架け橋の役割を担ったものであった。
したがって、©表示は、わが国及び無方式主義を採用する国ではこれを付与することに意味はないが、万国著作権条約の加盟国で方式主義を採用する国において著作物として保護を受けるためには、この©表示をつけておく必要がある。
尚、条約が規定する具体的な©表示の要件を充足するためには、著作権者名(著作者名ではない。)、最初の発行年、©の記号の表示を、発行された複製物すべてについて最初の発行のときから表示する必要がある。
3 著作者の権利の性格
(1)排他的独占権
著作者の権利(著作権と著作者人格権)は,著作物を直接支配する排他的独占権である。したがって、著作権は、当事者間に契約関係があるかどうかとは関係なく、万人に対して直接権利を行使することができる。その意味で、有体物を直接支配する権利である所有権と同じ性格の権利であり、所有権が有体物を客体とし、著作権が無体物(著作物)を客体とするところに相違があるにすぎない。
(2)相対的独占権
ただ、著作権法が付与する排他的独占権は、相対的なものである。すなわち、先行著作物に依拠することなく(接することなく)、独自に同一の著作物が創作されれば、後行著作物も保護の対象となる。
これに対して、例えば特許法において、先願主義により先に申請して登録を受けた発明がある場合、これに依拠することなく発明が行われたとしても、その発明は保護されることはない。すなわち、特許権は絶対的独占権であり、著作権は相対的独占権である。
(3)「所有権」と「著作者の権利」の関係
例えば絵画を例にとると、作品が描かれているキャンバスは有体物であるが、同時にそこには無体物である著作物が固定されている。そして、所有権は有体物を客体とする権利であるから(作品が描かれている)キャンバスを排他的に支配する権能を行使しうるが、無体物である著作物に対する権能の行使はできない。これは、著作物の著作者が有する権能である。
したがって、例えば、絵画を複製するためには、著作者の許諾が必要なのであって、所有者の許諾が必要なのではない。また、保護期間が終了して著作権が消滅した後は、キャンバスの所有者に著作物の利用権が帰するのではない。著作権は公有に帰するのであって、以後誰でもその著作物を自由に利用できることになる*1。
ただ、キャンバスの所有者に著作物の利用権はないといっても、その著作物の利用(たとえば、複製)するためにはキャンバスに接近したり、その占有を一時的に取得したりする必要があるので、キャンバスの所有者がこれを許さなければ事実上著作物の利用ができないことになる。しかしこれは、キャンバスの置かれている場所の管理権やキャンバスに対する支配権を行使した結果であって、無体物に対する支配権を行使したものではない。
*1 このことを確認した判例として、「顔真卿自書建中告身帖事件」最高裁昭和59年1月20日判決(判時1107号127頁、判タ519号129頁)、「かえで所有権事件」東京地裁平成14年7月3日判決(判時1739号128頁、判タ1102号175頁)
第2節 著作権(著作財産権)
著作権法の規定の順序は、まず「著作者人格権」(18条乃至20条)の規定を置き、その後に「著作権」(21条乃至28条)の規定を置いているが、本書では、著作権ビジネスにとってより重要な「著作権」から説明する。
第1 著作権総論
1 著作権の種類
著作権は,複製権、公衆送信権、演奏権などのいろいろな種類の権利(これを著作権の支分権という。)の束から成り立っており、多様な著作物の利用行為を禁止できるようになっている。著作権法においては、これらの支分権が歴史的な経緯もあって雑然とした順序で並べられているが、その順序に合理性はない。そこで、これを整序する一つの方法が、ビジネスの種類別に分類する方法である。これに従うと、次のようになる。
(1)パッケージ型ビジネスに関する権利
- 複製権(21条)
- 譲渡権(26条の2、1項)
- 海賊版等の頒布・所持を禁止する権利(113条1項)
- 貸与権(26条の3)
- 頒布権(26条1項)
- 私的録音・録画補償金請求権(30条2項)
複製権は、複製物を作成する権利であり、その余の権利は、複製物が作成された後この複製物が流通していく過程で働く権利である。
尚、譲渡権は、著作物の原作品を譲渡する場合にも働く権利である。
また、頒布権は,映画の著作物の複製物についてのみ認められている権利で,映画の配給方法などを支配しうる権利であるが、本来は、集客型ビジネスに関する権利に分類されるべきものである(第3章第3節、5、(1)参照)。
私的録音・録画補償金請求権は、私的使用のための複製が自由であることの代償として、相当な額の補償金を受ける権利である(第7章参第3節4参照)。
(2)ノン・パッケージ型ビジネスに関する権利
- 公衆送信権(23条1項)
- 放送権
- 有線放送権
- 自動公衆送信権(送信可能化権を含む。)
- その他の公衆送信権
これは、複製物を介することなく著作物を公衆に伝達する過程で働く権利である。
公衆送信権は、送信の具体的方法に対応して、放送権、有線放送権、自動公衆送信権、その他の公衆送信権に細分化して規定されている。
(3)集客型ビジネスに関する権利
- 口述権(24条)
- 上演権(22条)
- 演奏権(22条)
- 上映権(22条の2)
- 展示権(25条)
これらの権利は、集客された公衆に対して著作物を提供するところで働く権利である。
上記支分権中、複製権以外の支分権においては、権利が働く対象となる行為が「公に」行われる時にだけ働く。したがって、「公に」に行われない行為については、禁止権の対象とならない。すなわち、これらの権利は、公に対する、もしくは公の場での利用禁止権である。
これに対して、複製権は、複製が「公に」行われることは要件ではない。したがって、たった一個の複製物を作成することも禁止権の対象となる。
(4)著作物の使用に関する権利
- 一般的使用権(規定なし)
- 海賊版プログラムの使用行為(113条2項)
プログラムの違法複製物が業務上使用されるときに働く権利である。
(5)翻案権及び二次的著作物の利用に関する権利
- 二次的著作物を作成する権利(翻案権)(27条)
- 二次的著作物の利用に関する許諾権(28条)
翻案権は、二次的著作物を創作する権利である。
二次的著作物の利用に関する許諾権は、創作された二次的著作物の利用に関して原著作物の創作者が有する許諾権である。
一般的支分権と見なし侵害規定
著作権法は、利用行為一般を禁止する場合に加え、ある特定の利用行為を許すときは権利者の経済的利益が不当に侵害されると考えられる場合に、利用行為一般ではなく、その特定行為だけを権利侵害行為とみなす旨の規定をおいている(113条)。これは、例えば、輸入権という支分権を創設し、これを付与することは、著作者に輸入一般を禁止できる権限を与えることになって広範にすぎるが、その中の特定行為(例えば、海賊版に限っての輸入行為)については禁止権を与えるのが妥当であるというようなときに、このみなし侵害という規定の仕方が使われる。
ただ、その条項で特定された行為が禁止されるのであるから、その範囲で、著作者に禁止権が与えられていることになる。
著作権法が見なし侵害という方法である特定行為を禁止しているのは、i)海賊版輸入行為等、ii)国外頒布目的商業用レコード輸入行為等iii)海賊版プログラム使用行為、iv)権利管理情報改変行為等、である。
2 著作権の種類と利用者の自由利用の範囲
著作権法は、前項で説明したような支分権を著作者に与えているが、著作者にどのような支分権を与えるべきかということは理論的に定まることではない。その権利の内容は、著作権法の制度目的を達成するための必要性を勘案しながら人工的に付与されるものであって、著作物の利用技術の発達に伴い、拡大されてきている。複製権に始まり、集客型ビジネスの場で働く演奏権、上演権などが付与され、ノンパッケージ型での利用技術である放送、有線放送が実用化されると放送権、有線放送権が付与された。近年では、平成9年の著作権法改正で自動公衆送信権(インタラクティブ送信権)が、同11年の改正では上映権(ディスプレイ権)が付与されている。
ただ、権利の範囲が拡大されるということは、それだけ著作物の利用が禁止される範囲が拡がるということであるから、著作者にとって経済的利益を獲得する機会が増えても、著作物の利用者にとっては、自由に利用できる範囲が狭くなるということである。したがって、著作物の利用が禁止される範囲をやみくもに拡大することだけが著作権法の制度目的と理解すべきではなく、著作者の経済的利益と利用者による利用の便宜とを比較考量して決定すべきことである。
第2 パッケージ型ビジネスに関する権利
1 複製権
(1)複製権と複製概念
著作者は,その著作物を複製する権利を専有する(21条)。これによって著作者は、自己の著作物が複製されるところで権利を行使することができる。この権利は、著作物を公衆に提供するための前提となる複製物の作成権であり、パッケージ型ビジネスにおける基本権である。この権利は、歴史的にも最も古く、かつ現代においても最も基本的かつ重要な支分権である。
ところで、「複製」とは、、無体物である著作物を有体物である支持物の上に固定して再製するという意味である(第2章第2節、(1))。
著作権法は、これを「印刷,手写、写真,複写,録音,録画その他の方法により有形的に再製すること」と規定している(2条1項15号)。印刷して本にしたり、複写機でコピーしたり、音楽CDやビデオカセットをダビングするような行為が典型である。
(2)デジタル著作物と複製
デジタル著作物との関係で「複製」の具体例を見ておく。
例えば、CD-ROMから文章や画像をコピーして、ハードディスクやフロッピーディスクなどの媒体に保存する行為は複製である。インターネットに接続されたサーバにアップロードされている著作物をダウンロードして、上記媒体などに保存する行為も同じく複製である。また、MP3という圧縮技術を使って、音楽データを圧縮した上で保存することは、音楽の複製である。さらには,デジタル化されていない著作物を,スキャナーなどで読み込んでデジタル化した上で,これを保存する行為も複製である。
(3)可視的複製と不可視的複製
著作権法の規定する上記複製方法の中で、「印刷、写真、複写」といった複製を「可視的複製」という。つまり、見ることによって著作物を知覚することができる複製方法ということである。これに対して、「録音、録画」によるものを「不可視的複製」とか、「再生可能な複製」という。これは見ることによって直接知覚することはできないが、何らかの機器を使って再生することにより著作物の知覚ができる複製方法である。テープを再生して音を聞き、画像を見るというような方法である。オルゴールも同様である。また、デジタル方式の複製は、著作物がデジタル・データとして固定されているために知覚のためには再生が必要となるので、全てこの不可視的複製ということになる。
(4)増製
著作権法は、録音・録画は、増製物を作ることを含むと規定する(2条1項13及び14号参照)。すなわち、録音・録画物を再生してこれを録音・録画することだけでなく、ダビングやリプレスすること(増製)も複製であることを注意的に規定したものである。
したがって、著作物がデジタル方式で保存されている媒体から保存物を増製することも複製である。
(5)著作物ごとの検討
「複製」の具体的中身を著作物ごとにみてみよう。
① 言語著作物
小説の原稿は、まず世の中に生まれた小説の最初の複製物である(第2章)。そして、小説を印刷して本にすることは複製であるし、本の内容をコピーすれば小説の複製である。これを写真に撮っても複製であるし、手写しても複製である。これをワープロ打ちして保存することも複製である。
さらにこれを口述して録音することも、小説の複製物を作成するものである。口述を録画した場合も同様である。そして、この録音・録画物を増製することも小説の複製となる。さらに、口述の放送を録音・録画しても小説の複製である。
尚、著作権法は、脚本など演劇用の著作物については、その脚本に基づいて上演したものや放送したものを、録音・録画することは脚本の複製であると規定する(2条1項15号イ)。
② 音楽著作物
五線譜は、音楽の複製物である。この五線譜を印刷、コピーなどすることが複製であることは、言語著作物と同様である。
次に、音楽の演奏を録音することも、音楽の複製である。したがって、音楽CDは、音楽の複製物である。
③ 美術著作物
絵の描かれたキャンバスは、絵の複製物である。ただし、これを原作品と呼ぶ(第2章第2節、1、(2)参照)。これを、模写し、写真撮影し、スキャンし、録画することは複製である。
コンピュータ・グラフィックをプリントアウトすること、PC上で保存すること、増製することなどは、複製である。
④ プログラム著作物
プログラム言語で書かれたプログラムを収録した媒体は、プログラムの複製物である。これをコンパイルしてバイナリー・コードにすることは複製である。バイナリー・コードを逆コンパイルすることも複製である。
⑤ 建築著作物
建築物は、建築著作物の複製物である。したがって、これを写真撮影したり、録画したりすることが複製であるし、同様の建築物を建築することも複製である。
また、建築著作物については、建築物に対する依拠がなくても、その設計図に依拠して、すなわち設計図面に従って建物を建築することを複製であるとしている(2条1項15号ロ)。ただ、例えば、立体的芸術著作物に関して設計図があるとき、この設計図に依拠して、芸術著作物を作成することも複製であるというべきだから、本規定は注意規定ということになる。
これを整理すると次のようになる。
- 建築物→建築物 建築物の複製
- 設計図→設計図 設計図の複製
- 設計図→建築物 建築物の複製(設計図の複製ではない。)
また、建築著作物の場合、建物を建築することにより複製する場合及びその複製物を公衆に提供する場合を除いては、これを自由に利用することができることになっている(46条2号)。
⑥ 図形著作物
芸術著作物と同様に考えない。
ただ、建築著作物と同様な趣旨で、機械(著作物ではない。)と設計図の複製概念を整理すると次のようになる。
- 機械→機械 著作物の複製の問題はおきない。
- 設計図→設計図 設計図の複製
- 設計図→機械 機械の複製(設計図の複製ではない。)であるが、機械は著作物でないので、著作権侵害の問題は発生しない。
(6)他の利用行為との区別
複製は「有形的に」再製することである。この意味は、著作物が何らかの支持媒体に固定されて、永続的な形で保持されている必要があるということである。これが複製とその他の利用行為との区別のメルクマールである。したがって、例えば、OHPやディスプレイ画面などによる投影は、著作物が再製されているといえなくもないが、それは無形的なものである。こうした無形的複製に対しては、上映権などの権利が働くことはあるが、著作権法上は「複製」ではない。
また、複製権は、その他の支分権のように「公に」なされなくても働く権利である。
2 譲渡権
(1)譲渡権の内容
著作者は、その著作物(映画の著作物を除く。)をその原作品又は複製物の譲渡により公衆に提供する権利を専有する(26条の2、1項)。
これによって著作者は、自己の著作物が譲渡の方法で提供(主として、複製物の譲渡)されるところで権利を行使することができる。この権利は、著作物を公衆に提供する権利のうちの一つで、パッケージ型ビジネスにおいて働く権利である。
したがって、複製物を作成し、譲渡するという基本的パッケージ型ビジネスにおいては、著作者の複製権と譲渡権が働くことになる。
(2)「公衆」概念
ここで「公衆」という用語が使われているが、著作権法で「公衆」というときは、「特定かつ多数の者」を含む(2条5項)。
既に説明したように、複製権以外の権利は、基本的に「公衆」に対する著作物の提供・提示行為を禁止する権利である。そうすると、この「公衆」概念は、著作権により禁止できる利用行為か否かのメルクマールとなる概念である。そして、著作者の経済的利益保護の観点から見るとき、著作物の提供・提示される相手方が多数であれば、特定人か不特定人かによってその保護の必要性が変わるものではないので、特定人であっても多数に対するものであれば権利が働くことにして、「公衆」には「特定かつ多数」を含むと規定しているのである。
結局、「公衆」とは、「不特定かつ多数」、「不特定かつ少数」、「特定かつ多数」という概念であり、「不特定かつ少数」だけが除かれる。
(3)権利の対象
この権利の対象となるのは、まず、映画の著作物を除く著作物の「複製物」である。映画の著作物が除かれているのは、映画の著作物に関しては、頒布権というより強力な権利が付与されているので、映画の著作物は別個に扱うという趣旨である(本章第3節、5参照)。
また、この権利は、著作物の「複製物」に対して働くことに主眼がおかれているが、「原作品」(第2章xx参照)に働くことを否定する理由はないので、原作品もその対象としている(尚、本項「譲渡権」の以下の解説中で複製物というときは、原作品を含むものとする。)。
(4)譲渡権の消尽等
ところで、この権利を複製物が転々譲渡されるたびに働く権利とした場合は、日常的、大量かつ広範に行われている著作物の複製物の円滑な流通を阻害することになるのは必至である。そこで、一度適法に譲渡された著作物の複製物を、その後更に公衆に譲渡する行為には、権利が働かないことにしている。これを権利の消尽という、(ファースト・セール・ドクトリンともいう。)。以下、その内容を説明する。
① 譲渡権の消尽(同条2項)
譲渡権は、以下の場合に消尽する。
- i)譲渡権を有する者またはその許諾を得た者が公衆に対し複製物を譲渡した場合は、そこで譲渡権は消滅し、その後の流通過程において権利は働かない(1号)。譲渡権の行使は一回しかできないということである。譲渡したかどうかは、複製物一つ一つについて判断されることになる。
この原則をまず権利者の側から見ると,権利者は複製物を最初に譲渡した段階で複製物に対する支配権は失われるということを意味する。譲渡することによって経済的利益を得たのであるから,その後の処分行為まで関与できないという原則である。次にこれを複製物の取得者の側から見ると,複製物を購入した者は,その複製物を自由に処分できるという原則である。つまり,この複製物を有償で譲渡してもよい。中古品販売は自由であるということである。 - ii)文化庁長官の裁定を受けるなどして公衆に譲渡された場合も、譲渡権は消尽する(2号)。
- iii)譲渡が公衆に対してではなく、特定かつ少数のものになされた場合でも、譲渡権は消滅する(3号)。これは、譲渡された複製物が公衆に対する譲渡であったのか、特定かつ少数の者に対する譲渡であったのかということは、複製物の外観からは判断できないからである。また、原作品の場合は、常に特定かつ少数(一人)に対する譲渡しかできないので、いつまでも権利が消尽しない状態が続くことになる。そこで、取引の安全を確保するために、譲渡が適法に行われた場合は、それが公衆に対するものでなくても譲渡権は消尽することにしているのである。
- iv)国外において、譲渡権に相当する権利を害することなく、又は譲渡権者もしくはその承諾を得た者により譲渡された場合も、譲渡権は消尽する(4号)。すなわち、国外において適法に譲渡が行われた場合である。これは、外国での譲渡が適法に行われた場合には、その後国内で行われる公衆への譲渡には譲渡権が及ばないという「国際消尽」の考え方を採用したものである。
② 善意者に係る特例(113条の2)
最初の譲渡が適法に行われておらず譲渡権が消尽していない場合においても、著作物の複製物の譲渡を受けたときに、譲渡権が消尽していないことを知らず、かつ知らないことに過失がない場合には、当該複製物を公衆に譲渡しても譲渡権を侵害する行為ではないものとみなされている(113条の2)。
3 海賊版輸入行為等禁止権
説明の便宜上、2号から説明する。
(1)海賊版頒布等禁止権
権利侵害行為によって作成された物(ここでは違法複製物)を情を知って頒布し、または頒布の目的をもって所持する行為も権利侵害行為とみなされる(113条1項2号)。
従来、譲渡権の規定がなかったので、例え違法複製物を頒布しても禁止権の対象とはならなかった。そうすると、違法複製物であることを承知したうえでこれを仕入れて大量に販売するような行為も,権利侵害の問題は生じないことになる。しかしながら、違法複製物を頒布する行為は、権利者の経済的な損害を拡大する行為であるから、こうした行為に限ってはこれを抑止する必要があるので、特別に著作権侵害行為とみなすことにしている。また、頒布に至らなくても、頒布の目的をもって所持することも侵害とみなすことにして、権利者の保護を強化している。すなわち、実際に頒布する以前の準備的行為も禁止の対象としているのである。
尚、平成11年に譲渡権が新たに創設されたので、違法複製物の頒布行為に対しては譲渡権が働くことになるが、違法複製物であることを知って頒布する場合は、本規定も重畳的に働くことになる。また、知らずに頒布する場合は譲渡権だけが働き、知って所持する場合は本号のみが働くことになる*2。
*2 さらに、著作者人格権の侵害行為によって作成された物や、放送・有線放送の違法複製物についても本号のみが働く。
(2)海賊版輸入行為禁止権
国内において頒布する目的をもって、輸入の時において国内で作成したとすると権利侵害となる行為によって作成された物(ここでは違法複製物)を輸入する行為は、権利侵害行為とみなされる(113条1項1号)。
著作権法は、著作者に輸入権を付与していない。その場合譲渡県の規定がないとすると、外国でわが国の著作権法の適用があるとすれば違法複製となる物が作成されて輸入される場合、その複製行為にはわが国の著作権法の適用はないし、こうした違法複製物を輸入して日本国内で販売することも、権利侵害行為とは評価されない。ただ、これを放置すると日本国内で作成された違法複製物が頒布されるのと何ら変わりはないので、こうしたものを輸入する行為に限ってはこれを抑止する必要がある。そこで、特別に著作権侵害行為とみなす(一定の限られた要件のもとで輸入権を付与する)ことにしているのである。
本条の趣旨は、その物を輸入するときにおいて国内で作成された仮定して、その作成行為が侵害か否かを日本の著作権法を適用して判断し、侵害と評価されれば輸入行為を禁止するということである。主観的要件として、「頒布の目的があること」が必要である。
尚、譲渡権の創設後は、譲渡権と本規定が重畳的に働く場合があることは、海賊版頒布行為禁止権の場合と同様である。また、本条も譲渡権もその対象を「物」に限定している。したがって、国外で作成された違法複製物を国外から送信する行為に対して権利が働くことはない。
4 国外頒布目的商業用レコード輸入行為等禁止権(113条5項)
本条項は、平成16年著作権法改正で新設されたものであり(平成17年1月1日施行)、物価水準の違いなどから、国外で廉価に販売されている商業用レコードを頒布目的で輸入などする行為を禁止する権利である。
すなわち、国内での頒布目的で商業用レコード(以下、「国内頒布目的商業用レコード」という。)を発行する(他に委託などして発行させる場合も含む。)著作者などの権利者が、同一の商業用レコードで、専ら国外において頒布することを目的とするもの(以下、「国外頒布目的商業用レコード」という。)を国外において発行している場合において、情を知って、その国外頒布目的商業用レコードを国内で頒布する目的で輸入し、頒布し、又は頒布目的で所持する行為は、「その国外頒布目的商業用レコードが国内で頒布されることにより当該国内頒布目的商業用レコードの発行により得ることが見込まれる利益が不当に害されることになる場合」に限って、権利侵害とみなされる。
ただし、国内において最初に発行された日から起算して7年を超えない範囲内で政令で定める期間を経過した国内頒布目的商業用レコードと同一の国外頒布目的商業用レコードには適用がない。
5 貸与権
(1)貸与権一般
著作者は,著作物(映画著作物を除く)の複製物を公衆に貸与する権利を専有する(26条の3)。
これによって著作者は、自己の著作物が貸与の方法で提供されるところで権利を行使することができる。この権利は、著作物を公衆に提供する権利のうちの一つで、パッケージ型ビジネスにおいて働く権利である。
(2)歴史的経緯
ところで、従来、著作物の複製物を貸与する行為に関しては、著作者の権利は及ばず、自由であった。
ところが昭和50年中頃から貸レコード業が登場し、急速に全国に拡がった。その結果、音楽CDの売上が激減し、音楽の著作者、実演家(アーティスト)、レコード会社が多大な打撃を受けた。これは、音楽CDを買うより借りた方が安上がりだし、しかも借りたCDを録音すれば、CDを買ったのと同じように音楽を楽しむことができるからである。そして一般大衆が借りてきたCDを録音することは、私的使用のための複製として許されるので(第7章第3節参照)、権利者は為す術がなかった。
このようなことから,著作者,実演家およびレコード製作者を保護するため,昭和59年の改正によって創設されたのが,この「貸与権」である。これによって,音楽CDを貸与するには,著作者,実演家およびレコード製作者の許諾を得ることが必要となった。
(3)対象
この権利の対象となるのは、映画の著作物を除く著作物の「複製物」である。改正法はその対象を音楽CDに限定していないので、レンタル事業全般に権利が働くことになる。書籍、音楽CD、ゲームソフトやプログラムが記録されたCD-ROMなどがその対象である。尚、映画の著作物が除かれているのは、映画の著作物に関しては、頒布権というより強力な権利が付与されているので、映画の著作物は別個に扱うという趣旨である。
尚、譲渡権と異なり、原作品は対象となっていないので、原作品の貸与は、著作者の許諾なく自由に行うことができる。(加戸講義199頁及び206頁参照)。著作者が原作品を譲渡した後にも、原作品の所有者の貸与行為をコントロールできるとするのは、適当でないからである。
行為態様としては,貸与と同じような効果の生じる行為も禁止されている(2条8項)。たとえば,一度販売するものの,数日間のうちに返せば,レンタル料相当分のみ差し引いて売買代金を返還するといったようなやり方は脱法行為として禁止される。
(4)書籍に関する特例と近時の問題
書籍または雑誌の貸与については,当分のあいだ,貸与権にかんする規定は適用されないとされ(附則4条の2)、有償での貸与は自由であった。これは,貸本屋が長年にわたって存在してきた歴史的経過と,それが零細な事業として営まれてきたため、権利者に対する経済的影響も少なかったという理由にもとづいている。
ただ、近年の相当規模のレンタルブック店が出現するなどして、権利者に対する経済的影響が看過できなくなってきたため、平成16年著作権法改正で、上記附則は廃止された(平成17年1月1日施行)。
(5)譲渡権との関係
ところで、この貸与権という権利を譲渡権との関係で考えると整合性があるのかという疑問がなくもない。つまり、権利の消尽規定により譲渡権は一度適法な譲渡がなされたら消尽するので、その複製物の所有者は以後自由な処分(譲渡)が可能になる。ところが、貸与はできない。譲渡ができるのに貸与ができないというのは不合理に思われるが、貸与の場合は複製物の増製物が作成されるために、著作者に与える経済的影響が大きいということが、貸与を禁ずる理由となる。
6 頒布権
(1)頒布権一般
著作者は,その映画の著作物をその複製物により頒布する権利を専有する(26条1項)。
頒布権の対象となるのは、条文の文言に従えば「映画の著作物の複製物」(「プリント」という。)である。頒布権は,映画著作物についてのみ与えられている権利であるが、実はこの権利は、本来、パッケージ型ビジネスにおいて働く権利ではなく、集客型ビジネスにおいて働く権利と理解するのが正確である。なぜなら、頒布権とは、劇場用映画に関し、権利者の意図しない上映をコントロールすることが困難なため、その前段階にある頒布のところでコントロールする手段を与えることを目的とするものであって(加戸講義、田村概説160乃至161頁、「中古ゲームソフト事件」中の判示)、これは上映(集客型ビジネス)に関連する権利だからである。
すなわち、劇場用映画の場合は、権利者が、映画の複製物の頒布先を指定したり,頒布区域を限定したり,また頒布期間を指定などする映画フィルムの配給制度が存在する。そして、この配給制度により流通ルートや上映に関する場所や時期をコントロールして効率的に興行収入をあげるという実態があるために、この流通コントロール権を著作者に認めたのが、「頒布権」である。
ただ、劇場用映画もこれがビデオ化されて販売される場合は、その方法はまさにパッケージ型ビジネスの一形態であり、仮にこうしたビデオテープという映画の複製物にも頒布権が働きその流通をコントロールすることができるならば、頒布権はパッケージ型ビジネスにおいて働く権利として分類されてもよいことになる。
ところで、頒布権の特徴は、権利の消尽に関する規定がないので、譲渡が何度繰り返されても譲渡のたびに権利が働くというところにある。前項で説明した譲渡権の場合は第一回目の適法譲渡により消尽するのに対し、頒布権は適法譲渡が行われても消尽しない。したがって、この権利は、複製物をどこまでも追求してこれをコントロールすることができる権利であり、複製物の流通全体を支配しうる強力な権利である。仮にこの権利がパッケージ型ビジネスにおいても働くということになれば、複製物の2回目以降の譲渡を禁止できるので、中古品が譲渡されるたびに許諾料をとれることになる。
したがって、この頒布権が、劇場用映画の複製物(プリント)以外、すなわちパッケージ型ビジネスでも働らくことを許容できるかが問題になる。尚、著作権法は、「頒布」の意味を「有償であるか無償であるかを問わず、複製物を公衆に譲渡し、又は貸与すること」といい、映画の著作物の場合は、さらに、「映画の著作物を公衆に提示(上映)することを目的としてその複製物を譲渡し、又は貸与する場合は、たとえ、公衆に対するものでなくても、頒布に含まれる」と規定している(2条1項19号参照)。したがって、上記文章を形式的に解釈すれば、ビデオテープなどの譲渡にも、頒布権は働くことになる。
(2)頒布権が付与される著作物の範囲-ゲームソフト
この問題が大きくクローズアップされたのは、ゲームソフトの中古販売の問題である。
これまで判例は、上映権が問題となった事案で、ビデオゲームを映画の著作物と判示してきた。著作権法は、「映画の著作物」を、映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物を含むと定義している(2条3項)が、例えば「パックマン事件」*3 では、オーディオ・ビジュアルな画像・音声は,表現方法,存在形式,内容の側面から見て映画と同等のもので,「映画」の著作物に該当すると判示した。その後もビデオゲームの映画としての著作物性が争われた多くの事案で同様の判断を行い、ゲームソフトを「映画の著作物」であるとしてきたのである。
そうすると、ゲームソフトが「映画の著作物」であれば、ゲームソフトの著作者は、これに対して頒布権をもつという解釈が可能である。「中古ゲームソフト事件」*4 では、この解釈を前提に、ゲームソフト・メーカーが、ゲームソフトの中古販売業者に対して頒布権を行使し、その販売の差止請求を行った。判例は、ゲームソフトが映画の著作物に該当すること、したがって、その複製物に頒布権が付与されことを是認したものの、権利は消尽するとした。その理由は、i)著作物の複製物が市場で流通する場合には,譲受人はこれを自由に再譲渡をすることができることを前提に取引行為が行われるものであって,仮に,再譲渡を行うたびに著作者の許諾が必要ということになれば,市場における円滑な流通が妨げられ、ii)他方,著作者は,複製物を自ら譲渡するに当たって譲渡代金(許諾料)を取得しているのであるから,その代償を確保する機会は保障されており、再譲渡がある際に二重に利得を得ることを認める必要性はないというところにある*5。
結局、パッケージ型ビジネスにおいては、譲渡権と同じレベルでしか働くことのない権利であるとしたのである。
*3 東京地裁平成6年1月31日(判時1496号111頁、判タ867号280頁)
*4 最高裁平成14年4月25日判決(東京事件・判時1785号9頁、判タ1091号87頁、大阪事件・判時1785号3頁、判タ1091号80頁)東京地裁は、ゲームソフトは映画の著作物ではないとして頒布権に基づく販売行為差止を求めることはできないとしたが、大阪地裁は、これとは全く逆に、ゲームソフトを映画の著作物として認め、差止を認めた。その後、東京高裁は、ゲームソフトを映画の著作物であると判示した上で、「26条1項にいう複製物には、大量生産されるものは想定されておらず、同条項にいう複製物に該当しない。」すなわち、「ゲームソフトの複製物には頒布権は付与されない。」と判示した。また、大阪高裁は、ゲームソフトを映画の著作物であると判示した上で、「映画の著作物の中で頒布権を認めるものとそうでないものを区別をしていないので、ゲームソフトの複製物にも頒布権は付与されている」と判示した。ただ、第1譲渡で消尽しているとした。
*5 こうした結論は、学説においても、当然のこととするものが多い。例えば、中山信弘「工業所有権法」332頁(84頁???)、田村概説160頁
(3)判例の射程
これによって、ゲームソフトについては、いったん適法に譲渡がなされると頒布権は消尽することになったが、これがビデオカセット(ビデオ化された映画の複製物)にも適用になるのかどうか明確でない。ただ、上記判例の判示するところを前提にすれば、ビデオカセットを特別に扱う理由はないであろう。
「中古ビデオソフト事件」*6 では、ビデオソフトの製作販売会社が、その中古品を販売する販売事業者に対し、頒布権に基づき、販売差止を求めた事案であるが、本判例は、上記最高裁判決は,家庭用テレビゲーム機用ソフトウェアの頒布権が問題となった事案について判断したものであるが,ビデオソフトは,配給制度による上映により公衆に提示することを目的としていない点において,家庭用テレビゲーム機用ソフトウェアと同じであり,市場における商品の円滑な流通を確保するなど,上記最高裁判決が挙げる観点からみた場合にも,家庭用テレビゲーム機用ソフトウェアと変わるところはないので、上記最高裁判決が定立した権利尽の原則は,ビデオソフトにも当てはまるというべきであるとし、頒布権は第一譲渡により消尽するとしている。
*6 東京高裁平成14年11月28日判決(最高裁ホームページ)。尚、最高裁判決の前に出された東京地裁平成14年1月31日判決(最高裁ホームページ)でも、第一譲渡により消尽すると判示している。
(4)中古品販売に対する立法論
デジタル複製物さらには、複製物一般に、権利者のコントロール権を付与すべきであるという主張がある。
すなわち、デジタル方式による複製は、不可視的複製であり、機器を用いて再生してその内容たる著作物を知覚することができる。そのため、本や写真が使用によって汚損すればその複製物としての価値が下がるのと異なり、デジタル方式の複製物の場合は、パッケージが汚損しても再生される文字・音・映像に劣化はないから、複製物の価値の減少を直接にはもたらさない。
そうすると、デジタル方式の複製物に関しては、中古市場が活況になる素地がある。この典型的な市場が、ゲームソフトの中古市場であった。また、近年は、デジタル複製物ではない、一般の書籍に関しても新古書店が登場し、書籍の中古市場の発展を見ている。
こうした状況が発生すると、中古市場は新品の売上に打撃を与える一方で、著作者には何の利益の環流もないのであるから、著作者としては当然そこに権利行使をしたい、すなわち禁止権を行使したいと考えるのは当然である。
しかしながら、著作権法の解釈論及び上記判例からすれば、一般の書籍はもちろんのこと、デジタル複製物に関しても、権利行使はできないことになる。
立法論として、消尽しない頒布権、もしくは譲渡権が付与される可能性はあるか。これも難しいであろう。なぜなら、適法な譲渡によって権利が消尽することは知的財産権全体における確立した考え方であり(商品を買ってきたらこれを自由に処分する権限も取得する。)、著作権法に関しても、平成11年改正において、譲渡権の規定を置くとともに消尽に関し明文の規定を置いたところである。したがって、著作者の要求の実現は、立法論的にも断たれたといえよう。
第3 ノンパッケージ型ビジネスに関する権利
1 公衆送信権
(1)権利一般
著作者は、その著作物について、公衆送信を行う権利を専有する(23条1項)。公衆送信とは、放送、有線放送、送信など、送り手から離れたところにいる公衆に対して著作物を送信することをいうが、これによって著作者は、自己の著作物が公衆送信されるところで権利を行使することができる。これは、ノンパッケージ型ビジネスにおいて働く権利である。
歴史的に見ると、まず、著作物の複製物を流通させる方法が誕生し、そのため複製権が支分権の中で中核的地位を占めていた。その後、放送や有線放送などのように複製物を介することなく著作物を流通させる技術が誕生し、発展普及してきたのであり、ここで著作者が権利行使するために放送権や有線放送権が付与された。
そして従来の放送や有線放送といった送信技術に加え、近年はインターネットの発展・普及にともない、インタラクティブ送信(公衆のアクセスに応じて著作物を送信する形態)という形態による著作物の流通手法が非常に重要なものとなってきた。そのため、このインタラクティブ送信に対する権利の行使を可能とするために、平成9年の著作権法改正で送信概念の整理が行うとともに、権利の範囲が拡充されたのである。
そこでまず、公衆送信概念について説明する。
「公衆送信」とは、公衆によって直接受信されることを目的として、無線通信又は有線電気通信の送信を行うことをいう(2条1項7の2号)。すなわち、無線であるか有線であるかを問わず、直接公衆に向けて送信を行う全ての形態が公衆送信である。「公衆によって直接受信されることを目的として」という意味は、例えば、中継車から放送局に無線通信する(公衆に対する送信ではない。)ような場合の送信を除く趣旨である。
そして著作権法は、この「公衆送信」を送信の具体的形態に応じて、「放送」、「有線放送」、「自動公衆送信」、「その他の公衆送信」と四つに細分化し、それぞれについて若干異なる権利の内容を定めている。

2 放送権
著作者は,著作物を放送する権利を専有する(23条1項、2条1項8号)。
これによって著作者は、自己の著作物が放送されるところで権利を行使することができる。
「放送」とは,「公衆によって同一の内容の送信が同時に受信されることを目的として行う無線通信の送信」である(2条1項8号)。すなわち、公衆に対し、同一内容・同時送信(一斉同報)の形態で、無線による送信を行うことである。具体的には,地上波放送、BS衛星放送、CS衛星放送などのテレビ放送、短波、AM、FMなどのラジオ放送などである。また、アナログ放送であっても,デジタル放送であっても放送である。ただ、「公衆によって直接受信される」必要があるので、カメラを備えた放送局の中継車から放送局へ送信したり、キー局からネット局へ送信することなども「放送」ではない。
また、放送事業は許認可事業であるが、著作権法は許認可を受けていることを放送の要件とはしていないので、許認可を受けていない海賊局などの無線通信の送信も放送であって、放送権は及ぶ。
具体的にどのような利用の仕方が、禁止権の対象となるか見てみよう。
言語著作物の場合、その原稿をカメラで撮影して放送することが著作物の放送である(映像の放送)。また、この原稿を朗読してその音声を放送することも著作物の放送である(音声の放送)。
音楽著作物の場合、その五線譜をカメラで撮影して放送することが著作物の放送である(映像の放送)。また、音楽を演奏して(生演奏)その音を放送することも著作物の放送である(音の放送)。さらに、演奏が録音されている音楽CDを再生してその音を放送することも音楽の放送である(音の放送)。
美術著作物の場合、絵画などをテレビカメラで撮影して放送することが著作物の放送である(映像の放送)。さらに、これを録画し、その録画物を再生して放送することも美術著作物の放送である*7。
*7 放送権は、生(ライブ)だけではなく、録音・録画物を用いた放送にも及ぶ。
3 有線放送権
著作者は,著作物を有線放送する権利を専有する(23条1項、2条1項9の2号)。
これによって著作者は、自己の著作物が有線放送されるところで権利を行使することができる。
「有線放送」とは,「公衆によって同一の内容の送信が同時に受信されることを目的として行う有線電気通信の送信」をいう(2条1項9の2号)。有線の送信である点において無線による「放送」と異なる。
具体的には、難視聴地域解消のためのCATV、大規模・多チャンネルの都市型CATV、音楽有線放送などが「有線放送」である。ただ、「公衆によって直接受信される」必要があるので、キー局からネット局へ有線通信回線を利用して送信することなどは「有線放送」ではない。
尚、有線放送事業を行うにも許可、届出、登録などが必要であるが、これらの手続きを怠った事業者が行う有線放送にも、有線放送権は及ぶ。
4 自動公衆送信権
著作者は,著作物を自動公衆送信する権利を専有する(23条1項、2条1項9の2号)。平成9年の著作権法改正により、「自動公衆送信」という概念を創設し、インターネット上での典型的な送信形態であるインタラクティブ送信について、これに権利が及ぶことを明確にした*8。
これによって著作者は、自己の著作物が自動公衆送信されるところで権利を行使することができる。この権利は、ノンパッケージ型ビジネスにおいて働く権利である。さらには、自動公衆送信の準備行為である「送信可能化」という行為にも著作者の権利が働くようにしている(次項参照)。
「自動公衆送信」とは,公衆からの求めに応じて自動的に行うもの(放送又は有線放送に該当するものを除く*9。)をいう(2条1項9の4号)。「公衆からの求めに応じて送信が行われる」点において「放送」や「有線放送」と異なる。すなわち、「放送」や「有線放送」が公衆に対し一方的に、同一内容の送信を同時に行っているのに対し、「自動公衆送信」は公衆の個々の要求に応じて、異時送信を行い、コンテンツの内容も同一である必要はなく、その要求に従ったものを送信しているということになる。ただ、ストリーミング技術の進歩により、両者の区別が不透明になってきている(区別の意義及び方法について、第6章第4節参照)。また、送信が「自動的に行われる」点において「その他の公衆送信」と異なる。つまり、この送信は、インタラクティブ(双方向)である点と自動で送信がなされる点に特徴があることになる*10。
自動公衆送信は、公衆がインターネット網に接続されたサーバにアップロードしてあるホームページにアクセスし、サーバから公衆のパソコンなどの端末に著作物が送信されるというのが典型例である。
自動公衆送信においては、有線か無線かの区別はない。現在は、NTTの電話回線とインターネット網を利用した有線送信である場合が典型であるが、その経路の途中に、例えばiモードのようにインターネット網とユーザーの間は無線送信が行われていたり、また全ての送信経路が衛星による無線送信であったとしても、いずれも「自動公衆送信」という概念に含まれる。
*8 改正前においても、「有線送信権」という権利が付与されており、インターネット網が有線で接続されている限り、インタラクティブ送信に対してこの権利が働くことになっていた。ただ、インタラクティブ送信が無線の方法で行われた場合には著作者の権利が働かないことや、著作物がサーバにアップロードされた段階で権利が働くべきとする要請があったこと、著作者以外の著作隣接権者にも一定範囲で権利を付与する必要があったことなどから、自動公衆送信という概念を新たに創設して権利の拡充をはかり、公衆送信という大枠の送信概念の中で用語の整理を行った。
*9 ここで、「放送又は有線放送に該当するものを除く。」とは、最初のアクセスがあった瞬間から、同一内容・同時受信のための送信が開始・継続されるとい送信形態がありうることを想定したためこれを除く趣旨という(加戸講義38頁)。文化庁=通産省編・改正解説60頁以下も同旨。
*10 この送信をインタラクティブ送信というのが通常である。しかし、インタラクティブ(双方向)というのは、情報が双方向にやりとりされるときに双方向というはずである。現在使われている手法は、アクセスがあって送信するというものであり、カタカナを使うなら、オンディマンド送信が正確である。ただ、加戸講義37頁は、かってはオン・デマンドと呼ばれることが多かったが、放送・有線放送に該当するニア・オン・デマンドについてオン・デマンドという用語が用いられるようになったので、1996年頃から、先進国を中心にインタラクティブ送信という言葉が主に用いられているという。
ネットワーク型ビジネスで働く権利
自動公衆送信は、まず、ノンパッケージビジネスにおける著作物の利用方法であるが、送信結果として、一般大衆の手元で送信された著作物の複製物が簡単に作成される(ダウンロード型配信)。そして、送信は個別の要求に従って行われるのであるから、有体物を介することなく複製物を頒布しているものであって、その機能は従来のノンパッケージ型ビジネスというよりもパッケージ型ビジネスに近い(第1章第4節(1)参照)。今後は、パッケージ型ビジネスに取って代わる可能性がある。
5 送信可能化
平成9年著作権法改正では、自動公衆送信権に加え、その準備段階である送信可能化についても権利の対象とした(23条1項)。
これによって著作者は、自己の著作物が自動公衆送信される前段階である送信可能化されるところでも権利を行使することができる。
このように準備段階の行為まで著作者の権利が及ぶものとしたのは、インターネットの世界の中で著作者の権利を強固なものにしようという目的からであろう。著作者に送信可能化権を与えると、準備段階の行為から禁止権の対象として権利を行使できるし、訴訟においても、著作物が送信可能化されているということを立証すれば、それ以上に、ある特定の相手方に対し実際に自動公衆送信されたというところまで立証しないですむので、著作者の権利保護としては、大変手厚いものになる*11。したがって、送信可能化権は、インターネットの特徴を勘案し、著作者の権利保護に最大限配慮したものである。
*11 立法の経緯とWIPO著作権条約との関係について、南亮一「平成9年改正法」(著作権法令研究会・通産省知的財産室編、「著作権法・不正競争防止法改正解説」62及び63頁、有斐閣、1999年)、(以下、「文化庁・通産省解説」という。)参照
「送信可能化」の具体的行為態様は、以下の通りである(2条1項9の5号)。
- ① まず、自動公衆送信する機能をもつ装置(つまりリクエストがあれば自動的に情報を送信する機能を備えたサーバーやホストコンピュータのこと、以下「サーバー」という。)が既に公衆電気通信回線(パソコン通信やインターネットなど)に接続されている状態であるときに、以下のいずれかの行為を行うことである(イ号参照)。
- i) サーバーの公衆送信用記録媒体に情報を記録する。
- サーバー内の、そこに情報を記録すれば自動公衆送信されてしまう領域に情報を記録して送信可能化する態様である。著作物(ホームページ)をサーバーの自動公衆送信用ハードディスクにアップロードすることなどである。
- ii) 情報が記録された記録媒体をサーバーの公衆送信用記録媒体として加える。
- すでに情報が記録されたCD-ROMなどの記録媒体をサーバーに挿入するなどして送信可能化する態様である。この場合、サーバーのハードディスク上に情報は記録されないが、これも送信可能化の一態様である。
- iii) 情報が記録された記録媒体をサーバーの公衆送信用記録媒体に変換する。
- サーバーのハードディスクの領域の中に、記録があれば自動公衆送信されてしまう領域とそうでない領域がある場合に、ディレクトリの名称を変更するなどして前者に変更することで送信可能化する態様である。
- iv) サーバーに情報を入力する。
- 生中継のインターネット放送などのように、著作物の固定が全くない状態で送信可能化する態様である。
- ② 次に、サーバーのハードディスクに情報が記録されるなどしており、いつでも送信が可能な状態にあるのだけれども、そのサーバーがいまだ公衆電気通信回線に接続されていない状態であるときに、このサーバーを公衆電気通信回線に接続する行為である(ロ号参照)。そして、現実の接続には、配線、サーバーの始動、送受信用プログラムの起動その他の一連の行為により行われるので、一連の行為のうち最後のものを接続行為と評価する(かっこ書参照)*12。
*12 音楽CDをMP3形式で複製したファイルを無許諾でインターネット上で交換する行為は、権利者の送信可能化権(及び自動公衆送信権)を侵害する(第10章第5節4、ファイルローグ事件参照)。
6 その他の公衆送信
最後に、「公衆送信」のうち、「放送」「有線放送」「自動公衆送信」から漏れたものを「その他の公衆送信」という。例えば、電子メールで要求があった公衆に対して手動で著作物を送信する場合は、要求に対して自動的に送信するわけではないので、その他の公衆送信ということになる*13。
これによって著作者は、自己の著作物が放送、有線放送、自動公衆送信以外の方法で公衆送信されるところでも権利を行使することができる。
*13 「自動公衆送信」と「その他の公衆送信」の区別について、第6章第5節第4参照。
7 公衆送信権の及ぶ範囲
① 受信装置を用いた伝達権
著作者は、公衆送信されるその著作物を受信装置を用いて公に伝達する権利を専有する(23条2項)。
すなわち、公衆送信権の働く範囲は、送信行為の後の受信装置を用いて受信した著作物を公衆に見せ、又は聞かせる行為にまで及ぶ。したがって、公衆送信された映像や音楽などを用いて公衆に視聴させる行為には公衆送信権が及ぶ。ただし、放送及び有線放送に限っては、通常の家庭用受信装置(家庭用のテレビやラジオ)を使って公衆に視聴させる行為には、権利制限規定により適用が排除されている(38条3項後文)。
尚、この規定は、公衆送信権の延長線上にある権利として規定されているが、ビジネス形態から見れば、集客型ビジネスにおいて働く部分である。
② 同一構内での送信
著作権法は、「公衆送信」の概念に関し、有線電気通信設備で、その一の部分の設置の場所が他の部分の設置の場所と同一の構内(その構内が二以上の者の占有に属している場合には、同一の者の占有に属する区域内)にあるものによる送信(プログラムの著作物の送信を除く。)を除くと規定している(2条1項7の2号)。
これは、有線電気通信設備を用いてする同一構内での著作物の送信には、仮にそれが公衆に対するものであっても公衆送信権は及ばないとしたものである。これは、例えばあるコンサート会場で、演奏をマイクで拾って多数のスピーカーで流すような行為を公衆送信概念から除く趣旨である。ただ、こうした形態に公衆送信権が及ばないという意味は、基本的には、「口述権」、「上演権」、「演奏権」、「上映権」などの集客型ビジネスにおける権利が働くということであって、著作者の権利が全く働かないという意味ではない*14 *15。
*14 これは、基本的には、集客型ビジネスの範囲であれば口述権が働き、ノンパッケージ型ビジネスと見るべきところでは公衆送信権が働くという構成をとっているというように理解されるべきものである。
*15 齋藤浩貴「一時的蓄積と複製に関する実際的考察」『著作権法と民法の現代的課題』245頁以下(2003年、法学書院)、作花詳解255頁も同旨。
プログラム著作物に関する特例
プログラムの著作物の場合は、たとえ同一構内でっても公衆送信権が働くことになっている。
これは、プログラムの複製物を1つだけ購入し、同一構内にあるLANを用いて、ホストコンピュータから各端末のRAMに送信して利用するという行為に権利を及ぼす趣旨である。各端末で複製すれば複製権侵害となるが、RAM上での一時的再製にとどまっている限り複製があるとは認められないし(本章第6節、1、(4)参照)、またプログラム著作物の場合は口述権、上演権、演奏権、上映権なども働かない。しかしながら、このような利用形態においては、本来であれば端末の台数分のプログラムが購入されてしかるべき場合であって、これを許せば著作者の経済的利益を不当に損ねることになるので、同一構内の送信であっても公衆送信権が働くことにしたものである。
そうであるなら、権利が働く対象となるべき著作物は、プログラム著作物に限定される理由はないはずである。例えば、データベース著作物についても権利が働くとすることが合理的であろう*16。

*16 作花詳解256頁参照。
第4 集客型ビジネスに関する権利
1 口述権
著作者は,その言語の著作物を公に口述する権利を専有する(24条)。
「口述」とは,朗読その他の方法により言語著作物を口頭で伝達すること(実演に該当するものを除く。)である(2条1項18号)。講演、講義、物語の朗読等がこれにあたる。
これによって著作者は、自己の言語著作物が口頭で伝達されるところで権利を行使することができる。
実演に該当するものを除くとされているが、これは口頭の伝達行為に演技の要素が含まれるもの(例えば、漫才など)は、次の「上演」に含まれるとする趣旨である。
口述権が働くのは、口述が「公に」なされた場合に限られる。「公に」とは、公衆に直接見せ、又は聞かせることを目的とする。したがって、自分の部屋の中で口述したりする行為には口述権は働かない。
また、「口述」には,著作物の口頭による伝達だけでなく,その録音・録画物を再生することも含む(2条7項)。尚、言語著作物の内容をディスプレイ画面などに表示する場合は上映権が働く。
さらに、口述には、口述を電気通信設備を用いて伝達すること(公衆送信に該当するものを除く)を含む(2条7項)。すなわち、公衆の面前で口述を行わなくても、口述している場所から通信手段を介して聴衆に見せ、聞かせるようなものも「公に」の概念に入る(作花236頁)。公衆送信との切り分けについては、第3章第4節、7、②参照。
2 上演権
著作者は,その著作物を,公に上演する権利を専有する(22条)。
「上演」とは,演奏もしくは歌唱以外の方法によって著作物を演ずることをいう(2条1項16号)。したがって、この権利は、劇場などで行われる演劇、日本舞踊、浄瑠璃、歌舞伎、狂言、能、バレエ、ミュージカル、オペラ*17 などにおける脚本や舞踊の著作物の利用に関するものである。
これによって著作者は、自己の著作物が演ずる方法で伝達されるところで権利を行使することができる。
「上演」の意義であるが、この上位概念として「実演」があり、これは、著作物を、「演劇的に演じ」、「舞い」、「演奏し」、「歌い」、「口演し」、「朗読し」、又はその他の方法により演ずること(これに類する行為で、著作物を演じないが芸能的な性質を有するものを含む。)をいう(2条1項3号)*18。そして、このうち、演奏(歌唱を含む。)以外の方法により著作物を演ずることを「上演」という(2条1項16号)。結局、「実演」の中から、まず、著作物を演じないものが除かれ、また、演奏(音楽を対象としており、別途演奏権の対象となる。)が除かれたものが上演である。

上演権は公の上演だけを対象とし、自分の部屋で脚本を演じても上演権は働かない。
また、上演権は,生の上演だけでなく、録音・録画物を再生する場合にも働く(2条7項)。
上演には、上演を電気通信設備を用いて伝達すること(公衆送信に該当するものを除く)を含む(2条7項)のは、口述の場合と同様である。
*17 バレエ、ミュージカル、オペラは、音楽の演奏という要素もあわせもつ。
*18 「実演」は、著作隣接権の対象となる(第6章第2節第1、2参照)。
3 演奏権
著作者は,その著作物を,公に演奏する権利を専有する(22条)。
「演奏」とは,楽曲を奏でること、もしくは歌唱することである(2条1項16号参照)。この権利は、音楽著作物の利用に関する権利である。
これによって著作者は、自己の著作物が演奏する方法で伝達されるところで権利を行使することができる。
演奏権が働くのは、公の演奏だけなので、風呂の中で歌を歌ったりする行為には演奏権は働かない。また、演奏会の前に練習をするような場合には、公衆に直接聞かせることを目的としていないので演奏権は働かない。また、レコーディングのために、アーティストが演奏・歌唱する行為にも演奏権は働かない。
演奏には、生演奏だけでなく、録音・録画物の再生を含み、また、演奏を電気通信設備を用いて伝達すること(公衆送信に該当するものを除く)を含むことは、上演の場合と同様である(2条7項)。
これは、録音・録画物の再生を生演奏と同視するものであるが、音楽の場合の録音物の典型は,レコードや音楽CDである。レコードや音楽CDは世の中で広く販売されているが,著作者の許諾を得ないでこうしたレコードや音楽CDを公衆に聞かせることは,著作者の演奏権の侵害になるということである。ただ、この規定には、大きな例外規定(経過措置)がおかれていた。
演奏権にかかる経過措置(附則第14条)とその廃止
著作権法は、録音・録画物の再生に対しても演奏権が働くことにしているが、旧附則第14条において、音楽演奏の適法録音物(典型的には、音楽CD)の再生に関しては、政令で特に指定した営利事業で再生利用が行われる場合を除いては、当分の間、出所の明示を要件として自由に行うことができることにしていた(附則14条)。
この経緯は、現行著作権法の施行以前(昭和45年)においては、適法録音物を再生演奏して興行や放送で利用することは出所の明示をすれば自由とされていた(旧著作権法第30条1項8号)ところ、現行著作権法はこうした再生演奏にも演奏権が働くことにした。このこと自体は画期的なことであったが、適法録音物の再生演奏についてBGM利用も含め営業上の利用の全てを直ちに演奏権の対象とすることは喫茶店,ホテル,パチンコ店などように来客へのサービスとしてレコードや音楽CDを流していた事業者に対する影響が大きすぎて混乱が生じることが懸念された。そのため、①喫茶店その他客に飲食をさせる営業で、客に音楽を鑑賞させることを営業の内容とする旨を広告し,又は客に音楽を鑑賞させるための特別の設備を設けているもの,②キャバレー、ナイトクラブ、ダンスホールその他フロアにおいて客にダンスをさせる営業、③音楽を伴って行われる演劇、演芸、舞踊その他の芸能を観客に見せる事業を政令指定し(旧施行例附則3条)、上この事業以外については、適法録音物の再生演奏に対して、演奏権は働かないことにしていたのである。
しかしながら、①附則14条は、「当分の間」と規定してるにもかかわらず、すでに約30年が経過していること、②本条のような規定は諸外国に例をみない、特殊なものであること、③音楽CDを用いて再生演奏を行って音楽を利用してきた喫茶店などの施設では、有線放送を用いた方法に転換してきており(これは23条2項に規定する公の伝達権の対象となる利用行為であり著作者の権利が働く。)、現在においては、14条を廃止しても社会的な混乱が起きるほどの影響はないと考えられること、といった理由で、平成11年度著作権法改正において、これを廃止することになった(加戸講義770頁参照)。そのため、現在は、レコードや音楽CDを再生して公衆に音楽を聞かせる行為については、原則通り演奏権が働くことになる。
カラオケと演奏権
カラオケに対する演奏権の働き方については、カラオケ事業者と著作者との間に激しい論争があり、多くの裁判例があるが、現在では、次のような形で概ね確定している。
(1)スナックやクラブなどの場合
① 伴奏について
演奏の主体が店であることに争いはない。権利の働き方は、以下の3つの場合がある。
- ⅰ)生バンド
- 生バンドの伴奏音楽の演奏については、演奏権が働く。
- ⅱ)適法録音物
- 音楽CDなどの適法録音物の再生による場合は、旧附則14条の廃止前は、演奏権が働くかどうかについて争いがあった。旧附則14条は、政令指定されている営業以外では適法録音物による再生演奏には演奏権は働かないと規定しているので、カラオケ機器を用いた営業が政令指定の営業に該当するか、すなわち、カラオケ機器が「客に音楽を鑑賞させるための特別の設備」に該当するかどうかが争点となった。「客に音楽を鑑賞させるための特別の設備」とは、「通常の店舗におけるレコード演奏に比してその演奏効果を一段と高めるような設備又は音楽鑑賞に直接の対価を徴収する設備」をいうという見解(すなわち、カラオケ装置は特別の設備に該当しないという見解*19 )もあったが、その該当性を肯定して旧附則14条の適用はないとし、演奏権が働くとする裁判例も多く出された*20。
ただ、現在では、旧附則14条が廃止されたので、演奏権が働くことに争いはなくなった。 - ⅲ)適法録画物
- レーザー・ディスクなどの再生による場合は、適法録画物の再生(映画の上映)であって旧附則14条の適用はなかった*21。したがって、映像の再生ともに伴奏音楽が再生演奏されることには上映権が働く。また、歌詞の文字表示部分についても上映権が働くことになる。
*19 加戸守行「著作権法逐条講義・改訂新版」(1994年、社団法人著作権情報センター)661頁
*20 カラオケボックスに関するものであるが、「カラオケルーム・ネットワーク事件」大阪地裁平成9年12月12日決定(判時1625号101頁)、「カラオケボックス・ビッグエコー事件」東京地裁平成10年8月27日判決(判時1654号34頁、判タ984号259頁)、同東京高裁平成11年7月13日判決(判時1696号137頁、判タ1019号281頁)。尚、「クラブ・キャッツアイ事件上告審」最高裁昭和63年3月15日判決(判時1270号34頁、判タ663号95頁)の伊藤正己裁判官の少数意見では、「特別の設備」に準ずるものであるという。
*21 「スナック魅留来事件」大阪地裁平成6年3月17日判決(判時1516号116頁、判タ867号231頁)、「クラブ・明日香事件」広島地裁福山支部昭和61年8月27日判決(判時1221号120頁、判タ612号34頁)、前掲「カラオケボックス・ビッグエコー事件」
② 歌唱について
歌唱の側面に、演奏権が働くかについても争いがある。
歌唱行為の主体は、これを物理的に見る限り客である。そうすると、伴奏音楽にあわせて客が歌唱する場合、営利を目的としない演奏であるから演奏権は働かない*22。
そこで、著作者側(特に、歌詞の著作者)から、歌唱の主体は客ではなく店であるという主張がなされ、「クラブ・キャッツアイ事件上告審」*23 では、「客やホステス等の歌唱が公衆たる他の客に直接聞かせることを目的とするものであること(22条参照)は明らかであり、客のみが歌唱する場合でも、客は、上告人ら(店)と無関係に歌唱しているわけではなく、上告人らの従業員による歌唱の勧誘、上告人らの備え置いたカラオケテープの範囲内での選曲、上告人らの設置したカラオケ装置の従業員による操作を通じて、上告人らの管理のもとに歌唱しているものと解され、他方、上告人らは、客の歌唱をも店の営業政策の一環として取り入れ、これを利用していわゆるカラオケスナツクとしての雰囲気を醸成し、かかる雰囲気を好む客の来集を図つて営業上の利益を増大させることを意図していたというべきであつて、前記のような客による歌唱も、著作権法上の規律の観点からは上告人らによる歌唱と同視しうるものである。」と判示した。そうすると、客を通じて行う店の歌唱行為は営利を目的としない演奏ではないから演奏権が働くことになる。その後も多くの裁判例がこれを肯定している*24。
尚、歌唱の場合は、楽曲と歌詞の両方の利用があることになる*25。
*22 著作権法は、権利が制限される場合の規定をおいており(第7章参照)、営利を目的とせず、かつ聴衆又は観衆から料金を受けない場合には、演奏権は働かないことになっている(38条1項)。
*23 前掲「クラブ・キャッツアイ事件上告審」
*24 「クラブ・キャッツアイ事件」福岡高裁昭和59年7月5日判決(判時1122号153頁、判タ528号308頁)、前掲最高裁判決、前掲「スナック魅留来事件」、前掲「クラブ・明日香事件」など。
*25 使用料の徴収実務につき、安藤・実践編90乃至100頁
(2) カラオケボックスの場合
以上のような判例理論は、個室であるカラオケボックス内での伴奏演奏及び歌唱にも適用になるのかも争点になる。すなわち、伴奏演奏及び歌唱が個室内で行われる場合も、その主体は店であるといえるのか、また、公衆に直接聞かせることを目的として(公に)行われているといえるのかが問題になるからである。
そこで、主体について検討するに、伴奏演奏にしても歌唱にしてもいずれも店の管理下において行われているものであり、かつカラオケやクラブ以上に音楽の利用により直接的に店が利益を得ているものであるから、店の主体性を肯定できるであろう。そうすると、店にとって来店する個々の客は不特定かつ多数であるから、店は公衆に聞かせる目的をもって、すなわち「公に」伴奏演奏及び歌唱していることになる*26。
*26 カラオケ・ボックスに関しこの趣旨を判示するものとして、前掲「カラオケルーム・ネットワーク事件」、前掲「カラオケボックス・ビッグエコー事件」、「カラオケルーム・サザン事件」大阪地裁平成12年11月14日判決(最高裁ホームページ)、「カラオケ債務不存在確認請求事件」東京地裁平成12年12月26日判決(判時1750号153頁、判タ1059号212頁)、「カラオケボックス・ベルショウ事件控訴審」東京高裁平成13年7月18日判決(最高裁ホームページ)
4 上映権
著作者は、その著作物を公に上映する権利を専有する(22条の2)。
これによって著作者は、著作物が上映されるところで権利を行使することができる。
従来、上映権は映画の著作物に固有の権利であり、映画館に公衆を集め、そこで映画の著作物を上映するときに働く権利であった。ところが、映像表示技術が進歩し、公衆に対して、映画だけでなく、写真、美術などの著作物はもちろんのこと、言語、図形、図表等の著作物も上映の方法で提示されるようになってきたので、平成11年改正によってその対象を著作物一般に拡大した。したがって、絵画、写真、図形、図表、さらには原稿などを上映することにも上映権が働く。
「上映」とは、「著作物を映写幕その他の物に映写する」ことをいう(2条1項17号)。「映写幕その他の物に映写する」というと、映画の映写機やプロジェクターなどを用いて像を投射することだけをいっているようにも読めなくもないが、ブラウン管画面や液晶画面などに映し出される場合も映写に含まれると解すべきである(作花詳解251頁も同旨。)。こうした意味で、テレビジョン受像機のブラウン管の画面上やパソコンのディスプレイ画面上やに表示することは上映である。
また、「これにともなって映画の著作物において固定されている音を再生すること」も上映に含む(2条1項17号)。
ただ、上映権は、「公に」上映するときに働く権利であり、著作物を個人がその机の上のパソコンの画面上に表示する行為などには、上映権が働くことはない。ただし、ビデオブースのようなものでも不特定の者が視聴できれば権利の対象となる。
公衆送信権との切り分け
公衆送信される著作物を上映する行為に対しては、公衆送信権が働き、上映権は働かない(2条1項17号)。すなわち、公衆送信される著作物の受信装置を用いた公への伝達は、すでに公への伝達権(23条2項)が規定されているので、上映の定義において上映の対象とされる著作物から公衆送信される著作物を除いているのである。したがって、今回の改正により上映権の対象となるのは、公衆送信されるもの以外の著作物の映写ということであり、具体的にいうと、録画物の再生(口述権、上演権、演奏権の働かない範囲)、録画及び送信が介在しない映写、ポイント・ツー・ポイントによる送信後の映写ということである*27。
*27 コピライト
「口述権」、「上演権」、「演奏権」との切り分け
著作物の上演、演奏、口述については、これを電気通信設備を用いて伝達することは、著作物の上演、演奏、口述に含まれる(2条7項)ので、伝達後の上映には上演権、演奏権、口述権が働き、上映権は働かない。また、上演、口述を録画物の再生によって行う場合も、上演権、口述権が働くのであって、上映権は働かない(27条7項)。
5 展示権
著作者は,その美術の著作物または未発行の写真著作物の原作品を公に展示する権利を専有する(25条)。
これによって著作者は、自己の美術著作物などの原作品が展示されるところで権利を行使することができる。
「公に展示する」とは,展覧会とかホテルなどのように公衆が出入りできるような場所に展示することをいう。
尚、この権利の対象となるのは「美術の著作物の原作品」か、「未発行の写真著作物の原作品」である。美術の著作物の原作品の意義についてはすでに説明したとおりである(第2章第2節、1、(2))が、絵画や彫刻などの美術著作物は、原作品に特別な価値があるため、その原作品展示によって経済的利益を獲得することができるので、原作品の展示を禁止の対象としたのである。
ところで、写真著作物に関しては、未発行であることが条件である。写真は、一枚のネガから印画紙に何枚でもプリントできるので、写真は本来、原作品を観念する意味のない著作物である。したがって、ここでの原作品という意味は、美術著作物における「原作品」の意味と異なり、著作者がビジネス界において、原作品と称して頒布する写真著作物の複製物であるということになる。そうすると、複製物一般に展示権を付与したのと同一の結果となるから、未発行であるという要件がつけられているのである。すなわち、公衆の要求を満たす相当程度の複製物が、著作者の許諾を得て作成され頒布されるに至った場合(これを「発行」という。3条1項)にも、その複製物の展示を禁止することまで認めるべきではないので、発行の程度に至っていない限度で、著作者に展示権を認める趣旨である(加戸講義191頁以下参照)。
そうすると、美術の著作物に関しては、条文の規定ぶりからは全ての著作物について展示権が認められているかのように読めるが、上と同じ意味で原作品を観念できない著作物に関しては、写真と同様未発行のものに限られると解すべきである。たとえば、コンピュータ・グラフィックなどがその典型である。また、版画とか、鋳型を用いて作成される彫刻なども同様に解されるべきであろう*28。
尚、展示権には、所有者との間の権利調整規定がある(45条、第7章第5節、1参照)。
また、上述したところから明らかなように、複製物一般の展示についてはこの権利は及ばないので,自由に展示して差し支えない。
また、コンピュータ・グラフィックなどといわれるものを、ディスプレイの画面上で見せる行為は、原作品の展示ではない。展示権(25条)は原作品を生で見せる行為に関する権利であり、他方上映権(26条)は技術的装置を用いて見せる行為に関する権利である。
*28 加戸講義192頁は、手摺り版画のようなものは、原作品だといって作成されれば何十部でも原作品と観念せざるをえないというが、たとえば、コンピュータ・グラフィックなども同様にいうのかは不明である。
第5 使用権
1 使用権
(1)「利用」と「使用」の概念
著作権法を学ぶときの講学上の概念として、「利用」と「使用」という用語がある。
すなわち、著作権法は、複製権、譲渡権、貸与権、頒布権、公衆送信権、口述権、上演権、演奏権、上映権、展示権などの権利を著作者に付与し、著作者以外の人が複製、譲渡、貸与、頒布、公衆送信、口述、上演、演奏、上映、展示などを行うことを禁止する。そして、講学上、著作物の、複製、譲渡、貸与、頒布、公衆送信、口述、上演、演奏、上映、展示などといった経済的利益獲得行為を著作物の「利用」といっている。したがって、著作権は著作物の独占的利用権であり、著作権が働く対象は、著作物の「利用行為」に対してである。
これに対して、著作物を読み、聞き、鑑賞することを、著作物の「使用」という。すなわち、「使用」とは、本を読んだり、絵画や写真を見たり、音楽を聞いたりというような著作物を鑑賞する行為のことである。そして、著作権法は、こうした著作物の「使用」に関しては干渉しないことにしている。著作権法は、著作者に使用権を付与せず、著作物の「使用」はだれでも自由にできることにしているのである(ただし、例外はある)。そうすると、著作物を「利用」するには権利処理が必要となるが、「使用」するにはなんの権利処理も必要でないのである。尚、著作権法の条文上もおおむね上記のような概念で「利用」と「使用」という言葉を使い分けているが、貫徹はされていない*29。
*29 こうした理解の仕方に異議を唱えるものとして、作花詳解730頁
(2)区別の基準
それでは、著作物の「利用」と「使用」の区別の基準はどこにあるのであろうか。まず、実質的な基準は、前述したとおり、経済的利益獲得行為か鑑賞行為という区別である。
次に、形式的意味での基準は、著作権法が、著作者に権利を付与しているかどうかという区別である。すなわち、著作権法が、著作者に権利を付与し、禁止権の対象としている行為を行うことが「利用」ということであり、「利用」に該当しない一切の行為が「使用」ということになる*30。
ただ、著作権法が、その制定時または改正時に、そもそも「利用」と「使用」をどのようにして切り分けて法律を制定又は改正しているのかというと、そこに何らかの理論的な基準があるわけではない。結局は、著作者が、権利獲得闘争の中で権利を勝ち取るかどうかによって決定されるのである。そして、権利を勝ち取ればその権利によって禁止できる行為は利用行為となり、著作物を利用するには権利処理が必要、すなわち、著作者に対価を払って許諾を得ることが必要になる。
この権利獲得闘争という観点から、著作権法が規定する各支分権を見るとき、権利が働く対象となる行為、すなわち利用行為の範囲が年々拡大されてきていることがわかる。パッケージ型ビジネスにおいては、従来、複製行為のみが権利の対象となっており、作成された複製物の提供行為に権利が働くことはなかった。ところが、昭和59年著作権法改正で貸与権が創設され、さらに同11年改正において譲渡権が創設され、複製物の貸与と譲渡は、「使用」ではなく「利用」とされるに至っているのである。また、ノン・パッケージ型ビジネスに関しても、従来の放送、有線放送に加え、平成9年改正において、自動公衆送信権などが創設され、インタラクティブ送信により著作物を伝達する行為が「使用」ではなく、「利用」となった。
この意味では、「利用」と「使用」の区別は政治的、人為的なものであり、かつ流動的なものである。
*30 岡本薫「二十一世紀の著作権法制に係るいくつかの検討課題」(半田正夫先生古希記念論文集『著作権法と民法の現代的課題』533頁~、法学書院、2003年)は、「使用」と「利用」の概念について、「権利が及ばない行為を使用と呼ぶ。」としている。
(3)著作者に使用権を付与することの是非
ところで、これまでは、一般大衆が小説を読み、音楽を聴き、絵画を鑑賞するところでは対価を取得する手段が存在しなかったその把握は困難であり、かつ把握できたとしても現実の徴収方法がないのである。そのために、著作権ビジネスにおいては、著作物の複製や流通の場面で対価を取得する方法が構築されてきたのであり、したがって、著作権法もこの場面での対価取得に関わる行為を禁止権の対象としたきたのである。ところが、デジタル環境とネットワーク環境が実現する現代の情報通信技術は、読み、聴き、鑑賞する場面での課金を可能にする。そして、この方法は、著作物の使用者の観点からしても、何回使用するかにかかわらず一律の料金が徴収されるという従来の方法よりも、使用の量、頻度に応じて料金が徴収されるところに合理性がある。ここにおいて、今後の著作権法のあり方として、現在の支分権を中心とする制度から「使用権」を中心とする制度に構築し直すべきであるとの考え方もありうるところである。
しかしながら、使用者である一般大衆が、契約レベルで、使用の量や頻度に応じて課金される方法を選択することに反対する理由はないが、著作権制度として、権利者に使用権を与え、一般大衆の著作物の鑑賞・使用行為の全てに介入しうるような法制度は、私的領域への過度の干渉であって、法の謙抑性の観点から賛成することはできない。
(4)使用か複製か(一時的再製の問題)
複製行為があったというためには、著作物が有形的に再製される、すなわち著作物が有体物という支持媒体の上に固定される必要がある。したがって、OHPやディスプレイ画面などによる投影は「複製」ではない。しかし、有形的な再製があれば「複製」であって、その存続の時間を問うものではない。したがって、例えば、デジタル著作物をほんの2、3分間ハードディスクに保存すればその後これを消去しても複製があったということになる。
ところで、デジタル著作物の場合は、その内容を知覚して鑑賞するためには、パソコンその他の機器を使って再生しなければならない。この再生の過程では、RAM上にデータが読み込まれる結果、そこに著作物が「再製」されることになる*31。したがって、デジタル著作物を鑑賞し、もしくは使用するときは、必ず、この一時的再製を伴うことになる。そして、この一時的再製が複製であるかどうかということが議論になる。
複製の概念は、一時的か恒久的かを問わないので、当然複製に含まれるという見解があるが、他方で、こうした一時的再製は著作権法上の複製の概念には含まれないという見解があり、後者がわが国における一般的な理解である*32。
ところで、この議論の本質は、従来「鑑賞」もしくは「使用」であって著作権が及ばないとされていた行為に権利を及ぼすかどうか、すなわち権利者に「使用権」を与えたのと同様の権利を付与することが合理的かどうかの問題であると理解すべきである。そして、デジタル著作物に関してこの一時的再製を複製とするときは、著作者は複製権を行使することにより、一般大衆の鑑賞・使用行為をコントロールする権利が付与されることになるといってもよい*33。この結論は、著作権法は著作物の利用行為を規制するものであって、鑑賞・使用行為には干渉しないという建前からは全く容認できないことであるし、こうした鑑賞・使用行為によって著作者の経済的利益が損なわれる現実のおそれもない状況においては法の謙抑性の観点からも合理的でない。また、文理解釈としても、プログラムの業務上の使用に関しみなし侵害の規定をおいている(113条1項)ことからして、一時的再製は複製ではないことになる。
尚、以上の議論は、デジタル著作物を知覚するための再生の過程において生じる一時的再製について議論するものである。したがって、RAM上の蓄積がデジタル著作物の再生に伴うものとはいえない場合(例えば、長時間の通電を前提にした保存の目的)は、それが電源を切ることにより消滅するとしても、複製があると解されることになる(加戸講義54頁も同旨と思われる。)。
*31 デジタルデータがハードディスクなどに保存されるときは、電気信号が磁気信号に変換される。再生の時は、磁気信号が電気信号に変換され、メモリーに蓄積される。メモリーに蓄積することを「ロード」などというが、このときは、メモリー上に著作物が「再製」されている。
尚、一時的再製の議論は、コンピュータ・プログラムに関して議論されることが多いが、デジタル著作物一般の問題であって、プログラム著作物に限定される問題ではない。
*32 「衛星デジタル放送事件」東京地裁平成12年5月6日判決(判時1751号128頁、判タ1057号221頁)は、「複製と言えるためには将来反復して使用される可能性のある形態の再製物を作成するものであることが必要であると解すべきところ、RAMにおけるデータ等の蓄積は、一時的・過渡的な性質を有するものであるから、RAM上の蓄積物が将来反復して使用される可能性のある形態の再製物といえない。」と判示している。
*33 水谷直樹「情報のデジタル化・ネットワーク化と著作権法制の対応」ジュリスト1132、1998.4.15、13頁も「メモリーへの一時的蓄積を複製の範疇に含ませることにした場合には、著作物の使用の際にメモリーへの一時的蓄積を必然的に伴う場合は、これも複製であると判断されることになりかねず、本来自由であるはずの著作物の使用が、複製権のコントロール下に置かれるということにもなりかねない事態が生じてくる。すなわち、小説を、紙に印刷された本で読むことは自由であっても、電子ブックにより読む場合には、複製権のコントロールを受けるということにもなりかねない。」という。
2 海賊版プログラムの使用行為(みなし侵害)
プログラム著作物の著作権を侵害する行為によって作成された複製物を業務上電子計算機において使用する行為は、その使用権原を取得した時に情を知っていた場合に限り、当該著作権を侵害する行為とみなす(113条2項)。つまり、著作者に使用権は付与されていないので、プログラム著作物の違法複製物を購入した者がこれを使用する行為は著作権侵害とはならないはずであるが,複製物を購入するなどして使用する権原を取得したときに違法複製物であることを知っており、かつこれを業務上使用する場合は、著作権侵害行為とみなされる。本に例えると、違法複製物であることを知って本を購入し、これを業務において読むときは、著作権侵害とみなされるということである(もちろん、本の場合はみなされない。)
著作権法は「使用権」という権利は認めていないが、本条項が適用される範囲で、著作権法は著作者に「使用権」を認めたことになる。
これは、プログラムの使用が、芸術作品の鑑賞とは質的に異なるものであって、それが業務上使用される場合は、違法複製物を使用して利益を生む行為であるから、著作者が権利行使できない一方で、業務上の使用者が利益の獲得ができるという状態を是正しようとするものである。
この場合、業務上使用することが要件になるから、これを個人的に使用する場合には本条項の適用はない。
第6 翻案権及び二次的著作物の利用に関する権利
1 翻案権の内容
著作者は,その著作物を翻訳し、編曲し、もしくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有する(27条)。
この権利は、原著作物に依拠してこれに新たな創作性を加えた著作物を作成する権利、すなわち二次的著作物を創作する権利である。いずれの型のビジネスにも関連する権利である。これによって著作者は、自己の著作物が翻案されるところで権利を行使することができる。
尚、翻案権は、原著作物(観念的存在)から二次的著作物(観念的存在)を作成する権利であって、翻案があるというためには二次的著作物が固定(もしくは、複製物の介在)されていることが必ずしも要求されるものではない。
2 翻案権の実体
ところで、翻案権は、経済的利益の獲得行為を禁止するという本来の支分権とは働き方が異なる。すなわち、翻案だけに対価を支払う著作物の利用者はいないのである。対価が支払われるところは、「翻案して利用」するところである。つまり、翻案した著作物(二次的著作物)を、複製、放送、上演するなどして始めて経済的価値が生まれるのであるから、翻案行為それ自体ではなく、その後の利用行為によってはじめて経済的利益を獲得できるのである(この利用行為に関しては、28条が禁止している。)。 そうすると、「翻案権」単独での権利性というものを再考する必要がある。例えば、音楽の著作物を(何の変更も加えることなく)風呂で(公の場でないところで)歌唱しても、演奏権の侵害とはならない。ところが、この音楽の替え歌(翻案があるとしよう)を歌えば、演奏権の侵害はないが、翻案権の侵害があるというのは合理的でない*34。そうすると、翻案権の禁止権としての権利性は否定されるべきである*35。
*34 私的使用のための複製であれば翻案して複製することができる(43条1号)のに、公でない演奏の場合は、翻案して演奏ができないというのは合理的でない。
*35 田村概説113頁以下。ただ、一般的な考え方は、無断で翻案して複製した場合は、翻案権(27条)と複製権(21条)の2つの権利侵害があるというように理解する。
3 二次的著作物の利用に関する原著作者の権利
著作権法は、27条に続けて28条で「二次的著作物の原著作物の著作者は、当該二次的著作物の利用に関し、この款に規定する権利で当該二次的著作物の著作者が有するものと同一の種類の権利を専有する。」と規定する。これは、二次的著作物が利用される場合は、その原著作物もまた利用されるので、二次的著作物の利用に際しては、原著作物の著作者も二次的著作物の著作者が有するのと同様の権利を有することを定めたものである。
原著作物の著作者の権利が、二次的著作物に対する著作者の権利と同様の権利とされる結果、原著作物の著作者の権利は拡大する。例えば、小説が映画化された場合、原著作物(小説)にはなかった頒布権を小説の著作者が有することになる。
尚、二次的著作物に対する当該二次的著作物の著作者の権利と、原著作物の著作者の二次的著作物に対する権利は別個の権利であり、存続期間は別となる。
漫画のストーリーと図柄
漫画の図柄に、原作者(漫画のストーリー部分を創作する者)の権利が及ぶかという問題がある。
漫画においては、原作という言語の著作物を、漫画家が別の表現形式によって翻案をしたものである。そして、ストーリー展開、人物の台詞、コマの構成、図柄、絵などの諸要素が一体となった漫画に対して、原作者の権利が及ぶことに異論はない(28条)。ところが、漫画家が創作した登場人物などの図柄についても原作者の権利が及ぶのであろうか。すなわち、漫画家が、コマの連続によるストーリー展開の側面と全く離れたところで、その図柄だけを単独で利用する場合まで、ストーリーの創作者である原作者の権利が及ぶかということである。
キャンディ・キャンディ出版差止請求事件*36 は、漫画は原稿を原著作物とする二次的著作物であるから、原作者は漫画に対して原著作者の権利を有するものであり、二次的著作物である漫画の利用に関し、原著作物の著作者である原作者は漫画の著作者が有するものと同一の種類の権利を専有すると判示している。
しかしながら、二次的著作物に対して、原著作物の著作者の権利が及ぶのは、原著作物の創作性に依拠して二次的著作物が創作されているからである。そうだとすると、原著作物の創作性に全く依拠せず、二次的著作物の著作者が独自に創作した部分については、原著作物の著作者の権利は及ばないと解するのが正しい論理であろう*37。その意味で、この判例には反対する学説が多い*38。
ただ、判例の思考においては、実質的な経済合理性が反映されていると評価できなくもない。すなわち、漫画の登場人物の図柄がそれなりの経済的価値があるもとして利用されるのは、漫画が人気があるからである。そうすると、原作者の創作部分の貢献なくして漫画の人気は出ないのであるから、漫画の人気から生じる経済的価値を漫画家のみが取得するというのは妥当でないということである。こうした実質論に基づく帰結であるということができる*39。
*36 東京地裁平成11年2月25日判決(判時1673号66頁、判タ1001号229頁)、東京高裁平成12年3月30日判決(判時1726号162頁)、最高裁平成13年10月25日判決(判時1767号115頁、判タ1077号174頁)
*37 同旨、作花149頁以下
*38 作花、辻田芳幸、著作権法と民法の現代的課題193頁以下
*39 前掲高裁は、当該図柄を「キャンディ・キャンディ」という主人公の図柄として利用するから原作者の権利が及ぶのであり、たとえば「花子」という女の子の図柄として利用すれば権利は及ばないという趣旨のことも述べている。
第3節 著作者人格権
著作権法は、著作者は、「著作権」とともに、「著作者人格権」も享有すると規定している(17条1項)。これは、著作者の著作物に対する人格的または精神的利益を保護する趣旨である*40。
著作者人格権の内容は「公表権」、「氏名表示権」及び「同一性保持権」であり(18乃至20条)、また「著作者人格権侵害物輸入行為等」及び「名誉声望毀損行為」を侵害とみなすこととしている(113条1項及び5項)。
これらの権利は、著作者の人格的又は精神的利益を保護するものであるから、著作者の一身に専属し、譲渡することはできないし(59条)、相続の対象にもならない(民法896条但書)。
以下、その内容を説明する。
*40 ただ、この権利を経済的利益の獲得のために行使してはいけないということではない。たとえば、公表や改変を許諾して経済的利益を得ても問題はない。
1 公表権
(1)公表権の内容
著作者は、その著作物でまだ公表されていないものを公衆に提供し、又は提示する権利を有する(18条1項)。これは、未公表著作物を公表するかどうかを決定する権利である。したがって、公表するとした場合にその時期および方法をどうするかについて決定する権利も含む。
(2)二次的著作物
原著作物が未公表の場合、二次的著作物の公表に対しても原著作物の著作者の公表権が及ぶ(18条1項2文)。二次的著作物の公表が自由であるとしたら、原著作物の公表権がその著作者にあるとした趣旨が失われるからである。
尚、公表の意義については、第4条参照。また、18条2項に公表についての同意推定規定がある(第9章、Ⅰ、第3節、2参照)。
2 氏名表示権
(1)氏名表示権の内容
著作者は、その著作物の原作品に、又はその著作物の公衆への提供もしくは提示に際し、その実名もしくは変名を著作者名として表示し、又は著作者名を表示しないこととする権利を有する(19条1項1文)。これは、著作物に著作者の表示を付けるか否か,付ける場合はどんな表示をするかについて決定する権利である。
(2)原作品に対する扱い
氏名表示権は、基本的に、複製物を公衆へ提供し、もしくは提示したりする場合に働く権利であるが(19条1項1文)、原作品については、こうした提供、提示がなくても権利が働く(作花詳解 頁)。つまり、公の場ではない私的領域においても、原作品に著作者名を表示したり、表示された著作者名を削除したり、変更したりすることはできないという趣旨である。
(3)二次的著作物
二次的著作物に対しても、原著作物の著作者の氏名表示権は及ぶ(19条1項2文)。
(4)表示方法
著作物を利用する者は、その著作者の別段の意思表示がない場合は、著作者が表示しているところにしたがって、著作者名を表示することができる(2項)。
また、著作物の利用の目的及び態様に照らし,著作者の氏名表示権を害するおそれがないと認められる場合には,公正な慣行に反しないかぎり,著作者名の表示を省略することができる(3項)。例えば、音楽著作物がバックグランドミュージックとして用いられる場合は、本条項の適用により著作者名を省略できる。
3 同一性保持権
(1)同一性保持権の内容
著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする(20条1項)。
尚、題号については著作物性は否定されるのが一般であるが、同一性保持権は、著作者の意に反した題号の改変を受けない権利をも含む。
(2)翻案権との関係
20条1項にいう「改変」とは、翻案とは異なる概念である。改変とは、創作性が付与されるかどうかとは関係はなく、著作物の同一性に何らかの変更を加える行為の一切をいう。
一般的に無許諾の翻案があれば、翻案権侵害とともに同一性保持権の侵害となるが、翻案権侵害がなくても(創作性の付加がなく、著作物としては同一である場合)著作者の意に反して著作物の同一性に何らかの変更が加えられれば、同一性保持権の侵害となる。
(3)意に反する改変とやむを得ない改変
著作権法は、著作者の意に反する改変に対して禁止権が及ぶとする(20条1項)とともに、やむを得ない改変と認められる場合は、侵害とはならないとする(同条2項、第9章、Ⅰ、第3節、4参照)。
4 海賊版輸入行為等禁止権
海賊版輸入行為等禁止権は、著作者人格権の侵害となるべき行為によって作成された物についても及ぶ(113条1項)。
5 名誉・声望侵害行為(113条5項)
著作者の名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為は、その著作者人格権を侵害する行為とみなす(113条5項)。
芸術作品である裸体画を(複製して)ヌード劇場の立て板に使用する場合などが典型例であるとされる。
尚、ここでいう「利用」という用語は、著作権の禁止権の対象となる利用行為に限定されるべきではない。したがって、「利用又は使用」の用語が適切であろう*41。
尚、著作者が存しなくなった後における人格的利益の保護の規定がある(60条)。
*41 野一色勲「同一性保持権と財産権」、現代的課題676頁
第4節 その他の権利及び制度
著作権法は、著作権と著作者人格権のような著作物に対する権利に加え、著作者などが付した著作権や著作者人格権などの権利に関する情報が改変されることを禁止する権利を付与する(113条3及び4項)。また、著作者に権利を付与するものではないが、複製防止技術などのように権利を侵害する行為を技術的に防止又は抑制する手段を保護する制度を設けている。
第1 権利管理情報の保護に関する権利
1 権利管理情報の改変等禁止権(見なし侵害)
権利管理情報の改変等を行う行為は、著作者の権利を侵害する行為とみなす(113条3項)*42。
進化するデジタル化・ネットワーク化の負の側面は、違法複製物が容易かつ大量に作成され、それが広範に頒布されることによって、著作者に甚大な権利侵害が発生することことである。こうした状況下において、権利侵害に対応するための技術の一つとして、デジタル著作物に権利管理情報を埋め込む方法がある。例えば、電子透かしという技術を使えば、記録媒体に記録され、もしくは搬送波に載せられるデジタル著作物とともに、画質や音質を低下させることなく一定の情報を埋め込むことができる。この技術を利用して埋め込まれた情報は、複製や送信される場合はもちろんのこと、これを加工しても加工物にそのままついていくという性能をもっている。そして、その情報の中に著作権などの権利に関する情報(以下、「権利管理情報」といい、正確な定義は後述。)を付加しておけば、著作者は、著作物の違法利用の発見に役立てることができる。例えば、違法複製がなされた場合でも、権利管理情報は複製物の中についていくので、それが違法複製物かどうか簡単に見分けることができる。また、インターネットの世界に散らばる違法に公衆送信された著作物を探し当てることも可能である。そのため、権利管理情報は、権利侵害を防止するための重要な役割を担うことになるとが予想される。
また、こうした権利管理情報は、権利処理手続の簡易化、迅速化、効率化という目的のためにも利用することができる。簡易、迅速、効率的な許諾手続が実現することが、著作物の無許諾利用を減少させ、ひいては著作者の経済的利益の増大にも資することになるが、権利管理情報はこの目的達成のために役立つものである。例えば、許諾を得る手続は、著作権者を探し出すという作業から始まるが、著作権者名を情報として埋め込んでおけば、この手間は全くいらないことになる。さらに、その情報の中に、利用の場合の許諾条件等も付しておけば、著作物の利用を希望する者にとって大変便利である。
このように「権利管理情報」は、今後の技術の発展に従いその役割はますます拡大し、重要なものになってくることは疑いないが、こうした情報の役割が拡大し、重要性が増すことは、一方で虚偽情報が附されたり、情報が除去されたり、また変更されたりした場合、著作権者などの権利に重大な障害を与えることになる。例えば、これが除去されると権利者は違法複製物を探し当てることができなくなる。また、虚偽情報が附されると利用料の額が権利者が設定したものと異なっていたとか、そもそも利用料の支払いをした権利者が真実の権利者とは異なっていたなどということが発生しかねない。権利者でないものと利用許諾契約を締結しても許諾の効力がないのであるから、権利者から著作権侵害の主張を受けるなどのリスクに晒されることになりかねない。そして、そうしたことが頻発すると、権利管理情報そのものに対する信頼が消え失せることになる。
そこで、権利管理情報を改変するなどの行為を、著作権などを侵害する行為とみなすことにしているのである(113条3項)。尚、ここで保護の客体とされているのは著作物ではなく、著作物や著作権などの権利に関する情報である。
*42 権利管理情報の保護に関しては、文化庁・通産省改正解説100頁以下に詳しい解説がある。
2 権利管理情報
「権利管理情報」とは、以下のようなものである(2条1項21号)。
(1)著作権等に関する情報
著作者人格権、著作権または著作隣接権(報酬請求権を含む。)に関する情報で、次のイ、ロ、ハのいずれかに該当するものであること
- イ 著作物名、実演名、著作者名、著作権者名、著作隣接権者名などの情報
- ロ 著作物などの利用を許諾する場合の利用方法及び条件に関する情報
これは著作権者などが利用を許諾してもよい利用方法、態様、回数などや許諾料などの情報である。
音楽CDの小売販売価格や、放送の視聴料のような使用に関して徴収される料金は、利用許諾の対価の情報ではないので「権利管理情報」には該当しない。 - ハ 他の情報と照合することによりイまたはロに掲げる事項を特定することができる情報
これは、例えば、情報の容量を少なくするためにデジタル著作物などにはコード情報を附し、そのコード情報と手元の資料を照合することによって、イまたはロの情報が特定できるような形態である。ここで利用されるコード情報も「権利管理情報」になる。
(2)電磁的情報
次に、その情報が電磁的方法により著作物などとともに記録媒体に記録され、または送信されるものである必要がある。電磁的方法とは、電子的方法、磁気的方法、光学的方法など、人の知覚によっては認識することができない方法をいう(加戸講義59頁)。例えば、CD-ROMの中に電子透かし技術を用いて著作物とともに記録された情報などがこの要件に該当する。したがって、書籍に印刷されたバーコード情報などは、「権利管理情報」には含まれない。
(3)著作権等の管理
最後に、コンピュータなどによる著作権等の管理に用いられている情報である必要がある。つまり、著作物の利用状況の把握(違法複製物の発見)とか、著作物等の利用の許諾に係る事務処理などのために用いられている情報ということである。
3 権利管理情報の改変等(侵害とみなす行為)
侵害とみなされる具体的行為態様は、以下の通りである(113条3項)。いずれも「故意」である必要がある。
① 権利管理情報として虚偽の情報を故意に付加する行為(1号)
著作権者でないものを著作権者として付加したり、勝手に利用許諾条件を付加したりする行為である。
② 権利管理情報を故意に除去・改変する行為(2号)
権利管理情報を除去・改変する行為である。利用者に権利管理情報の存在確認を義務づけるものではない(加戸講義651頁)が、その存在に対する認識がある場合は、例えば、複製物の作成の際には、権利管理情報が組み込まれた状態をそのまま維持しなければならないということである。
ただ、記録又は送信の方式の変換に伴う技術的な制約による場合や著作物などの利用の目的・態様に照らしやむをえないと認められる場合は除かれる。これには、圧縮して記録したり、それを復元する場合やデジタル方式の複製物をアナログ方式でダビングする場合に情報が除外されてしまう場合などがこれに該当する。
③ 権利管理情報の除去等が行われた著作物等の頒布等(3号)
以上①と②の行為により改変等が行われた著作物などの複製物を情を知って頒布したり、頒布目的で輸入・所持したり、こうした著作物を公衆送信したり、送信可能化する行為である。
これらの行為は、情報の改変等がなされた著作物などを市中に出回らせる行為であり、権利侵害を拡大する行為であるから、これも侵害行為としている。
第2 技術的保護手段の保護に関する制度
1 技術的保護手段の保護
著作権法は、著作者に著作物の利用禁止権(著作権)を与え、違法利用がある場合は、違法利用者(侵害者)にその利用の差止や損害賠償を請求することができ、さらには侵害者には刑事罰が科せられることにして、著作物の違法利用が行われないように手だてをしている。しかしながら、それでも、著作物の違法利用はなくならない*43。
そうした状況下において、技術の発展は、著作物の違法利用が行われることを技術的手段を使って防ぐことを可能にしている。例えば、ある著作物に関し、複製を困難にする技術とか、自動公衆送信を不可能にする技術とかいったものである。また、こうした技術的手段は、例えば、私的使用のための複製として著作権法上適法に行うことができる複製であってもこれを阻止することが可能である。したがって、営業戦略的な観点から、適法利用も防ぐというような使い方もできることになる。
現在実用化されている技術には、複製防止技術があり、例えば、音楽の分野でのSCMS(Serial Copy Management System)という技術を使って、市販の音楽CDに「コピー1世代化」を示す信号が記録されており、孫コピーを技術的に阻止している。また、映像の分野ではCGMS(Copy Generation Management System)という技術があり、「コピー不可」、「コピー一世代化」、「コピー自由」などそれぞれ選択された信号が記録されている*44。市販の映画のDVDの多くは、「コピー不可」の信号が記録されている。アナログ映像の分野では、鑑賞に堪えない乱れた映像の録画となる擬似シンクパルスという技術もある。さらに、インターネットの分野では、自動公衆送信された著作物に関する多くの複製防止技術が提案されている*45。
ところが、こうした複製防止技術などの発達にあわせて、これを回避する(効力のないものにする。)技術も登場する。例えば、「キャンセラー」などといわれる装置である。こうした装置が市販されて普及することになると、複製防止技術を用いることによって達成を企図した権利保護の実効性があがらないことになってしまう。そのため、こうした回避に関連する行為を規制して、技術的保護手段の実効性を維持するための制度を構築することが必要になる。
*43 技術的保護手段の回避に関する規制については、文化庁・通産省改正解説83頁以下に詳しい解説がある。
*44 詳しくは、文化庁・通産省解説194頁以下参照。
*45 例えば、SDMI(Secure Digital Music Initiative)という、インターネットなどのネットワークを利用した音楽配信に適用される違法複製防止技術を確立しようとする活動がある。ここでは、ダウンロードした音楽データを保存したPCから他の記録媒体へ一回のみ複製ができるといったような技術についての提案がなされている(コピライト1999.6、90頁)。
2 規制内容
そこで、平成11年改正法は回避に関する規制を設けたが、ここでは回避行為(詳細な定義はxxを参照)自体を直接規制の対象とはしていない。すなわち、回避行為一般を禁止権の対象としたり、みなし侵害行為とするような規定はおいていない。改正法の規制内容は、その回避のために必要な機器やプログラムの提供行為及び営業を目的で回避サービスを提供するような行為に対して、これに刑事罰を科すことによって回避行為がなされることを防止しようとするものである(第10章xx参照)。また、複製に関しては、私的使用のためでも回避によって複製が可能となったことを知りながら行う場合はこれを許容しないものとしている(xx参照)。
このように改正法は、技術的保護手段の回避を規制することにしたものの、回避行為自体は事業として行われる場合を除き規制対象としていないことになる。これは、個々の違法利用に伴って回避が行われるのであるから、違法利用が侵害とされればとりあえず不足はないと思われるし、あえてこれを侵害とみなしても権利の実効性、効率性に資するとは思われないことによる。そして、権利の実効性、効率性に資する方法としては、回避機能を有する装置やプログラムを製造し、流通に置いたり、公衆送信したりする行為、又は他人のために営業的に行われる回避行為が大量の回避を伴う利用を可能にする行為であるので、これを規制対象とするのがより合理的である。そこで、改正法は、上記行為に対し刑事罰を課すという規制を行うこととしたものである*46。
したがって、ここまで説明してきた著作者の支分権やみなし侵害とは性格は異なるものではあるが、究極的には、著作者などの権利者を保護する制度であるので、ここで解説しておくことにする。
*46 文化庁・著作権審議会マルチメディア小委員会ワーキング・グループ(技術的保護・管理関係)報告書(平成10年12月)(百年史・資料編858乃至859頁参照)
3 技術的保護手段とは
「技術的保護手段」とは、以下の3つの要件を満たすものである(2条1項20号)。
- ① 電磁的方法により、著作権等を侵害する行為の防止又は抑止をする手段であること。
- ② 著作権等を有する者の意思に基づくことなく用いられているものではないこと。
- ③ 機器が特定の反応をする信号を著作物等とともに記録し、又は送信する方式によるものであること。
以下、3要件について説明する。
(1)電磁的方法により、著作権等を侵害する行為の防止又は抑止をする手段であること。
① 電磁的方法
電磁的方法、すなわち、電子的方法、磁気的方法その他人の知覚によって認識できない方法によるものである。
② 著作権等を侵害する行為の防止又は抑止手段であること
本条における保護の対象となるのは、「著作権等を侵害する行為の防止又は抑止の手段」一般であり、複製防止手段に限定されるものではない。著作権、著作者人格権、著作隣接権において付与されている各支分権の侵害防止技術に関する規定である。現在においては、複製防止技術が中心であるが、今後は送信可能化を妨げる技術的保護手段とか、自動公衆送信を妨げる技術的保護手段が開発されれば、こうした技術的保護手段も当然、ここでいう「技術的保護手段」であって保護の対象となる。
また、著作権等の侵害行為を防止又は抑止する手段であるから、使用やアクセスを防止する手段は、保護の対象とならない。立法論としては、こうしたアクセスコントロールについても、「技術的保護手段」の中に取り込み、同じように規制の対象とする方法もある。ただ、単なる視聴は著作権等の対象となる行為ではないため(「使用」である。)、これを著作権法によって規制することの妥当性が問題となる。改正法は、著作権法の規制対象としては、著作権法が対象としている権利に関係するものに限定されるべきだとして、「技術的保護手段」を「著作権等を侵害する行為から保護する手段」に限定した。したがって、たとえば、衛星放送で用いられるスクランブルやDVDで用いられているContent Scramble System、CSS(映像暗号化システム)のように複合化しないと映像がでてこない技術や、録音・録画物の再生回数、再生期間をコントロールする技術などは、ここでいう「技術的保護手段」ではない。ゲームソフトに用いられている技術である違法複製物の使用を防止する手段も、同じ意味で(海賊版を個人的に使用する行為は現行著作権法において権利の対象となっていない。)、技術的保護手段には該当しない*47。
ただ、平成11年度の不正競争防止法の改正においては、営業上用いられている技術的制限を無効化する機器等の譲渡などを不正競争として規定し、アクセスコントロール技術の保護を図っている*48。
*47 文化庁・通産省改正解説、90頁以下参照。
*48 文化庁・通産省改正解説234頁以下参照。
③ 防止又は抑止をする手段
「防止」とは、著作権等を侵害する行為自体を止めることをいい(SCMS、CGMSなど)、「抑止」とは、著作権等を侵害する行為自体は止めないものの、その結果に著しい障害を生じさせる(例えば、鑑賞にたえない乱れた録画となる。)ことをいう(疑似シンクパルス方式)。
(2)著作権等を有する者の意思に基づくことなく用いられているものではないこと
例えば、著作権者等でない流通業者が、自己の利益を図るために、著作権者等の意思に関係なく独自に用いた保護手段は除外される。これも、著作権法の射程範囲は、著作権等の権利者保護にあるのだから、その範囲で規制の対象にするという趣旨である。
ただ、「著作権等を有する者の意思に基づいて」という書き方をしなかった意味は、著作権者等が技術的保護手段を用いることについて、主導する能力も意思もないことが通常であるから、ある業界団体が特定の技術的保護手段を用いることについて業界全体として意思決定し、当該保護手段について機器製作者等の理解も得られて広く普及している場合などには、あらためて著作権者等の意思の確認をしなくても、本要件を満たすという趣旨である。
(3)著作物などの利用に指しこれに用いられる機器が特定の反応をする信号を著作物などとともに記録・送信する方式
録音・録画機器や送信機器が反応する信号が、著作物などと一体となって記録・送信されることによって、著作権等の侵害行為が停止又は抑止される方式であるということである。上記SCMS、CGMS、疑似シンクパルスなどすべてこのような方式である。
無反応機の問題
技術的保護手段は、著作物等の複製物に信号を付す著作者等と、信号に反応する機器を製造するメーカーが規格の合意をして、メーカーが著作者等が付した信号に反応して複製を阻止する機能をもつ機器を製造することによって成り立つシステムである。ただ、改正法は、そうした機器を製造することを機器メーカーに義務づけるものではないので、両者の合意の下に機能している技術的保護手段について、その効果を妨げる行為を規制しているということになる。
