第7章 著作権及び著作隣接権の制限
第1節 総論
1 著作権と著作隣接権の制限
これまでは、著作権者と著作隣接権者に与えられた権利の内容とその権利処理の方法について解説してきたが、ここではこれらの権利が制限される場合について解説する。
著作権法は、文化的所産の公正な利用という観点から、著作権と著作隣接権が制限される場合を規定するが(30条乃至49条、102条)、その内容は、以下の通りである。これらの規定の趣旨はそれぞれであって、様々な政策的配慮に基づくものである。
- ① 私的使用のための複製(30条)
- ② 図書館等における複製(31条)
- ③ 引用(32条)
- ④ 教育目的のための使用(33条ないし36条)
- ⑤ 点字による複製等(37条)
- ⑥ 聴覚障害者のための自動公衆送信(37条の2)
- ⑦ 営利を目的としない上演等(38条)
- ⑧ 時事問題にかんする論説の転載等(39条)
- ⑨ 政治上の演説等の利用(40条)
- ⑩ 時事の事件の報道のための利用(41条)
- ⑪ 裁判手続等における複製(42条)
- ⑫ 翻訳・翻案等による利用(43条)
- ⑬ 放送事業者による一時固定(44条)
- ⑭ 美術著作物の所有者による展示(45条)
- ⑮ 公開の美術著作物等の利用(46条)
- ⑯ 美術著作物の展示にともなう複製(47条)
- ⑰ プログラム著作物の複製物の所有者による複製等(47条の2)
- ⑱ 複製権の制限により作成された複製物の譲渡(47条の3)
- ⑲ 著作隣接権の制限(102条)
これらの規定に該当する場合は、権利者の許諾を得ることなく著作物や著作隣接物を利用することができる。ただ、その場合でも、自由にかつ無償で利用ができる場合の外に、補償金の支払いを必要とする場合、権利者への通知を必要とする場合、出所を明示する必要がある場合などがある。
尚、著作権法の上記規定は、限定列挙である(本章第6節参照)。
この中で、著作権ビジネスの観点から重要だと思われる①私的使用のための複製(30条)、③引用(32条)、⑭美術著作物の所有者による展示(45条)、⑮公開の美術著作物等の利用(46条)、⑯美術著作物の展示にともなう複製(47条)、⑰プログラム著作物の複製物の所有者による複製等(47条の2)、⑱複製権の制限により作成された複製物の譲渡(47条の3)、⑲著作隣接権の制限、について解説する。尚、⑬放送事業者による一時固定(44条)は、すでに解説した(第6章第4節参照)。
2 人格権との関係
著作権の制限に関する規定は、著作者人格権に影響を及ぼすものと解してはならない(50条)。また、これと同様に、著作隣接権の制限に関する規定は、実演家人格権に影響を及ぼすものと解釈してはならない(102条の2)。
したがって、権利の制限規定の適用により著作物又は著作隣接物の利用ができる場合でも、人格権を侵害する形態での利用は許されない。
第2節 私的使用のための複製
1 総論
個人的な使用や鑑賞の便宜のために、書籍の一部をコピー機で複写したり,音楽CDをテープに録音したり,またテレビ・ドラマをビデオカセットに録画したりすることは,ごくごく普通にかつ頻繁に行われている著作物や著作隣接物の利用行為である。そして、こうした行為はすべて著作物や著作隣接物の複製であって,著作権や著作隣接権を侵害する行為であるはずである。
しかしながら,著作権法は,著作物や著作隣接物は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とするときは、複製することができると規定する(30条1項、102条1項)。すなわち,この範囲では,著作物や著作隣接物の自由複製が許されるのである。例えば、音楽CDを録音する行為は、音楽、実演及びレコードの複製であるが、音楽については30条1項、実演とレコードについては102条1項の規定により許されるのである。
本条の立法趣旨は、以下のところにある*1。
- ① 著作権者や著作隣接権者の権利と一般大衆による著作物や著作隣接物の利用の便宜という、二つの対立する利害を調節するものである。
複写機、録音機,録画機、パーソナル・コンピュータがこれだけ普及している社会において,これらの機器による複製をまったく認めないというのでは,著作物や著作隣接物を使用もしくは鑑賞する手段が窮屈であるし、権利者の経済的利益保護という観点から見ても、こうした私的な使用という限局された範囲で複製が行われる場合は、その利用は軽微少量であって権利者の利益が侵害されることは少ないと考えられる。 - ② 私的使用のための複製は、家庭内などの閉鎖的空間で行われるので実態の把握が困難であり、仮に個々の利用が把握できたとしても効率的な許諾料の徴収は困難である。そうであれば、法はできるだけ家庭に入らず、私的領域での自由が確保されたほうがよい(謙抑性)。
- ③ 民生用の録音・録画機器や記録媒体を製造販売しているメーカーにとって、私的使用のための複製が許されないとすれば、上記機器・記録媒体の販売機会がないことになる。したがって、録音・録画機器・記録媒体のメーカーとの利害調節という側面もある。
従って、私的使用のための複製とは,上記趣旨からすれば、これをどんなに広く解釈しても,少数の友人間など限られた範囲内で使うために複製する場合である。メンバーが多数になるサークルなどは限られた範囲内ということはできない。
会社での内部的使用を目的とした複製は本条によっても許されないと解すのが一般である(加戸講義226頁)。また、研究機関内部での利用も、機関として組織的に行われる業務に関するものである限り、本条項の適用はないされる*2。これは、会社で購入した書籍の必要部分をコピーして社員に配布するような行為を念頭にしているものと思われ、こうした行為に本条項の適用がないことに異論はないであろう。しかしながら、例えば、会社での業務のために自ら購入した数冊の雑誌の必要部分を読むために、必要部分をコピーしてファイルを作成するなどという行為は、書籍を読むという使用行為の便宜のための複製であるので本条項により許されると解される。本条項が、「家庭内」に加え「個人的な範囲内」で使用することを目的とする場合も複製を許しているのは、この趣旨であろう*3。従って、企業内複製や業務上複製が全て許されないというものではない。
本条項は、許される複製の範囲を規定するのに、「個人的又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用する」というだけであり、例えば、複製物の質、量、存続期間などの要素を条件としていない。したがって、私的使用のためであれば、複製物がどんなに高品質であったとしても、どんなに大量であったとしても、さらに永久に保存されるものであったとしても許容されることになる。例えば、テレビ番組のDVDビデオライブラリーを作ることも許される。自分の都合のいい時間に見たり聴いたりするというタイムシフトの目的を超えてライブラリー化するような場合まで許容すべきかという問題については従前から議論のあるところであるが、現行法上は許される。
尚、私的使用を目的とする複製が許される場合は、これを翻訳、翻案して複製することも許される(同法43条1号)。
また、出所明示義務はない(48条参照)。
*1 ②及び③の観点からの指摘をするものとして、著作権法百年史・通史編437頁
*2 第4小委員会報告(51年)、著作権法百年史・通史415頁。
*3 尚、田村概説200頁は、部署で購入済みの数冊の書籍から現在の企画に関連する部分だけをコピーしてファイルにすることも本条項の(類推)適用により許されるとするが、これは部署で一冊だけ書籍を購入すれば、必要部分のコピーは自由であるということであって合理的ではない。
2 私的使用のための複製でも許されない場合
私的使用のための複製は許されるが、以下の制限規定がある。
(1)使用者以外の者に依頼して行う複製(30条1項本文)
複製が許されるためには、使用者自身が複製する必要がある(制限1)。これは、本条項の趣旨が非常に零細な複製に限りこれを自由に認めるというものであるから、外部の者に複製をさせるような場合はその範囲外としたものである。また、使用者以外の者による複製を許せば必ず使用者の委託を受けて複製を行う事業者が登場することになるが、権利者が不利益を甘受しているところで、こうした事業者が利益をあげるという構造が作られることは排除されるべきである。さらに、法は家庭に入らないという原則もこの場合は妥当しないことも明らかである。したがって、コピー業者に複写を委託したり、ダビング業者に録画を委託したりする場合は、本条項の適用はない。
(2)公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器を用いてする複製(30条1項1号)
私的使用を目的とするものであっても,公衆に使用させることを目的として設置されている高速ダビング機などの自動複製機器を使って行う複製も許されない(制限2)。この制限は、複製の主体が使用者自身であったとしてもこれを許さないという趣旨である。これは、複製の主体を使用者に限定し他人に委託して複製を行うことを禁止しても、事業者などが自動複製機器などを店頭に設置して使用者本人に複製させるような形態をとることを許せば、制限1を設けた趣旨が全うされないからである*4。
そうすると,通常われわれがよく利用する文献複写機を用いた複写も許されないことになるが,そのような形態の複写は通常行われているため,当分の間は許されることになっている(附則5条の2)。
*4 これは、自動複製機器が発達して事業者がこれを公衆に使用させることを目的として設置をはじめたので、昭和59年の法改正で規定されたものである。
(3)目的外使用(49条1項1号及び2項1号)
私的使用を目的として作成された複製物もしくは翻案物の「目的外使用」は禁止される(制限3)。すなわち、30条1項に基づく複製物もしくは43条1号に基づく翻案物を頒布し、又はこれを提示する行為を禁止している。頒布又は提示行為があった場合は、違法に複製もしくは翻案を行ったとみなされる。
(4)デジタル方式の録音・録画(30条2項)と技術的保護手段の回避により可能となった複製(30条1項2号)
近年、録音・録画機器(カセットテープレコーダーやビデオテープレコーダーなど)及び記録媒体の発展には著しいものがある。こうした機器は忠実度が高く、しかも小型化、低廉化が進み、記録媒体も小型化する一方でその記憶容量は飛躍的に増大した。また、普及の程度もめざましく,多くの一般家庭に普及した。このように,複製の技術が格段に向上し,高性能の家庭用録音・録画機器や記録媒体が広く普及すると,制限1や制限2のような方法での複製を禁止したとしても、高品質の録音・録画物が大量に作成されて使用される状況が生じてくる。その結果,権利者の経済的利益を脅かすということになり、立法趣旨①の前提事実(その利用は軽微少量であって権利者の利益が侵害されることは少ない。)がゆらぐことになる。
そしてデジタル化は、これに拍車をかける。デジタル環境においては、簡単に、安くかつ短時間に、市販の商品とほぼ同等の複製物を作成することが可能である。そうすると、ますます権利者の経済的利益に与える影響が無視しえないものとなる。このような状況下においては、権利者としては,単に私的使用の範囲だからという理由だけでこれを見逃すことはできなくなるのである。
そのため、近年、私的使用のための複製に関して、その範囲を限定する方向での法改正が2回行われた。
まず、デジタル方式の録音・録画機器を用いた複製を行う場合には、権利者に補償金を支払う必要があるとした(制限4、平成4年著作権法改正)。ただこれは、複製を禁止する趣旨ではなく、デジタル方式の録音・録画機器を使った複製も自由ではあるが、一定額の補償金を支払う必要があるというものである。
第二に、技術的保護手段の回避により可能となった複製を、そのことを知りながら行う複製は私的使用のためであったとしても許さないとした(制限5、平成11年著作権法改正)。これは制限4と異なり、禁止規定である。
以上をまとめると次のようになる。
- 制限1-使用者以外の者による複製(禁止)
- 制限2-公衆使用目的の自動複製機器による複製(禁止)
- 制限3-目的外使用(禁止)
- 制限4-デジタル方式の録音・録画機器を用いた複製(補償金)
- 制限5-技術的保護手段の回避により可能となった複製(禁止)
以下、制限4と制限5について説明する。
4 制限4-デジタル方式の録音・録画機器
(1)総論
私的使用を目的として、デジタル方式の録音・録画機器によってデジタル方式用の記録媒体に録音・録画を行う者は,相当な額の補償金を著作権者と著作隣接権者に支払わなければならない(30条2項,102条1項)。これを,「私的録音録画補償金」という。私的使用のための録音・録画は自由かつ無償だという考え方を見直したものである。すなわち、私的使用のためのデジタル方式での録音・録画を禁止はしないけれど、権利者に相当の補償金を支払うことにして、権利者と利用者の利害の調和をはかったものである。
権利者と機器メーカー
本制度は、観念的にいうなら、権利者と利用者(私的使用のための録音・録画を行う一般大衆)の利害の調和を図ったものであるが、実は、ビジネス実務の観点からいうと、権利者とデジタル方式の録音・録画機器及び記録媒体のメーカー間の利害調整を図ったものという方が正確である。すなわち、私的使用のための録音・録画が許される範囲に関して利害関係を持つ者には、実は、これら機器メーカーである。私的使用のための録音・録画が許されないとすれば、民生用の録音・録画の販売機会がなくなるからである。私的使用のための複製が許されるという規定の立法趣旨には、これらメーカーとの利害調整という側面もあることは前述した(本節1の立法趣旨③参照)。
本規定が新設された際には、権利者は、デジタル化によって損なわれる経済的利益を補填するものとして私的録音録画補償金制度だけで納得したわけではなく、これに加え、機器メーカーが製造・販売する録音・録画機器を権利者が施す複製防止のための技術的保護手段(当時はSCMSである。技術的保護手段については、第3章第4節第2参照。また技術的保護手段を回避して行う私的使用のための複製の可否については、本節4参照)に反応する機器にするという技術的な対応とのセットにおいて、権利者とメーカー側の妥協(この時は、録音機器に関するもの)が図られたという経緯がある。すなわち、具体的にいうなら、技術的保護手段とこれに対する対応機器により一世代の録音だけを許し、この一世代の録音の代償が私的録音補償金により償われ、その徴収にメーカーが協力するという仕組みの下、権利者と機器メーカーが妥協したのである*5。
また、録画については、CGMSという技術的保護手段を採用することで妥協が成立している。これは権利者が、「録画禁止」、「一世代だけ録画可」、「自由に録画可」等を選択できる方法であり、DVDには基本的には録画不可の信号が付されている。したがって、録音(一世代だけ可)の場合よりもメーカー側が譲歩した(録画不可であるから、DVDを録画する目的で録画機器が購入されることはない。)ことになる。
*5 砂原幸雄「ようやくスタートする私的録画補償金制度の舵取り」コピライト459、76頁。また、DATについての交渉経緯に関し、名和小太郎「知的財産権・ハイテクとビジネスに揺れる制度」日本経済新聞社1993・9、153頁以下)。
(2)対象
補償金の支払義務が発生するのは、私的使用のための複製全部ではなく、録音・録画の場合である。これは、機器の発達により権利者の経済的利益が大きく損なわれていると考えられるのは録音・録画の場合だからである*6。
また、補償金支払の対象となる機器・記録媒体はデジタル方式のものだけであり,アナログ方式のものは除外される。本条の立法趣旨からすればアナログ方式のものを除外する理由はないのであるが,デジタル方式のものは,より高品質であり,録音・録画を重ねても劣化しないこと,さらに保存の点でも耐久性に優れているという理由に加え,アナログ方式のものはすでに一般家庭に浸透し,私的使用の範囲ではその録音・録画が無償で自由にできるという取扱いが慣行となっているため、補償金支払の対象からはずしている。
尚、録音・録画機器は、放送の業務のための特別な性能その他の私的使用に通常供されない特別な性能を有するもの及び録音機能付きの電話機その他の本来機能に付属する機能として録音又は録画の機能を有するものは除かれる(同条同項括弧書き)。前者は私的使用のための録音・録画に使われるものではないし、後者は通常、著作物もしくは著作隣接物の録音・録画には使われないのでこれを除外するものである。
そして、具体的な機器及び記録媒体は政令で指定されることになっている。
*6 録画の場合も補償金支払の対象となことには、疑問がなくもない。すなわち、音楽の録音に関しては、市販の音楽CDと同質の録音物が作成され、かつライブラリー化されることが多いことに鑑みるとき、権利者側の要求はもっともであり、補償金が支払われるべき合理的理由がある。しかしながら、録画の対象となるのはテレビ番組であるから(DVDの録画は通常できない。)、タイムシフト目的で録画されるのが通常であり、権利者の経済的利益が害されているという評価はできない場合が多い。したがって、録音と録画を区別することなく補償金の支払の対象としていることには合理性がないという指摘がある(作花詳解292頁参照)。
(3)指定にかかる機器及び記録媒体
具体的な機器及び記録媒体は、合理的な政策判断に基づき指定されることになるが、現在指定されている機器及び記録媒体は次のものである(著作権法施行令1条)。
録音について
- ① 機器
- DAT(デジタル・オーディオ・テープ)レコーダー(昭和62年指定)
- DCC(デジタル・コンパクト・カセット)レコーダー(平成4年指定)
- MD(ミニ・ディスク)レコーダー(平成4年指定)
- CD-R(コンパクトディスク・レコーダブル)方式CDレコーダー(平成10年指定)
- CD-RW(コンパクトディスク・リライタブル)方式CDレコーダー(平成10年指定)
- ② 記録媒体
- 生テープ
- 生ディスク
録画について
- ① 機器
- DVCR(デジタル・ビデオ・カセット)レコーダー(平成11年指定)
- D-VHS(データ・ビデオ・ホーム・システム)レコーダー(平成11年指定)
- MVDISC(マルチメディア・ビデオ・ディスク)レコーダー(平成12年指定)
- DVD-RW(デジタル・バーサタイル・ディスク・リライタブル)方式DVDレコーダー(平成12年指定)
- DVD-RAM(デジタル・バーサタイル・ディスク・ランダム・アクセス・メモリ)方式DVDレコーダー(平成12年指定)
- ② 記録媒体
- 生テープ(平成11年指定)
- 生ディスク(平成12年指定)
指定の是非につき議論があるものとして、以下のものがある。
① HDD録画機器
HDD録画機器は、専ら録画を目的とするデジタル方式の録画専用機器であり、政令指定されるべきものではあるが、HDDそのものは録画以外に多くの用途があるために、HDD録画機器をどう特定するかという点に問題があるという*7。
*7 高比良昭夫「私的録画補償金とデジタル録画機器について」(コピライト504、2000.4、30頁)
② パソコン
パソコンは、音楽CDの再生、録音、ラジオやテレビ放送の受信、録音・録画が可能であって、デジタル方式の録音・録画機能を備えるものである。録音・録画の性能も専用機器と比較しても遜色ない。
しかしながら、パソコンは、「録音機能付きの電話機その他の本来機能に付属する機能として録音又は録画の機能を有するもの(30条2項括弧書き)」であるという理由で指定はされていない。コンピュータのデータを複製して保存(録音・録画)する機能は、本来機能に付属するものではなく本来機能であるという主張もあるが、パソコンは汎用機器であり著作物や著作隣接権物の録音・録画に使われる頻度は専用機器に比べると相当程度低いものであって、指定の対象にはならないであろう。平成10年著作権法施行令の一部改正(11月1日施行)においても、第1条柱書に「主として録音の用に供するもの」という文言を追加して、パソコンなどの汎用機器が指定外であることを明確にしている*8。
*8 本改正においては、CD-RとCD-RWが追加指定されたが、これらは汎用機器が先行して普及していたために、汎用機器が指定の対象から除かれることを重ねて規定したものである(文化庁著作権課「著作権法施行令の一部改正について」コピライト452、1998.11、29頁)。ただし、立法論としては、専用機器に限定する必要はないという議論はありうる。
③ 携帯音楽プレーヤー
現在、急速に普及している携帯シリコン音楽プレーヤーについては、どう対処すべきか。
仮に、これに録音機能があるとするなら(内蔵メモリー方式)指定されてしかるべきであろうが、パソコン側で作成されたメモリーステックなどの記録媒体を再生するだけなら、録音機器という要件を満たさないことになる。
④ デジタル・ビデオカメラ
他人の著作物を録画する可能性は低いので対象から外されている(施行令1条2項括弧書)。
(4)補償金請求権者
補償金を受ける権利を有する者は、著作権者(30条2項)、並びに実演家とレコード製作者(102条1項)である。
尚、102条1項は、30条2項については、実演又はレコードの利用についてのみ準用し、放送・有線放送の利用については準用していない。これは、放送・有線放送が録音・録画されても放送・有線放送事業者の利益が害されることはない(通常リピート放送が有料で行われるという実態がないから、録音・録画物がなかったら再度視聴料を徴収できるはずであったという関係にない。)からである。ただし、録画に関しては、著作権者として分配を受けている。
この権利は,この権利を行使することを目的とする団体で文化庁長官が指定する団体(指定管理団体)があるときは、この団体によってのみ行使できる(104条の2、1項)。これを受けて、指定管理団体として、録音については「社団法人私的録音補償金管理協会」、録画については「社団法人私的録画補償金管理協会」が指定されている。そして、上記指定管理団体が受領した補償金は、以下の団体に分配されている。
① 録音
補償金は音楽の著作物、演奏及びレコードが録音されることの代償として支払われるので、その対象者は、著作権者、実演家及びレコード製作者である。そこで、ジャスラック、芸団協及びレコード協会に対して分配が行われている。
② 録画
補償金は映像が録画(録音とともに行われるものも含む。)されることの代償として支払われるが、個人が映像を録画する場合のその対象は、テレビ番組とDVDビデオである。しかし、DVDビデオは権利者団体が録画不可の技術的保護手段を施しているのが通常なので、対象者とならない。従って、対象者は、テレビ番組の制作にかかわる著作権者と実演家及びレコード製作者ということになる*9。そこで、私的録画著作権者協議会(構成員は、映像制作関連の事業者の団体(民放連、NHKを含む。)、日本脚本家連盟、日本シナリオ作家協会、ジャスラックなど)、芸団協及びレコード協会に分配が行われている。
*9 放送されるテレビ番組に関しても、例えば、NHKと民放各局は、平成16年4月からBS・地上波のデジタル放送について録画を一世代だけに制限する技術的保護手段を施している。この場合、補償金の対象は、一世代分の録画の対価ということになろう。
(5)徴収制度
本制度においては、補償金の徴収の方法が問題となる。なぜなら,各家庭内でこれらの機器や記録媒体を用いて録音・録画するところをいちいち捕捉して,その利用者から補償金を徴収しなければならないとすると,権利の実効性はほとんどないからである。
そこで著作権法は,次のような仕組みを作っている。
- ① まず,前述の通り、権利の行使は指定管理団体があるときはこの団体によってのみ行使できる。
- ② 次に,補償金支払義務者をデジタル方式の機器・記録媒体の購入者として,購入者は購入時に,これら機器・記録媒体を用いて今後行うであろう私的録音又は私的録画について一括して補償金を支払わなければならないとする(104条の4、1項)。
- ③ この補償金の額は,実際の使用頻度を測って決定することができないので,指定管理団体が定めた額によって請求されることになる。そこで,補償金の額の公正さを担保するために,指定管理団体が定めた額については,文化庁長官の認可を受けなければならない(104条の6第1項)。
- ④ そして,機器・記録媒体の製造業者又は輸入業者は,補償金の請求および受領に関し協力しなければならない(104条の5)。この結果、指定管理団体は,機器・記録媒体の製造業者又は輸入業者に対して直接補償金請求権を行使することができる。すなわち、これら製造業者や輸入業者は,製品の卸価格に上乗せしてこれら機器や記録媒体を販売し,この上乗せ分を指定管理団体に支払うのである。
- ⑤ この上乗せ分を含めて購入代金を支払った購入者は,その機器・記録媒体を専ら私的録音・録画以外の用に供すること(例えば,外国語の会話の勉強用とか,鳥や虫の声や姿を録音・録画するとか)を証明して,指定管理団体に補償金の返還を請求することができる(104条の4、2項)。
- ⑥ 尚,この制度においては,補償金の額の2割に相当する額を,著作権および著作隣接権の保護に関する事業などに支出しなければならない(104条の8)*10。
*10 この制度ではどの著作物や著作隣接物がどれだけ録音・録画されたかということと関係なく、包括的な一回限りの補償金が支払われるのであるから、個々の権利者と個々の録音・録画行為との関係を明確にすることができない。その結果、実際の分配においては、零細で分配しきれない権利者や分配資料によっては分配から漏れてしまう権利者が出てくることもあるので、このような権利者への配慮として権利者全体の利益となるような事業に支出することを求める趣旨である(加戸講義610頁)。
3 制限5-技術的保護手段の回避により可能となった複製
(1)総論
複製が、技術的保護手段の回避により可能となり、又はその結果に障害が生じないようになった場合で、その事実を知りながら複製を行う時は、例え私的使用のための複製でも許されない(30条1項2号、技術的保護手段の意義及び一般的規制内容については、第3章第4節第2参照)。
技術の発展は、著作物の利用(典型的には複製)が行われることを技術的手段を使って防ぐことを可能にしている。そして、この手段は、著作物の違法利用(違法複製)を阻止することを目的として使われる場合もあるが、適法利用を阻止する目的で使うこともできる。例えば、私的使用のための複製として著作権法上適法に行うことができる複製であっても、営業戦略的な観点から、複を阻止するというような使い方もできることになる。デジタル方式の録音・録画機器補償金のところで解説したように、ビジネス実務においては、こうした技術的保護手段は、むしろ私的使用のための複製を阻止し、又は制限する目的で使われているのである。
そうすると、私的使用のために技術的保護手段を回避して行う複製をどう取扱うかが問題になる。本条項が新設されるにあたっては(平成11年著作権法改正)、回避装置を公衆に譲渡するなどの行為についてはこれを禁止するけれど、私的使用のための複製は著作権法上許されているのであるから、例え技術手手段を回避して複製したとしても、権利侵害の問題は発生しないとする主張もあった。しかし改正法は、たとえ私的使用のためでも、複製防止技術が施されており、それが回避された結果複製ができるようになったことを知った上で複製をする場合は、これを許さないことにしたのである。つまり、従来、私的使用のためであれば、著作物の複製は原則自由とされていた思想の転換をはかったものである*11。結局、技術的保護手段が施されている場合は、30条はおよそ空文に帰することになる*12。したがって、ある意味では、法は家庭内には立ち入らないという立法趣旨②の根本思想の転換も図ったということもできる。
尚、本条項は、実演、レコード、放送及び有線放送に係る複製についても準用される(102条)。
*11 作花詳解734頁は、私的使用のための複製が許される法制下において、こうした複製を権利侵害とすることについて合理的説明がなされているとは言い難いという。結局は、私的使用のための複製は原則自由であるという思想を改め、複製を許すかどうかを権利者の意思に委ねたということであろう。
*12 水谷直樹「情報のデジタル化・ネットワーク化と著作権法制の対応」ジュリスト1132,1998.4.15、15頁
(2)複製が禁止される要件
① 回避
「回避」とは、技術的保護手段に用いられている信号の除去又は改変を行うことにより、当該技術的保護手段によって防止される行為を可能とし、又は当該技術的保護手段によって抑止される行為の結果に障害を生じさせないようにすることをいう(30条1項2号)。例えば、「コピー不可」の信号を取り除くとか、「コピー一世代可」の信号を「コピー自由」の信号に変えるなどが該当する。
したがって、技術的保護手段に用いられている信号に反応しない、いわゆる無反応機器を用いることは「回避」ではない。
また、記録又は送信の方式の変換に伴う技術的な制約の結果生じる除去又は改変を除く(30条1項2号括弧書き)。
例えば、①音楽CDをアナログ方式のカセットテープにダビングすると、音楽CDに記録されているSCMS信号はダビングされず、結果として信号の除去が起こる。また、②パソコンを用いて音楽CDをファイルとして保存するような場合も、用いる記録方式によっては信号の除去が起きる場合がある。このようにして発生する信号の除去又は改変については、本号にいう信号の除去又は改変には含まれない。(文化庁=通産省編・改正解説93頁)
② 回避により可能となった複製
回避によって複製が可能となったことが必要である。この場合、複製行為を行う者が回避行為を行ったかどうかは関係ない。すなわち、他人の回避によって複製が可能となった場合も含まれる。
例えば、他人が「コピー不可」の信号の付されたDVDから信号を除去した場合に、そのDVDを使ってDVD-RAMに録画する場合や、他人が信号を除去して録画したDVD-RAMからさらに自己のDVD-RAMに自分で複製する行為は、回避により可能となった複製である。また、「コピー一世代可」の信号の付されたDVDの信号を「コピー可」に改変してDVD-RAM複製するのは、回避により可能となった複製ではないが、そのダビングにより作成したDVD-RAMからまた別のDVD-RAMにダビングする行為は、「技術的保護手段の回避により可能となった複製」に該当する(文化庁=通産省編・改正解説94頁)。
③ その事実を知りながら行う場合
私的使用のための複製はもともと自由なのであるから、複製を行おうとする者に、「もともと複製が可能であったのか」、「回避により複製が可能となったのか」を調査する必要などなく、「回避により複製が可能となった」ことを知っていたときだけ権利侵害になる。
第3節 引用
1 著作物及び著作隣接物の引用
(1)引用による利用
公表された著作物は、引用して利用することができる(32条1項本文)。また、この規定は、著作隣接物にも準用されているから(102条1項)、実演、レコード、放送、有線放送の引用もできる。
論文作成などの際の引用が典型例とされるが(加戸講義243頁、作花詳解306頁)、論文などで他人の学説を紹介し、もしくは批判するときの引用とは、他人の学説の著作物性のある表現を利用しているとまではいえない場合が多い。ある課題に対する他の学者の考え方、結論、結論に至るまでの過程(これらはアイデアである。)などの紹介、批判にとどまっている場合がほとんどであるので、このような引用が本条項によってはじめて許されるわけではない(表現の利用がないから許される。)。
本条項に基づき他人の著作物を引用して作成された複製物については譲渡権も制限され、これを譲渡により公衆に提供することができる(47条の3)。さらに、著作権法は、「引用して利用することができる」といっているから、引用の方法は複製に限定されていない。したがって、放送、自動公衆送信、口述、上映などの方法で利用することもできる。
(2)引用の条件
引用して利用する場合、その引用が公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他引用の目的上正当な範囲内で行わなければならない(32条1項)。
判例*13は、本規定により引用が適法となるためには、引用して利用する側の著作物と、引用されて利用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することができ、かつ、右両著作物の間に前者が主、後者が従の関係があると認められる場合でなければならないと判示している。すなわち、「明瞭区別性」と「主従関係」が要件であるとするのである。以下、上記要件に関し分析を加えてみよう*14。
*13 「パロディ写真事件上告審」最高裁昭和55年3月28日判決(判時967号45頁)外、多数。
*14 引用に関する判例を詳細に分析し、引用要件の再構成を試みるものとして上野達弘「引用をめぐる要件論の再構成」(半田正夫先生古希記念論文集『著作権法と民法の現代的課題』307頁~、法学書院、2003年)
① 明瞭区別性
引用とは、他人の著作物であることを示した上で、それを自己の著作物に取り込むことであるから、両者が区別されて始めて引用といえるであろう。従って、この要件を満たす必要がある*15。
*15 但し、パロディに関しては別途の考慮が必要である(田村概説242頁以下)。
② 主従関係
判例は、両著作物に主従関係があることを引用の要件とする。ただ、この要件の下で判例が考慮している要素を具体的に見ると、多様な要素が考慮されているので、以下検討する。
- ⅰ) 狭義の主従関係
- 文字通り、引用著作物と被引用著作物の間に、前者が主、後者が従という関係が必要である。すなわち、「藤田画伯引用事件控訴審」*16がいうように、引用著作物が全体の中で主体性を保持し、被引用著作物が引用著作物の内容を補足説明し、あるいはその例証、参考資料を提供するなど引用著作物に対し付従的な性質を有しているにすぎないと認められることが必要である。
従って、他人の著作物を紹介する目的で、簡単なコメントを付して他人の著作物を引用(紹介)することは、この主従関係の要件を満たさない。「中田英寿伝記事件」*17では、書籍中において同人の中学時代の詩を掲載し、詩の下部に「中学の文集で中田が書いた詩。強い信念を感じさせる。」というコメントを付しただけの場合、詩を紹介すること自体が目的であるとして、適法な引用に当たらないとしている。「バーンズコレクション事件」*18では、新聞に絵画を掲載したものの、対応する叙述部分にはほとんど内容がなかった事案に関し、絵画を紹介することのみを目的としているとして適法な引用にならないとする。また、同事件では、絵画の展覧会の主催者が入場券に絵画を採録した行為について、引用する側(入場券の記載)が著作物であることが必要であるので引用の要件を満たさないとしているが、これも主従関係の要件を満たさないというべきである。
また、他人の著作物を試験の問題として使う場合も、一般的に本要件を満たさないであろう。そのため、著作権法は、他人の著作物を試験問題として使う場合に関して、一定の要件の下で特別にこれを許容している(36条)。「教科書準拠教材事件」*19は、小学校用教科書に準拠したテストに著作物を掲載した事案で、適法引用に当たらないとしている。
*16 東京高裁昭和60年10月17日判決(判時1176号33頁、判タ569号38頁)。
*17 東京地裁平成12年2月29日判決(判例時報1715号76頁)。尚、東京高裁平成12年12月25日(判時1743号130頁)は書籍の本文中に誌について直接言及した記述が一切みられないことなどを理由として主従関係がないとする。
*18 東京地裁平成10年2月20日判決(判時1643号176頁)
*19 東京地裁平成15.3.28判決(判タ1166号223頁)
- ⅱ) 引用の必要性(正当な範囲内)
- 主従関係が肯定されたとしても、個々の被引用著作物に関して具体的な引用の必要性があることが要件となる。なぜなら、著作権法は、正当な範囲内の引用だけを許容しているからである。ただ、ここでいう正当な範囲に関しては、単なる必要性では十分ではなく、必然性がなければならないかが問題となる。
これを肯定する見解もあるが、引用した方が批判がしやすいとか、引用した方が自説の理解の助けになるという程度(それなりの必要性があるという程度)で足りるといういうべきであろう*20。引用しながら著作物を創作する行為は否定的に捉えられるべきものではなく、文化の発展に資するものとして肯定的に捉えられるべき著作物の作成方法であるからである。
前掲「藤田画伯引用事件控訴審」は、藤田画伯の絵画12点が論文の補足図版として採録された事案であるが、著作物が著作者の自由な精神活動の所産であることからすれば、引用に必然性があるかどうかは多分に著作者の主観を考慮して判断せざるをえないことになり、これを判断基準とすることは客観性に欠けるおそれがあり相当でないという。
「脱ゴーマニズム宣言事件」*21は、漫画作品の内容を批判、論評するために、書籍において漫画のコマを57カット採録した事案であるが、批評者は漫画の著者の意見に対する批評を行っているのであり、絵に対する批評を行っているのではないから、絵を含めた作品全体を引用する必要性又は必然性はないという漫画の著者の主張に対し、引用は、引用者が必要と考える範囲で行うことができるものであると判示し、続けて、漫画の著者は漫画によって自己の主張を展開しているのであるから、絵自体を批評の対象とする場合はもとより、その主張を批評の対象とする場合であっても、批評の対象を正確に示すには、文のみならず、絵についても引用する必要があるというべきであり、絵自体を批評の対象としていないことをして絵について引用の必要がないということはできないと判示している。
*20 前掲上野312頁、前田哲男・判例評論508号31(判時1743号193頁)
*21 東京地裁平成11年8月31日判決(判時1702号145頁、判タ1016号217頁)、東京高裁平成12年4月25日判決(判時1724号124頁)も1審判決と同旨。
- ⅲ) 量及び範囲における必要性(正当な範囲内)
- 正当な範囲内という要件を満たすためには、引用の量及び範囲も必要な量及び範囲でなければならない。ただ、必要であれば、俳句や詩、絵画などのように、全部引用も許される場合がある。
この量及び範囲の問題に関しても、「必要最小限」でなければならないという主張があるが、これも上記ⅱ)における説明と同様な趣旨で、「必要な範囲内」と解すべきである。
「絶対音感事件控訴審」*22は、絶対音感の著者が319頁の書籍中3頁にわたって演劇台本の翻訳物(A4版横書き、1頁当たり40字35行程度の量)の一部(57行程度)を採録した事案において、必要な範囲内の引用であると判示している。
*22 東京高裁平成14年4月11日判決(コピライト496、50頁)。ただ、この判決は、引用した範囲、分量は、本件書籍全体との比較において殊更に多いとはいえないことを理由としているが、書籍全体のうちに占める被引用著作物の分量が少ないからといって、その分量の引用の必要性が肯定されることにはならないから、判断基準としては正しくないであろう。尚、1審・東京地裁平成13年6月13日判決(判時1757号138頁)は引用を不適法というが、その理由とするところは明確でない。
- ⅳ) 採録形態における必要性(正当な範囲内)
- 被引用著作物に限定はないので、絵画や漫画も引用することができる。たとえば、美術史を内容とする書籍などにおいて、解説の対象となる絵画を採録するのは引用の必要性があるといえる。
ただし、独立観賞性がある形態での引用は、採録の形態における必要性が否定されるのが一般であろう。解説書等においてそうした形態で採録する必要性はないからである。
前掲「藤田画伯引用事件控訴審」では、藤田画伯の絵画12点が論文の補足図版として採録された事案であるが、採録頁に上質紙を使い、各図版の大きさも小型のもので8分の1頁、大型のものは3分の2頁に割り付けられており、論文の絵画に関する記述も当該絵画と同じ頁に記載されているものは2点にすぎないために論文の記述との結びつきが希薄であるので、こうした採録の方法は、論文に対する理解を補足するといった性質を超えてそれ自体観賞性を有する図版として独立性を有するものであるから、引用の要件を満たさないと判示している。
③ 公正な慣行に合致すること
公正な慣行に合致するという要件は、公正な慣行がある場合にはそれに従う必要があるという趣旨と解される(田村概説241頁参照)。
後述の出所表示義務に関し、出所表示は公正な慣行であって、出所表示がない引用は公正な慣行に合致しないので本規定の要件を満たさない(著作権侵害になる)とする判例がある(後述(3)参照)。
④ 翻案引用
言語著作物を要約して引用すること(翻案引用)の可否が問題となる。私的複製等により利用できる場合は翻訳、編曲、変形又は翻案の方法により利用することができると規定している(43条1号)のに対して、引用により利用できる場合は翻訳による方法しか規定していない(43条2号)。そのため、通説的な見解は、引用の場合は翻案引用は許されず、表現が類似しない態様で要旨を展開する必要があるとする(田村概説246頁、加戸講義245頁)。
この考え方は条文の文言には忠実であるが、報道、批評、研究活動を萎縮させる可能性があって賛成できない。通説的見解も批評活動等における要旨引用の必要性は認めるものであるが、その際「表現が類似しない態様」での要旨引用を求めるものである。しかしながら、他人の言語著作物を忠実に要約すれば、翻案とされる場合がほとんどであろう*23。仮に「表現が類似しない態様」で要旨引用が可能だとしても、引用者は、常にその要約が翻案の範囲になっていないかどうかのリスクを負いながら引用しなければならないことになって合理的でない。この点判例は、「血液型と性格要約引用事件」*24において、翻案引用の必要性を肯定した上で、43条2号が編曲、変形、翻案による利用を規定しなかった趣旨は、引用の場合、音楽を編曲して引用したり、美術著作物を変形して引用したり、また映画化したりして引用したりするといった典型的な翻案をした上で引用することが通常考えられないからこれらの利用方法が規定されていないのであって、要約翻案を排除するものではないとしている。この判例の見解が妥当であろう。尚、要約引用が認められないとする見解は、要約が不正確な場合に著作物の内容が正確に伝わらないおそれがあることをその根拠とするが、そもそも「表現が類似しない態様」で引用してもこうしたおそれ(他人のアイデアの内容が間違って伝えられるおそれ)は排除できないので、理由とはならないであろう。
*23 具体的な翻案の範囲については、第9章第1節4参照。ただ、言語著作物においては、具体的表現だけではなく、テーマ、構成、筋などの同一性がある場合は翻案の範囲とされている。
*24 東京地裁平成10年10月30日判決(判時1674号132頁、判タ991号240頁)
⑤ 公表されたもの
引用が許される対象は、「公表された」ものである必要がある。未公表の著作物もしくは著作隣接物の引用は許されない。
(3)出所明示義務
複製による利用の場合は出所明示義務がある(48条1項1号)。複製以外の方法による利用の場合は、出所明示の慣行があるときだけ出所明示義務がある(同条同項3号)。出所とは、引用される著作物と著作者に関するものであって、著作権者に関するものではない。
「利用の態様に応じ合理的と認められる方法及び程度により」(48条1項本文)とは、基本的に著作物の題号と著作者名を表示することであろうが、出版物からの引用である場合は、出版社名や掲載雑誌名、版とか巻、出版月、さらには頁数などが必要である。ホームページの場合はURL(最低限必要である。)、タイトルなど題号のようなものがあればタイトル、著作者名、掲載場所などを記載することが必要であろう。
尚、出所明示義務は引用の条件ではない(31条1項において条件とされていない。)ので、出所の明示を欠いても著作権侵害となるものではない。このことは、著作権侵害の罪(119条)と出所不明示の罪(122条)が書き分けられていることからも明らかであろう(加戸講義310頁)。
ところが、前掲「絶対音感事件控訴審」では、出所の明示を怠った場合は、当該引用は公正な慣行に合致しているとはいえないので、適法引用にあたらず著作権侵害になると判示した。すなわち、出所の不明示それ自体は著作権侵害を構成するものではないが、出所を明示することが公正な慣行と認められるに至ったときは、公正な慣行に反するという媒介項を通じて、著作権侵害を構成するとする。しかしながら、引用者が一般に出所を明示するのは、本条項がその義務を明示しているからであって、32条1項の公正な慣行に該当するからではないであろう。また、著作権侵害の罪と出所不明示の罪をあえて書き分けて著作権侵害とは別個の扱いをすることを明確にしているにもかかわらず、わざわざ公正な慣行を媒介項にして著作権侵害として扱う必要があるのかも疑問である。
(4)人格権への配慮
引用が許される場合でも、その著作者もしくは実演家の人格権を侵害しないようにする必要がある(50条)。
「脱ゴーマニズム宣言事件控訴審」*25では、漫画のコマの配置を変えた行為について同一性保持権を侵害するとする(第9章第3節、4、(2)、⑭参照)。
逆に、絵画の引用において、独立観賞性を消すために鮮明度を落として複製する場合は、「やむを得ない改変」(20条2項4号)というべきであろう。また、翻案引用が許される場合も、原則として、「やむを得ないと認められる改変」にあたると解すべきである。
*25 東京高裁平成12年4月25日判決(判時1724号124頁)
2 国などが作成する広報資料等の転載
国や地方公共団体又は独立行政法人の機関が一般に周知させることを目的として作成し、その名義で公表する広報資料、調査統計資料、報告書その他これに類する著作物は、説明の材料として新聞紙、雑誌その他の刊行物に転載をすることができる(32条2項)。ただし、転載禁止の表示がある場合はこの限りでない。官公PR資料(たとえば白書)などに関し、「引用」を越えて「転載」を許す規定である。法令とか通達とかいったものは、権利の目的にならない(13条参照)が、国の広報資料のようなものは一応権利の目的になるとしながら、公共のために広く利用させるべき性質のものであるから、転載を認めているのである。
出所明示義務がある(48条1項1号)。
著作隣接物についても準用されている(102条1項)。
本条項の転載により作成された複製物については譲渡権も制限され、これを譲渡により公衆に提供することができる(47条の3)。
第4節 美術著作物に関する権利制限
1 美術著作物の所有者による展示(45条)
美術や写真の原作品の所有者(所有者の同意を得た者を含む。)は、これを公に展示することができる(45条1項)。この場合、著作権者は、展示権を行使してこれを禁止することはできない。著作権と所有権の権利調整規定である。
美術や写真の原作品が売買される場合、買主(所有者)が将来これを展示するのが一般的であるので、当事者の合理的意思解釈としてこのような調整規定をおいたものである。
ただし、街路、公園その他一般公衆に開放されている屋外の場所又は建造物の外壁その他一般公衆の見やすい屋外の場所(以下、「公衆による鑑賞可能屋外」という。)に恒常的に設置する場合には適用しない(同条2項)。ここまでは著作権者の想定外であり、著作権者の利益を不当に害するという趣旨である。
出所明示義務はない(48条参照)。
2 公開の美術著作物等の利用
「美術の著作物」でその原作品が「公衆による鑑賞可能屋外」に恒常的に設置されているもの*26、又は「建築の著作物」は、以下の場合を除き、自由に利用することができる(46条1項)。
*26 「バス車体絵画掲載事件」(東京地裁平成13年7月25日判決、判時1758号137頁、判タ1067号297頁)は、バスの車体に描かれた絵画は、公衆による鑑賞可能屋外に恒常的に設置された美術の原作品であると判示している。
① 彫刻を増製し、又はその複製物の譲渡により公衆に提供する場合(1号)
これは彫刻を彫刻として増製し、又はそれを公衆に譲渡する場合である。
② 建築の著作物を建築により複製し、又はその複製物の譲渡により公衆に提供する場合(2号)
模倣建築をし、又はそれを公衆に譲渡する場合である。
③ 「公衆による鑑賞可能屋外」に恒常的に設置するための複製(3号)
「公衆による鑑賞可能屋外」に恒常的に設置されている美術著作物の原作品を同じ目的のために複製することである。
④ 専ら美術の著作物の複製物の販売を目的として複製し、又はその複製物を販売する場合(4号)
これは、絵はがきなどを作成する行為が典型である。尚、前掲「バス車体絵画掲載事件」では、バスの車体に描かれた絵画を幼児向けの自動車の解説を目的とした図書の表紙に掲載し、その図書を販売する行為に関し、本号が規定する「専ら」という要件に該当しないことを理由に、自由利用が認められる場合であるとした。
以上①乃至④の場合を除き自由に利用できるのであるから、写真撮影、録画などの複製、放送その他の公衆送信などの方法による利用は自由である*27。
*27 但し、物のパブリシティ権が主張されることがある。
本条により作成された複製物については譲渡権も制限される(47条の3)。
出所明示の慣行があるときは出所明示義務がある(同条同項3号)。
3 美術著作物の展示にともなう複製(47条)
展示権の権利処理をして美術の著作物又は写真の著作物の原作品を展示する者は、観覧者のためにこれらの著作物の解説又は紹介をすることを目的とする小冊子にこれらの著作物を掲載することができる(47条)。
解説又は紹介用の小冊子である必要がある。「ダリ展事件」*28では、小冊子の意義に関し、紙質、判型、作品の複製態様等からみて、複製された作品の観賞用の図書として市場において取り引きされるものと同様の価値を有するものは実質的に画集にほかならず、本条にいう小冊子に該当しないと判示している。
本条により作成された複製物については譲渡権も制限され、これを譲渡により公衆に提供することができる(47条の3)。観覧者のために譲渡されるのであれば、有料でもよい。また、観覧者のための小冊子である必要があるから、一般に譲渡することはできないと解すべきである(加戸講義303頁)。
出所明示義務がある(48条1項1号)。
*28 東京地裁平成9年9月5日判決(判時1621号130頁)。同旨の判示をするものとして、「藤田画伯小冊子事件」東京地裁平成元年10月6日判決(判時1323号140頁、判タ710号234頁)、前掲「バーンズコレクション事件」参照。
第5節 プログラム著作物の複製物の所有者による複製等
1 複製物の所有者による複製及び翻案
プログラムの著作物の複製物の所有者は、自らそのプログラムを電子計算機において利用するために必要と認められる限度において、そのプログラムの複製又は翻案(翻案により創作した二次的著作物の複製を含む。)することができる(47条の2、1項本文)。また、同一性保持権に関しても、特定の電子計算機においては利用できないプログラムをその電子計算機において利用できるようにするため、又はプログラムをより効果的に利用できるようにするために必要な改変は許されるとしている(20条2項3号)
一般に著作物の複製物の所有者といえども、これを複製又は翻案する権限はない。しかしながら、プログラムの著作物の場合は、その複製物を購入して電子計算機において使用する(条文中では「利用する」という言葉使われているが、「使用する」の方が正確である。)のに必要な限度で複製又は翻案を行うことを許容するものである。また、これと同じ趣旨で、一定の改変も認めるものである。
許される複製、翻案及び改変の具体例は次の通りである。尚、出所明示義務はない(48条参照)。
① 複製
CD-ROMなどの媒体に複製されて販売されているプログラムをコンピュータのハードディスクにインストール(複製)する行為は許される。ただし、自己が複数所有するコンピュータにインストールすることは、そのプログラムを電子計算機において利用するために必要な限度を超えているから許されない*29。ただ、30条1項により私的使用のために複製することは許される。
また、複製物の滅失、毀損に備えてバックアップコピーを作成する行為(複製)は許される。
*29 作花詳解349頁は、本来そのコンピュータの台数分売れるべきプログラムが売れなくなるわけだから、必要と認められる限度を超えることになるとする。
② 翻案
バグ取りにおいて必要であるなら、翻案も許される。
カスタマイズとか、ローカライズとかいわれるもの、すなわち、自己の具体的な使用環境にあわせるために手直しをする行為も許される。
バージョンアップも許される。
③ 改変
①及び②における複製・翻案にともない改変が必要な場合は、改変が許される。
複製又は翻案が許されるのは、複製物の所有者である必要があるから、貸与を受けている者は含まれない。また、他人に使用させる目的の場合も該当しない。さらに、海賊版プログラム(113条2項)の複製物については適用がない(47条の2、1項但書)。海賊版プログラムは複製物の使用自体が違法とされるのであるから、その使用のために複製したり、翻案したりする行為が許されないのは当然であろう。
2 複製物の保存の禁止
47条の2、1項の規定により複製物が作成されたとき、その所有者が、もともとの複製物又は新たに作成された複製物のいずれかについて、滅失以外の事由により所有権を有しなくなった後には、プログラムの著作権者の別段の意思表示がない限り、その他の複製物を保存することができない(同条2項)。
1項の規定により、プログラム著作物の複製が認められる趣旨は、当初購入などして所有権を取得した複製物を用いたプログラムの使用の便宜のためである。ところが、複製物を譲渡などして所有権を有しなくなった後も残った複製物を使用することができるとすると、複製物の所有者の使用の便宜を図るという趣旨を越えて、著作権者の利益が不当に害される(二個売れるところが一個しか売れない。)ので、残された複製物の保有を禁止するものである。
3 目的外使用
47条の2、1項の規定の適用を受けて作成されたプログラムの複製物を頒布し、又はその複製物によってプログラムの著作物を公衆に提示した者は、そのプログラムの複製を行ったものとみなされる(49条1項3号)。
47条の2、2項の規定に違反して同項のプログラムの複製物を保存した者は、そのプログラムの複製を行ったものとみなされる(同条項4号)。
さらに、47条の2の規定により作成された二次的著作物について、上記頒布もしくは提示行為(49条1項3号の行為)、又は保存行為(同条項4号の行為)を行った者は、原著作物の翻案を行ったものとみなされる(49条2項2号及び3号)。
例えば、友人への貸与は、49条1項3号にいう頒布に該当し、複製権の侵害となる。公衆への貸与の場合は、複製権と貸与権の重畳的侵害となる。
4 特約による排除の可否
47条の2の規定により許される複製又は翻案を契約で禁止することができるであろうか。
一般に、契約自由の原則の下、当事者の合意があればその効力は認められるのが一般であり、当該合意を無効とするには相当な公益上の理由が必要である。47条の2で複製又は翻案を認める趣旨がそこまでの公益上の理由に基づくものではないので、合意の効力を認めてよい。
第6節 フェアユース
以上見たように、著作権法は、著作権又は著作隣接権が制限される場合を列挙しているが、米国法では、こうした個別的な権利制限規定に加え、「フェアユース」という一般的権利制限規定をおいている。
フェアユースは、個別的な権利制限規定に該当しない場合でも、以下の要素を考慮してその利用が公正なものであると評価される場合は、権利侵害とはならないとするものである。
- ① 利用の目的及び性格(利用が商業的性格を有するかどうか又は非営利の教育を目的とするかどうかの別を含む。)
- ② 著作物の性質
- ③ 著作物全体との関連において、利用された部分の量及び実質
- ④ 著作物の潜在的市場又は価値に対する利用の影響
一般的権利制限規定を持たない日本の著作権法おいては、フェアユースという概念を根拠とした権利制限の主張を認めることは困難であろう。判例も、フェアユースという一般的権利制限の概念を法解釈に導入することに消極的である(例えば、「ラストメッセージin最終号事件*30)。
ただ、前掲「ラストメッセージin最終号事件」のように、「著作者等の権利と公益の調整のため、30条乃至49条に著作権が制限される場合やそのための要件を具体的かつ詳細に定め、それ以上にフェアユースの法理に相当する一般条項を定めなかったのであるから、権利が制限されるのは各条項所定の場合に限定されるべきである。」とまではいうべきではないであろう。すなわち、著作者のインセンティブの保護を目的とする制度下において、例えば、利用行為が著作物の潜在的市場に対して全く影響を与えないよう場合で、当該利用行為に対して禁止権を行使することが濫用的な権利行使であると認められるような場合は、著作権法の定める個別的権利制限条項に該当しないとしても権利行使が制限される場合があるであろう。こうした場合は、民法が規定する権利濫用の法理などの適用があると思われる。
例えば、複製その他の利用を全く伴わない翻案、原著作物を素材として新著作物を作成する過程で発生する複製・翻案、リバースエンジニアリングの過程でおこる複製・翻案などである。
*30 東京地裁平成7年12月18日判決(判時1567号126頁、判タ916号206頁)。「ウオールストリート・ジャーナル事件控訴審」東京高裁平成6年10月27日判決(判時、判タ)も同旨である。
