第5章 著作物の利用者と利用方法
第1節 著作物の利用者
著作物の利用者とは、通常、著作物を利用して経済的利益獲得行為を行う事業者(職業的利用者)である(第1章第3節、1参照)。著作物の利用者が具体的にどのような事業者であるかを理解するためには、著作物の利用行為を禁止した著作権の各支分権の内容をみれば分かる。
① 複製権及び譲渡権
著作物の複製物を作成し、譲渡する事業者である。言語や美術の著作物では、出版社がその代表である。また、音楽の著作物では、レコード会社が代表である。
② 貸与権
著作物の複製物を貸与する事業者である。音楽CDのレンタル事業を行うものが典型である。
③ 放送権
著作物を放送する事業者である。テレビ局やラジオ局である。
④ 有線放送権
著作物を有線放送する事業者である。CATV局などが代表である。
⑤ 自動公衆送信権
著作物を自動公衆送信する事業者である。こうした事業は近年誕生したものであり、この事業者の一般的な呼称はない。とりあえず、自動公衆送信事業者とかインタラクティブ送信事業者とか呼ぶことになるであろう。
⑥ 上演権
劇場などで演劇などを上演する事業者である。したがって、俳優などの実演家又は演劇などの主催者である。
⑦ 演奏権
音楽を演奏し、歌唱する事業者である。演奏家や歌手又はコンサートなどの主催者である。
⑧ 頒布・上映権
映画の著作物を頒布し、上映する事業者である。配給会社と興行会社(映画館)である。
尚、通常、一般大衆は著作物の使用者であって、利用者ではない。ただ、ネットワーク化はこうした一般大衆を著作物の大量利用者とする可能性はある(第1章第4節、2、(2))。
第2節 著作物の利用方法
1 権利処理
著作物の利用権は著作権者にあるから、著作物を利用して著作権ビジネスを行うためには、著作権者から利用禁止権の行使を受けないように次のような手順を踏む必要がある。
- ① 著作権者がだれであるかを確認する。
- ② その所在を捜し出す。
- ③ 著作権者に著作物の利用のために利用の許諾、又は著作権の譲渡を申込み、条件の交渉を行う。
- ④ 利用許諾契約、又は著作権譲渡契約を締結する。
これを「権利処理」(ライセンスを取得するなどともいう。)といい、著作権ビジネスの重要な部分である。
尚、公益などを理由として例外的に著作物の自由利用が認められる場合(30条乃至47条の3)や著作権の保護期間(51条乃至58条)が経過したために自由利用が認められる場合があり、この場合は権利処理を行う必要はない。その詳細は後述する(第7及び8章参照)。
2 権利処理の具体的方法1-許諾
(1)利用許諾契約
著作物の利用に関する権利処理の方法で中心となるのが、利用の許諾を得る方法である(利用許諾契約の締結。実務では、ライセンス契約ということも多い。)。
著作権者は、他人に対し、その著作物の利用を許諾することができるし(63条1項)、許諾を得た者は、その許諾に係る利用方法及び条件の範囲内において、その許諾に係る著作物を利用することができる(同条2項)。利用許諾とは、著作権が著作物の利用禁止権であるところ、許諾を得た者は、その契約で定められた利用方法と条件の範囲で、利用禁止が解かれるという性格ものである。
そして著作権者は、一定範囲での利用を許諾する対価として、許諾料を得る。
(2)許諾の種類
利用許諾契約を締結すると、利用者はその許諾された著作物を適法に利用することができるが、許諾には,「排他的許諾」と「単純許諾」という2つの方法がある。「排他的許諾」とは,当該著作物の同一の利用方法に関し、他の第三者に許諾を与えないという内容の契約である。これによって著作権者は,契約者に対し,許諾の範囲での著作物の独占的利用を認めることになるので,その範囲では他の第三者との間で利用許諾契約を締結することは契約違反となる。
これに対して,「単純許諾」というのは,このような特約がない許諾であり,著作権者は,さらに別の第三者との間で同じ内容の許諾契約を締結することができる。
(3)許諾契約の内容
許諾契約では、以下のような事項について定めをする。
① 利用方法
まず合意されるべき内容は、具体的な利用方法である。
たとえば、複製と譲渡、貸与、放送、自動公衆送信、上演、演奏などの利用方法に関し合意がなされるのはもちろんのこと、ビジネス実務では具体的かつ詳細にその利用の態様が合意されるのが通常である。例えば出版に関しては,ハードカバー出版か文庫本出版かとか、書籍出版かCD-ROM出版かといったことが合意の対象となる。また、放送を許諾する場合はラジオ放送なのかテレビ放送なのかは当然のこと、どの番組で放送するかも特定されるのが一般である。
② 利用場所
利用場所も特定されるのが通常である。たとえば、日本国内とか、日本国外に限るなどといったものや、さらに細かく九州と北海道などといった合意もなされる。
③ 利用期間
利用期間も許諾契約の基本的合意事項である。
④ 発行部数や演奏回数
発行部数や演奏回数の定めがなされることもある。
⑤ 許諾料の額及びその支払方法
これも基本的合意事項となる。
⑥ 著作者人格権の取扱
許諾契約においては、著作者人格権の取り扱い(公表の時期、氏名表示の方法、改変の可否)に関しても合意をしておくことが望ましい。
(4)許諾の範囲の問題
許諾契約においては、後述の譲渡契約(本節3参照)の場合と異なり、許諾の範囲が問題になることはそう多くない。許諾契約は、まさに権利処理のためになされるものであるから、そこで明示的に合意された利用方法及び態様のみが許諾されているからである。ただ、たとえば、過去に新聞掲載のための複製許諾があったフリーランサーの寄稿記事に関し、通常の縮小版に掲載するための複製許諾まではあるとしても、さらにCD-ROM形式で縮小版を出版するときの複製許諾を含むかというような形で問題になることはある。しかしながら、過去における複製許諾の時において、CD-ROM出版のための複製などは各当事者の念頭になかったのであるから、許諾の範囲に含まれないことは当然であろう*1。
*1 日本文藝家協会と新聞四社は、社外の筆者の寄稿原稿などを電子メディアで利用する場合には、別途許諾が必要であるという内容で合意している(松浦康彦「デジタル世紀のプライバシー・著作権」153頁、日本評論社、2000年)。
(5)著作権侵害と債務不履行
利用許諾契約に違反した場合、それは単なる債務不履行なのか、著作権侵害なのかが問題となる。
これについては、禁止権の解除という部分に関する条項違反は著作権侵害であり、それ以外の条件部分に関する条項違反は債務不履行と考えるべきである。すなわち、例えば、許諾された利用方法以外の利用は著作権侵害である。許諾場所、許諾期間に関する合意違反も同様である。したがって、譲渡権に関する譲渡先や公衆送信権に関する送信先の合意違反も著作権侵害となる。発行部数に関する合意違反に関しても、許諾の趣旨が当該部数においてのみ禁止権を解くというものであるから、これに違反することは著作権侵害の問題となると解される。演奏回数も同様であろう。これに対して、許諾料の不払いは、債務不履行となる。
これに関して、送信可能化の許諾契約に関する規定をおいている(著作権法63条5項)。これによると、送信可能化の回数又は送信可能化に用いる自動公衆送信装置の指定について契約違反があったとしても著作権侵害を構成せず、単なる債務不履行とする。まず、回数に関しては、送信可能化の場合は、送信が可能化されている期間が重要なのであって、何回送信可能化行為(アップロード)を行ったかは重要でない。したがって、回数違反を侵害としない趣旨である(加戸講義378頁)。サーバーの保守点検などの際の便宜を図るものであろう。次に、サーバーの指定違反については、送信可能化の禁止解除という部分に関するものではないので本来著作権侵害を構成しないものであるから、これを注意的に規定したものであろう。
(6)契約上の地位の譲渡(3項)
利用許諾契約上の地位は、著作権者の承諾がない限り、譲渡することができない。一般的に契約上の地位は相手方の承諾がない限り譲渡できないのであるから、本項はこれを注意的に規定したものである。
3 権利処理の具体的方法2-著作権譲渡(譲り受け)
(1)著作権譲渡契約の内容
権利処理の方法には,著作権の譲渡を受ける方法がある*2。
著作権は、その全部又は一部を譲渡することができる(61条1項)。したがって、著作物を利用するための方法としては、著作権を譲り受ければよい(著作権譲渡契約の締結)。
著作権譲渡契は、著作物の利用権を譲り受けるものであって、著作物の利用権を譲り受けるものであって、著作物の制作依頼契約や著作物が固定された原作品や複製物などの有体物の譲渡契約とは全く異なるものである。例えば、注文者が著作物の制作を注文し、著作者が制作して原作品を譲渡、もしくは納入しても、それよって著作権が従属、付随して移転するものではない。プログラムに関し、プログラムが収納されたROMが交付されても同様である。有体物の譲渡ではなく、著作権を譲渡することに関する合意がなければならない。「エスキース事件」*3では、大学の名誉教授が研究室を明渡す際、エスキース(建築家が建築物を設計するに当たり、その構想をフリーハンドで描いたスケッチ)を、教育研究の資料として使って欲しい、いずれ資料館ができたらそこに収めて一般に公開して欲しいという指示して原作品を引き渡した事案に関し、著作権譲渡があったとは認められないとする。
*2 著作権の譲渡は、権利処理の手段として行われるとは限らない。単純な財産権の譲渡として行われる場合もある。また、著作権は,相続など一般承継の対象となるので、相続の結果移転することもある。
*3 東京地裁平成12年8月30日判決(判時1727号147頁)
(2)支分権の細分化
著作権の譲渡を受ける場合、著作権は支分権の束であるので、支分権ごとの譲受けも可能である。ただ、これをどこまで細分化できるかという問題がある。また、利用場所ごとの権利の細分化や期限を切った譲渡が適法かという問題もある。以下、検討する。
① 支分権の細分化
通説的考え方は、細分化には一定の限度があり、実務上別個の権利として観念され、かつ、それを前提とした権利処理がなされている限度であるとする*4。この考え方は、あまりに細切れの細分化を認めると、その細分化された著作権が転々譲渡されたような場合に、その範囲が不明瞭となって取引の安全を害することになるというのが根拠になると思われる*5。
しかしながら、権利処理を目的とする場合は、ビジネス目的達成のために必要な範囲で譲渡を受ければ充分であるし、譲渡人も細分化して譲渡することによって経済的利益の獲得の機会が増えた方がよいから、ビジネス上は細分化を適法とすべき要請がある。そして、通説的な考え方においてもある程度の細分化を認める理由は、こうした実務の要請に応えるものである(例えば、複製権を出版目的とそれ以外に細分化し、さらに前者をハードカバーでの出版、文庫本での出版、CD-ROMでの出版に細分化するのは適法であるとするものと思われる。)。そうすると、実務上別個の権利として観念されるかどうかということを適法か否かの基準としたところで、実務上の要請があるところでは実務上別個の権利として概念されることになると思われるから、こうした基準を定立しても基準たり得ないであろう。そうすると、ビジネス実務要請がある場合は細分化を認めてよいと思われる。しかも、当事者が好ましくないほどの細分化したことをもって、譲渡の効力がないものとすると、当事者間で適法な権利処理がなされたと考えて著作物を利用していたにもかかわらず、著作権侵害が行われていたことになるのであって、かえって法的安定性を害することになる。さらに、第一譲渡が有効であることを前提に、さらに支分権の譲渡がなされたときには、この第三者も全く権利を譲り受けることができないので、この点においてもかえって取引の安全を害することになる。また、細分化された権利の登録が可能かどうかという観点から考えても(登録制度については後述。)、不動産登記法のような厳格な規定がないのであるから、文化庁の運用次第であり、これもさほど問題とならない。
したがって、当事者が支分権を細かく細分化して譲渡しても、その効力が否定されることはないと解すべきである。
*4 例えば、作花詳解407頁は、クラブやスナックにおける演奏権とカラオケボックスにおける演奏権のような区分の仕方については、権利関係が錯綜するので疑問であるという。
*5 これらの見解も、利用許諾の場合に細分化を自由に認めるのが、これは利用許諾の場合は著作権者を中心とした関係であり、契約上の地位の譲渡が行われる場合などはそれほど存在しないからという認識に基づくものであろう。
② 場所的細分化
譲渡契約においては,場所的に細分化して譲渡が行われることがある。
これについても、どこどこ地区の著作権者という形で著作権者を観念することはできるので、この細分化も譲渡契約として適法・有効であると考えるべきである。また、①で述べたところと同様な趣旨で、細分化にあたってのその程度には制限がないと考えるべきである*6。
*6 作花詳解407頁は、同一国内のさらに細かい地域の限定を付した譲渡について消極。
③ 期限付譲渡
一般に財産権の期限付きの譲渡は有効であるので、著作権の譲渡契約においてもこれを無効とする理由はない。権利処理の手段として譲渡が行われる場合は、むしろ著作権を永遠に譲渡するということは少なく,期間を区切って譲渡することが実務の要請である*7。ただ,これによって,利用許諾契約との相違が薄れてくる。
*7 期限付譲渡を否定するものとして、岡邦俊「マルチメディア時代の著作権の法廷」156頁~。
④ その他の制限付譲渡
期限付きや場所的に細分化された権利の譲渡も著作権譲渡として適法・有効であるが、たとえば、複製部数に制限の付いた複製権の譲渡とか、演奏回数に制限のついた演奏権の譲渡というものがありうるのであろうか。
こうした制限は、譲受人が著作権者であることと相容れない。すなわち、著作権の譲渡がある場合、著作権そのものが移転され、これを譲り受けた者は、以後譲り受けた著作権の範囲では著作権者となるので、その範囲で著作物を自由に利用することができる。したがって、上のような制限は、譲渡人と譲受人間の債権債務関係という限りで効力はあるものの、これに違反した場合も、著作権侵害の問題は生じないと解される。
(3)譲渡の範囲に関する推定規定
著作権の譲渡契約を締結するに際して、「翻案権」と「二次的著作物利用に関する許諾権」が譲渡の目的として特に記載されていないときは,譲渡者に留保されたものと推定される(61条2項)。
これは、当事者の意思として、著作物を原状のまま利用する権利に限って譲渡がなされるというのが通常の意思であり、翻案権及び翻案物の利用権までもその対象とする意思でないのが一般だからである。
(4)存在しなかった権利
① 契約時になかった権利
著作権の全部譲渡契約締結後、科学技術の発達などによって著作物の新しい利用方法が発生し,そのため法改正などによって新しい種類の権利が創設された場合、契約当時存在しなかった権利もまた譲渡されたものとして扱うべきであろうか。たとえば、著作権が全部譲渡された後に、自動公衆送信権が創設された場合などである。
この場合、一括してすべての権利を譲渡し、譲渡人は当該著作物に関する権利の一切を譲る趣旨であるから、新しく創設された権利も移転し譲受人に帰属すると解すべきである。
尚、支分権ごとの譲渡があった場合は、新しい権利の移転はないのは当然である。
②新たな利用方法に関する権利
新たな権利が創設されたわけではないものの、例えば書籍の出版を念頭において複製権及び譲渡権を譲渡した後に、CD-ROMを用いた電子出版という新しい著作物利用方法がでてきたときに、CD-ROM出版に関する複製権及び譲渡権も譲渡されたと扱われるかという問題もある。
この場合は、権利処理のために支分権の譲渡がある場合であるから、新しい利用方法に関する権利の譲渡はないと解すべきである。
(5)著作者人格権
著作権は譲渡できるが,著作者人格権は譲渡できない(59条)。したがって,著作権を譲り受けても,その利用にあたっては,著作者の著作者人格権を侵害しないように注意する必要がある。さらには、著作者人格権を行使されると著作権譲渡を受けた本来の目的が達せられなくなる場合は,著作者人格権を行使しない旨の取決めをあらかじめしておく必要がある。これを著作者人格権の不行使特約という。
たとえば、注文者がデザイン会社にポスターやパンフレットの制作を依頼し、その著作権の譲渡を受けるような場合、注文者による当該著作物の利用に関し、著作者名の表示をしないか、もしくは仮に表示をするときは注文者を表示し、また何らかの改変を施す場合も多いが、この場合、著作者の氏名表示権及び同一性保持権について不行使特約を締結しておく必要がある*8。
*8 著作権譲渡の趣旨から、黙示的にこうした不行使特約の合意があるとされることもある。「北アルプス鳥瞰図事件」長野地裁平成6年3月10日判決(判例地方自治127号44頁)では、北アルプス鳥瞰図の原画に関し著作権の譲渡を受けたが著作者人格権について明示の合意がなかったところ、注文者がその後の利用の際に著作者名を表示せず、また原画を分割利用し、さらに鉄道、道路などを書き加えた事案に関し、契約時、分割利用や鉄道、道路を書き加えることは予定されていたし、また原画に基づき作成されたパンフレットやポスターに著作者名が表示されないことを事実上黙認していたことを理由に、改変と著作者名を表示しないことを黙示的に承諾していたと判示している。
(6)著作権譲渡と登録
著作権の移転は、登録をしなければその移転を第三者に対抗できない(77条1号)。したがって、著作権の譲渡を受けた場合,譲渡を受けたことを第三者に主張するためには,譲渡があったことを登録しなければならないのである。これは、不動産を取得した場合の第三者対抗要件が、登記であるのと同様である。
ただし、実務において、第三者対抗要件の取得を目的として登録がなされることはまずない*9。不動産の譲渡の場合、ほぼ100%の割合で移転登記がなされるのと大きく違うが、これは次のような理由による。
まず、不動産は有体物であって、この世に一個しか存在しない。したがって、当該不動産に対する排他的・独占的支配力というものは並存が不可能であり、他方を排斥しなければ、これを利用することができない。これに対して、著作物は無体物である。著作権法は、この無体物に対して排他的・独占的権利を付与しているが、これはあくまでも人工的なものであって、物理的な意味で並存が不可能なわけではない。具体的にいえば、仮に二重譲渡がなされた場合においても、第一譲受人の権利と第二譲受人の権利が並存し、それぞれが同一著作物を利用することも十分に可能なのである。これが有体物に対する支配権と無体物に対する支配権の根本的な違いである。したがって、仮に第一譲受人と第二譲受人の両方が独占的利用を目的として著作権を譲受けていたとしても、いずれにも登録がなければ(登録されないのが一般である。)、譲渡人が二重譲渡を行った結果として譲受人の被る損害は、決定的なものではない。著作物の利用はできるのであって、ただ独占的・排他的な権利ではないというところにとまるのである。
このように、譲渡人が背信行為を行うといった非常にレアケースが発生した場合でも、そこで発生する損害は決定的なものではないので、とりあえずは譲渡人に対する信頼でビジネス実務は動いているのである。
*9 百年史・資料編1164頁によると、昭和46年度から平成10年度まで(28年間)の著作権移転登録の総数は約3500件にしかすぎない。
登録制度一般
著作権が発生するためにはなんらの方式も必要とされないので、登録も必要でない。したがって、著作権を取得するための登録といった制度はない。ただ、著作権法は、権利の保全と権利変動があった場合の対抗要件付与のために、登録制度を設けている。
これには、①権利保全を目的として、実名登録,第一発行(または公表)年月日登録*10,プログラム著作物に関する創作年月日登録があり(75条ないし76条の2),また,②対抗要件付与を目的として、著作権の移転等の変動を明らかにするために,著作権の移転,処分の制限,質権の設定,移転などのための登録がある(77条)*11。
*10 これらの制度は、不動産における保存登記のように、最初の著作者又は著作権者を公示するような制度ではない。結局、著作物を創作しただけでは登録をすることができず、著作物を公表したり、発行して始めて登録が可能となる。いずれにしても、昭和46年度から平成10年度まで(28年間)のこれら登録の総数は、約3,300件である(百年史資料編1164頁)。尚、プログラムの著作物に関しては、昭和60年6月の著作権法の1部改正により、不動産の保存登記と同様の機能を営む「創作年月日の登録制度」が設けられた。
*11 登録の実務・書式については、出版契約ハンドブック230頁以下参照。
4 利用許諾と著作権譲渡の異同
著作物の利用方法には,許諾を受ける方法と著作権の譲渡を受ける方法の2種類があるが、この2種類の方法は,その性質や効果にどのような差があるのであろうか。
(1)性質
譲渡の場合は譲受人が著作権者としての地位を獲得し、譲渡人は著作権者としての地位を喪失する。これに対して、利用許諾契約は、許諾者は著作権者の地位を維持しながら、被許諾者に対しては禁止権の行使をしないという契約上の義務を負うという債権債務関係ができるにすぎない。
したがって、譲渡の場合、譲受人は著作権者であるから、権利を譲渡することもできるし、その利用を許諾することもできる。これに対して、利用許諾の場合、著作権の譲渡は当然できない。著作権者の承諾がない限り、契約上の地位の譲渡もできない(63条3項)し、再利用許諾もできない。
(2)効力
① 二重譲渡、又は二重の利用許諾がある場合の効力
著作権者Aとの間で、著作物を利用したいB及びCが権利処理をするものとして説明する。
譲渡の場合は、登録の有無によって優劣が決まる。すなわち、登録が対抗要件である。したがって、Bが登録を経由すれば、Cに対して自己の権利を対抗できる。その結果、BはCの利用差止とCの利用により損害が発生している場合は損害賠償を請求することができる。この場合、CはAに対して、譲渡契約違反を理由として債務不履行責任を追求することになる。
利用許諾の場合は、債権的効力しかないので、BとCに対抗関係は発生しない。単純許諾契約の場合はもちろん、独占的許諾契約の場合も、BはCに対して何の請求もできない。但し、独占的許諾契約の場合は、Aに対して、独占的許諾契約違反を理由として債務不履行責任を追求することができる。
尚、Bが著作権を譲り受け、Cが利用許諾を得た場合も対抗関係となる。したがって、Bは登録を経由しない限り、Cに対して自己の権利を対抗し得ない。
② 無権限者の利用行為がある場合の効力
著作権者をA、譲受人又は被許諾者をB、無権限の利用者をCとして説明する。
譲渡の場合は、BとCは対抗関係にたたないので、登録の有無にかかわらず、BはCに対して著作権者としての権利行使が可能である。すなわち、差止も損害賠償の請求もいずれも可能である。
許諾契約の場合は、独占的許諾契約であったとしても、B自身の権利として差止請求を行うことはできない。なぜなら、許諾契約は、A・B間の債権契約(BがAに対して請求できる権利)にすぎないからである。ただし、独占的許諾契約の場合は、Bは、Aの差止請求権を代位行使することは認めてよいであろう*12。損害賠償の請求に関しては、債権侵害による不法行為の成否という一般不法行為の問題になる*13。
*12 学説の有力説(田村概説484乃至485頁、半田概説245乃至246頁)と思われるが、判例上の先例はない。
*13 Cの利用行為は、著作権法上の侵害行為に該当し、刑事罰規定の適用を受ける行為であるから、不法行為の成否の判断にあたって違法性があると認めてよいとする考え方が有力である(半田概説245頁、田村概説486乃至487頁)。
(3)区別の方法
締結された契約が、著作権譲渡契約か、利用許諾契約かについては、形式的文言にとらわれることなく、その合意内容の実体から判断されるべきことは、通常の契約の解釈手法と同様である。
ただ、その解釈の指針として、まずは利用許諾契約が締結されていると考えるべきであろう。なぜなら、著作権譲渡契約は、著作権者としての地位を喪失するものであるから、著作権者の意図としてはまず、利用許諾契約を考えるであろうし、利用者も利用許諾契約を締結することでビジネス目的を達成することが可能であれば、通常その対価が高額になる著作権譲渡契約は避けるはずだからである。
したがって、契約書の文言に著作権の譲渡であることが明示されているとか、対価が一般的な許諾料よりも高額であるとか、また、著作権譲渡によるといった慣行がある場合に限って、著作権譲渡契約とされるべきであろう。
そうすると、原稿に関する原稿買取契約は、一般に、著作権譲渡ではなく利用許諾契約であり、ただ、許諾料の支払方法として印税方式ではなく、一括支払方式であると解すべきである*14。ただし、授受される対価が高額であるときは、著作権譲渡とされる場合もある。「秘録大東亜戦史事件」*15では、原稿を買取るという合意がなされた事案に関し、買取りということから直ちに著作権譲渡がなされたと即断はできないが、支払金額が印税相当額を大幅に上回るものであること、発行部数、再版の場合の取扱いなどについて何らの取り決めがなされなかったこと、他の執筆者から印税その他の請求がないことなどを理由に、出版に関する複製権利の譲渡契約があるとする。
また、「北アルプス鳥瞰図事件」*16では、原画に関し、「1回の使用料30万円、全面使用3回以上になれば一切の版権が譲渡される。」との文言があり、3回以上全面使用がなされた場合について、著作権譲渡があるという。「商品カタログ事件」*17では、商品カタログ用の写真に関し、写真の点数及び要する時間によって報酬を決定した上、写真の原版も含め注文者が買い取ることが合意されていた事案について、著作権譲渡契約があるとしている。
募集広告に関しては、「古文単語語呂合わせ事件控訴審」*18で、募集広告が「あなたもゴロあわせを作って本にのせよう。自分で工夫した単語の覚え方下記までお送りください。採用作品はあなたの作品であることを明記しこの本にのせます。なお、採用された方にはあなたの作品がのったこの本を郵送します。」という内容である場合は、応募作品の著作権が広告主に帰属する旨を明記した記載はないので、著作権譲渡契約はないとしている。これに対して、「チューリップ作詞者事件」*19では、チューリップ、こいのぼりなどの歌詞の著作者が、幼稚園唱歌の歌詞の募集に応募し、その際の募集要項に「当選者には薄謝を呈す、当選歌の版権は本会の所有とす、応募歌詞の原稿は返戻せず、締切は11月15日とす。」とあり、著作者は薄謝として200円を受領している事案において、著作権譲渡契約があると判示している。
*14 作花詳解408頁
*15 東京地裁昭和50年2月24日判決(判タ324号317頁)
*16 長野地裁平成6年3月10日判決(判例地方自治127号44頁)
*17 大阪地裁平成7年3月28日(知裁集27巻1号210頁)
*18 東京高裁平成11年9月30日判決(判タ1018号259頁)
*19 東京地裁平成元年8月16日判決(無体集21巻2号626頁)
5 著作権フリーといわれる著作物
著作物を利用するには権利処理が必要であるが、例えば著作権フリーなどといって、著作権が放棄され、自由利用が許される著作物があるかのようにいわれる場合がある。
例えば、著作権フリーの素材集などといって写真やコンピュータ・グラフィックのデジタル著作物が自由に利用できるものがあるし、コンピュータ・プログラムなどもフリーウェアといって、作成者がプログラムを無料で提供し、自由な複製とその使用を認めるものがある。リナックスなどもこのフリーウエアの一種である。
ただ、こうした著作権フリーといわれるものが、著作権者が著作権を放棄したものであると理解することはできない。一般には、許諾料無料の単純許諾契約があると解すべきものである。そして、その利用に関して何が許され、何が許されないかは、著作権者が何を許諾し、何を許諾していないのかという、許諾の範囲の問題である。
例えば、フリーウエアといわれるプログラムの著作物に関しては、通常、プログラムの複製及び翻案が無料で許諾されており、またこれを譲渡する場合は、無料譲渡のみが許されるといったものが多いようである。つまり、自分の作成したプログラムを多くの人に無料で使って欲しいという趣旨である。また、有料での譲渡については、これを全く禁止するものから、商業目的の譲渡は事前協議が必要などと言った条件が付されているものもある。さらに翻案と翻案物の利用を許すかどうかは、ケース・バイ・ケースであろう。
リナックス
リナックスは、プログラムの複製ができるのみならず、ソースコードもオープンにして自由な翻案を認め、しかもその複製物もしくは翻案物を有償で販売することも許諾されている。但し、翻案後のプログラムのソースコードの開示義務が課せられている*20。
*20 リナックスを利用する場合は、GPL(GNU General Public License)(http://www.gnu.org/copyleft/gpl.html参照)という許諾契約に基づくことになる。これは、GNU(GNU’s Not Unix)プロジェクトソフトウエアのために用意されたライセンス契約で、日本語では、「GNU一般共用使用許諾」と訳されている(http://www.gnu.org/japan/gpl-2j-plain.txt)。
第3節 出版権
1 出版権とその内容-特別な利用権
(1)出版権の内容及び性格
「出版」は、著作物を複製し、譲渡するものであり、最も典型的な著作物の利用行為である。権利処理としては、利用許諾契約を締結するか、著作権譲渡を受ける必要があり、この点、他の著作物の利用の場合と何ら変わりはない。ところが、著作権法は、第3章において、「出版権」という独立した章を設け、出版者(「出版社」ではない。)による著作物の利用に関し、特別な利用権が設定できるようにしている。これは、出版が、著作物の利用方法として歴史的に最も古いものであり、そうした歴史的経緯の中で、出版者に対し特別な保護が与えられてきたのである。
その規定内容は、まず、著作権者(条文上は、複製権者)は、その著作物を文書又は図画として出版することを引き受ける者に対し、出版権を設定することができるとし(79条1項)、これによって権利の設定を受けた者(出版権者)は、設定行為で定めるところにより、頒布の目的をもって、その出版権の目的である著作物を原作のまま印刷その他の機械的又は光学的方法により文書又は図画として複製する権利を専有する(80条1項)。利用許諾と異なり、出版権という権利の設定ができ、その結果、権利の設定を受けた者は、「権利を専有する」という規定内容となっている。
これは、出版を目的とした複製権に関し、権利の譲渡契約ではないが、許諾者と被許諾者間の債権的効力が生じるにすぎない利用許諾契約とも異なる、準物権的な契約が締結できることを内容としている。民法の制度でいうと、所有権譲渡ではないが、単なる債権的請求権でもない、用益物件的な権利ということになろう。
そうすると、書籍や雑誌の出版を行う場合の権利処理には、次の方法があることになる。
① 出版許諾の場合
利用許諾契約
- ・単純許諾
- ・独占的許諾
② 出版権の設定の場合
出版権設定契約
③ 譲渡の場合
譲渡契約
- ・全部譲渡契約
- ・一部(複製権及び譲渡権)譲渡契約
(2)分割設定の可否
出版権をたとえば、ハードカバーでの出版に関する出版権と文庫本での出版に関する出版権に分割して設定することができるかという問題がある。
著作権譲渡でも、上記のような分割は適法・有効であると解するなら(本章第2節3)、当然分割設定は可能であると解される*21。
*21 出版契約ハンドブック27頁は、法が出版権を強力な権利(専有権)として捉えているから、出版権は単一のものと考えるのが素直とする。しかし、強力な権利であるからこそ、著作権者からすれば、細分化したいところである。
(3)文書、図画にCD-ROMが含まれるか
「書面」という概念と異なり「文書」とか「図画」という概念には、紙を媒体とするという要件は含まれていないので、CD-ROMも文書または図画であるといってよい*22。したがって、CD-ROM出版の場合にも出版権の設定が可能である。
*22 田村概説489頁は、書籍の需要を満足してしまうものには変わりないことを理由とする。反対、作花詳解418頁。
2 出版権の内容
(1)権利の内容
出版権者は、頒布のための複製権を専有する(80条1項)ので、頒布目的での複製禁止権を有することになる。海賊版頒布等禁止権や海賊版輸入行為禁止権も有する(113条1項)。そして、出版権者は、固有の権利として差止請求権を有するし(112条)、固有の損害賠償請求権も有する(114乃至114条の5参照)。この場合、著作権者(複製権者)といえども禁止権の対象者となる。尚、この権利は、「頒布の目的をもって」複製する権利であるから、会社内部での複写行為などには権利は及ばない(作花詳解420頁、田村概説490頁)。
ただ、この出版権は、「出版権の存続期間中に当該著作物の著作者が死亡したとき、又は、設定行為に別段の定めがある場合を除き、出版権の設定後最初の出版があつた日から3年を経過したときは、複製権者は、前項の規定にかかわらず、当該著作物を全集その他の編集物(その著作者の著作物のみを編集したものに限る。)に収録して複製することができる(80条2項)」とされ、一定の制約を受ける。
また、出版権者は、他人に対し、その出版権の目的である著作物の複製を許諾することができない(80条3項)。これは、出版権者に排他的な権利が与えられるとしても、これには複製の許諾権までをも含むものではないことを明らかにしたものである。
(2)義務の内容
出版権者は、上記のような排他的権利を付与される一方で、設定行為に別段の定めがある場合を除き、次の義務を負う(81条)。
① 複製権者からその著作物を複製するために必要な原稿その他の原品又はこれに相当する物の引渡しを受けた日から6月以内に当該著作物を出版する義務(1号)
② 当該著作物を慣行に従い継続して出版する義務(2号)
また、著作者(著作権者ではない。)の権限として、その著作物を出版権者があらためて複製する場合には、正当な範囲内において、その著作物に修正又は増減を加えることができる(82条1項)。そのため、出版権者は、その出版権の目的である著作物をあらためて複製しようとするときは、そのつど、あらかじめ著作者にその旨を通知しなければならない(同条2項)。
(3)存続期間等
出版権の存続期間は、設定行為で定めるところによる(83条1項)が、定めがないときは、その設定後最初の出版があつた日から3年を経過した日において消滅する(同条2項)。
また、出版権者に次のような義務違反があったときは、複製権者は、出版権者に通知してその出版権を消滅させることができる(84条1及び2項)。
① 6月以内に出版する義務(81条1号)に違反したとき
② 継続出版義務(同条2号)に違反した場合に3月以上の期間を定めて催告したにもかかわらず履行がされないとき
尚、複製権者である著作者は、その著作物の内容が自己の確信に適合しなくなったときは、その著作物の出版を廃絶するために、出版権者に通知してその出版権を消滅させることができる。この場合、当該廃絶により出版権者に通常生ずべき損害をあらかじめ賠償しなければならない(84条3項)。過去の著作物の内容と現在の著作者の思想・感情との間に相違が生じた場合に、著作者の人格的利益を優先させるものである。
(4)譲渡の可否
出版権は、複製権者の承諾を得た場合に限り、譲渡することができる(87条)。出版権が排他的権利であることからすれば、一定の経済的価値を有する財産権ではあるが、その設定は当然出版権者との間にある人的な信頼関係に基づくものであるから、複製権者の承諾が必要であるとしている。
(5)譲渡権との関係
出版に際しては、譲渡権の処理も当然必要となる。すなわち、出版権は複製に関する排他的権利であるから、譲渡の部分については、別途譲渡権についての権利処理を行う必要がある。
3 出版権設定と登録
出版権の設定(移転、変更、消滅も同様。)は、登録をしなければこれを第三者に対抗できない(88条1項1号)。ただし、実務においては、著作権譲渡の場合と同様に登録がなされることは少ない*23。
二重設定ががあった場合などの優劣関係は、以下のとおりである。
*23 昭和46年度から平成10年度まで(28年間)のこれらの登録の総数は、約167件である(百年史資料編1164頁)。
① 二重の設定契約、又は譲渡契約もしくは許諾契約がある場合の効力
出版権の設定は登録がなければ第三者に対抗できないので、その優劣関係は、著作権譲渡がある場合と同様になる。
② 無権限者の利用行為がある場合の効力
この場合、出版権者には自己固有の差止と損害賠償の請求権があり、無権限利用者とは対抗関係にたたないので、登録の有無にかかわらず、権利者としての権利行使が可能である。すなわち、差止も損害賠償の請求もいずれも可能である。
4 出版権設定契約か出版許諾契約か
出版に関し、通常締結されている契約はいずれの契約であると考えるべきか。
これも当事者の意思解釈の問題であるが、例えば、書籍の出版にあたり、出版社と著作者が書面をもって契約を交わし、その書面上に「出版権を設定する。」、「出版権者は複製及び頒布の権利を専有する。」などといった文言があるときは、出版権設定契約と解すべきである*24。これに対して、口頭契約や、契約書が作成されても上記文言がなく、単に発行部数、印税の額や支払時期が決められただけの契約は、許諾契約と解される。この場合、著作権法が著作物の出版の場合に出版権の設定という方法をわざわざ規定しているのだから、一般的には出版権の設定があると解すべきであるという主張もある。ただ、出版権が登録請求権を有する排他的権利であるところ、登録請求権はもちろんのこと、出版権の設定文言や権利の専有文言をも欠くような契約書であったり、単純な口頭契約である場合に、出版権設定契約の意思であるというのは疑問であり、許諾契約と解するのが合理的であろう*25。ただ許諾契約と解するにしても、単純許諾契約ではなく、独占的許諾契約と解すべきである。なぜなら、書籍出版の場合に、契約期間中、他の出版者に出版を許諾することは通常想定されていないからである。
尚、著作権法が規定する出版権に関する規定は、出版権の設定がある場合には適用されるが、許諾契約の場合は適用されないことになる。ただ、これらの規定のうち、出版権の本質的要素ではなく出版に関して著作物を利用する場合の当事者の合理的意思を昇華させたもの(80条2項、81条、82条、83条、84条)については、許諾契約において当該事項について契約書中に規定を欠く場合は、これらの規定が準用されるべきであろう。
*24 社団法人日本書籍出版会が作成した出版契約書のヒナ型参照(出版契約ハンドブック216頁)。
*25 「SF小説・太陽風公点事件」東京地裁昭和59年3月23日判決(判時1110号125頁、判タ520号266頁)、「同控訴事件」東京高裁昭和61年2月26日判決(判時1201号140頁)も同旨の判示をしている。
第4節 裁定制度
著作権者の利用許諾を得ることが困難な場合には、文化庁長官の裁定を受けて著作物を利用することができる(67条乃至74条)。
これらは強制許諾ともいわれ、著作権者の許諾がなくても補償金を支払うことを条件に、文化庁長官が代わって許諾を与える制度である。
著作権者等が不明の場合(67条)、放送目的の場合(68条)、商業用レコードへの録音目的の場合(69条)について規定がおかれており、その手続きについて70条に、補償金について71条から74条に規定がある。
第5節 著作権等の集中管理事業
1 著作権の集中管理の必要性
(1)著作権者側における集中管理の必要性
① 著作権の自己管理と委託管理
ここまで、利用者側の視点から著作物の利用のために必要な権利処理の方法を解説したが、ここでは、著作権者側の視点で、著作物の経済的価値の実現のために必要な手続、作業というものを見てみよう。
著作物の経済的価値を実現するためには、まず、ある著作物が存在していることを利用者に知らしめなければならない。著作権法が著作者に独占的・排他的権利を付与しているという法律の構成だけを見ていると、著作権者側の売り手市場のごとき錯覚に陥るが、現実は逆である。ほとんどの著作物は、利用されないのである。そこで、著作物を知らしめる活動を行うのが、宣伝・広告活動である。次に、その著作物を利用したい者と条件について交渉し、利用を許諾し、または権利を譲渡する(以下においては、利用許諾を例に説明する。)。許諾以後も、合意した額の許諾料が合意した期日までに支払われているかどうかを確認し、支払われていない場合は請求を行う必要がある。また、許諾料が利用頻度により定められている場合は、その利用頻度の確認も必要になる。督促にもかかわらず支払がない場合、また利用の回数に争いが生じたりした場合は、訴えを提起しなければならないこともある。さらに、こうした許諾手続とは別に、著作物の無断利用がないかを監視し、これを発見した場合は利用を禁止し、損害賠償を請求するなどの作業も必要である。こうした一連の手続、作業を著作物もしくは著作権の「管理」という。
ところが、こうした手続・作業は、実は、著作権者(特に、著作者)にとっては、およそ不慣れ、不得手な作業である。そこで、著作権者(著作者)は、著作権を「自己管理」するのではなく、これを専門家に委ねるという「委託管理」が行われることになる。
② 個別管理と集中管理
委託管理は、ある専門家がある特定の著作権者(著作者)から管理を委託されて特定の権利に関し管理する形態(個別管理)と管理者が多数の著作権者(著作者)から委託を受けて多数の権利をまとめて管理する形態(集中管理)がある。
③ 集中管理のメリット
個別管理は、当該著作物や著作権の個性にあわせた管理が可能であるが、集中管理には、著作権者にとって次のような管理上のメリットが生じる。
-
i)
著作物が集中管理されている結果、集中管理をしている場所が著作物の展示場的な機能を果たすし、効率的にその存在を宣伝・広告を行うことができる。また、利用者が著作者を発見できないというリスクも回避できる。
-
ii)
利用条件に関して個別交渉を回避し、団体交渉の方法で交渉ができる。
著作物の利用に関しては一般的に買い手市場であるから、団体交渉の方法によって初めて許諾料その他の条件において有利な条件を引き出すことができる。
そもそも集中管理は、多数の権利者が共同することで利用者側と交渉を有利に進めるために発展してきた(ギルド的団体)という歴史的経緯がある。 -
iii)
許諾以後の管理手続においても、集中管理によって、無断利用の監視などが効率的にできるし*26、管理コストを節減することもできる。
*26 著作物は有体物と異なり1つの著作物を多数の利用者が、同時に、多数の場所で利用できるため、無断利用が容易であり、またその発見が困難である。これを克服するために、集中管理団体が成立、発展してきたというのも歴史的な理由の1つである。
(2)利用者側における集中管理の必要性
① 利用者の権利処理の手続及び作業
次に、利用者側の権利処理という観点から見るとき、その手続、作業は、i)著作権者がだれであるか確認し、ii)その著作権者の所在を捜し出し、iii)その著作権者と個別に、利用方法及び許諾料について交渉し、iv)交渉がまとまったところで利用許諾契約を締結する、という一連の手続、作業である。
これは、利用者にとって、労力、時間、費用のかかる煩雑な手続である。
② 集中管理のメリット
集中管理には、利用者側にとって次のようなメリットが生じる。
- i)利用したい著作物とその著作権者の発見が容易になる。
- ii)多数の著作物に関し、著作権者の許諾が一括して得られ、許諾手続の効率化が図れる。
- iii)多くの利用者に許諾することを前提に定型的な許諾条項が用意されていれば、交渉が不要となり、利用を拒絶されることなく、かつ相当の許諾料で利用ができる。
(3)集中管理方式の将来
こうしたメリットをふまえるとき、多数の著作権者から権利の委託を受け、これを集中管理し、著作権者の経済的利益の獲得を実現するとともに、利用者の許諾取得の効率化に資するものとして、著作権の集中管理事業が普及・発達することが望まれることになる。
そして、デジタル及びネットワーク環境下においては、様々な分野の著作物が、大量に利用されることになる。さらに、利用者層が職業的利用者を超えて一般大衆に拡がるとき、この傾向にますます拍車がかかる。こうした環境下では、利用者にとって簡便で、かつ効率的な権利処理をなしうるシステムを用意することが、無許諾利用をなくし適法な利用を促進するために必須であるし、著作権者の経済的利益獲得のための機会が増大させることでもある。
尚、デジタルとネットワーク技術がさらに発展すれば、効率的な個別許諾の方法が可能になるから、集中管理は不要となり、個別管理が主流となるとの指摘がある。しかしながら、著作権の管理とは、利用許諾契約の締結だけではない。著作物に関する広告・宣伝活動、著作物と著作者の展示機能の提供を行うし、団体交渉によって許諾料の決定を有利に進めるといったギルド的機能を果たす場合もある。さらには、許諾料の徴収、不払いの場合に対する強制徴収、無許諾者に対する権利の執行も担うものである。そして、こうした業務を個別管理で行うときその管理コストは莫大になるのである。したがって、デジタルとネットワーク環境下においても、集中管理の異議が減少することはないであろう。
3 著作権等管理事業法
ところで、こうした著作権の集中管理事業に関する規制としては、「著作権に関する仲介業務に関する法律」(以下、仲介業務法」という。)があった。
仲介業務法は、著作権の仲介業務を許可制として高い参入規制を設け、しかもその運用において各分野において単数もしくはごく少数の仲介業務者にのみに許可を与えてきた。また、この法律が適用される著作物は、「小説」、「脚本」、「楽曲を伴う場合の歌詞」、「楽曲」に限定されていた。その結果、小説に関して「社団法人日本文芸著作権保護同盟」、脚本に関して「協同組合日本脚本家連盟」及び「協同組合日本シナリオ作家協会」、楽曲及び歌詞に関して「社団法人日本音楽著作権協会」が、この仲介業務法による許可を受けて設立され、仲介業務を行っていた。
しかしながら、上記の通り、近年、集中管理業務の重要性が再認識される中で、近代的な著作権管理事業にその法的基盤を付与することを目的として、仲介業務法を見直し、新たに「著作権等管理事業法」(以下、「管理事業法」という*27。)が制定された(平成13年10月1日施行)。
その内容は、概ね以下の通りである。
*27 著作権審議会権利の集中管理小委員会最終報告書(平成12年1月)では、「集中」という用語は特定、少数の団体への権利の集中を指向する意味に受け取られるおそれがあるから、単に「管理」という用語を用いるとしている(2頁)。そのため、法文中でも「集中管理」という用語は使われていないが、念頭にあるのは、個別管理ではなく本稿で解説しているような意味での(管理事業者が複数併存する)集中管理である。
(1)規制対象となる著作物の種類
全ての著作物である(著作権等管理事業法2条参照、以下本項で条文のみの記載がある場合は、著作権等管理事業法の条文を指す。)。さらに、本法は、実演、レコード、放送及び有線放送に関する著作隣接権の管理事業にも適用になる(2条)。
(2)規制対象となる権利委託の態様等
権利者が、事業者に権利の管理を委託する際の契約形態としては、権利を移転する信託契約*28(2条1項1号)と、利用許諾の取次ぎ*29又は代理*30を行う委任契約(同2号)による場合がある。
また、1号又は2号に該当する場合でも、「委託者」が「使用料の額を決定する」ことになっているものは、規制の対象外としている(2条1項)。これは、管理事業者に管理を委託していても、著作権等の行使について権利者が実質的な判断を行う場合は規制は不要であるという趣旨であり、権利の行使に関する判断が管理事業者に一任されている場合に限って、その対象としているのである。
*28 受託者が委託者から、財産権(信託財産)の移転を受け、当該信託財産について一定の目的にしたがって財産の管理を行うことをいう(信託法1条)。
*29 自己の名をもって、他人の計算において法律行為をなすことであり、法律上は自己が権利義務の主体となるが、その経済上の効果は他人に帰属する(商法502条)。
*30 代理人が本人に代わって意思表示をなし、又は意思表示を受領し、その法律効果が直接本人に帰属する関係をいう(民法99条)。
(3)業務実施における登録制
業務実施に関し、「許可制」を廃止し、「登録制」がとられている(1条及び3条)。
(4)管理事業者は、原則として法人
管理事業者は原則として法人であることが必要である。これは、他人の権利を多数預かる者として、一定の経済的基盤と帳簿等の作成義務がある法人に管理業務の実施者としての適格性があるという判断に基づくものである。したがって、個人や法人格のない社団の管理事業への参入は認められない(6条1項1号)。
但し、「営利を目的としない法人格を有しない社団であって、代表者の定めがあり、かつ、その直接又は間接の構成員との間における管理委託契約のみに基づく著作権等管理事業を行うことを目的とするもの」は、管理事業者として認められる。これは、本法施行時に既に存在していた「協同組合日本脚本家連盟」や「協同組合日本シナリオ作家協会」などが継続して管理事業を実施することを認めるととに、そもそも管理団体が構成員の経済的利益の確保のために「組合」などの形態でギルド的な団体として成立してきたという歴史的な背景も考慮したものである。したがって、ここでは、直接又は間接の構成員との間における管理委託契約のみに基づき管理事業を行っている必要があり、構成員以外との間で管理委託契約を締結して事業を行うことはできない。
(5)法人には株式会社などを含む
管理事業者は原則として法人でなければならないが、法人には非営利法人である公益法人や社団法人の外に、営利事業を目的とする株式会社等を含む。すなわち、株式会社形態での参入を認めるということである。
(6)委託契約約款の作成と文化庁長官への届出
管理事業者は、委託契約約款(権利者と事業者間の契約)を作成し、文化庁長官に届け出なければならない(11条1項)。これは、委託契約の内容を明らかにして委託者を保護することを目的としている。
管理事業者は、この委託契約約款によらないで、権利者と委託契約を締結することはできない(同条3項)。
(7)使用料
管理事業者は、使用料*31規定を作成し、文化庁長官に届け出なければならない(13条1項)。
従来使用料規程については「認可制」であったものを廃止し、「届出制」にした。
*31 これまでの用語例からすれば、利用許諾料のことである。
(8)使用料規程に関する協議及び裁定
使用料規定が届出制になったことにより、管理事業者は任意に使用料を決定することができる。これにより、市場原理のもと需要と供給のバランスにより適正な使用料が決定されていくことが最も理想的な形となる。
しかしながら、管理事業者が寡占化されている場合などは、権利者側が優越的地位にあり、認可制が廃止されることによって、高額な使用料が一方的に決定される可能性もある。
そこで、管理事業者がある利用区分(たとえば、音楽)の中で寡占的な立場にある場合は、当該利用区分に係る利用者代表から、届出をした使用料規程に関する協議を求められたときは、これに応じなければならない(同条2項)。
そして協議が成立しない場合は、利用者代表者は、文化庁長官の裁定を申請することができる(24条1項)。
(9)利用申込があった場合の応諾義務あり
管理事業者は、利用者から利用の申込があった場合、正当な理由がない限り、利用の許諾を拒むことはできない(16条)。
これは、利用者の保護を目的としている。
4 具体的な集中管理事業者
管理事業法の施行後多数の事業者が登録を行っているが、このうち、仲介業務法の時代から存在した団体を見ておく。
(1)許諾手続を効率化するための管理事業者
著作権を集中的に管理し、大量の著作物の利用を多数の利用者に効率的に許諾する機能を果たしているものとして、音楽業界における社団法人日本音楽著作権協会(Japanese Society for Rights of Authors,Composers and Publishers、以下、「JASRAC(ジャスラック)」という。)がある。この団体は、まさに上記目的で著作権の集中管理事業を従来から行ってきている。この他に、出版業界における日本複写権センターもある(ただし、この事業は小説を対象とするものではないので、仲介業務法の適用はなかった。)。
① ジャスラック
ジャスラックは,音楽に関する著作権の管理をその業務とする事業者であり、著作権等管理事業法施行以前においては、音楽の分野での日本で唯一の管理事業者であった。
ジャスラックは,作詞家,作曲家、音楽出版社などの音楽著作物の著作権者から著作権の信託譲渡を受けて集中的に管理し,多数の利用者に利用を許諾して使用料を徴収している。
ジャスラックは,利用形態をi)演奏等、ii)放送等、iii)映画、iv)出版等、v)蓄音機用音盤、vi)オルゴール、vii)録音テープ、viii)ビデオグラム、ix)有線放送、x)貸与、xi)業務用通信カラオケ、xii)インタラクティブの配信、xiii)その他の場合に分け、それぞれ使用料率または使用料額を定めている。そして、利用者から使用料を徴収し、これを著作権者に分配する。
ジャスラックに著作権が信託譲渡された音楽著作物に関しては、利用者は、利用許諾の申込をして使用料を支払いさえすれば、その利用が許諾される。このことは、音楽著作物に関しては、著作権者は許諾権を有しているものの、ビジネス実務では、使用料請求権として機能しているということである。これは、音楽著作物がエンターテイメント産業の中核に位置し、広範囲かつ大量に利用されているという状況の中で、利用者に効率的に利用許諾をしていくという仕組みが用意されているということができる。
② 日本複写権センター
日本複写権センターは、複写に関する権利の委託を受けて集中管理を行うことを業務としている。
複写に関しては、私的使用を目的とした複製については許諾は不要であるが、企業で業務遂行上行われる複製は、例え内部において使用されるものでも許諾が必要である。また、研究機関における複写も組織として行われる業務に関するものは許諾が必要である(第7章第3節、1参照)。
そこで、著作権者の複写等に関する権利を集中的に管理し、利用者から複写使用料を徴収して著作権者に分配する管理事業者として設立されている。
書籍の著作権者が委託している場合は、書籍の奥付に委託文言の記載がある。
ただ、同センターと複写使用契約を締結している団体はいまだ少なく、充分に機能しているとは言い難い。
(2)ギルド的管理事業者
著作権の集中管理を行うものの、その機能はむしろ、職業的利用者との交渉を有利に進めるために、利用者側と団体交渉を行うことなどを目的とする管理事業者である。すなわち、構成員の経済的利益の確保のために「組合」などの形態でギルド的なものとして成立した団体で、以下のものがある。
① 社団法人日本文藝家協会
文芸の著作物を扱う管理事業者である。
文芸作家から委託を受け、文芸の著作物の放送権、映画化権を主として管理している。出版については、作家が個別に権利処理をしている。
歴史的には、仲介業務法の設定時に社団法人日本文芸著作権保護同盟が設立され、仲介業務を行う団体としてその役割を担ってきたが、平成15年9月に解散し、その母体である文藝家協会がその業務を承継している。
② 協同組合脚本家連盟
放送番組用の脚本の著作物に関し、脚本家から委託を受けている管理事業者である。
最初の放送については、それぞれの脚本家が個別に権利処理をしているため、この管理事業者は、2回目以降のいわゆるリピート放送等について委託を受け、放送権、有線放送権、録音・録画権を管理している。
③ 協同組合日本シナリオ作家協会
映画の脚本、シナリオの著作物に関し、脚本家から委託を受けている管理事業者である。
シナリオの2次的な利用についての管理を行っている。
5 権利情報の集中管理
著作権等の集中管理の問題とは別に、権利情報の集中管理の問題がある。特に、管理事業法においては、複数の管理団体が併存することが前提になっているので、権利情報の集中管理が必要となる。すなわち、どの著作物に関する何の権利がどこで管理されているかに関する情報の管理の問題であり、これらの情報が一個の窓口で提供されることが望ましい。
文化庁の推進する著作権権利情報システム(JーCIS:Japan Copyright Information Service System)構想などがある。
6 指定団体制度
著作権等管理事業者は、事業者に任意に設立し、任意に管理事業を営むものであるが、以下の権利の行使について、文化庁長官が指定する団体がある場合は当該団体によってのみ権利行使ができるとされている。
- 1 私的録音録画補償金を受ける権利(104条の2)
- 2 商業用レコードの二次使用料を受ける権利(95条、97条)
- 3 商業用レコードの貸与報酬を受ける権利(95条の2、97条の2)
貸与権の許諾に係る許諾料を受ける権利については指定団体による行使ができる。
これらは権利行使にあたっての指定団体による行使が義務づけられている*32。その制度趣旨及び具体的な指定団体については、当該権利に関する説明の箇所で解説する。
*32 集中管理中間まとめ69頁に概括的な説明があるが、本文は私見である。
