ビジネス著作権法

ビジネス著作権法

第8章 権利の保護期間

第8章 権利の保護期間

第1節 総論

著作権法は、創作活動に対するインセンティブを与えるために、著作者に著作権を付与し、その経済的利益を確保する制度を構築しているが、著作権を行使して一定期間その利益の確保を図った後は権利は消滅することになっている(51条以下)。そして、この権利が付与される期間を、「保護期間」という。

著作権の保護期間が永遠であるとすると、著作者の代々に渡る相続人や法人の構成員が未来永劫に権利を行使できることになるが、これは創作者に創作活動のインセンティブを与えるという制度趣旨を超えるものである。そうであれば、一定期間経過後は、文化的所産の公正な利用と文化の発展に寄与するという著作権法のもう一つの制度趣旨(1条)の観点から、以後は著作物をだれでも自由利用できるようにするのが合理的である。これが、保護期間を定めて、一定期間経過後は権利が消滅するとすることの制度趣旨である。

また、同じ趣旨で、著作隣接権の場合も保護期間が定められている(101条)。


第2節 著作権の保護期間

1 始期

保護期間は、著作者が著作物を創作した時に始まる(51条1項)。何らの方式も必要としない(無方式主義、17条2項)。

2 保護期間

① 原則-死亡時起算主義

著作権法は,原則として「死亡時起算主義」を採用し,保護期間を著作者の死後50年(共同著作物の場合は最終に死亡した著作者の死後50年)としている(51条2項)。すなわち、著作者の生存期間及びその死後50年が保護期間である。著作者の死後は、その相続人が著作権を承継する。

したがって,20歳のときに著作物を創作し,この人が70歳で死亡したら,そこから50年の保護期間が与えられるので,おおよそ100年間の保護期間が与えられることになる。

生存中のみならず、死後50年の間は権利が存続する趣旨は、著作者の子及び孫に権利(財産)を残せるということが著作者の創作活動のインセンティブになるという趣旨であろう。

② 例外-公表時起算主義

死亡時起算主義を適用することができない著作物については,死亡時起算主義の例外として,「公表時起算主義」によることにし,保護期間を公表後50年としている。公表時起算主義がとられる著作物は、i)無名又は変名の著作物(52条1項)、ii)団体名義の著作物(53条1項)、iii)映画の著作物(54条1項)である。

i) 無名又は変名の著作物
無名又は変名の著作物については、著作者の死亡を把握することができないので、公表後50年である(52条1項本文)。したがって、保護期間の満了前に死後50年を経過していることが判明したときには、死後50年経過時点で著作権は消滅したものとして扱われる(同条項但書)。逆に、保護期間の満了前にいまだ死後50年が経過していないことが判明したとしても、著作権法が死亡時起算主義によるとする下記の場合(52条2項)を除いて、保護期間の延長はない(田村概説273頁)。
変名が周知のものである場合、保護期間内に実名の登録があった場合及び著作者が保護期間内にその実名又は周知の変名を付して著作物を公表した場合は、原則にもどって死亡時起算主義による(52条2項)。
ii) 団体名義の著作物
法人その他の団体名義の著作物についても死亡時起算主義によることはできないので、公表時起算主義による。ただ、公表されない限りいつまでも著作権が存続するというのは不合理であるから、創作後50年以内に公表されなかったときは創作後50年で消滅する(53条1項)。
自然人の作成した著作物であっても団体名義の付されたものは、本条の規定によって計算される(加戸講義333頁)。この場合も、実際の著作者の死亡を把握できないからである。したがって、著作者たる自然人が、実名又は周知の変名を付して著作物を公表したときは、原則にもどって、その著作者の死後50年である(同条2項)。
プログラムの著作物に関しては、法人著作の要件として法人などが自分の著作の名義のもとに公表するものという要件がないので(第4章3,(2)、④参照)、法人著作でありさえすれば名義の如何にかかわらず、本条1項の規定が適用されて、公表後50年又は創作後50年となる(同条3項)。
iii) 映画の著作物
映画の著作物の場合も公表時起算主義により、公表後70年、公表されなかったときは創作後70年である(54条1項)。映画の著作物に関しては、死亡時起算主義を採用することなく、一律に(映画製作者が自然人であったとしても)公表時起算主義を採用するという趣旨である。尚、保護期間に関しては、平成15年著作権法改正(同16年1月1日施行)により、映画の著作物に関してだけ70年に延長されている。
小説や脚本など映画に翻案されている原著作物の著作権の保護期間は、その映画の利用に関する限り、映画の保護期間の終了とともに終了する(同条2項)。これは映画の保護期間が終了した後は、映画製作者だけでなく、小説やシナリオの著作権者の権利も映画の利用に関する限りは消滅することにして、映画の利用を促進するということである。ただ、原著作物の範囲に関しては争いがある。原著作物とは、映画の原作である著作物だけであって、映画の著作物に複製されている音楽や美術の著作物は、原著作物には含まれないという見解があるが(加戸講義339頁)、こうした限定はないと解すべきであろう(田村概説)。なぜなら、著作権法は「映画の著作物において翻案され、又は複製された小説、脚本、音楽その他の著作物」(16条参照)といって、特に小説やシナリオとその他の著作物を分けるという規定ぶりではないし、両者を分けて音楽や美術の著作物を特別に保護する必要もなく、映画利用の促進という本条の制度趣旨にも適うからである。
映画の著作物の保護期間については、52条(無名又は変名の著作物)と53条(団体名義の著作物)の規定は適用されない(同条3項)。したがって、死亡時起算主義の原則に戻ることはない(加戸講義341頁)。

3 継続的刊行物などの公表時

継続的刊行物や逐次刊行物に関し、その保護期間の起算点(公表時)を以下のように定めている。尚、この規定は、公表時起算主義がとられる著作物に関するものであって、死亡時起算主義がとられる著作物に関しては本条の適用がない。

① 継続的刊行物

冊,号または回を追って公表する刊行物については,毎冊,毎号又は毎回の公表のときが「公表の時」である(56条1項)。

この規定がおかれている趣旨は明確でない。継続的刊行物に掲載されている独立した個々の著作物については、毎冊,毎号又は毎回の公表のときが「公表の時」であることは当然である。また、連載形式の4コマ漫画とか、連載形式の一話完結の読み物やテレビドラマなどをここでいう継続的刊行物であるというにしても、冊、号又は回ごとにそれぞれの著作物が独立かつ完結しているから、それぞれの公表のときが保護期間の開始時となる。したがって、本条項は、当然のことを注意的に規定したものということになろうか。

② 逐次刊行物

これに対して、一部分ずつを逐次公表して完成する著作物については,最終部分が公表されたときが「公表の時」である(56条1項)。すなわち、完結したときに、保護期間が開始する。ただし、継続すべき部分が直近の公表の時から3年経過しても公表されないときは、すでに公表された最終部分の公表のときをもって「公表の時」とする(同条2項)。

一話完結ものではない新聞の連載小説やテレビの連続ドラマ、また編集著作物である百科事典などについての規定である。

ただ、この場合も、完結した著作物を全体として利用する場合の保護期間の開始時点を規定したものであり、これも当然の規定であろう。従って、その一部分の利用に関しては、当該一部分の公表時に保護期間は開始していると解すべきである。

漫画の図柄と保護期間の開始時

新聞紙などに掲載される一話完結方式の連載4コマ漫画は継続的刊行物に該当するが、この場合、「ストーリーを含む漫画全体」と「そこに恒常的に登場する主人公などの図柄」のそれぞれの保護期間の開始時をどう考えるかという問題がある。4コマ漫画全体の保護期間が一話公表されるたびに開始することに異論はないが、主人公などの図柄に関しては、第1回作品が公表されたときに保護期間が開始するのか、毎回公表されるたびに新たに保護期間が開始するのかについて争いがあるのである。

「漫画ポパイ腕カバー事件控訴審」*1は、漫画における絵画表現と言語表現は不可分の有機的結合関係にあるから(絵画表現部分と漫画全体の保護期間が別個に開始すると考えるのは妥当ではなく)、一話ごとに(絵画表現部分も含めて)保護期間が開始するといい、従って、漫画が継続して公表されている間は、保護期間は満了しないと判示した。すなわち、最初の漫画の保護期間は終了していても、後続の漫画が保護期間内にある限り、後続の「ストーリーと図柄が一体になった漫画」の著作権に基づき、最初の漫画で公表されている図柄の利用を禁止できるというものである。しかしながら、「同事件上告審」*2は、後続の漫画は先行する漫画を原著作物とする二次的著作物と解されるところ、二次的著作物の著作権は、二次的著作物において新たに付与された創作的部分のみについて生じ、原著作物と共通しその実質を同じくする部分には生じないことを理由として、後続の漫画に登場する人物が、先行する漫画に登場する人物と同一と認められる限り、当該登場人物については、最初に掲載された漫画の保護期間によるべきであると判示している。

上記事案では、言語的表現はもちろんのこと漫画全体の利用が問題になっているわけではなく、図柄の利用の可否(その前提としては、図柄が完結した形で利用可能であるということがある。)が問題となっているのであるから、単独で利用可能な部分についての保護期間は、その利用が可能になったときから起算すべきは当然であろう。したがって、漫画が逐次刊行物であったとしても、連載漫画の第1回作品で登場した図柄の保護期間は第1回作品の公表時から開始することになる。

*1 東京高裁平成4年5月14日判決(判時1431号62頁)

*2 最高裁平成9年7月17日判決(民集51巻6号)

4 保護期間の計算方法

著作者の死後50年、公表後50年、創作後50年などというときの終期を計算するときは、死亡日、公表日、創作日の属する年の翌年から起算する(57条)。すなわち、これらの期間は、死亡日、公表日、創作日の属する年の翌年の1月1日から計算するということである。

5 相続人不存在の場合など

保護期間満了前であっても、著作権者が死亡し、相続人がいない場合は、著作権は消滅する(62条1項1号)。一般に、被相続人が死亡し相続人がいない場合は、被相続人の財産は、国庫に帰属する(民法959条)。ところが、著作権の場合は、著作権を消滅させ、国民が自由に利用できることとしているのである。これによって、著作物の利用促進を図る趣旨であろう。

また、法人が解散して消滅した場合も同様である(62条1項2号、民法72条3項)


第3節 著作隣接権の保護期間

1 始期

保護期間は、次の時に開始する(101条1項)。何らの方式も必要としない(無方式主義、89条5項)。

  • ① 実演については,その実演を行ったとき
  • ② レコードについては,その音を最初に固定したとき
  • ③ 放送については,その放送を行ったとき
  • ④ 有線放送については,その有線放送を行ったとき

2 保護期間

保護期間は、実演、放送、有線放送については、上記始期の属する年の翌年から起算して50年である(102条2項1,3及び4号)。

レコードについては、レコードの発行が行われた日を基準にして計算する。すなわち、レコードはその固定の時に保護期間が開始するが、保護期間の終了時は、「その固定が行われた日」の属する年の翌年から起算して50年を経過したときではなく、「その発行が行われた日」の翌年から起算して50年を経過したときである(101条2項2号)。これにより、始期と終期の起算点が異なることになる。レコードに関しても従前は「その固定が行われた日の属する年の翌年から起算して50年」であったが、平成14年の改正で上のような改められた。これは、最近の音楽CDなどにおいては、別々の時期に録音された多数の音源を編集して一つの原盤が作成されることが多くなってきたため、保護期間の起算点が「最初に固定されたとき」であると、一個のCDに収録された音楽であっても部分部分で保護期間の満了時期が異なるという事態になって不都合である。そのため、保護期間の起算点を「最初に発行されたとき」と改正したものである。

また、その音が最初に固定された日の属する年の翌年から起算して50年を経過する時までの間に発行されなかつたときは、その音が最初に固定された日の属する年の翌年から起算して50年である(102条2項2号括弧書き)。

著作隣接権の保護期間中に発生した商業用レコードの二次使用料請求権及び貸与報酬請求権は,その性質は一定の金銭を要求できる請求権であるから,著作隣接権の保護期間の適用はない。この場合一般原則である民法もしくは商法の規定に従い,消滅時効にかかることになる。

3 相続人不存在の場合など

相続人不存在の場合などにおいて、著作隣接物の自由利用が可能になることについては、著作物の場合と同様である(103条、62条1項)。


第4節 人格権の保護期間

著作者人格権には保護期間の定めはなく、著作者固有の権利であるため、著作者が自然人の場合は死亡によって消滅する(59条)。ただ、著作者の死亡後であっても、著作物を公衆に提供し、又は提示するときは、著作者が生きているとしたならばその著作者人格権の侵害となるべき行為をしてはならないという規定がある(60条本文)。ただし、その行為の性質及び程度、社会的事情の変動その他によりその行為が当該著作者の意思を害しないと認められる場合はこの限りでない(60条但書)。

法人の場合も上と同様であるが、法人は解散しない限り存続するので、著作者人格権もその間存続することになる。

実演家人格権の取扱も、著作者人格権と同様である(101条の2及び101条の3)。