第10章 権利の救済
前章で侵害の成否について検討したが、最後に、侵害が肯定された場合の権利の救済手段について説明する。
著作権法は、まず、著作権等の権利の内容である利用禁止権を実効あらしめるため、差止請求権について規定している(112条)。
次に、損害賠償請求権については民法の不法行為の規定によるが(その意味では、一般の権利侵害がある場合と異ならない。)、著作権法は、損害額の算定等に関し特別規定をおき、また名誉回復等の措置請求について規定している(115条)。
さらに、侵害者に対しては刑事罰を科す(119条以下)。
第1節 差止請求
1 差止請求の内容
(1)差止請求
著作権者は,その権利を侵害する者又は侵害するおそれのある者に対して,その侵害の停止又はその予防を請求することができる(112条1項)。これを,「侵害停止請求権」と「侵害予防請求権」といい,あわせて「差止請求権」という。
本条項は,侵害者に「故意又は過失」があることを要件としていないので、侵害者が無過失の場合でも,差止請求権を行使することができる。過失がなかったとしても、その利用が侵害である以上は、その利用を停止しなければならないからである。
(2)差止請求以外の請求
次に、侵害行為の停止請求又はその予防請求以外にも、こうした請求をする際に、
- ⅰ)侵害行為を組成するもの(違法上映された映画のフィルムなど)の廃棄、
- ⅱ)侵害行為によって作成された物(海賊版の書籍や音楽CDなど)の廃棄、
- ⅲ)もっぱら侵害行為に供された機械又は器具(印刷機、プレス機など)の廃棄、
- ⅳ)その他の侵害の停止又は予防に必要な措置
を請求することができる(112条2項)。
この規定によって権利者は、侵害停止又は予防請求だけではなく、そのために役立つ侵害行為の周辺にある物件の廃棄を請求できる。
尚、上記請求は、侵害停止又は予防請求にあわせて請求する必要があるとされる。「前項の規定による請求をするに際し」と規定されていることを理由とする。
2 将来作成される侵害物に対する侵害予防請求権の存否
侵害予防請求権とは、著作物が存在していることを前提として、当該著作物に対して将来起こりうる侵害(例えば違法複製物の作成)を予防するのがこの権利の本来的な内容である。そうすると、例えば、新聞が日々発行されるたびにその違法複製物が作成されるような継続的侵害行為がある場合に、未だ存在しない著作物に関して侵害予防請求権を行使することが可能であろうか。著作物が創作されると直ちに違法複製物が作成される場合で、著作物が作成されてから差止請求権を行使するのでは実質的な権利の救済にならないというような特殊事情がある場合は、こうした請求も認めるべきであろう。
「ウオールストリート事件」*1(その内容は、9章第1節第3、10参照)において、判旨は、相手方は要約・翻訳文書の作成、頒布を今後も継続する旨顧客に通知しているので、今後も新聞が発行される毎にこれに依拠してこれまでと同様の文書を作成・頒布して侵害行為を行うであろうことが確実であると認められ、他方でその要約・翻訳文書は、新聞の発行後直ちに作成・頒布されるものであるから、新聞の発行の都度、作成・頒布の予防ないし停止を請求してその目的を達成することは事実上極めて困難であるとして、事前の差止請求を認容している。
*1 東京地裁平成5年8月30日判決(知裁集25巻2号380頁)。東京高裁平成6年10月27日判決(判時1524号118頁、ジュリスト1111号234頁)もこれを維持している。
3 差止請求の範囲
差止請求の範囲については、例えば、違法複製が書籍の一部にあるにすぎないときでも、違法複製部分とその他の部分は不可分であるから、書籍全体についての出版差止が認容されることになる。「壁の世紀事件」*2や「スマップ事件」*3の判旨も同旨である。また、「ゴーマニズム宣言事件控訴審」*4では、引用された漫画57カットのうちの1カットが同一性保持権を侵害することを理由に、書籍の出版差止を認めている。
これに対して、損害賠償の額は、違法複製部分の割合によることになる(後述)。
*2 東京地裁平成10年11月27日判決(判時1675号119頁、判タ992号232頁)
*3 東京地裁平成10年10月29日判決(判時1658号166頁、判タ988号271頁、知裁集30巻4号812頁)
*4 東京高裁平成12年4月25日判決(判時1724号124頁)
第2節 損害賠償
1 損害賠償請求権の根拠
著作権などの権利侵害がある場合は、民法709条以下の不法行為の規定に基づき、侵害者に対して、損害賠償の請求をすることができる。すなわち、損害補填のための請求権の根拠となるのは著作権法ではなく、民法の不法行為規定(民法709条以下)である。
2 過失論(注意義務の内容)
損害賠償請求においては、侵害者に故意・過失があることが要件となるので、注意義務の内容及び程度が問題になる。
以下においては、後行著作物の著作者と著作物の利用者に分けて検討する。
(1)後行著作物の著作者
活動に従事する者の注意義務に関しては、先行著作物に依拠しない限り侵害はおこらないのであって、同一又は類似の先行著作物がないかどうかを調査する注意義務はない。これを肯定すると、創作活動に従事する者に多大な負担をかけることになって文化の発展を阻害するからである。従って、注意義務が問題とされるのは、依拠がある場合である。この場合、依拠はあるものの(たとえば、参考にした。)、自ら作成した後行著作物が新著作物であると信じたとしても、それだけでは過失が否定されることにはならない。
(2)著作物の利用者(後行著作物の著作者以外の者)
著作物の利用者の注意義務に関しては、許諾を得ていないことを知りながら利用した場合は故意があることになるが、著作物の制作を依頼したことろ、受託者が先行著作物に依拠して後行著作物を制作して引き渡し、依頼者がこれを利用した場合や許諾があると信じていたが実は有効な許諾がなかった場合(例えば、許諾手続きに瑕疵があり有効な許諾がなかったとか、エージェントが許諾をとっていたと信じていたがとっていなかったというような場合)は、具体的事実に基づき判断されることになる。
以下、裁判例を見よう。
① 著作物の作成依頼者
- i) パンシロン事件*5
- 製薬会社がデザイン会社に対し医薬品のパッケージのデザインの作成を委託し、デザイン会社が図柄を作成したが、この図柄は、他人の著作権を侵害するものであったために、権利者が著作物の作成依頼者である製薬会社に対して損害賠償の請求をした事案である(第9章第1節第3、3参照)。
この場合、製薬会社は、権利者の著作物を違法に複製又は翻案し、頒布する者であるから、過失の有無にかかわらず商品の販売(パッケージの印刷、頒布)の停止を求められることになるが、損害賠償責任については、注意義務の内容が問題になる。
製薬会社は、自らは単なるデザインの発注者にすぎず、デザイン会社が何を参考にして図柄を作成したかは知らないのであるから、製薬会社の責任は問えないかのようである。しかしながら、判旨は、依頼した図柄を大量に複製して頒布するのは発注者なのであるから、自ら侵害の有無を調査し、利用許諾を得る措置を講じる注意義務があるのであって、こうした注意義務を尽くすに当たっては、第三者(本件の場合はデザイン会社)に委託することも差し支えないが、受託者が調査をし許諾を得る場合は、しかるべき注意を尽くすよう指揮・監督すべき義務があるとした。
これは結局、デザイン会社が受託業務を行う場合に尽くすべき注意義務を尽くさない場合は、受託者は委託者の代行者なのであるから受託者の義務違反は、委託者の義務違反と同視されるという趣旨である。
尚、こうした委託契約においては、「万一第三者から著作権侵害を理由とする訴えが提起された場合には、すべて受託者が責任を負う。」という内容の条項がおかれるのが通常であるが、判旨は、こうした条項は契約当事者間でのみ意味を持つにすぎず、著作権者に対する関係で注意義務が軽減されることの根拠となり得るものではないと判示しているが、これは当然である。
*5 大阪地裁平成11年7月8日判決(判時1731号116頁)
- ii) 恐竜イラスト改変事件*6
- イラストレーターがイラスト画を作成し、Y1に作品の管理及び貸出業務を委託していた。Y4は、製品カタログの制作を広告代理店であるY3に委託し、Y3は、Y1のカタログ中から本件著作物を選び、Y1の代理店であるY2に本件著作物の貸出を打診した。その中で、Y3はY2に対し、イラスト画に変更を加えて利用したいと申し出たので、Y2はY1にこれを伝えたが、伝えた申し出の内容が正確ではなく、Y3が申し出た変更内容の一部しか伝えられなかった。Y1は、これをイラストレーターに伝えたところ、イラストレーターは、伝えられた範囲での変更を承諾したが、これがY3の申し出を全て承諾したような形でY3に回答がなされた。そして、Y3は、実際の承諾の範囲を超えて変更した上で、Y4のカタログの作成に利用し、Y4が、完成したカタログを広く取引先に頒布した。そのためイラストレーターが、Yらの利用行為が同一性保持権の侵害に当たるとして、損害賠償の請求をした事案である。
この場合も、Y4は、過失の有無にかかわらずカタログの複製、頒布の停止を求められることになるが、損害賠償責任については、Y1ないしY4の注意義務の内容が問題になる。
判旨は、各被告ごとに過失の有無を判断し、Y3の申し出を正確に伝えなかったY2に過失があり、かつ同じく慎重な確認作業を行わなずに貸出業務を行ったY1についても過失があり、これに対して広告代理店Y3は変更に関し許諾の申し出を行いY2から承諾があった旨の回答を得ているので過失はなく、Y4はY3にカタログ制作を依頼した顧客であるから過失がないと判示している。
この判旨は、受託者であるY3に過失ないのであるからY4にも過失がないということと、Y1とY2の過失はイラストレーター側のエージェントの過失であるから、Y4が責任を負担するものではないことを判示するものとして理解できるであろう。
*6 東京地裁平成10年10月26日判決(判時1672号129頁、判タ994号266頁)、東京高裁平成11年9月21日判決(判時1702号140頁、判タ1057号256頁
② 出版社
作家の小説を出版社が印刷、頒布したところ、当該小説が盗作であった場合、出版社は、書籍の印刷、頒布の停止を求められることになる。
損害賠償請求に関しては、出版を業とする出版社は、出版の対象となる著作物が盗作ではないか、又は盗作部分を含んでいないかという点について厳格な調査義務が課せられるのが一般である。
「日照権論文事件」*7では、弁護士が他の弁護士の日照権に関する論文を盗用した事案である(第9章第1節第3、2、(4)②参照)が、出版社が調査義務を尽くせば盗用を知り得たはずであると判示している。
筆者は、日本弁護士連合会公害対策委員会の委員を勤めるなどの当該分野の専門家であったが、こうした専門家の論文に関してもその内容に関し調査義務があるとしている点で、出版者に対し相当高度な注意義務を課していることになる。
「豊後の石風呂事件」*8では、民俗文化財の専門家が専門分野の調査結果を出版する場合において、出版社に調査義務があるという。
「卒業作品レリーフ事件」*9では、学生の卒業作品のレリーフがある美術家の作品を模倣したものであった事案で、出版社は美術誌を発行していたのであるから、既に公表された美術の著作物について調査すべき義務があると判示している。
「薬理学書籍改訂版出版事件」*10では、改訂版の新旧執筆者が異なっており、改訂後の執筆部分に改訂前の表現の無断利用が行われていた事案において、出版社はこうした可能性を当然予想すべきであり、予め新執筆者に注意を促し、さらに執筆済みの原稿を照合して違法利用の有無を確認すべき注意義務があるとする。
否定事例として、「医学部助手氏名脱漏事件」*11では、医学部教授が研究室の助手が執筆した原稿を他の原稿と併せて編集し、確定持込原稿として医学書出版社が出版したところ、助手が氏名表示権の侵害を主張した事案について出版社の過失を否定している。これは、出版社と教授間において教授がその他の著作協力者との関係を調整し確定原稿にして提出する合意があり、権利者(助手)も部外の第三者ではなくその著作協力者側にいることが、調査義務の範囲が軽減される理由になったものと思われる。
「33歳からのぐうたら健康法事件」*12では、後行書籍に、月刊誌に掲載された文章が複製されていたという事案で、出版社が地方の小出版社であること、著者が山梨県では名の知られた医師であることなどを理由に、予め広く一般の雑誌記事にまで目を通して調査すべき義務があるということはできないと判示している。
*7 東京地裁昭和53年6月21日判決(判タ366号343頁、無体集10巻1号287頁、著判続Ⅰ195頁)
*8 東京地裁昭和61年4月28日判決(判時1189号108頁、判タ603号81頁)
*9 東京地裁平成2年4月27日判決(判時1364号95頁、判タ742号201頁)
*10 東京地裁平成2年6月13日判決(判時1366号115頁、判タ742号187頁)
*11 千葉地裁昭和54年12月19日(著判Ⅱ①457頁)
*12 東京地裁平成7年5月31日(判時1533号110頁、判タ883号254頁)
③ 放送局
「悪妻物語事件控訴審」*13は、放送局が第三者に委託して制作したテレビドラマを放送したところ、当該テレビドラマの脚本が盗作であった事案である。判旨は、放送や放送番組の制作等を業としている放送局は、その制作、放映するテレビドラマが他人の著作権や著作者人格権を侵害することのないよう万全の注意を払う義務があることは当然であり、このことは、当該テレビドラマの制作を第三者に委託し、これを放映する場合であっても同様であると判示し、放送局の損害賠償責任を肯定している。尚、制作会社との契約で、制作会社が一切の権利処理を自己の負担と責任において行う約定になっていたとしても、この約定を理由として注意義務が軽減されたり、免除されたりするものではないとする。パンシロン事件における判示内容と同旨であって正当である。
*13 東京高裁平成8年4月16日(判時1571号98頁、知裁集28巻2号271頁)。一審は、東京地裁平成5年8月30日判決(知裁集25巻2号310頁)。
④ 音楽出版社、レコード製作者、ジャスラック、放送局
「どこまでも行こう事件」*14(その内容は、第9章第1節第3、6参照、以下「基本事件」という。)は、先行楽曲(以下、「甲曲」という。)の翻案権を後行楽曲(以下、「乙曲」という。)が侵害したとして乙曲の作曲家に対し損害賠償を求めた事案である。ところで、音楽の著作権は音楽出版社(作詞・作曲家から著作権を譲り受けて、これを管理し、また売り込み等をして利用の促進を図ることを業務とする。)に譲渡され、さらに著作権等管理事業者であるジャスラックに信託譲渡され、その後利用者の求めに応じて利用許諾される(第5章第5節、4、(1)、①参照)。また、その音楽の演奏・歌唱はレコード製作者が録音して原盤を作成し、商業用レコード(音楽CD)として販売される。そして、放送局は、この音楽CDを使ってこれを放送するなどして利用する。そうすると、本事案の場合、乙曲は甲曲の二次的著作物であるから、乙曲の全ての利用について甲曲の著作権者の許諾が必要であるので、乙曲の利用者全員の利用行為が侵害となって差止請求の対象となるが、さらに損害賠償責任まで負担するかどうかが問題となる。
音楽出版社とレコード製作者を被告とした派生事件1*15では、音楽出版社の過失に関し、作曲家から乙曲の著作権の譲渡を受けてジャスラックにこれを管理委託したものであり,その結果、ジャスラックの利用許諾を受けた利用者が乙曲を利用したことによって,甲曲の権利者の権利侵害を惹起したのであるから、この場合,甲曲の著作権を侵害する曲を管理委託することのないようにすべき注意義務に違反した過失があるとする。
また、レコード製作者の過失に関しては、乙曲の原盤の作成にあたったレコード製作者の担当者は甲曲の存在を知っていたが、乙曲を聞いて甲曲を思い起こしたことはなく、また、乙曲のアルバムの発売後も、さらに放送局により乙曲が放送された後も、乙曲が甲曲に似ているといった意見が寄せられることはなかったとしても、レコード製作者は音楽業界の専門の団体であり、音楽著作物について著作権侵害があるかどうかを調査する能力も経済力も有しているので、乙曲の原盤作成にあたっては他人の楽曲の著作権を侵害するものでないことを調査し、確認すべき義務があるとした上で、レコード製作者はこの調査義務を尽くしていないと判示している。
そして、乙曲と甲曲の類似性は一見して明らかではなく、音楽業界の関係者も一般視聴者も誰1人としてその類似性を指摘した者はおらず、高名な作曲家が著作権を侵害して作曲するとは通常では考えられず、基本事件第1審では侵害を否定する判決が言い渡されたことなどの事実がある状況下では,レコード製作者らには原盤制作等につき過失がないというレコード製作者らの主張に対しては、いずれも,レコード製作者らにおいて乙曲が甲曲に係る権利を侵害するものであることについての判断が充分でなかったことを示すものにすぎないとする*16。
放送局を被告とした派生事件2*17では、放送局の注意義務に関し、その放送する番組や音楽等が他人の権利を侵害することのないように万全の注意義務を尽くす義務があり*18、当該放送局の事業規模からしてもその調査能力を十分に有していたというべきであって、それにもかかわらず侵害を防止するための何らの方策もとっておらず、このことは注意義務を尽くさず、漫然と乙曲の放送をし続けたものであるから過失があるという。
さらに、ジャスラックは基本事件に関する訴訟が提起された後も,なお乙曲を管理除外とすることなく,何の制限も付することなく乙曲の利用を許諾しているのだから、これを信用した放送局に過失はないという放送局の主張に対しては、ジャスラックと放送局との間の内部関係においてこの点を斟酌することがあるとしても,このことをして甲曲の権利者との関係で過失がないということはできないとする。
ジャスラックを被告とした派生事件3第1審*19では、ジャスラックの注意義務に関し、ジャスラックの目的や業務の性質上、ジャスラックは自ら管理し利用を許諾する音楽著作物が他人の著作権を侵害することのないように万全の注意を尽くす義務があるとする。そして、ジャスラックは多数の著作物を管理しており個別の調査義務はないという主張に対しては,遅くとも基本事件に関する訴訟が提起された以降は侵害の有無について真摯にかつ具体的に調査検討し,侵害の結果が生じることのないようにする方策をとるべき注意義務があったというべきであり、ジャスラックの事業の目的及び規模からしても調査能力を十分有しており,侵害の結果を回避できたとする。また、甲曲の著作権者の要求のみに基づいて乙曲の管理除外措置を実施することは,多数の委託者の著作権を公平に管理すべき義務に反するという主張に対しては、これは,ジャスラックと乙曲の管理を委託した音楽出版社との間の内部関係であって,甲曲の著作権者との関係において過失を否定することにはならないとし、また,遅くとも,基本事件に関する訴訟の控訴審判決の後は,侵害の蓋然性が極めて高くなったのであるから,ジャスラックとしては管理を除外しあるいは一旦利用許諾を控える等,損害を拡大しないような措置を執るべきであったとしている。
これに対して控訴審*20は、ジャスラックのとりうる措置は2曲の管理除外措置か使用料分配保留措置であるところ、甲曲の権利者がジャスラックに対し、乙曲の管理除外措置ではなく利用許諾を継続することになる使用料分配保留措置をとるように申し入れ、その後もこの措置をとることを了承していたのであるから、ジャスラックがこの申し入れと了承に従って乙曲の使用料分配保留措置をとりつつ利用許諾を継続すれば、後に基本事件で侵害が確定しても、不法行為責任又は著作権信託契約上の債務不履行責任を負うものではないと判示している。
*14 東京高裁平成14年9月6日判決(判時1794号3頁、判タ1110号211頁)
*15 東京地裁平成15年12月19日判決(判時1847号70頁、判タ1149号232頁)
*16 判例は、派生事件1だけでなく、後掲派生事件2及び3においても、職業的利用者に相当高度な注意義務を課している。そして、派生事件1でのレコード製作者の主張のように、1人甲曲の著作者だけが主張しただけで音楽業界の関係者も一般視聴者もその類似性を指摘した者は誰1人としていなかったという経緯があったのならば、各派生事件の説く注意義務の内容は、無過失責任を課すのと同様であるといえなくもない。しかし、乙曲について、当初から甲曲との類似性を指摘する者も相当にいたというのが実際であり(例えば、安藤和宏「音楽の著作物における編曲権侵害の成否」(判例評論531号34頁、判例時報1812号196頁)参照)、それにもかかわらず大手といわれる各職業的利用者がその類似性を検討した様子もないことから、上記判旨になったものと思われる。
*17 東京地裁平成15年12月19日判決(判時1847号95頁)
*18 尚、この判決は、少なくとも基本事件に関する訴訟が提起された後は注意義務があるというが、それ以前は注意義務がないという趣旨ではなさそうである。
*19 東京地裁平成15年12月26日判決(判時1847号109頁、判タ1149号232頁)
*20 東京高裁平成17年2月17日判決(最高裁ホームページ)
3 損害額の推定等
損害賠償の請求に関し、著作権法は民法の規定を補完する特別規定をおいている。
すなわち、一般に侵害を受けた権利者が損害賠償の請求を行う場合、権利者は,侵害の存在とこれによって被った損害の額を算定し証明しなければならないが,こうした証明というのは困難をともなうものである。そこで、知的財産権保護の強化という国の施策の下で、損害額の推定や権利者の立証活動の支援手続などに関する特別規定をおいて、権利の強化をはかっている。
以下では、概観する。
(1)損害額の推定等
① 損害額=譲渡数量×単位数量あたりの利益の額(114条1項)
権利者の販売能力を超えない範囲で、「侵害者の譲渡数量」×「正規品の単位数量当たりの利益額」を損害額とすることができる。ただし、侵害者の譲渡数量を権利者が販売できないとする事情があることを侵害者が立証したときは減額される。
これは、2項において、侵害者の利益の額を損害額とする規定があるものの、侵害者が無償で配布したり、得た利益の額が小さかったような場合に十分な賠償が得られなかったり、また、侵害者の利益が証明ができない場合がある。そこで、本項の規定がおかれている*21。
また、本項の規定により、著作物等が公衆送信された場合には、「公衆送信の結果作成された複製物の数量(ダウンロード数量)」×「正規品の単位数量あたりの利益額」を損害額とすることができる。
*21 平成15年著作権法改正で、従来の1乃至3項を2乃至4項とし、1項を新設した。
② 損害額=侵害者の利益の額(114条2項)
侵害者が利益を得ているときは、その利益の額を権利者の損害額と推定する。ただし、本項は推定規定であるから、侵害者による反証が可能である。
③ 損害額=許諾料(ライセンス料)(114条3項)
権利者は権利の行使の際に受けるべき金銭の額に相当する額(一般には、利用許諾契約を締結する場合の許諾料)を損害額として、賠償請求ができる。本条項は推定規定ではないので、権利者に最低限の賠償額を保証する意味がある。
尚、従来の規定は「権利行使につき通常受けるべき金銭の額」としていたが、ここから「通常」の文言を削除した(平成12年著作権法改正)。例えば、侵害者が権利者と競争関係にある場合は権利者は一般に許諾を与えることはなく、仮に許諾を与える場合は高額になるであろうから、こうした場合は通常の相場に拘束されることなく妥当な額を算定できるようにしたものである。
④ 損害額=現実の立証額(114条4項)
本項は、3項に規定する金額を超える損害の賠償の請求を妨げないと規定するが、権利者は、具体的損害を立証して、3項に規定する金額を超える損害賠償の請求をすることができることは当然であって、注意規定ということになろう。また、この場合、侵害者に故意又は重過失がなかったとき(軽過失であるとき)は、裁判所は、賠償額の算定にあたってこれを参酌し、減額ができるとしている。
⑤ 相当な損害額の認定(114条の5)
以上の規定によっても、損害が発生していることは認められるものの、損害額の立証が当該事実の性質上極めて困難なときは、裁判所は、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、相当な損害額の認定ができるとしている。
⑥ 倍額賠償責任や懲罰的賠償責任など
著作権法は、損害額の立証の困難さを緩和して、権利者の被害の回復をはかるために上のような規定をおいている。ただ、114条の1項や2項において、譲渡数量に単位数量あたりの利益の額を乗じて得た額を損害の額としたり、侵害者の利益の額を権利者の損害の額と推定するといっても、そもそも譲渡数量や利益の額の立証自体に困難を伴うことは否めない。そして、そのため、同条3項が最低ラインの保証をするものとして規定されているとしても、この規定によれば、侵害者は侵害が発見されたときに正常な利用者が払うべき許諾料相当額(しかも権利者が立証できた個数に基づき)を支払えばよいということである。そうすると侵害のやり得であって、権利侵害の発生を抑制する機能を果たしえない。万引きが発見された後に、商品の代金を支払えばよいということである。さらにこうした結果は、権利者の利用禁止権と許諾権はないに等しく、わずかに使用料請求権が付与されているというのに等しい。
そのため、例えば、114条3項の規定内容を、通常の許諾料相当額の二倍とか、三倍にすべきだという意見も当然出てくることになる。ただ、このような規定をおくことは、もはや損害の回復という目的を超えて懲罰的な要素を含むことになるから、民法の不法行為制度との整合性(懲罰や一般予防を目的とする制度を設けるためには、不法行為制度一般の体系の見直しが必要となるであろう。)*22や著作権法以外の工業所有権法がこうした規定をおいていないこととの均衡論などから採用されるにはいたっていない。
尚、侵害者に実質的に2倍の許諾料の支払を命じた裁判例として、「業務用プログラム違法複製事件」*23がある。これは、プログラムを購入した事業者がこれを複数のパソコンにインストール(複製)して使用していた事案であるが、権利者より複製権侵害を理由に損害賠償(プログラムの複製物の小売価格×違法複製の数)の請求を受けたため、事業者は必要個数のプログラムを購入した。しかし、権利者は、購入前の違法複製に係る損害として、上記損害賠償請求を維持した。
ところで、市販されている一般のコンピュータ・プログラムは、一回代金を払って購入したらこれをインストール(複製)して以後永久に使うことができる。すなわち、許諾料の支払は複製物の購入時の一回限りである。そうであるなら、侵害者が必要個数のプログラムの複製物を購入したならば、権利者は「権利の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」の賠償を受けたことになる。これに加え、購入前に違法複製があったことを理由として損害賠償の請求を行うのは、倍額賠償を求めることではないかが問題となる。
判旨は、違法複製があったときに権利者の損害が発生し、確定したとみるべきであり、その後正規品を購入したという行為は,これを将来にわたり複製使用することができる地位を獲得するものであり、既に確定的に成立した権利義務関係(損害賠償請求権の存否又は多寡)に影響を及ぼすものではないと判示して、権利者の請求を認容している。
*22 侵害者に懲罰を与えることや一般予防を目的とする賠償金の支払を命ずることは、損害の填補を目的とする現行民法上の不法行為に基づく損害賠償制度の基本原則・理念と相容れないと判示するものとして、「万世工業事件」最高裁平成9年7月11日判決(裁判所時報1199号3頁以下)。
*23 東京地裁平成13年5月16日判決(判時1749号19頁、判タ1060号275頁)
(2)立証活動の支援手続等
① 具体的態様の明示義務(114条の2)*24
侵害訴訟において、相手方が、侵害行為を組成したもの又は侵害の行為によって作成されたものとして権利者が主張する物の具体的態様を否認するときは、相手方は、自己の行為の具体的態様を明らかにしなければならない(積極否認の特則)。例えばプログラム著作物に関する侵害訴訟においては、相手方は、侵害品と主張されているプログラムが権利者のプログラムと異なると主張する(単純否認)だけでは足りず、自己のプログラムの内容を具体的に明らかにしなければならない。
ただし、相手方において明らかにすることができない相当の理由があるときは、この限りでない。
*24 平成15年著作権法改正で新設された。
② 書類提出命令(114条の3)
侵害訴訟において、裁判所は必要書類の提出又は証拠物の提示を命ずることができる(1及び4項)。ただし、その提出又は提示を拒むことについて正当な理由があるときは、この限りでない。
そして、相手方が提出を拒む正当な理由があると主張する場合は、その当否をインカメラ審理によって判断することができるとしている(2及び3項)。
③ 鑑定人制度(114条の4)
損害の計算をするために裁判所が鑑定を命じた場合には、当事者は、鑑定人に対して必要事項の説明をしなければならない。
第3節 不当利得返還請求
法律上の原因なくして他人の財産から利益を受け、これにより他人に損失を与えた場合を不当利得といい、権利者は受益者に対して不当利得の返還請求をすることができる(民法703条以下)。
そうすると、他人の著作物を無許諾で利用する者は、法律上の原因がなく他人の著作物を利用しながらその利用料の支払を免れて、同額の利益を得たことになり、他方、権利者は、受けるべき利用料の支払をうけることなく著作物を利用されているわけであるから、これと同額の損失を被ったことになる。従って、権利者は、利用者に不当利得返還の請求をすることができる。すなわち、著作物等の違法利用がある場合は、不法行為に加えて不当利得も成立するのが一般である。ただ、不当利得を理由として請求を行う場合は、権利者の損失及び受益者の利得の立証に関して前節で解説した特別規定の適用はないので、不法行為責任が時効(民法724条により3年、不当利得は民法167条1項により10年)などにより追及できない場合の次善の策という位置づけになる。
利得の返還義務の範囲は、受益者が善意の場合は利益の存する限度であり、悪意の場合は利益の全部と利息である(民法703及び704条)。
第4節 名誉回復等の措置請求
人格権の侵害があった場合には、著作者又は実演家は、損害の賠償に代えて、又は損害の賠償とともに、著作者又は実演家であることを確保し、又は訂正その他著作者もしくは実演家の名誉もしくは声望を回復するために適当な措置を請求することができる(115条)。
この条項に基づき、謝罪広告の請求がなされることが多い。
第5節 侵害者の範囲
1 差止請求及び損害賠償請求における侵害者の範囲
著作権法は、「著作権等を侵害する者(又は侵害するおそれがある者)に対し、その侵害の停止(又は予防)を請求することができる」と規定し(112条1項)、また民法は、「他人の権利を侵害した者は・・・損害を賠償する責めに任ず」と規定している(709条)が、ここでいう「侵害する者」や「侵害した者」(以下、「侵害者」という。)の範囲が問題となる。
すなわち、侵害に複数の者が関与している場合に、どの範囲の関与者に侵害停止の請求ができるのか、またどの範囲の関与者に損害賠償の請求ができるのかという問題である。こうした関与者には、物理的侵害行為を行う者、物理的侵害行為を管理・支配する者、教唆する者、幇助する者、物理的侵害行為に用いる機器やシステムを提供する者などがあるが、これらの者が全て上記条項にいう侵害者になるのかが問題となるのである。
2 侵害者の範囲に関する従来の考え方
差止請求に関する著作権法112条と損害賠償請求に関する民法709条が規定する侵害者について、その範囲を次のように理解するのが一般である。
まず、著作権法112条は、侵害の停止を請求できる相手方を侵害行為そのものを行う者(以下「直接侵害者」といい、典型的には物理的な侵害行為を行う者である。)に限定しており、教唆者や幇助者、また侵害に用いる機器などの提供者のように間接的に侵害行為に関与する者(以下、「間接侵害者」という。)は含まないと理解する。この考え方は、差止請求権は、排他的支配権である著作権について物権的請求権である妨害排除請求権と同様な権利を認めたものであるが、妨害排除請求権は直接の侵害者に対して行使できるものであり、そのため112条1項もその相手方を「侵害する者」又は「侵害するおそれのある者」と規定しており、間接侵害者を対象としていないことを理由とする。さらに同じく差止請求権を与えている特許法や商標法などは、幇助行為のうち一定の類型の行為を権利侵害とみなし、このみなし侵害行為に限定して差止請求の対象としている(特許法101条、商標法37条)から、こうした見なし侵害規定がないときは差止請求の相手方にはならないということも理由にする。
これに対して、損害賠償請求に関する侵害者の範囲については、侵害者に間接侵害者を含むかといった議論はない。民法は、共同不法行為がある場合に共同不法行為者が全員が連帯責任を負うことと、あわせて教唆者及び幇助者も共同不法行為者と同様の連帯責任を負うことを規定している(719条)ので、たとえ間接侵害者であっても直接侵害者と連帯して損害賠償義務を負担することになる。従って、不法行為の場合の侵害者の範囲の問題は、注意義務を負う行為者の範囲の問題である。不法行為が成立するためには、行為者に注意義務違反(過失)あることが要件となり、この義務は予見義務と結果回避義務により構成される。そして、この予見義務と結果回避義務を負う者の範囲が拡がれば不法行為責任を負担する関与者の範囲が拡がるのである。特に、行為をしない者(不作為者)が上記注意義務を負うことになると、その範囲は一挙に拡大することになるが、従来、不作為は不法行為を構成せず、被害者と特別な関係にある者だけに条理上の作為義務が生じるとするのが一般的に考え方である。
3 侵害者の範囲に関する議論の現代的意義
上記侵害者の範囲に関する議論は、速やかな権利の救済を得るためには、直接侵害者の侵害行為を停止させ、直接侵害者に損害賠償責任を求めることこそが直截的でありかつ実効性があるはずであるから、さして重要でない議論のように思える。
しかしながら、例えば自らの店舗に常置させた楽団に演奏させるキャバレーやダンスホールなどの興業主のように直接侵害行為を管理支配する者がいる場合、むしろこうした興行主に対して侵害の停止や損害賠償を求めた方が直裁的であり、かつ実効性がある。また、無許諾で演奏・歌唱を行うカラオケ店が広範囲に拡大し、かつこうした事業者が一般的には零細事業者であって遵法意識が希薄であるとき、カラオケ装置の提供事業者に対しその提供行為の停止を求めたり損害賠償の請求ができたら、実効的かつ効率的な権利の救済を得ることができる。さらに、侵害者が一般大衆であるとき、こうした侵害者に対して個々に権利行使しても極めて実効性に乏しく、効率性に欠け、かつ高コストとなる。こうした場合には、一般大衆が侵害に用いる機器などの提供を停止させ、かつその提供者に対して損害賠償を請求したいという要求が権利者においてさらに高まるのは自然である。特にネットワーク環境は、侵害者の範囲をますます一般大衆に拡大するが、利用行為や侵害行為はその環境を構築するシステムなしには行えないし、こうしたシステムの提供者は、技術的に利用行為や侵害行為をコントロールできる場合が多い。そうすると、侵害に対する救済手段としては、一般大衆ではなくシステムの提供事業者を相手にできれば、効率よく、実効性のある救済が得られる。
ただそうはいっても、権利の救済という観点だけを強調して、直接侵害行為との関連の薄い間接侵害者にも侵害の停止を求めることができるとしたり、また注意義務を負う者の範囲を無制限に拡張し損害賠償責任を負担させたりすることは合理的でない。例えば、ある機器が侵害に用いられる場合があるからといって、それだけの理由で機器の製造、販売業者に侵害の停止を求めることを認めたり、損害賠償責任を負わせたりすれば、機器の製造、販売業者の営業の自由を侵害することに加え、機器に関する技術開発とその発展・普及を阻害し、その結果そうした機器が我々に与える便益を剥奪することにもなりかねない。
そのため、権利救済のための実効性や効率性と事業者の営業の自由などとの調和点をどこに見いだすべきかという意味で、差止請求や損害賠償請求ができる相手方の範囲に関する問題が重要性を帯びることになる。
尚、ここでの議論においては、次の点に留意すべきである。
- ① 差止請求における侵害者の範囲に関する議論は、間接侵害者に対し直接侵害行為の停止を請求することができるかどうかの議論であって、例えば教唆・幇助者に対し教唆・幇助行為の停止を請求することができるかどうかという議論ではない。
- ② 損害賠償責任に関する侵害者の範囲に関する議論は、予見義務と結果回避義務を負う者の範囲、特に不作為の場合に条理上の作為義務が生じる者の範囲の問題である。
- ③ いずれも、基本的には、直接侵害者の存在を前提にして、間接侵害者が差止請求の相手方になり又は損害賠償責任を負うかという議論である(例外は、後述4(4)参照)。
4 侵害者の範囲に関する判例
以下では侵害者の範囲に関する判例を、①直接侵害行為に対する管理支配がある場合、②直接侵害行為に対する管理支配がない場合、③直接侵害行為に対する間接的な管理支配がある場合に分けて紹介する。そしてその中で損害賠償請求の相手方にも言及することとする。
(1)直接侵害行為に対する管理支配がある場合
① 興行主
- ⅰ) 差止請求
- 「中部観光事件」*25や「ゴールデンミカド事件」*26では、自らの営業所に常置させた楽団に演奏させるキャバレーやダンスホールなどの興業主を演奏の主体であると判示し、差止請求(別紙記載の音楽著作物をその営業のために演奏してはならない)の相手方になるとしている。そして、いずれの判旨も、興行主が楽団を常置し、これに営業時間中音楽を演奏させていること、楽団は興行主の営業計画に従って、その指図により演奏に従事しており、曲目の選定も結局のとこと興行主の自由に選定できるものであり、演奏によって興行主は営業上の多大な収益をあげていることなどを理由とする。こうした場合、興行主は、契約などを通して物理的侵害者の行為を管理支配しているという趣旨であろう。
また、「ビートルマニア事件」*27は、演奏家グループを日本に招聘し、公演を実施することを企画した企画者を演奏の主体であるとし、差止請求(別紙記載の楽曲を演奏してはならない)の相手方になるとしている。本件では、前掲事件と異なり、公演は企画者が主催せず、企画者との契約により企画者が承諾した第三者が主催者となり、企画者は公演における曲目の選択及び進行に直接は関与しない事案であった。しかしながら、判旨は、企画者が主催者を選定できる立場にあり、公演は企画者の企画に基づき行うのであり、かつ企画者は楽曲の演奏によって経済的利益を獲得できることを理由に、演奏の主体を企画者であるとしている。この場合も、契約を通じて、いまだ演奏家を管理支配しているという趣旨であろう。 - ⅱ) 損害賠償請求
- 興行主に損害賠償も求めた前掲「ゴールデンミカド事件」では、上記差止請求を認めた理由と同じ理由で損害賠償請求も認めている。
*25 名古屋高裁昭和35年4月27日判決(判時224号15頁、判タ104号81頁、下民集11巻4号940頁)
*26 大阪地裁昭和42年8月21日判決(判時496号62頁、判タ210号140頁)
*27 東京地裁昭和54年8月31日判決(判時956号83頁、無体集11巻2号439頁)
② カラオケスナックの営業主
- ⅰ) 差止請求
- カラオケスナックなどにおける一連のカラオケ歌唱事件(第4、3、(1)参照)においても、カラオケ店は侵害の主体であるといって差止請求(別紙記載の音楽著作物を営業のために演奏してはならない)の相手方になることを肯定している。例えば、「クラブキャッツアイ事件上告審」*28の判旨は、歌唱の主体に関し、客はカラオケ店と無関係に歌唱しているわけではなく、その従業員による歌唱の勧誘、カラオケ店が備え置いたカラオケテープの範囲内での選曲、カラオケ店の設置したカラオケ装置の従業員による操作を通じて、カラオケ店の管理のもとに歌唱しているものと解され、他方、カラオケ店は、客の歌唱をも店の営業政策の一環として取り入れ、これを利用していわゆるカラオケスナックとしての雰囲気を醸成し、かかる雰囲気を好む客の来集を図って営業上の利益を増大させることを意図しているのであって、こうした場合、客の歌唱はカラオケ店の歌唱と同視しうるという*29。この場合、カラオケ店と客の間には歌唱に関する契約があるわけではなく、客が歌唱するかどうかまた何を選曲するかは客の自由であるから、興行主の場合と異なり契約を通じた管理支配という事実はない。それでも判例は、上記の理由により差止請求の相手方になるとする。事実上の管理支配があるという趣旨であろう。
- ⅱ) 損害賠償請求
- 同じ理由により、不法行為責任も当然肯定される。
*28 最高裁昭和63年3月15日判決(判時1270号34頁、判タ663号95頁)
*29 尚、正確にいうと、差止請求に関しては上告人が上告理由書を提出しなかったために上告審の審理の対象とされていない。従って、ここでの判旨は差止請求に関するものではなく、損害賠償請求に関するものであるが、歌唱の主体がカラオケ店であるといっているので差止請求の相手方になることも肯定していると解することができる。
③カラオケボックスの営業主
- ⅰ) 差止請求
- カラオケボックスに関する一連のカラオケ演奏・歌唱事件(第4、3、(2)参照)の判旨は、カラオケ店が侵害の主体であって差止請求の相手方になるとする。そこでの差止請求の内容は、概ね次のようなものである。
別紙記載の音楽著作物を次の方法により使用させてはならない。
ア) カラオケ装置を操作し又は顧客に操作させて伴奏音楽を再生して演奏する方法。
イ) カラオケ装置を操作し又は顧客に操作させて伴奏音楽に合わせて顧客に歌唱させて演奏する方法。
そして、いずれの判旨も(客の演奏・歌唱行為に対する管理支配が、カラオケスナックの場合よりも弱いことを念頭においていると思われるが)、まず楽曲の演奏(録音物の再生)に関しては、カラオケ店が各部屋にカラオケ装置を設置し、装置を容易に操作できるようにした上で顧客を各部屋に案内し、求められれば操作方法を教示しており、顧客はカラオケ店が用意した曲目の範囲で選曲するほかないことに照らせば、カラオケ店は、顧客の選曲に従って自らが操作する代わりに顧客に操作させているのだから、演奏の主体はカラオケ店であるとする。また、歌唱についても、顧客は指定された部屋において定められた時間の範囲内で時間に応じた料金を払い、再生された伴奏音楽に合わせて歌唱し、歌唱する曲目はカラオケ店が用意した範囲に限られることなどから、その歌唱はカラオケ店の管理の下に行われているというべきであり、またカラオケ店はこれによって直接的に営業上の利益を得ているから、歌唱の主体はカラオケ店であるという。そして、カラオケボックスの営業主を相手方とする上記内容の差止請求を認めている。 - ⅱ) 損害賠償請求
- 損害賠償請求に関しても、同じ理由でこれを認めている。
(2)直接侵害行為に対する管理支配がない場合
これに対して、機器の購入者等が当該機器を侵害に用いた場合においては、当該機器の製造、販売、提供行為はいかなる意味においても直接侵害行為ではないし、また直接侵害行為に対する管理支配がないから、これらの者は差止請求の相手方にならないというのが判例を含めた一般の理解である。
従って、この場合は、機器などの製造、販売、提供者に対する損害賠償請求の可否だけが問題になる。
① 侵害専用機器の製造・販売業者
「ときめきメモリアル事件」*30(第9章第3節3、(3)、③参照)は、ユーザーが同一性保持権の侵害用のメモリカードを使って直接侵害行為を行うときに(同一性保持権の侵害があるとすることについて異論があることに関し、第9章第3節第3、(3)参照)、この侵害専用メモリカードを輸入、販売する事業者に対して損害賠償請求をした事案である。
判旨は、専らゲームソフトの改変のみを目的とするメモリーカードを輸入,販売し,他人の使用を意図して流通に置いた事業者は,他人の使用によるゲームソフトの同一性保持権の侵害を惹起したものであるといって、損害賠償責任を肯定している。当該メモリーカードは汎用機器ではなく侵害用の専用機器であるから、製造、輸入、販売行為と損害の間の因果関係は明白であって、判旨は正当であろう。
また、「裸体画像事件」*31(第9章第3節3、(3)、④参照)でも、女性キャラクターのコスチューム画像を裸体画像に改変しうる編集ツールを作成し、販売した事業者に対する損害賠償請求を認めている。
*30 最高裁平成13年2月13日判決(判時1740号78頁、判タ1054号99頁、民集55巻1号87頁)
*31 東京地裁平成14年8月30日(判時1808号111頁、判タ1114号272頁)
② カラオケ機器の提供者
ここでは、無許諾で演奏・歌唱を行うカラオケ店にカラオケ機器を提供するリース業者の損害賠償責任の有無について判示した判例を見る。
無許諾で演奏・歌唱する多数の零細なカラオケ店が存在するときに実効性のある権利の救済を得るためには、カラオケ装置を供給するリース業者(規模の大きい事業者が多い。)に対して損害賠償請求を行いたい。これが可能であれば、確実に賠償金を得ることができるだけでなく、個々の侵害に関する権利救済を超えて、一般予防的に将来の侵害の発生を防止する効果がある。すなわち、カラオケ店が無許諾で演奏・歌唱することについてリース業者が責任を負うことになれば、リース業者はカラオケ店に権利処理をするよう働きかけをしなければならないから、カラオケ店による侵害が防止される。しかしながら、カラオケ装置をリースする行為は侵害行為ではないし、カラオケ装置自体は専ら侵害行為に用いるものでもなく、多くのカラオケ店は権利処理をしてこれを適法に使用している。そして、権利処理をすることは、本来カラオケ店の責任である。このような場合に、リース業者が違法利用を放置する(不作為)ことが、不作為による不法行為になるかが争点となる。
「スナック魅留来事件控訴審」*32で判旨は、①リース業者はリース契約締結の際、カラオケ店にジャスラックとの間で権利処理が必要であることを周知徹底させる必要があり、②契約締結後も、未だ許諾契約が締結されていない場合は、許諾契約の締結に努めるよう促すべき注意義務があり、③さらに、カラオケ店がこれに応じない場合には、リース契約を解消しカラオケ装置の引き揚げに努めるべき注意義務があるとし、これを怠ると、カラオケ店の侵害行為を幇助した者として共同不法行為責任を免れないとする。すわなち、一定の範囲でリース業者に条理上の作為義務が生じるとしたものである。ただ、判旨のいう作為義務は上記の範囲のものであって、カラオケ店が許諾契約を締結したことを確認した上で装置を引き渡すべき注意義務までは負わせていない。
また、「ビデオメイツ事件控訴審」*33の判旨も、カラオケ装置が権利者の著作権を侵害する危険があるとはいえてもその危険が極めて高いとまでは認められないし、リース契約それ自体が直接侵害を構成するものではなく、また、カラオケ店はリース業者とは別個の独立した権利義務の主体であるので、リース業者は、リース契約締結時にカラオケ店に許諾契約を締結すべき法的義務のあることを了知させれば足り、リース契約の締結後装置の引渡し前に、許諾契約を締結したことを確認すべき注意義務があるとか、装置を引き渡した後においても、随時、許諾契約の有無を確認すべき注意義務などを一般的に負うものではないとした。
ところが、「同事件上告審」は、リース業者は,カラオケ店が契約を締結したことを確認した上で装置を引き渡すべき条理上の注意義務を負うとし、その理由として,①カラオケ装置はカラオケ店による著作権侵害を生じさせる蓋然性の高い装置であり,②著作権侵害は刑罰法規にも触れる犯罪行為であり,③リース業者は,このように著作権侵害の蓋然性の高いカラオケ装置を賃貸に供することによって営業上の利益を得ているものであり,④一般にカラオケ店が著作物使用許諾契約を締結する率が必ずしも高くないことは公知の事実であり,⑤リース業者は,許諾契約を締結したか否かを容易に確認することができるからであるという。
結局、この最高裁判決により、リース業者は、カラオケ機器の提供に際して、機器引き渡しまでに相手方が許諾契約を締結したかどうかを確認する条理上の作為義務があり、その確認後でなければ当該機器を引き渡してはいけないという、リース事業者は相当に厳しい注意義務を課されることになった。カラオケ装置が主として適法利用に用いられていることからすると過重な義務を負わすものであるかのようにも思えるが、実際は義務の履行は容易であるから(許諾契約の締結の事実を確認するだけ)、不当ではないだろう。
*32 大阪高裁平成9年2月27日判決(判時1624号131頁、知裁集29巻1号213頁)。第1審の大阪地裁平成6年3月17日判決(判時1516号116頁、判タ867号231頁)も同旨。
*33 水戸地裁平成11年4月14日判決(判タ1067号252頁、民集55巻2号247頁)、東京高裁平成11年11月29日判決(民集55巻2号266頁)、最高裁平成13年3月2日判決(判時1744号108頁、判タ1058号107頁、民集55巻2号185頁)。
(3)直接侵害行為に対する間接的な管理支配がある場合
上記(1)及び(2)の中間にあるものとして、直接侵害行為を管理支配するものではないものの、提供するシステムを通じて侵害の除去が可能であるといった間接的な管理支配があると認められる場合がある。これに関してこれまでに示された判例の考え方を見よう。
① ファイルローグ*34(差止請求の相手方を直接侵害者に限定するもの)
本件は、インターネット上でのファイル交換システムを提供する事業において,音楽CDをMP3形式で複製したファイルが無許諾で交換されている場合に,システム提供事業者に対し差止請求と損害賠償請求を行った事案である。
*34 東京地裁平成15年1月29日中間判決(判時1810号頁、判タ1113号113頁)。尚、終局判決は、東京地裁平成15年12月17日判決(判時1845号36頁)である。
- ⅰ) 提供されるシステムの内容
- 本件システムは、事業者の提供する専用ソフトをインストールしたユーザー間でMP3形式の音楽ファイルなどを交換できるものであって、その手順は次の通りである。
ア) ファイルの送信をする者(以下「送信者」)は、音楽CDをMP3形式で複製したファイルにファイル名(楽曲名、歌手名)をつけて自己のPCのハードディスクの所定の領域に保存する。専用ソフトを起動して事業者のサーバにログインすると、ファイル名などのファイル情報とIPアドレスに関する情報(以下「送信者情報」という。)が事業者のサーバに送信される。そして、事業者のサーバは、そのサーバに接続している送信者に関する送信者情報をもとに、その時点でダウンロードが可能な音楽ファイルに関するデータベースを作成する。
イ) 受信を希望する者(以下「受信者」)は、専用ソフトを起動して事業者サーバにログインし、希望する音楽ファイルの検索指示を出すと、上記データベースから検索指示に適ったファイルに関する送信者情報が送信される。送信者情報が送信された後、受信者は専用ソフトの画面上でダウンロードの指示を出すと、当該ファイルが送信者のPCから受信者のPCに直接送信され、受信者のPCにダウンロードされる。
- ⅱ) ユーザーの権利侵害
- 事業者が請求の相手方になるかどうかの問題の前提として,ユーザーの行為が権利侵害となるかを見ておく。侵害の対象となるのは、音楽、実演及びレコードである。
まず、送信者が、当初から公衆に送信する目的(私的使用の枠外で)で音楽CDをMP3形式のファイルへ変換して複製した場合には複製権の侵害となるし、当初は私的使用の目的であったとしても、後に公衆に送信する目的をもって送信した場合は(目的外使用として),複製権侵害となる(49条1項1号、102条4項1号)。
また、送信者が,MP3ファイルをパソコンの指定フォルダに記録した後、専用ソフトを起動して事業者サーバに接続すると,受信者からの求めに応じ自動的に上記ファイルが送信される状態となるので、送信可能化権侵害となり(96条の2)、実際送信が行われれば自動公衆送信権侵害となる(23条)。
- ⅲ) 事業者に権利行使する必要性
- 本事案においては、送信者の直接侵害行為を理由として個々の送信者(一般大衆であるユーザー)に対して権利行使することは、侵害者の特定からして困難を極め、仮にその特定ができたとしても多数のユーザーに対する権利行使は実効性、効率性に欠け、またコスト倒れに終わる可能性が高い。そこで権利者としては、侵害を可能にしているシステムの提供事業者に対し、差止請求や損害賠償の請求をすることが実質的な権利救済のためには必要である。
- ⅳ) 差止請求に関する判旨
- 本件では、権利者が指定したタイトル名及び実演家名の表記されたファイルを送受信の対象としてはならないという内容の請求を行っているが、事業者は、無許諾の送信可能化や自動公衆送信という直接侵害行為を直接に管理支配しているわけではない。
判旨は、差止請求における相手方は直接侵害者でなければならないという前提に立って、システム提供事業者が直接侵害者と評価できるかどうかを検討している。そして、システム提供事業者が送信可能化するなどの物理的行為を行っているわけではないとしながらも、事業者が直接侵害者といえるかどうかについて、ア)事業者の行為の内容、性質、イ)ユーザーのする送信可能化状態に対する事業者の管理・支配の程度、ウ)事業者の行為よって受ける利益の状況を総合斟酌して判断すべきとした上で、以下のように判示(要旨)して直接侵害者であることを肯定している。ア) 本件サービスの内容・性質
ファイル情報やファイルをダウンロードする機会の提供などのサービスを事業者が直接的かつ主体的に行っており、そこで送受信の対象となっているMP3ファイルの約96%が市販の商業用レコードを複製したもの(そのほとんどが違法複製)であり、事業者においてこれをサービスの開始当初から予想していたものである。
イ) 管理者性
ユーザーが本件サービスを利用するためには、送信者と受信者はともに自己のPCを事業者サーバに接続させることが必要不可欠である。また、事業者サーバの提供するファイルに関するデータベースとその検索機能がなければ、受信者は希望するファイルの取得という目的を達成できないから、その意味で当該検索機能は本件サービスにおいて必要不可欠である。
従って、送信可能化行為と自動公衆送信行為は、事業者の管理の下に行われているというべきである。ウ) 事業者の利益
事業者は、受信の対価を徴収するシステムを採用していないが、今後は徴収することを予定している。そうすると多くのMP3ファイルが送信可能化されることが有料化された場合の利益に資するものであるし、接続数が多くなれば広告収入等も多くなる。
そうすると、ユーザーによる送信可能化及び自動公衆送信は、事業者の営業上の利益を増大させる行為である。エ) 結論
以上から、事業者は、送信可能化及び自動公衆送信を行っている主体(直接侵害者)と評価することができる。従って、事業者に対し、権利者が指定したタイトル名及び実演家名の表記されたファイルを送受信の対象としないように求めることができる。
- ⅴ) 損害賠償請求に関する判旨
- 直接侵害者であるから当然損害賠償の請求もできる。そして、その範囲は、各物理的侵害行為のすべてに関し、物理的侵害行為者と連帯して責任を負うとしている。
② 通信カラオケ事件*35(差止請求の相手方を間接侵害者に拡大するもの)
本件は、無許諾で演奏・歌唱するカラオケ店に通信カラオケ装置を提供しているリース業者に対し、通信回線を経由して一定の信号を送信することによってカラオケ用楽曲データの再生を不可能にする措置をとるよう請求した事案である。
*35 大阪地裁平成15年2月13日判決(判時1842号120頁、判タ1124号285頁)
- ⅰ) 差止請求
- それまでのカラオケ装置に関連する判例は、リース業者の直接侵害行為に対する管理支配がないために、リース業者に損害賠償請求を行ったものであった(本節4,(2)参照)が、本件は、リース業者に対して侵害の停止を求めたものである。この場合も事業者は、無許諾の演奏・歌唱という直接侵害行為を直接に管理支配しているわけではない。
判旨は、まず、リース業者は、カラオケ装置及び同装置に蓄積された楽曲データを提供しているものの、それ以上に、各店舗における演奏行為に関与するものではなく、いつ、どの楽曲を演奏するかについて個々のカラオケ楽曲の演奏行為に直接的な関わりを有するものではないから、演奏・上映行為の直接的な行為主体ではなく、直接侵害者ではないとする。しかし、リース業者は、著作権侵害行為について、カラオケ装置及び楽曲データを提供し、演奏ないし上映を可能としているものであるから、侵害行為を幇助している者であるとする。
その上で、i)幇助行為の内容、性質、ii)著作権侵害行為に対する幇助者の管理・支配の程度、iii)幇助者の利益と侵害行為の結びつきを総合的にみたときに、幇助者の行為が直接侵害行為と密接な関わりを有し、幇助者が幇助行為を中止する条理上の作為義務があって、それを中止することによって侵害の事態を除去できるような場合は、侵害主体に準じるものとして「著作権を侵害する者又は侵害するおそれがある者」に当たると解すべきであるとする。
そして、その理由として、差止請求の制度は著作権等の排他的独占権を確保する手段であるから、その権利の円満な享受が妨げられている場合に著作物の独占的支配を維持、回復することを保障した制度であり、これと同様な制度である物権的請求権を行使する相手方は侵害行為の主体に限定されておらず幇助行為者も含まれるものであることからすると、差止請求についても侵害行為の主体に準じるような幇助者の場合は差止めを求めることも許容され、また、同法112条1項の文言からもこう解することに文理上の支障はなく(教唆・幇助する者も侵害する者と解することができる。)、現に侵害行為が継続している場合にも事後的に不法行為による損害賠償責任を認めるだけというのでは、権利者の保護に欠けるからという。
そして、本件においては、i)侵害行為に必須となるカラオケ装置(楽曲データを含む。)を提供していること、ii)装置引き渡しの際の許諾契約締結の有無を確認すべき条理上の注意義務、許諾契約が締結されていない場合にカラオケ装置を引き上げるべき条理上の注意義務に違反していること、iii)リース業者がカラオケ装置を作動可能にするかどうかを決める制御手段を有していること、iv)リース料は違法利用行為と密接な結びつきのある利益であるとして、侵害行為の主体に準ずべき幇助行為を行っている結論づけている。
この判旨は、差止請求にいう侵害者の範囲を「直接侵害者」とする従前の理論から一歩踏み出したものであり、その範囲を拡張したものという評価もできなくはない。しかし、他方で、本件におけるリース業者のような行為者を「直接侵害者」というか、「差止請求の相手方になる幇助者」というかの説明の違いだけだということもできる。
- ⅱ) 損害賠償請求
- 本件では、損害賠償請求を行っていないが、仮にこれを行えば、上記理由と同じ理由によって、当然損害賠償責任は肯定される事案であろう。
③ プロバイダ
プロバイダも直接侵害行為を直接に管理支配するものではない。
そして、プロバイダに関してはその損害賠償責任に関し特別法が制定されているので、これについてまず解説する。
- ⅰ) プロバイダに対する責任追及の必要性と責任制限の必要性
- インターネットを利用した情報の流通において権利侵害がある場合、プロバイダにどの範囲で損害賠償責任があるか(どの範囲で条理上の作為義務があるか)は議論のあるところである。
こうした侵害がある場合、権利者は侵害者の特定(氏名、住所など)ができない場合が多い。また、侵害者が一般大衆である場合に、その個人に権利行使しても実効性や効率性に欠け、費用倒れになるおそれがある。そこで、権利者がプロバイダに対して責任追及をすることができるとすれば権利の救済に資することになる。
しかしながら、プロバイダが提供するシステムを利用して情報を流通させるのに必ずしも権利者との間で権利処理が必要となるものではなく、著作物などの一部の情報に関してだけ権利処理が必要であるというにすぎない(装置を使うに際して、必ず利用許諾契約の締結が必要なカラオケ装置と異なる)。また、プロバイダが提供するシステムは極めて汎用的な使用に用いられるものであって、違法な使用に用いられる場合はきわめて少数である(主として侵害に用いられるファイル交換システムとも異なる。)。そうすると、プロバイダに対し、侵害が発生しないように常時情報を監視し、侵害物がアップロードされている場合はこれが侵害物であるかどうか正しく判断した上で(ここで判断を誤れば、削除された情報の発信者に責任追及されるおそれがある。)削除しなければならないという注意義務を負わせることは合理的でないし、プロバイダに過剰な負担を強いることはその存立基盤を危うくする可能性がある*36。そのためプロバイダ側からは、侵害に関しプロバイダは完全に免責されるべきである(特定人間の通信を扱うコモンキャリアと同じ扱い。)という立法論的な主張もある。
*36 これらの注意義務が争われた事件として、著作権侵害に関するものではないが、「現代思想フォーラム事件第1審」東京地裁平成9年5月26日判決(判時1620号22頁)、「同事件控訴審」東京高裁平成13年9月5日(判時 判タ )、「都立大学事件」東京地裁平成11年9月24日判決(判時1707号139頁)などがある。
- ⅱ) プロバイダ責任法
- こうした状況の中で、プロバイダの責任を合理的な範囲に制限することを内容とする「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」が制定された(プロバイダ責任法、平成14年5月27日施行)。
ア) 目的
この法律の目的は、インターネット上で権利侵害があった場合に、プロバイダなどの損害賠償責任を合理的範囲に制限することにある。プロバイダに対し過大な注意義務及び作為義務を負わせるとネットワーク環境の構築を担うプロバイダの存立基盤を危うくするので、責任を合理的範囲内に制限するものである。
従って、権利者の救済を第一義的な目的とするものではない。イ) 適用の対象
放送ではなく通信であって、しかも不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信を「特定電気通信」という(プロバイダ責任法2条1号)。サーバから、アクセスを受けたホームページのデータがアクセスした者に送信されるような通信を典型とする。
次に、特定電気通信の用に供される電気通信設備を「特定電気通信設備」(同法2条2号)、この設備を用いて他人の送信を媒介し、その他この設備を他人の通信の用に供する者を「特定電気通信役務提供者」(同法2条3号)といい、この「特定電気通信役務提供者」が本法律の適用の対象者となる。具体的には、ホームページのデータをアップロードして送信するサーバの提供・管理を行う事業者(プロバイダ)や、第三者が自由に書き込みができる電子掲示板を運営している者などである*37。ウ) 損害賠償責任の制限(権利者との関係)
「特定電気通信役務提供者」(以下、「プロバイダ等」という。)が、侵害があるにもかかわらず削除等の措置をとらなかった(不作為)場合で、当該侵害情報を送信することを防止する措置を講ずることが技術的に可能であるとしても、以下に該当するときでなければ、賠償の責めに任じない(第3条1項)。
a) 情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知っていたとき(1号)。
b) 情報の流通を知っていた場合で、当該情報によって他人の権利が侵害されていることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるとき(2号)。
これは、プロバイダ等の損害賠償責任(不作為責任)が生じうる場合を上記a及びbの場合に限定するものである。この規定の趣旨は、上記a又はbの場合以外は確定的に免責され、上記a又はbに該当する場合は一般不法行為法上の問題となり、損害の発生や因果関係の立証があったときは責任が問われるというものである。
このように本規定は、プロバイダ等の責任を一定範囲に限定するものであるが、他方で損害賠償責任(不作為責任)が生じることがあることも規定するものであって、プロバイダ等は侵害に関し常に免責されるべきであるという立法論としての主張も排斥したものである。その結果、上記a又はbに該当する場合は通常損害賠償責任が生じるであろうから、プロバイダ等は侵害物の削除等の措置をとらざるをえないことになり、これによって権利者(被害者)救済が図られることにもなる*38。エ) 免責の範囲*39
上記a及びbの要件は、「情報の流通に関する認識」と「情報が権利侵害に当たるかどうかの認識」という2つの観点から定められている。
まず、情報の流通に関する認識が必要であってこの認識がない限り免責されるから、プロバイダ等は流通する情報の内容を常時網羅的に監視する義務はないことになる。
そして、情報の流通に関する認識がある場合で、権利侵害に対する認識もある場合は免責されない(aの場合)。尚、1号の文言では、情報の認識に関する要件が規定されていないが、権利侵害に対する認識があるときは、当然当該情報の流通に対する認識は当然あるから省略されている。次に、情報の流通に関する認識がある場合で、権利侵害を認識できた認めるに足りる相当の理由があるときも免責されない(bの場合)。「認めるに足りる相当な理由」とは、通常の注意義務を尽くせば知ることができたと客観的に認められる場合をいう。オ) その他
本法はさらに、プロバイダ等が情報の削除などを行った場合も、発信者との関係でその損害賠償責任を制限する規定をおき(第3条2項)、また、一定の場合に権利者が発信者情報の開示を請求することができることを規定している(4条)。
*37 尚、「ファイルローグ事件」では、システム提供事業者は、特定電気通信役務提供者(2条3号)ではなく発信者(同条4号)であるから、損害賠償責任の制限規定の適用はないとしている(3条1項本文但書)。これは、判旨が、事業者がユーザー(送信者)の発信行為を管理・支配していることを理由として事業者が送信者であるというものであるから、事業者は同条4号の発信者であって、損害賠償責任の制限規定の適用はないことになる。
*38 本法律の施行にあわせて社団法人テレコムサービス協会は、「プロバイダ責任法著作権関係ガイドライン」を制定し、権利侵害がある場合のプロバイダ等がとるべき措置について規定をしている。
*39 プロバイダ責任法(総務省電気通信利用環境整備室著、社団法人テレコムサービス協会編著、第一法規出版株式会社、平成14年)30頁以下参照。
- ⅲ) 裁判例
- 「2ちゃんねる小学館事件」*40では、書籍に掲載された対談記事が無許諾で電子掲示板に転載されたので、権利者等がファックスや電子メールでその削除を求めたものの、掲示板設営者がこれに応じなかったので、当該記事の送信可能化と自動公衆送信の停止及び損害賠償を求めた事案である。
ア) 差止請求
請求の内容は、ホームページに掲載された別紙記載の対談記事を自動公衆送信又は送信可能化してはならないというものである。
判旨は、差止請求の相手方に関する伝統的考え方に従い、これを直接侵害者に限定し、幇助者を排除する。そして、プロバイダは、送信可能化ないし自動公衆送信を行う主体でないから差止を求めることはできないとしている*41。
しかしながら、この判旨には賛成できない(5,(2)、③,ⅲ)参照)。イ) 損害賠償請求
損害賠償請求に関し判旨は、設営者は送信可能化又は自動公衆送信の主体ではなく権利を侵害した者にあたらないとし、また、侵害物を削除する条理上の作為義務を負うという権利者の主張に対しては、インターネット上において電子掲示板を開設・運営する者は,基本的には,他人が送信した情報について媒介するという限度で情報の伝達に関与するにすぎないのであり、権利侵害がある場合でも、情報の送信主体となっているような特段の事情のない限り,削除などの作為義務を負うものではないとしている。また、プロバイダ責任法3条1項との関係では、権利侵害の事実を電子メールで通知した程度では、通知者が真の権利者かどうかも不明であり、また先行著作物及び侵害箇所の特定もなされていないので、設営者が権利侵害の事実を知っていたということはできないし,権利侵害の事実を知ることができたとも認められないとして損害賠償責任を否定した*42。
しかしながら、プロバイダ責任法は、権利侵害の事実を知っていたか、又は知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるときは免責の対象外と規定しているのであるから、これに該当する場合は一般的に削除義務(作為義務)を負うことになる。従って、特段の事情のない限り、削除などの作為義務を負うものではないという判旨は正当でない。
*40 東京地裁平成16年3月11日判決(最高裁ホームページ)
*41 前掲通信カラオケ事件の後に本判決が出されているが、前者が差止請求の相手方を限定的ながらも幇助者に拡張したのに対し、本判決はこれを明確に否定し、直接侵害者に限定している。
*42 本件は、先行著作物がまるまる転載されている事案であり、権利侵害の事実を知ることができたとは認められないという判断には疑問がある。ただ、権利者側も配達証明付内容証明郵便によることもなく、ファックスや電子メールでの要求にとどまった点が上記判旨を導いたものと思われる。
(4)直接侵害行為の存否が問題になる場合
上記(1)乃至(3)において、侵害者の範囲に関する判例の考え方を見てきたが、そこでは、直接侵害行為の存在を前提にして、これに関与する者に対し差止請求や損害賠償請求ができるかどうかという問題を扱った。
これに対してここでは、物理的利用行為があって、当該利用行為が侵害とならない場合でも、当該行為とこれを管理支配する行為を一体として見た場合、当該一体としての行為が直接侵害行為と認められる場合があるかという問題を検討する。
① 録画ネット事件*43
海外居住者が日本のテレビ番組を視聴できるようにするため、事業者がユーザーごとに1台ずつ販売したテレビチューナー付きパソコンを事業者の事務所内にまとめて設置し、テレビ番組を受信可能な状態にするとともに、各ユーザーがインターネットを通じてパソコンを操作して録画予約をし、録画されたファイルを海外にある自宅などに転送できるシステムを提供していた事案であるが、放送事業者が上記システムの提供者の行為は、放送の録音・録画を行うものであるとして、侵害の停止(放送事業者の放送にかかる音又は映像の録音又は録画を本件サービスの対象としない)を求めた事案である。
本件では、ユーザーの行為が私的使用のための複製として適法なものかどうかも争点となりうる(公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器を用いた複製(30条1項1号)であって違法ではないかどうか)が、判旨は、この点を判断することなく、複製の主体は事業者であるとして事業者に対する上記差止請求を認めている。この場合、ユーザーの行為が私的使用のための録音・録画であって適法であるとすると、直接侵害行為が存在していないのだから、事業者の行為が侵害と評価される余地はないようにも考えられる。
判旨は、本件サービスは、事業者が調達、設置、管理しているネットワーク回線によって機器類が接続された1つのシステムであること、パソコンの所有権はユーザーに帰属するものの、そのパソコンは事業者が選定調達したものであり、事業者が必要なソフトのインストールなどを行い、ユーザーが行う操作は事業者のソフトの操作に従った録画予約の指定のみであり、その後の録画は、事業者のシステムによって自動的になされるものであり、事業者が開設しているサイトを経由してのみ録画予約が可能であるといった事実関係の下では、本件サービスは実質的に録画代行サービスと何ら変わりがなく、事業の内容はパソコンの販売とその管理であるという事業者の主張は、本件サービスの一部を捉えたものにすぎず、その本質ではないとする。その結果、本件サービスにおける複製は、事業者の強い管理・支配下において行われており、ユーザーの管理・支配する程度は極めて弱いので、複製の主体は事業者であると評価すべきという。
*43 判例集未掲載。東海林保「最近の著作権判例について」コピライト526、2/2005、9頁以下
② カラオケボックスに関する一連の事件
カラオケボックスに関する一連の判例は、カラオケスナックの営業主が侵害の主体とされることの延長線上で同じく侵害の主体とされていることは前述した通りである(本節4,(1)、③参照)。ただ、カラオケボックスの場合、実は、客による個室での物理的演奏行為(録音物の再生)と物理的歌唱行為は演奏権が働くための要件である「公衆に直接聞かせることを目的として(公に)」という要件を満たさないので侵害とならないのである。従って、カラオケボックスの営業主が侵害の主体であるというためには、カラオケ店の管理支配行為と客の物理的演奏・歌唱行為を一体のものとして見て、そこに公に行われる演奏・歌唱行為というものを観念する必要があるのである。
従って、カラオケボックスの営業主を侵害の主体とする判例は、ここに分類されるべきものである。
③ 第一興商第一事件*44
この事件は、通信衛星を用いたデジタル音楽ラジオ放送100チャンネルを運営する委託放送事業者が、音楽放送のために音楽CDを音源としてレコードを保有サーバに蓄積し、編成された番組にあわせて蓄積されているレコードを送出して放送するものであり、しかもその番組編成は、100に及ぶチャンネルを設け、音楽を100のジャンルに細分化した上、視聴者の選択によりその嗜好にあったジャンルの楽曲を聴取できるようにしており、それぞれのチャンネルにおいて同じ曲目のセットが番組制作上の編成を加えずフルサイズ同一周期をもって間断なく送信されていた事案である。
このサービスの下では、視聴者は、デジタル放送される目的の曲をMDその他の媒体にデジタル方式で録音をすることによって、音楽CDとほぼ同等の録音物を無償で取得するができる。特に、事業者が、前もって視聴者に対し、放送される曲目、アーティスト名、曲目の放送順序、番組開始時刻等を予め知らせるならば、無償で音楽CDを取得できるのと同じ結果をもたらすことになり、音楽CDに関する権利者の経済的利益に重大な影響を与えることになる。そのため、著作権者及びレコード製作者が差止請求(権利者が権利を有する音源をデジタル放送してはならないという趣旨の請求)と損害賠償請求を行ったものである。
本件も、録音という物理的利用行為を行う者の行為は、私的使用を目的とした複製として許容される。従って、事業者の行為そのものが直接侵害行為でなければならない。そこで、権利者は、本件における複製行為というものを、音楽CDへのアクセスから始まり、送信準備、送信行為、物理的固定という一連の行為としてとらえ、視聴者の行為というものはこの一連の行為の中の物理的固定だけであり、しかもその行為はボタンを押す等の簡単な作業にすぎないので、むしろ本件における複製行為の実質的部分は放送事業者が行っていると主張した。これに対して判旨は、上記行為のうち送信行為までは放送行為とこれに付随する準備行為であり、他方、当該送信を受信して受信者がこれを録音するかどうかは受信者個々人の自由意思に係る部分であるから、放送事業者の行為は音源の録音に向けて行われたものとはいえず、複製に至る一連の段階的経過として評価できるものではないとする。また、同じ趣旨で放送事業者が視聴者を手足として使って録音を行っているという評価もできないとしている。
*44 東京地裁平成12年5月16日判決(判時1751号128頁、判タ1057号221頁)
5 差止請求の相手方に対する考え方
(1) 差止請求の類型
差止請求や損害賠償請求の相手方に関する判例理論を紹介したが、判例が差止請求の相手方に関して判示するところはかなり錯綜しており、特に(3)の類型においては基本的な考え方に相違が見られる。そこで以下においてこの点を検討することとするが、その前提として差止請求の類型を整理しておく。
差止請求の内容は、まず、侵害除去のために侵害行為の停止を求めるもの(以下、「消極的差止請求」という)であって、これが基本的な差止請求である。さらに、差止請求の内容はこれにとどまらず、侵害除去のために相手方の費用による一定の積極的行為(侵害除去行為)を求めること(以下、「積極的差止請求」という)もできる*45。すなわち、差止請求という場合、単なる行為の停止請求にとどまらず、侵害除去に向けた積極的な行為を請求できるのである。
*45 物権的請求権の場合も、これを忍容請求権(請求者の妨害除去行為を忍容することを求めることができる権利)であるとする考え方もあるが、相手方の費用負担で妨害の積極的な除去等の行為を請求できる権利であるとするのが民法学会の多数説であり、判例の考え方であろう(三好清光、新版注釈民法(6)、舟橋諄一、徳本鎮編集、有斐閣平成9年、160頁以下)
(2) 差止請求の相手方
ところで、妨害排除請求権(物権的請求権)の相手方は、「現在妨害状態を生じさせている者」、又は「その妨害状態を除去でき、かつこれを行うべき地位にある者」とされる。すなわち、妨害状態を生じさせている者(直接妨害者)が相手方になるのは当然であるが、これに加え自ら妨害状態の除去が可能であり、かつ除去すべき責任がある者も相手方となる*46。そしてこのことは、物権的請求権と同一の性格を有する差止請求の場合も同一であろう。そうすると、①直接侵害者、又は②自ら侵害の除去が可能であり、かつ除去すべき責任がある者が、差止請求の相手方というべきである。すなわち、差止請求の相手方の範囲の問題は、この②の要件を満たす者であるかどうかの判断であって、判例の説くような直接侵害者か否かの問題ではないと解される。そこで、この②に該当するための要件を検討して見よう。
まず、差止請求の相手方になるためには、自ら侵害の除去が可能である必要がある。侵害の除去ができない者を差止請求の相手方にしても意味がないからである。従って、これが差止請求の相手方となる必要条件である。そして、侵害の除去が可能であるということは、一般にその相手方が何らかの形で直接侵害行為を管理又は支配しているということであるから、以下この要件を「管理支配要件」といい、この要件を満たす者を「管理支配者」という。ただ、管理支配要件を満たすだけでは十分でない。これに加えて、除去すべき責任がある者でなければならない。なぜなら、差止請求の相手方となるものは自らの費用で侵害の除去を行うことを求められるのであるから、その相手方となるのは除去すべき責任がある場合に限られるべきだからである。以下、この責任主体に関する要件を「責任主体要件」という。そして、この責任主体要件は、具体的な請求内容との関連でその充足性の有無が検討されるべきであるが、これはそう単純ではない。物権的請求権に関しても具体的請求内容の実現のための費用を誰が負担にするかに関して諸説あるが*47、著作権等の侵害の場合は物権の侵害の場合と比較してその侵害態様は多様であり、かつ侵害行為の管理支配者であっても、その管理支配の態様や程度も多様である。特に近年は、侵害が機器やシステムを利用しながら行われるので、その機能や利用方法との関係で差止請求の具体的内容も多様化してきており、ある具体的請求を認めることが相手方に過度の負担を負わせることになるものや、場合によっては相手方の営業の自由に対する制約となりかねないこともある。しかも、相手方の故意・過失といった主観的要件は問わない結果責任である。そうすると、直接侵害行為に対する管理支配者であるという一事をもって無制限な行為責任を負担させることはできない。従って、責任主体要件を充足するかどうかについては、具体的請求に関し管理支配者に行為責任を負担させるのが合理的かという点を、(ⅰ)直接侵害行為に対する管理支配の態様と程度、(ⅱ)管理支配が機器やシステムを通じて行われる場合は当該機器やシステムが汎用性のあるものか専用のものか、(ⅲ)侵害を停止させるために要する費用と手間の程度、(ⅳ)経済的利益の帰属の程度などを総合的に勘案しながら決定すべきことになる。直接侵害行為に対する管理支配の態様及び程度がより直接的かつ強度になればなるほど、管理支配者の責任の程度は重いはずである。また、提供される機器やシステムが侵害専用ものであれば、その責任の程度は高くなろう。さらに、侵害停止のために要する費用や手間が軽微な場合は、そうでない場合に比較して、一定の行為を請求することの合理性を認めることができるであろう。また経済的利益の帰属の程度が高ければ高いほど責任を負担させてもよい(手間や費用がかかっても積極的行為を求めてよい)ということになろう。
以下、前述の事案を見ながらこれらの要件の充足性を検討する。
*46 前掲三好192頁は、「妨害状態を除去しうべき地位にある者」というが、この「除去しうべき」という言葉の意味は、自ら除去が可能であり、かつこれを行うべき責任がある者ということであろう。
*47 前掲三好160頁以下
① 直接侵害行為に対する管理支配がある場合
- ⅰ) 興行主
- キャバレーやダンスホールの興行主のように直接侵害行為を直接に管理支配している者は管理支配要件を満たす。またこの場合、直接侵害行為の停止を求める請求(これは停止するのではなく停止させるのであるから、消極的差止請求というよりも積極的差止請求であろうが)について責任主体要件を満たすといってよい。なぜなら、直接侵害行為を直接に管理支配しているのであるから、これを停止させるべき責任主体であるということができるからである。
- ⅱ) カラオケスナックの営業主
- カラオケスナックに関する判例は、歌唱の主体はその営業主であるとして差止請求の相手方になることを肯定しているが、判旨の結論は正当である。
ただ、この場合の考え方は、営業主が客の直接侵害行為を管理支配するというよりも(歌唱するかどうか、何を歌唱するかは客の任意である)、下記③の「直接侵害行為に対する間接的な管理支配がある場合」として検討されるべきであって、営業主が客の歌唱を停止させることができるという意味で管理支配要件を満たし、かつ機器を専ら侵害に用いるために提供しており、営業主は容易に歌唱を停止させることができ、また経済的利益の帰属主体である点で責任主体要件を満たすと考えるべきであろう。
② 直接侵害行為に対する管理支配がない場合
以上に対して、侵害に用いる機器の製造、販売、提供者は、いかなる意味においても侵害行為に対する管理支配がないので、差止請求の相手方とならない。
従って、ファイルローグ事件で提供されたシステムと異なり、中央の管理サーバが存在しないグヌーテラなどにおいては、機器やプログラムの提供事業者は直接侵害行為に対する管理支配がない(自ら直接侵害行為を除去できない)ので差止請求の相手方にはならない。
ただ、機器やプログラムの提供行為自体の停止を求めることができるかどうかは別論である(本節、6参照)。
③ 直接侵害行為に対する間接的な管理支配がある場合
- ⅰ) 前掲「ファイルローグ事件」
- 本件においては、システム提供事業者は直接侵害者であるユーザーの送信可能化及び自動公衆送信といった直接侵害行為を管理支配しているわけではない。しかしながら、システム提供事業者による専用ソフトの提供に加え、具体的な送信者情報の収集、データベース化、指定された送信者情報の送信という行為があることによってはじめてユーザーは直接侵害行為をなし得るのであり、システム提供事業者がこれらの行為を停止すれば侵害行為を行うことはできない。従って、事業者は侵害の除去ができるから、その程度の問題は別にして管理支配者と認めてよい。
そうすると次に、事業者が責任主体要件を満たすかが問題になり、これは具体的請求との関係で検討されることになる。例えば、権利者が、侵害除去の手段としてシステム自体の提供行為の停止を求めた場合はどうであろうか。システムが主として侵害に用いられていることを勘案するとシステムの提供自体を停止させることに合理性があるようにも思えるが、このシステム自体は汎用性があり(侵害物でないファイルの交換に利用できる)、使い方によっては適法に利用できるものであって、現に一部は適法に利用されているのであるから、システムの提供自体の停止を求めることは必要性に欠けるであろう。またこれは、事業自体の停止を求めるものであって営業の自由を侵害することになるから合理性も見いだせないであろう。従って、システムの提供自体の停止を求める請求に関しては責任主体要件を満たさないというべきである。
これに対して、本事件での具体的請求の内容は、「権利者が指定したタイトル名及び実演家名の表記されたファイルを送受信の対象としてはならない」というものである。これは、一見すると消極的差止請求のようでもあるが、システム提供事業者自らが送受信が禁止されるファイルを選択するなどの必要があり(権利者が個々に指摘した違法ファイルの削除請求ではない。)、そのためにはそうしたシステムを構築しなければならないのであって、その実質はそれ相応の費用負担が生じる積極的差止請求である。しかも、事業者の管理支配の程度は間接的なものである。ただそうだとしても、送受信の対象となっているMP3ファイルのほとんどが商業用レコードの違法複製物であること、その結果本システムは主として侵害に用いられていること、事業者がこれをサービスの開始当初から予想していたものであること、ユーザーによる侵害行為が事業者の利益を増大させる結果をもたらすことを勘案するとき、事業者の費用で違法ファイルを選別し、これを送受信の対象から外すことを求める請求内容には合理性があるということができるであろう。その意味で、前掲判旨の結論は正当である。 - ⅱ) 前掲「通信カラオケ事件」
- 本件でも、事業者は各店舗における演奏行為に関与するものではなく、いつ、どの楽曲を演奏するかについて直接的な関わりを有するものではないが、侵害行為に必須のカラオケ装置と楽曲データを提供し、そのカラオケ装置を作動可能にする制御手段を有していることからすれば管理支配要件を満たすといってよいであろう。そして、本件装置が主として適法利用に用いられるものであり、具体的請求内容は「通信回線を経由して一定の信号を送信することによってカラオケ用楽曲データの再生を不可能にする措置をせよ」という積極的差止請求であるものの、少なくとも本件店舗に関する限りは専ら違法利用に用いられ、また判旨のいうようにリース業者は条理上の作為義務に反しており、リース料が侵害行為と密接な結びつきがあり、また求められた行為を行う費用、手間はわずかであることを勘案すれば、上記請求内容には責任主体要件も満たすといってよい。ここでも判旨の結論は、正当である。
- ⅲ) プロバイダ
- プロバイダに対する侵害物の削除請求(積極的差止請求)について検討してみよう。
まず、プロバイダ責任法はプロバイダの損害賠償責任の制限に関して規定するものであって、差止請求に関するプロバイダの義務の制限に関して規定するものではない*48。従って、削除請求が肯定されるかどうかは、著作権法の規定の解釈によることになる。
ところで、侵害物が送信可能化され、自動公衆送信されるとき、当該行為の主体はユーザーであってプロバイダではない*49。ただ、プロバイダは当該侵害物が自動公衆送信されるのを阻止できるという意味で管理支配要件を満たす。また、送信可能化に関しては、著作権法が送信可能化という行為(送信可能化という状態ではなく)を利用行為(支分権の対象となる行為)としているので、形式論としてはユーザーの送信可能化という行為はプロバイダの管理支配下にはないが、プロバイダは侵害物を削除することによって送信可能化の状態を何時でも停止できるので、実質的には送信可能化についても管理支配要件を満たすというべきであろう。
次に責任主体要件について検討するに、プロバイダの直接侵害行為に対する管理支配の程度は著しく低く、本件システムは専ら適法利用に用いられるものであることからすれば、侵害物を発見し、削除することを内容とする差止請求が認められる余地はない。このような差止請求を認めることはプロバイダ責任法の趣旨にも反することになろう。ただ、こうした一般的削除義務ではなく、権利者から指摘された特定の侵害物についてこれを削除することを内容とする差止請求に関しては責任主体要件を満たすと考えてよいであろう。なぜなら、プロバイダ責任法も一定の場合にプロバイダが損害賠償責任を負うことを肯定しているときに、直接侵害行為の除去が可能なプロバイダに対し特定侵害物の削除請求をすることを否定する理由はないし、削除に要する費用及び手間はわずかであるからである。
*48 プロバイダ責任法(総務省電気通信利用環境整備室著、社団法人テレコムサービス協会編著、第一法規出版株式会社、平成14年)29頁以下参照。
*49 プロバイダの場合、技術的な観点から見ると自ら送信可能化と自動公衆送信を行っているのであり、そのためプロバイダは直接侵害者であるという主張もある。しかしながら、プロバイダの行為はシステムの提供行為と見るのが素直な見方であろう。
④ 直接侵害行為の存否が問題になる場合
前述の通り、差止請求の相手方は、(ⅰ)直接侵害者、又は(ⅱ)自ら侵害の除去が可能であり、かつ除去すべき責任がある者である。そして、差止請求の相手方の問題は、(ⅱ)の要件を満たす者であるかどうかの問題であるとして検討を行ってきた。ただこれとは別個の問題として、そもそも直接侵害者が存在するかどうか((ⅰ)の要件の該当者がいるか)、また直接侵害行為があるかどうかが問題になることがある。そして、この問題に対する判断は、物理的侵害行為を行わない者でも、実質的に直接侵害行為を行っていると評価できるどうかの判断である。
まず、「第一興商第一事件」における権利者の主張は、視聴者の録音・録画行為は私的使用のためのものであって侵害とならないので、放送事業者の行為を規範的に捉えて複製行為があるとするものであった。しかしながら、判旨のいうように、複製行為がその準備行為から物理的固定までの一連の行為からなりたっているとしても、送信準備や送信行為は放送行為とこれに付随する放送準備行為であって、これを複製行為の実質的構成部分として把握することは困難であるし、当該送信を受信して録音するかどうかは受信者の自由意思によるものであり、受信者を事業者が手足として使っているともいえないから、規範的な意味においても放送事業者を複製を行っているということはできないであろう。
これに対して「録画ネット事件」では、ユーザーの録音行為は録画予約の指定のみであり、その余の録音のための一連の行為が事業者の管理支配のもとに行われていることからすれば、判旨のいうように、事業者のサービスは実質的に録画代行サービスと変わらず、複製を行っているのはまさに事業者であるということになろう。
また、一連のカラオケボックスの事案においては、客の演奏・歌唱行為に対する管理支配を肯定し、このカラオケ店の管理支配行為と客の物理的演奏・歌唱行為を一体のものとして見て、そこに公に行われる演奏・歌唱行為というものを観念した上で、カラオケ店を演奏・歌唱の主体であるとしなければならない。こうした把握の仕方は、直接侵害者を非常に規範的、観念的に捉えるものであって、異論もあるはずである。しかしながら、カラオケボックスの場合は、従業員による機器の操作や歌唱の勧誘がないために営業主による管理支配は少ないと理解されがちであるが、実際は逆であろう。カラオケボックスの場合は、演奏・歌唱専用の部屋を設け、演奏・歌唱用の装置を完備し、演奏・歌唱のために客を来集させ、客をして演奏・歌唱させるものであるから、そこにはまさに演奏・歌唱に向けた行為とその結果として演奏・歌唱があるのであるから、演奏・歌唱に対する管理支配というものは上記録画ネット事件の場合と遜色のない程度であって、そこに営業主による演奏・歌唱があると評価することができるであろう。
6 教唆・幇助者に対する差止請求
差止請求の相手方に関する議論は、相手方に間接侵害者(教唆者又は幇助者)も含まれるかどうかの議論ではなく、相手方が管理支配要件と責任主体要件を満たすかどうかの問題であると理解すべきことを説明した。ただ、前掲ファイルローグ事件や前掲カラオケ通信事件でも実質的にはいずれも上記両要件の該当性を検討しているのであって、検討内容においてさほど差異があるわけではない。
ただ、いずれにしても、ここでの議論は、間接侵害者に対して直接侵害行為の停止を請求できるかが議論されてきたのであって、間接侵害者に対し間接侵害行為の停止を請求できるかが議論されてきたのではない。そうすると、間接侵害者(教唆者又は幇助者)に対して間接侵害行為の停止を請求することは認められないのであろうか。例えば、教唆行為を停止しろというような請求である。著作権等は排他的独占権なのであるから、直接侵害行為に対する教唆・幇助行為自体の差止請求を否定する理由はないように思われる。ただ、その行為は侵害行為そのものではない(著作物等の違法利用行為ではない)ので、具体的請求の内容ごとに教唆・幇助者に対する請求について責任主体要件の充足の有無(自らの行為に関するものであるから、管理支配は当然にある。)を検討する必要があるであろう。
例えば、侵害行為の教唆・幇助になりうる機器やシステムの製造行為や提供行為の停止を請求することができるであろうか。まず、当該機器やシステムが請求者の著作物の侵害行為のためにのみ使用されるものであれば、その製造・提供の停止を認めてもよいであろう(特許法101条1及び3号参照)。それはまさに、侵害行為の教唆であって、幇助であるから、責任主体要件は肯定されよう。従って、ときめきメモリアル事件や裸体画像事件で使われた機器などに関しては、製造、販売などの停止を請求することができる。これに対して、汎用性のある機器についてこうした請求を認めることはできない。汎用機器の提供は侵害行為を教唆するものではないし、これが侵害行為に使われる蓋然性は極めて低い。それにもかかわらずその提供を禁止することは多くのユーザーの便益を奪うことであって許されないからである。ただし、汎用性のあるものでも、提供行為の結果、まちがいなくそれが請求者の著作物の侵害行為に使われることが明らかな場合(例えば、許諾契約を締結していないカラオケ店にカラオケ装置をリースしようとする場合)は、提供行為に対し停止請求ができると考えてよいであろう(特許法101条2及び4号参照)。
第6節 刑事上の制裁
著作権法は,民事上の救済に加えて,刑事罰に関する規定をおき、権利侵害の発生を抑止している。
刑事上の制裁を科されるのは,侵害者に「故意」があることが要件となる。
尚、平成16年著作権法改正において、懲役刑と罰金刑の上限が引きあげられるとともに、これらを併科することができるように改正が行われた(平成17年1月1日施行)。
以下、各罪について説明する。
1 著作権等の侵害罪(119条)
以下に該当する者は、5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する(119条)。本罪は、親告罪である。
① 著作者人格権,著作権、出版権、実演家人格権又は著作隣接権を侵害した者
侵害行為には、侵害とみなされる行為も含まれる。
ただし、私的使用の目的で自ら行う複製で、その方法が公衆に使用させるために設置された自動複製機器を用いて行う複製(30条1項1号、102条1項)と技術的保護手段を回避して行う複製(30条1項2号、102条1項)については刑事罰を科すほどの違法性はないという判断から刑事罰の対象から除外されている(119条1号括弧書き)。
また、権利管理情報の改変等については、その性質が権利侵害の準備的行為であるという理由で刑事罰の対象から除外され(1号括弧書き、ただし、営利目的の場合は120条の2、3号)、さらに国外頒布目的商業用レコード輸入等についても刑事罰の対象から除外されている(1号括弧書き、ただし、営利目的の場合は120条の2、4号)。
② 営利を目的として公衆に使用させるために設置された自動複製機器を複製に使用させた者(30条1項1号)
2 著作者又は実演家がいなくなった後の人格的利益侵害罪(120条)
60条又は101条の3の規定により、著作者が存しなくなった後又は実演家の死後においてもその人格的な利益を侵害してはならないとされているが、本規定に違反したものは、500万円以下の罰金に処せられる。
3 技術的保護手段回避装置等の製造等の罪(120条の2)
下記に該当する者は、3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。尚、技術的保護手段関連(1及び2号)は非親告罪であり、権利管理情報関連(3号)と国外頒布目的商業用レコード輸入関連(4号)は親告罪である。
(1)技術的保護手段関連
i) 技術的保護手段の回避装置や回避プログラムを公衆に譲渡もしくは貸与した者、公衆への譲渡もしくは貸与の目的をもって製造し、輸入し、もしくは所持した者、公衆の使用に供した者、又は回避プログラムを公衆送信もしくは送信可能化した者(1号)。
ii) 業として公衆からの求めに応じて技術的保護手段の回避を行った者(2号)。
① 趣旨
i)及びii)の行為は、侵害行為自体ではなく、侵害のおそれを生じさせる準備的行為であるが、こうした回避装置やプログラムは一個でも、際限のない数の権利侵害行為を可能にするものである。そしてこうした装置が広く社会に出回れば、技術的保護手段によって著作権等の実効性を高めようとした権利者の目的の達成が不可能となる。
そこで、回避装置等の公衆への譲渡などのように侵害を広く生じさせるおそれのある行為を処罰することにより、著作権等の侵害行為を事前に抑制するものである。
② 規制の対象となる装置等
技術的保護手段の回避を行うことを専らその機能とする装置又はプログラムが、規制の対象となる。「専らその機能とする」とは、技術的保護手段の回避以外に実用的な意味のある機能をもたないことをいう。従って、パソコンのように使い方によっては技術的保護手段の回避にも使いうことができるが、他の機能も有する装置等(汎用装置)は、規制の対象にならない。また、無反応機器も、そもそも無反応は技術的保護手段の回避(信号の除去又は改変)に該当しないので、規制の対象にならない。
尚、装置には、「当該装置の部品一式であって容易に組み立てることができるもの」を含む(120条1号括弧書き)。
(2)権利管理情報関連
営利を目的として、113条3項(権利管理情報の改変等)の規定により著作者人格権、著作権、実演家人格権又は著作隣接権を侵害する行為とみなされる行為を行った者(3号)。
趣旨
権利管理情報の改変等の行為は、113条3項の規定により、侵害行為と見なされている。ただ、この準備的行為に対し権利侵害行為と同じ罰則を科すのは適当でないので、119条1号かっこ書でこれを除外し、営利目的の者に限って本号によりやや軽い刑に処することとしたものである。
(3)国外頒布目的商業用レコード輸入等関連
営利を目的として、113条5項(国外頒布目的商業用レコード輸入等)の規定により著作権又は著作隣接権を侵害する行為とみなされる行為を行った者(4号)。
趣旨
国外頒布目的商業用レコードの輸入等の行為は、113条5項の規定により、侵害行為と見なされている。ただ、侵害行為とみなされるのは商業用レコードの販売秩序の維持といった政策目的に基づくものであって、通常のみなし侵害行為に比較してその違法性は低いと考えられるので、119条1号かっこ書でこれを除外し、営利目的の者に限って本号によりやや軽い刑に処することとしたものである。
4 著作者名詐称の罪(121条)
著作者でない者の実名又は周知の変名を著作者名として表示した著作物の複製物(原著作物の著作者でない者の実名又は周知の変名を原著作物の著作者として表示した二次的著作物の複製物を含む。)を頒布した者は、1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
これは、自分が執筆した小説に著名な小説家の名前を付し、商品価値を上げて販売するような行為を処罰する趣旨である。
5 外国原盤商業用レコードの無断複製等の罪(121条の2)
国内の商業用レコードの製作を業とする者が外国のレコード製作者から原盤の提供を受けて作成した商業用レコードを、商業用レコードとして複製し、その複製物を頒布し、又は頒布目的で所持した者は、1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する(1号)。
輸入盤商業用レコードから商業用レコードを複製し、その複製物を頒布又は頒布目的で所持した者も同様である(2号)。
趣旨
本罪はレコード製作者を保護するものではなく、外国原盤レコードの国内リプレッサーを保護するものである。こうしたリプレッサーは多額の原盤使用料を支払って外国のレコード原盤をリプレスしているが、その複製が作成され、頒布されると国内リプレッサーは多大な損害を被るから、これを抑制するものである。外国でリプレスされ、輸入された商業用レコードが複製、頒布される場合も同様の被害がでるので、これも刑罰の対象としている。
尚、本罪は、親告罪である。
6 出所不明示の罪(122条)
出所明示が義務づけられている場合(48条、102条2項)に、これに違反した者は、50万円以下の罰金に処せられる。
7 法人等両罰規定(124条)
法人の代表者又は法人もしくは個人事業主の代理人、使用人その他の従業員が、その法人等の業務に関し、以下の各号に掲げる規定の違反行為をしたときは、その行為者に加え、法人に対しては当該各号に定める罰金刑を、個人事業主に対しては各本条の罰金刑が科せられる。
- ① 119条1号に規定する著作権や著作隣接権(人格権を除く。)に関する侵害行為があった場合は、1億5千万円以下の罰金。行為者が500万円以下の罰金であることに比べ相当高額である。
- ② 120条の2の技術的保護手段回避装置等の製造等に関する侵害行為があった場合は、1億円以下の罰金。行為者が300万円以下の罰金であることに比べ相当高額である。
- ③ 119条1号の人格権に関する侵害行為、もしくは同条2号又は120条から122条までに規定された侵害行為があった場合は、当該条項に定められた罰金
