第1章 著作権ビジネス
第1節 著作権法の目的と目的達成の方法
本書で扱う「著作権法」という法律は、「文化」の発展に寄与することを目的として制定されている(1条参照)。
文化が発展し、これを豊かに享受できる社会とは、人類の知的創作活動が活発に営まれ、その成果が円滑に伝達、頒布され、一般大衆がこれを鑑賞して楽しむことができる社会である。こうした社会を達成するためには、まず、その生産、すなわち、知的創作活動に多くの者が能動的、精力的に参加するような基盤・制度を構築する必要がある。それには、創作者が創作活動に参加したいと欲するようなインセンティブが付与される必要があるが、それは結局、こうした活動に携わる者に経済的利益が還元されるような基盤・制度を構築することにほかならない。しかも、現代社会におけるその基盤・制度は、時の権力者や財力のある者の援助などによって支えられる生活基盤のようなものではなく、経済活動の中において知的創作活動に対する正当な対価が環流するような基盤・制度でなくてはならない。
そこで、著作権法は、知的創作活動の成果として創作されたものを「著作物」として、この著作物を利用する権能をその創作者=著作者にだけ帰属させることにしている。著作権者以外の者が著作物を利用して、経済的利益を獲得することを禁止するのである。その結果著作者は、知的創作活動に対する正当な対価を独占的に得ることができる。例えば、ある作家が小説を書いた場合、この作家だけがその小説を書籍にして出版し、代金を取得できる。そして、他人が無断で出版すれば、作家は、この出版行為を禁止することができる。そのため、その作家だけが、小説という著作物が生み出す経済的利益を独占できるのである。こうした「利用の独占」という仕組みが、創作者に対して、創作活動に従事することについて強いインセンティブを与えることになるのである。このように、著作権法は、著作物の利用権を著作者にのみ帰属させ、他人が著作物を利用して経済的利益を獲得することを禁止する方法によって、知的創作活動に参加するインセンティブを与える基盤・制度を構築しているのである。
このようにして著作物の生産過程の従事者にインセンティブが付与されているが、我々が文化を豊かに享受するためには、著作物が生産されるだけでは足りない。生産された著作物が伝達、頒布されて初めて、我々はこれを鑑賞して楽しむことができる。そのためには、インセンティブを与えるべき対象者の範囲を、生産過程の従事者だけにとどめず、著作物の伝達、頒布に貢献する者まで拡大する必要がある。すなわち、著作物が我々の手許に届く過程においては、実演家、レコード製作者、放送事業者、有線放送事業者などの事業者(著作権法は、これを「著作隣接権者」と呼んでいる。)が重要な役割を担っている。こうした事業者の活動があって、我々が著作物を享受できるのである。そのため、著作権法は、著作隣接権者に対しても、その活動の成果の利用に対して一定の独占権などを付与し、これら事業者の経済的利益を保護している。
このようにして、知的創作活動が活発に行われて豊かな著作物が創作されるとともに、これらの著作物が広く、円滑に伝達、頒布されて、多くの国民がその著作物を享受できるように基盤・制度の構築が行われているのである。
第2節 経済的利益獲得行為
1 経済的利益獲得行為
ここで、著作物を利用して経済的利益を獲得するための具体的方法・行為(以下、「経済的利益獲得行為」という。)を見てみよう。これには、大きく分けて、「頒布型」と「集客型」がある。
(1) 頒布型
著作物を一般大衆の手許に届けて経済的利益を獲得する方法である。これには、複製物を介在させる方法と介在させない方法がある。
① 複製物を介在させる方法
著作物の複製物(書籍、雑誌、音楽CD、映画のビデオカセットやDVD、コンピュータ・プログラムが入ったCD-ROMなど)を作成し、これを販売して代金を得る方法である。また、複製物を貸し出して、料金を得る方法もある(以下、この方法を「パッケージ型ビジネス」という。)。
パッケージ型ビジネスは、経済的利益獲得行為の基本形であり、著作権ビジネスの中心を占めるものである。
② 複製物を介在させない方法
同じく頒布型でも、複製物の介在のない経済的利益獲得行為がある。すなわち、著作物を放送したり、有線放送したりして一般大衆の手許に届け、視聴者から視聴料を取得する方法である* 。これには、近年普及を遂げたインターネットを使ったインタラクティブ送信(著作権法では、「自動公衆送信」という。)なども含まれる。
これらの方法は、複製物(パッケージ)という有体物を介在させることなく、電気信号などを送信するという方法で著作物を一般大衆の手許に届けるものである(以下、この方法を「ノン・パッケージ型ビジネス」という。)。
*1 ただし、現在の放送は、視聴者から視聴料を徴収する方法ではなく、番組にスポンサーをつけてそのCMを流し、そのスポンサーからCM放送料を徴収する方法が一般である。
(2) 集客型
「頒布型」に対して「集客型」という方法がある。劇場やコンサート会場に観客を集めて、そこで劇を上演したり、音楽を演奏したりして入場料を徴収する方法である。映画館に観客を集めて映画を上映し、入場料を徴収する方法もここに含まれる。これらの方法は、著作物を一般大衆の手許に届けるのではなく、著作物を鑑賞したい人に集まってもらってこれを鑑賞させ、そこで入場料などを取得する方法である。(以下、この方法を「集客型ビジネス」という。)
2 著作権法が規定する利用禁止行為の対象
ところで、著作権法は、知的創作活動の担い手にインセンティブを付与するために、著作物の利用を著作者に独占させることにしている。ところで、この独占の対象となる利用行為とは、具体的にいかなる行為であろうか。それは結局、「パッケージ型ビジネス」、「ノン・パッケージ型ビジネス」及び「集客型ビジネス」において経済的利益を獲得するため行われる著作物の利用行為にほかならない。そして、それは、パッケージ型ビジネスにおいては、複製、販売、貸与という行為であり、ノンパッケージ型ビジネスにおいては、放送、有線放送、インタラクティブ送信という行為である。また、集客型ビジネスにおいては、演奏、上演、上映という行為である。これらの行為がまさに経済的利益獲得行為なのであって、これを行うことを著作者の独占的権能とし、禁止権の対象としているのである。
換言すれば、著作権法は、「複製権」、「譲渡権」、「貸与権」、「放送権」、「有線放送権」、「自動公衆送信権」、「演奏権」、「上演権」、「上映権」、といった権利を著作者に付与し、著作者以外のものによる「複製」、「譲渡」、「貸与」、「放送」、「有線放送」、「自動公衆送信」、「演奏」、「上演」、「上映」という著作物の利用行為を禁止しているのである(21条乃至26条の3)。
第3節 経済的利益獲得行為の担い手
1 経済的利益獲得行為の担い手
経済的利益獲得行為(著作物の利用)を行いうる権能が著作者(著作物の創作者)にだけ与えられているとしても、知的創作活動を得意とする者が、経済的利益獲得行為も得意であろうか。たいていの場合得意ではないし、そもそも経済的利益獲得行為という事業を行う物的・人的設備を持ち合わせていないことが多い。そうすると、著作者は必然的に、著作物の経済的利益獲得行為(著作物の利用)を事業として行う者(以下、「職業的利用者」という。)にこれを委ねざるをえない。すなわち、著作者が利用禁止権を振り回し、他人の利用行為を封じてこれを独占していても、実際には経済的利益を獲得できないのである。そこで、著作者は、職業的利用者に、経済的利益獲得行為を代わって行ってもらうことにして、その方法として、職業的利用者に著作物の利用を許諾(利用し禁止を解く)したり、又は利用権(著作権)の譲渡を行うことになる。そして、著作者は、許諾料又は譲渡代金を取得して経済的利益を得るのである。他方、職業的利用者は、利用許諾を得、もしくは利用権の譲渡を受けた後に、著作物の利用(経済的利益獲得行為)を行って、販売代金、視聴料、入場料などを取得するのである。このように、経済的利益獲得行為の担い手は、これを事業として行う職業的利用者であり、著作者は、多くの場合、職業的利用者に利用料の支払を条件としてその利用を許諾し(著作権譲渡の場合もある。)、許諾料(譲渡代金)を取得することになる。

尚、許諾を取得して著作物を利用し、販売代金などを取得する一連の営みが「著作権ビジネス」である。
2 著作権法の規制の対象者
ところで、著作者に経済的利益を還流させる方法には、消費者たる一般大衆が著作物を読み、聞き、鑑賞する行為を禁止し、料金を払った一般大衆にこうした鑑賞行為を許すという制度を構築することも考えられる。しかしながら、一般大衆の鑑賞行為を個別に把握して料金をとるなどということは、技術的に不可能もしくは著しく困難である。そのため著作権法は、著作者が禁止できる行為を一般大衆による著作物の鑑賞行為ではなく、著作物の利用行為として、著作権制度を構築しているのである。
このことは、一般的にいって著作物の利用禁止権は職業的利用者に向けられているものであって、鑑賞禁止権として一般大衆に向けられているものではないことを意味する。したがって、著作権法は、基本的に著作者と経済的利益獲得行為を行う職業的利用者との関係を規律する法律である。
第4節 デジタル化・ネットワーク化が著作権ビジネスに与える影響
昨今の著作権ビジネスや著作権法の分野においては、デジタル化とネットワーク化がキーワードである。そこで、デジタル化とネットワーク化が、伝統的な著作権ビジネスに与える影響を見ておく。
1 デジタル化
複製技術の発達により、すでにアナログ環境の頃から、高性能な複製機器(特に録音・録画機器)が家庭内に普及し、これにより作成される録音・録画物は音質、画質ともに十分鑑賞に耐えうるものであった。そして、家庭内の録音・録画には権利者の利用禁止権が働かない(第6章第3節、1参照)ので、家庭内において適法に高品質の録音・録画物を作成することが可能である。そのため、本来ならば購入されていたはずの複製物(商品)が購入されなくなるなどの影響が指摘されていた。
そして、デジタル環境の進展によりデジタル方式の録音・録画機器やパソコンが家庭内に普及すると、高音質、高画質の複製物が、何代にもわたり、簡単にかつ安価に作成できるようになる。ここで作成される複製物の品質は、販売されている複製物(商品)と同等であるといってもよい。そのため、複製物の売れ行きがますます減少する結果、パッケージ型ビジネスに対する影響が看過しえないものとなる。
したがって、著作者などの経済的利益の減少をどう食い止めるかが課題となる。
2 ネットワーク化
(1)職業的利用者による新たなビジネス手法の確立
ノンパッケージ型ビジネスの方法は、従来、放送及び有線放送を中心としていたが、インターネットの発展によりこれにインタラクティブ送信(自動公衆送信)という方法が加わった。これは、放送や有線放送と異なり、一般大衆の要求に応じて個別に著作物を送信するところにおいて画期的である。そして、送信結果として、一般大衆の手許で送信された著作物の複製物が簡単に作成される。したがって、インタラクティブ送信が行われる場合は、有体物を介することなく複製物を頒布できるのであって、その機能は従来のノンパッケージ型ビジネスよりもパッケージ型ビジネスに近い(以下、これを「ネットワーク型ビジネス」という。)。
書籍の販売に代わる電子出版、音楽CDの販売に代わる音楽配信、プログラムの販売に代わるプログラム配信などが典型であるが、著作物という無体物はすべてこの方法の対象となる。職業的利用者は、ネットワーク型ビジネスを新たな経済的利益獲得手段の柱にしようと懸命であるが、他方で、こうした利用がある場合に著作者などの経済的利益の保護がどうはかられるべきかが課題になる。
(2)利用者としての一般大衆の登場
次に、ネットワーク化は、利用者の範囲を拡大する。放送や有線放送の方法で著作物を送信するためには相当な規模の設備が必要とされるため、これを現実になしうるのは一定の資本力のある職業的利用者に限定される。しかしながら、ネットワーク環境下におけるインタラクティブ送信の設備は、一般大衆でも簡単に用意できるものである。その結果、一般大衆の手許から著作物が大量に送信される状況が発生する。すなわち、インタラクティブ送信という技術は、一般大衆を著作物の利用者として登場させることになったのである。
しかも、前述の通り、送信によって受信者に複製物を頒布したのと同じ結果を発生させるのであるから、一般大衆による著作物のインタラクティブ送信が無秩序に行われるとき、著作権ビジネス(特にパッケージ型ビジネス)に与える影響は甚大なものになる。これは、著作権ビジネスの根幹にかかわる問題であるといってもよい。すなわち、著作者などに実質的な経済的利益獲得の機会がないまま、著作物が大衆に伝達、頒布され、鑑賞されるということになりかねないのである。こうした懸念に対しては、このような著作物が自由に利用できる環境は、インターネット技術がわれわれに与えた便益であって、この環境においては、著作者などによる権利の行使は控えられるべきであるという主張もある(コピーライトに対する、コピーレフト論など)。しかしながらこうした主張は、著作者などの権利者の利益を一方的に無視するものであって、到底くみしえない。文化が発展し、これを豊かに享受できる社会を構築するするためには、著作者と著作隣接権者のインセンティブ確保のために、経済的利益が還元されるような基盤・制度を確保する必要があることは、既に述べたところである。著作者らに経済的利益が還流しないインフラにあっては、そのインフラそのものの発展が期待しえないことは明らかである。
したがって、一般大衆によるネットワーク環境化での利用行為をどう規制し、著作者などに対する経済的利益の獲得手段が確保されるようにいかに手立てをするかかが喫緊の課題となる。
以下においては,まず著作権法の保護の対象となる「著作物」とは何かということを説明する(第2章)。著作権法は、著作物を保護の客体として、著作物の創作者に著作権という強力な権利を与えているので、対象物が著作物か否かという判断は、重要である。
次に、著作物の創作者に与えられる「著作権」の内容を解説する(第3章)。そして、その権利が与えられる「著作者」とは誰かということを検討する(第4章)。
さらに、通常の教科書等では説明はないものの、著作権法の理解に取って重要な「利用者」について解説し(第5章)、著作物などの「利用者」を理解した上で「著作隣接権」の内容を検討する(第6章)。そして「権利の制限」(第7章)と「保護期間」(第8章)を解説する。
最後に、ビジネス実務としては大変に重要なものであるにもかかわらず、一般の教科書などでは実務的な検討がなされていない「侵害」及び「権利の救済」についての解説を行いたい(第9章及び10章)。
