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雑誌ブランカ事件 東京地裁平成5年1月25日判決
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【判例ID】   27825957
損害賠償請求事件
東京地裁平三(ワ)七二二号
平5・1・25民二九部判決
原告 A
右訴訟代理人弁護士 小村亨
同 内藤満
右訴訟復代理人弁護士 漆原孝明
被告 株式会社学生援護会
右代表者代表取締役 B〈ほか一名〉
右両名訴訟代理人弁護士 藤原浩
同 木澤克之
同 鈴木道夫
同 石島美也子

       主   文

一 被告株式会社エアービジネスコンサルタンツは、原告に対し、金一〇四万五〇〇〇円及びこれに対する平成四年九月五日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告らは、原告に対し、各自金四〇万円及びこれに対する平成三年二月五日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告のその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用は、これを一〇分し、その一を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。
この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

       事   実

第一 当事者の求めた裁判
一 原告
1 被告らは、原告に対して、各自金一三七八万円及び右金員に対する訴状送達の日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 仮執行宣言
二 被告ら
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求の原因
1(一) 原告は、フリーのカメラマンである。
(二) 被告株式会社学生援護会(以下「被告学生援護会」という。)は、海外旅行者向けに旅行案内、旅行情報提供を主な目的とする月刊誌「ブランカ」等を出版している出版業者である。
(三) 被告株式会社エアービジネスコンサルタンツ(以下「被告エアービジネス」という。)は右月刊誌を制作しているものである。
2 著作権侵害を理由とする請求(主位的請求)
(一) 原告は、平成元年五月一二日から同月三〇日までの一九日間、オーストラリアに滞在し、カラー写真約二〇〇〇枚(以下「本件写真」と総称する。)を撮影した。
  原告は、本件写真の撮影に当たり、構図、カメラアングル、露光時間、シャッターチャンス等を自らの判断で選択調整し、写真製作に必要な精神的創作活動を行ったものであり、本件写真の著作権は原告に帰属する。
(二) 被告らは、ブランカ一九八九年八月号、同年九月号、同年一一月号ないし一九九〇年一二月号に、別紙写真目録記載のとおり本件写真中の写真二〇八枚(以下「本件掲載写真」という。)を掲載し、また、被告らの顧客である日本旅行等の旅行会社に対し、同社の宣伝用写真として本件写真を貸し出して使用させていた。
(三) 被告らは、故意又は過失により右行為をしたもので、原告は、被告らの右行為によって、原告の有する本件写真についての著作権を侵害された。
  被告らは、被告学生援護会は、ブランカの出版に当たって、被告エアービジネスが制作し、編集を完了したものを受け取って発行するだけの存在に過ぎず、そのような業務体制では、ブランカに掲載される多数の写真について逐一著作権を侵害しているかどうかの調査をすることは不可能である旨主張するが、被告学生援護会は、本件掲載写真を掲載した雑誌ブランカを頒布して原告の著作権を侵害しているのであるから、このような場合、被告学生援護会は、本件掲載写真の著作権が誰に帰属しているか、本件写真を複製することが適法かどうか調査すべき注意義務がある。被告学生援護会は、最低限、ブランカの編集を担当している被告エアービジネスに写真の著作権の帰属を確認するなり、調査確認するよう指示すべき義務があるものである。ところが、被告学生援護会は、何の調査もせずに漫然と本件掲載写真を掲載したのであって、被告学生援護会には過失があるというべきである。
(四) 原告が無断使用されたカラー写真の枚数は、別紙写真目録のとおり、表紙に使用されたのが一点、それ以外に使用されたのが合計二〇七点であるところ、本件掲載写真の使用料は、雑誌表紙の写真が一点当たり一〇万円、その他のカラー写真が一点当たり五万円とするのが相当であるから、原告が本件掲載写真の使用許諾につき通常受けるべき金銭の額は合計一〇四五万円であり、原告は、著作権法一一四条二項の規定により右同額の損害を受けたものである。
(五) 原告は、被告らの右(二)の行為により精神的苦痛を受けたところ、右精神的苦痛を慰謝するに足りる金銭の額は、一〇四万円とするのが相当である。
3 本件掲載写真の使用許諾契約に基づく使用料請求(被告エアービジネスに対する予備的請求)
(一) 原告と被告エアービジネスとは、本件掲載写真の使用許諾の合意をした。
(二) 原告は、フリーカメラマンであって営業として写真撮影行為や写真貸出行為をするものであって商人に該当するから、被告エアービジネスが本件掲載写真を使用した場合、被告エアービジネスに対して、本件掲載写真の使用料の支払いを請求することができる。

(三) 被告エアービジネスは、前記2(二)のとおり、本件掲載写真をブランカに掲載したところ、原告が使用した写真の点数は、別紙写真目録記載のとおり、表紙に一点、それ以外に合計二〇七点であり、本件掲載写真の一点当たりの使用料は、雑誌表紙が一〇万円、その他が五万円とするのが相当であるから、原告は、被告エアービジネスに対し、本件掲載写真の使用につき合計一〇四五万円の使用料請求権を有する。
4 著作者人格権(氏名表示権)侵害を理由とする請求
(一) 被告らは、ブランカ一九八九年八月号、同年九月号、同年一一月号ないし一九九〇年一二月号に別紙写真目録記載のとおり本件掲載写真中二〇八点を掲載した際、撮影者が原告であることを明示しなかった。
(二) 原告は、被告らの故意又は過失による右行為により精神的苦痛を受けたところ、右精神的苦痛を慰謝するに足りる金銭の額は、一〇四万円とするのが相当である。
5(一) 原告は、本訴の提起及びその遂行を原告代理人に依頼し、その着手金及び報酬として右2及び4の請求に係る損害賠償額の合計額の一〇%に当たる一二五万円を支払うことを約した。
(二) 右一二五万円は,被告らの右2及び4の不法行為により原告の受けた損害である。 
6 よって、原告は、被告らに対し、著作権侵害に基づく損害賠償金一一四九万円の支払い(主位的請求)、仮に右請求が認められないとしても、本件写真の使用許諾契約に基づく使用料金一〇四五万円の支払い(被告エアービジネスに対する予備的請求)、著作者人格権(氏名表示権)侵害に基づく損害賠償金一〇四万円の支払い、弁護士費用一二五万円の支払い、以上合計一三七八万円(予備的請求の場合は合計一二七四万円)及びこれに対する訴状送達の日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
二 請求の原因に対する認否
1 請求の原因1は認める。
2(一) 同2(一)のうち、本件写真の著作権が原告に帰属することは否認し、その余は認める。
(二) 同(二)のうち、被告らがブランカ一九八九年八月号、同年九月号、同年一一月号ないし一九九〇年一二月号に本件写真を掲載したことは認め、その余は否認する。
(三) 同(三)は否認する。
  仮に原告の著作権又は著作者人格権の侵害があったとしても、被告学生援護会には、故意も過失も存在しなかったものである。
  即ち、被告学生援護会は、被告エアービジネスに対し、ブランカの創刊以来、業務委託契約に基づき、ブランカの制作に関し、その全てを一任していた。そのため、被告学生援護会は、ブランカの出版に当たっては、被告エアービジネスにおいて制作し、編集を完了したものを受け取り発行するだけの存在でしかなく、その当然の帰結として、出版に関する著作者との折衝等は全て被告エアービジネスが行うという合意の下で、創刊以来一貫して業務を進めてきたのである。右のような業務体制の下では、被告学生援護会がブランカ誌上に掲載される多数の写真について、その著作権侵害の有無等を逐一調査することなどは、およそ不可能というべきである。
  しかも、本件では、被告エアービジネスがブランカ誌に掲載するオーストラリアの風景やスナップ写真を独自に収集するために原告に取材費、報酬を支払って取得した写真であって、掲載の際にも特段のトラブルもなかったのであるから、被告学生援護会が、本件写真の掲載について更に調査し検討するということは全く不可能な状況にあった。
  したがって、被告学生援護会には、過失を根拠付ける具体的注意義務すら存在しなかったものである。
(四) 同(四)のうち、被告らが使用したカラー写真の枚数は、別紙写真目録のとおり、表紙に使用されたのが一点、それ以外に使用されたのが合計二〇七点である点は認め、その余は否認する。
  なお、本件写真の使用料は、どんなに高く見積もったとしても、雑誌表紙の写真が一点当たり一万円、その他のカラー写真が一点当たり五〇〇〇円とするのが相当である。
(五) 同(五)は否認する。
3(一) 同3(一)及び(二)は否認する。
  被告エアービジネスは、ブランカ誌上に写真を掲載するに当たり、原告との間で、海外取材に伴う全ての費用を負担することに加え、一日当たり一万円の報酬を支払うことを合意したものであり、仮に本件写真の使用許諾契約が認められるとしても、使用料の支払いは、右使用許諾契約の内容に含まれているものである。
(二) 同(三)のうち、被告エアービジネスが原告主張のとおり本件写真をブランカに掲載していたこと、原告が使用した本件写真の点数は、別紙写真目録記載のとおり、表紙に一点、それ以外に合計二〇七点であったことは認め、その余は否認する。
4 同4(一)は認め、同(二)は否認する。
5 同5(一)は知らない。同(二)は否認する。
6 同6は争う。
三 被告らの主張
1 法人著作の主張
  本件写真は、被告エアービジネスがブランカにオーストラリアの特集を掲載し、公表するという意図の下にその作成を構想し、原告に対し、日程、訪問先等のスケジュールを具体的に指示した上、被告エアービジネスが撮影に関する一切の費用を負担してその実質的指揮下で作成された著作物であり、本件写真の著作者は、作成時に別段の定めのない以上、著作権法一五条一項の規定により被告エアービジネスであるというべきである。
  原告は、被告エアービジネスと原告との間に雇用関係がないことから右規定の適用がない旨主張するが、右規定の「法人等の業務に従事する者」とは、必ずしも法律的な雇用契約に基づいて発生する必要がなく、実質的な指揮監督関係にあれば足りるのである。
2 著作権譲渡の主張
  本件写真の著作権は、次のとおり、原告との著作権譲渡の合意に基づき、被告エアービジネスに帰属しているものである。
(一) 被告エアービジネスは、本件契約の際に、原告との間で、(1)原告は、被告エアービジネスがあらかじめ指定したスケジュールに従って、ルポライターEと共に、オーストラリア各地を取材旅行して、同地の名所旧跡等の写真を撮影する、(2)被告エアービジネスは、右取材旅行に伴う交通費、宿泊費、食費、取材費等の諸費用、フィルム及び機材消耗品等の備品代、撮影した写真の現像代並びにその他の諸雑費を負担し、更に、原告に対して、報酬として一日当たり一万円を支払う、(3)原告は、帰国後、撮影した写真を直ちに被告エアービジネスに引き渡す、(4)引渡しを受けた写真の著作権及び所有権は被告エアービジネスに帰属するものとし、したがって、以後、被告エアービジネスが当該写真をブランカ誌上に掲載することは自由である、との合意をした。
(二) 原告は、右合意に基づき、帰国後直ちに、被告エアービジネスに対し、本件写真及びフィルムを引渡した。
(三) 被告エアービジネスは、右取材旅行に伴う交通費、宿泊費、食費等の諸費用、備品代、現像代及び諸雑費等取材旅行に要した全費用一五二万五七二六円を負担するとともに、本件写真の整理が完了した平成元年七月二四日に、原告に対して、報酬として一九万円を支払った。
(四) その後、被告エアービジネスは、平成二年一〇月八日に至るまで、原告から、本件写真及びフィルムの返還等に関する問い合わせを全く受けなかった。
(五) したがって、本件写真の著作権は、被告エアービジネスに帰属している。
3 著作物使用許諾契約の成立の主張
  仮に右1、2の主張が認められないとしても、次のとおり、原告と被告エアービジネスとの間には、本件写真に関し、使用許諾契約が成立したというべきである。
(一) 被告エアービジネスは、原告のオーストラリア撮影旅行に伴う諸費用全額を負担した。
(二) 被告エアービジネスは、原告に対し、一日当たり一万円の報酬を支払った。
(三) 原告は、被告エアービジネスに本件写真を引き渡した後、約一年半の間、まったく写真の返還を請求しなかった。
(四) 被告エアービジネスは、一回の発行につき約九〇〇点もの写真を掲載する海外旅行情報誌の制作会社であって、海外観光地の撮影を外部の者へ依頼する場合、撮影された写真を右雑誌に自由に使用できることが最低限の要請であって、そのことなしに取材依頼を行うことは被告エアービジネスの業務の性質上無意味であり、取材の依頼を受けた原告としても、右の点を認識していたか認識し得た。本件写真撮影の依頼の目的はオーストラリアの写真の在庫を確保することにあり、原告もこのことを理解していた。
(五) 通常、被告エアービジネスが写真撮影のための取材の依頼をした場合、依頼を受けた者にとってブランカ誌上での写真の使用は当然のこととして理解されていた。
(六) したがって、原告と被告エアービジネスとの間には、ブランカ誌上での本件写真の掲載について、使用許諾契約が成立していたと解すべきである。
4 氏名表示をしない旨の合意の主張
  被告エアービジネスが、原告との間で、著作権譲渡契約又は著作権使用許諾契約を締結するのに伴って、次のとおり、両者の間において、原告の氏名を表示することなく本件写真をブランカに掲載できる旨の黙示の合意が成立していた。
(一) ブランカのような海外旅行雑誌は、一回の発行につき観光地の風景等を撮影した多数の写真を掲載しなければならない。そして、写真掲載の目的は、写真により観光地の景観等を読者に視覚的な情報として紹介することであり、写真自体を芸術作品として観賞させることではない。この種の雑誌の性質上、写真に撮られた被写体風景自体が情報として重要であって、誰が写真を撮影したかという点はほとんど問題にされないため、著作者からの特段の要求がない限り、撮影者たる著作者名は、表示しないというのがこの業界の慣行である。右慣行は、著作者を異にする多数の写真について逐一その著作者名を表示することの不合理性を考えると、この種の雑誌の編集に関しては、公平妥当である。
(二) したがって、本件において、原告が、前記の性質を有する海外情報誌であるブランカ誌上に本件写真を掲載することを承諾している以上、氏名を表示しないことについて、原告の暗黙の了解があったと解すべきである。
(三) なお、後記四の被告らの主張に対する原告の認否4中の、ブランカ一九八九年一〇月号に本件写真の中の写真を掲載したが、これらには撮影者として原告の氏名が明示されていたとの点は認める。
5 氏名表示省略の正当性
  仮に、右4の氏名表示をしない旨の黙示の合意が認められないとしても、右4(一)のとおりのブランカ誌の性質、写真掲載の目的、業界の慣行を考慮すれば、著作権法一九条三項により、著作者名の表示を省略することができる場合に該当する。
6 過失相殺の主張
  原告主張の損害論について検討する場合、原告側の過失の点についても充分考慮すべきである。
  即ち、原告は、本件写真及びフィルムを被告エアービジネスに引き渡して以来一年半の間、返還等に関する問い合わせを全くせずにそのまま放置していたこと、契約時に明確な書面を交わさなかった点についても被告エアービジネスと共に原告にもその責任の一端があること等の事情に鑑みれば、仮に原告の主張する損害の発生を認めるとしても、その損害は、原告の過失に相当部分起因して発生、拡大したものである。したがって、仮に損害論を検討する場合にも民法七二二条二項に基づき、原告の右過失の存在を充分に斟酌すべきであり、本件における原告の過失割合は、少なくとも五割は下らないものというべきである。
四 被告らの主張に対する原告の認否
1 被告らの主張1(法人著作の主張)は否認する。
  被告エアービジネスと原告との間に雇用関係がなく、また、その著作行為について支配・従属の関係もないので、明らかに著作権法一五条一項の規定の適用がないから、被告らの主張は理由がない。
2 被告らの主張2(著作権譲渡の主張)(一)のうち、本件契約の際に、被告エアービジネスと原告との間で、原告は、ルポライターEと共にオーストラリア各地を取材旅行して同地の名所旧跡等の写真を撮影する、被告エアービジネスは、右取材旅行に伴う交通費、宿泊費、食費の諸費用、フィルム代、撮影した写真の現像代並びにその他の諸雑費を負担し、更に、原告に対して、報酬として一日当たり一万円を支払う、原告の帰国後、撮影した写真を直ちに被告エアービジネスに引き渡す旨の合意をした点は認める。
  同(二)は認める。
  同(三)のうち、被告エアービジネスが、右取材旅行に伴う交通費、宿泊費、食費の諸費用、現像代を負担するとともに、平成元年七月二四日に、原告に対して、報酬として一九万円を支払った点は認め、その余は否認する。
3 被告らの主張3(著作物使用許諾契約の成立の主張)は否認する。
  著作物使用許諾契約が成立したのは、ブランカ一九八九年一〇月号のオーストラリアの特集記事に掲載する写真に関してのみである。
  即ち、原告は、平成元年四月、被告エアービジネスから、「グラビア特別取材 快感!オーストラリア(仮題)企画内容のご案内」と題する企画書によって、オーストラリアにおける写真撮影の依頼を受け、原告は、これを承諾した。その際、被告エアービジネスは、原告に対し、オーストラリアの魅力を写真で紹介してほしい旨要請すると共に、原告が撮影した写真をブランカ一九八九年一〇月号に掲載すること、右写真掲載の構成は、カラーグラビア二四頁、モノクロ(データ編)八頁とする予定であることを約したのである。
  また、日当一万円で、しかも、実費以外は一切の報酬も受領せずに、本件写真について無期限、無制限のいわば著作権を譲渡したに等しい使用許諾契約を締結することは常識的に考えられない。
4 被告らの主張4(氏名表示をしない旨の黙示の合意)、5(氏名表示省略の正当性)は否認する。
  被告エアービジネスは、ブランカ一九八九年一〇月号に「巻頭大特集一二〇パーセント体感!オーストラリア」と題して、カラーグラビア二四頁、モノクロ(データ編)八頁にわたり本件写真の中の写真を掲載したが、これらには撮影者として原告の氏名が明示されていた。
第三 証拠関係《略》

       理   由

一 請求の原因1の事実は当事者間に争いがない。
二 著作権侵害を理由とする請求(主位的請求)について
1 原告が、平成元年五月一二日から同月三〇日までの一九日間、オーストラリアに滞在し、本件写真約二〇〇〇枚を撮影したこと、原告は、本件写真の撮影に当たり、構図、カメラアングル、露光時間、シャッターチャンス等を自らの判断で選択調整し、写真製作に必要な精神的創作活動を行ったことは、当事者間に争いがない。
2 前記争いのない事実と《証拠略》によれば、次の各事実を認めることができる。
(一) 被告エアービジネスは、海外旅行希望者、予定者向けに旅行案内、旅行情報提供を主な目的とする月刊誌ブランカ等を制作している会社である。同被告は、毎月発行するブランカ誌上に、旅行案内、旅行情報提供の記事等と共に、右記事等に対応した世界各地の観光地の風景や施設、観光対象等の写真を掲載し、右写真によって、右記事等に臨場感を持たせ、読者の興味を惹くようにしているところ、平成元年一月頃、同年九月三日発売予定のブランカ一九八九年一〇月号にオーストラリアの特集を組むこと、また、当時、同被告のオーストラリアの風景等の写真の在庫が不足していたことから、これを確保することを企画した。
(二) 被告エアービジネスの社員Cは、同年四月二〇日頃、フリーのカメラマンである原告に対し、同年九月発行のブランカにオーストラリアの特集をする予定であることを告げて、同年五月にオーストラリア取材旅行をして同地の風景等の写真の撮影をし、また記事も作成して欲しい旨依頼したところ、原告は、他の取材予定もあったことから記事の執筆は断り、写真撮影のみを承諾した。
(三) 被告エアービジネスの社員Dは、同年五月一〇日頃、原告及び記事の執筆者として原告に同行することになったEとの間で、右オーストラリア取材旅行についての打合せをし、その際、原告に対し、「グラビア特別取材 体感! オーストラリア(仮題)企画内容のご案内」と題し、掲載予定号を「ブランカ一〇月号(Vo1・六二 九月三日発売)」とし、構成を「カラーグラビア二四頁 モノクロ(データ編)八頁」とし、更に、具体的なページ構成内容について、タスマニア、メルボルン、アデレード等といった観光地を列挙し、各観光地の紹介内容として、例えば、「タスマニア……これから注目の、歴史と自然のある島『タスマニアで野性動物と出会う』」、「メルボルン……ヨーロッパを感じさせる街『トラム(路面電車)に乗って、歴史ある街並を巡る』『フィリップアイランドでペンギンパレードを見る』」等と記載されている書類を渡した。原告は、オーストラリアに住んだ経験もあり、オーストラリアの事情に通じていることから、右企画内容に沿ったオーストラリアでの取材先や日程の概略をEやDに説明した。その頃、
Dは、原告に対し、被告エアービジネスが原告らの取材旅行の交通費、宿泊費等の実費の全てを負担し、報酬として一日当たり一万円を支払うことを説明した。
(四) 原告は、Eと共に、平成元年五月一二日から同月三〇日までの一九日間、オーストラリアに滞在し、本件写真約二〇〇〇枚を撮影し、同月三〇日帰国してから、直ちに、被告エアービジネスに対し、本件写真が撮影されているフィルム六七本を引き渡した。右フィルムの現像は被告エアービジネスが行い、現像ができ上がってから、原告は、ブランカ編集部へ出向いて写真のチェックと取材先の整理をした。
  なお、オーストラリア国内の具体的な取材先、宿泊先、航空券等の手配は全て原告とEが行い、Dは日本とオーストラリアの往復航空券を手配したのみであった。
(五) 被告エアービジネスは、右取材旅行について、原告及びEの交通費、宿泊費、食費、取材費等一四〇万五一一八円、撮影雑費として一二万〇六〇八円を負担するとともに、原告及びEに対して、それぞれ一日当たり一万円合計一九万円を支払った。
(六) ブランカ一九八九年一〇月号に本件写真の中の写真が掲載された後も、本件写真とそのネガは被告エアービジネスにあり、平成二年一〇月に至るまで、原告から本件写真の返還の申し出はなかった。原告がブランカ一九八九年一〇月号の発行後も、本件写真とそのネガの返還を被告エアービジネスに求めなかったのは、それまで他社の依頼で取材した多数の写真をその会社に預けておくと、その中の写真を使用する場合、事前に、使用する旨と使用料の連絡があったことから、被告エアービジネスの場合も同様と考えていたためであった。被告らは、ブランカ一九八九年八月号から一九九〇年一〇月号まで、毎号、本件写真中の本件掲載写真を掲載していたのであるが、後記(七)の抗議を受けるまでは原告からは何の苦情もなかった。
(七) 原告は、平成二年一〇月六日頃、地下鉄内で、ブランカ一九九〇年一一月号の中吊り広告に本件写真の一部が使用されているのに気付き、同月号を調べたところ、本件写真の中の四五点が使用されていることを知った。そこで、同年一〇月八日頃、前記Dに電話で抗議すると共に、被告エアービジネスに対し、同月号掲載の写真使用料として表紙分一点六万円、中頁一点につき一万円で四四点合計五〇万円を請求する旨、写真使用料については、当然撮影者へ事前の連絡がなされるべきところ、何の連絡もなく掲載された点について著作権の上からも遺憾である旨の手紙を送った。
(八) 被告エアービジネスの取締役で企画部長であったFは、Dから、原告の電話による抗議についての報告を受け、また、原告発信の右手紙を読んで、原告に電話をかけ、被告エアービジネスの考えを伝え、本件写真の使用を停止するとオーストラリア関係の記事の掲載を止めなければならない等の事情を述べた上、被告エアービジネスから原告に八〇万円あるいは九〇万円(この金額の認識について原告とFでくいちがいがある。)を支払うことで全てを解決して欲しい、カメラマンとしてどうしても保有したい写真があれば抜いてもらってもかまわないが、同被告としても写真が必要なので原告が写真を保有する場合でもそれをデュープの上同被告に使わせて欲しい旨申し出た。原告は、とりあえず全部の写真を送って欲しい旨答えたが、Fは原告が必要な写真を抜いて再度被告エアービジネスに渡すことを了解したものと理解した。そこで、電話終了直後部下に命じて原告撮影の本件写真を集めさせ、原告宛ての手紙を同封の上、右写真を原告に送った。右手紙には「この度A様に何のことわりもなく無断にてフォトをブランカ誌上にて使用した事、心よりお詫び申し上げます。」との文言が含まれていた。
(九) その後、原告は、図書館で、一九九〇年一一月号以外のブランカを調査し、別紙写真目録記載のとおり本件掲載写真を掲載されていたことを知った。
3 まず、本件写真が被告エアービジネスの法人著作であるとの被告らの主張について検討する。
  右認定の事実によれば、被告エアービジネスがブランカ一九八九年一〇月号にオーストラリアの特集を掲載し、公表することを計画し、その頁構成や取り上げる観光地、観光地紹介の骨子等を立案したものであること、経費その他撮影に関する一切の費用は被告エアービジネスが負担したものではあるが、原告は、フリーのカメラマンであって、被告エアービジネスの社員でもなく、被告エアービジネスと対等の取引者として被告エアービジネスの注文に応じて、被告エアービジネスの企画に従いつつ、自己のオーストラリアについての知見を生かして、具体的日程、撮影場所、撮影対象を自己の裁量で決定しオーストラリアの風景等の写真の撮影をしたのであり、原告が被告エアービジネスの指揮監督下にあったということはできず、原告は、被告エアービジネスの「業務に従事する者」に当たるとはいえないから、その余の点について判断するまでもなく被告らの法人著作であるとの主張は採用することができない。
4 次に、被告と被告エアービジネスとの間で本件写真の著作権譲渡の合意があった旨の被告らの主張について検討する。
《証拠略》中には、被告エアービジネスでは社外の人に海外取材を依頼して写真を撮影してもらう場合、カメラマンは帰国後に撮影した写真又はフィルムを同社に引き渡し、引渡しをうけた写真は同社に帰属するものとし、以後ブランカ誌上での右写真の使用権を取得するとの取決めをしている旨、本件の場合も、原告にそのとおりの説明をして納得してもらっているはずであると原告に依頼をしたCが述べている旨の部分があるが、右部分は、これに反する《証拠略》に照してたやすく信用できず、他に原告と被告エアービジネスとの間で、原告が本件写真を被告エアービジネスに引き渡したときに本件写真の著作権が被告エアービジネスに帰属するものとするとの明示の合意があったことを認めるに足りる証拠はない。
  また、前記2(四)認定のとおり、原告は、帰国後直ちに、被告エアービジネスに対し、本件写真のフィルムを引き渡し、右フィルムの現像は同被告が行ったものであり、2(五)認定のとおり、被告エアービジネスは、交通費、宿泊費、食費等の諸費用、備品代、現像代及び諸雑費等原告とEの前記旅行に要した全費用一五二万五七二六円を負担すると共に、原告に対して、一九万円を支払ったものであり、前記2(六)認定のとおり被告エアービジネスは、平成二年一〇月八日頃まで、原告から、本件写真及びフィルムの返還の請求や本件掲載写真をブランカに掲載したことについての苦情を全く受けなかったものであるが、他方、撮影したフィルムを帰国後直ちに被告エアービジネスに渡したのは、Dがこちらで現像を直ぐしたいと言ったからである旨の原告本人尋問中の説明、原告に支払われた一九万円は一日当たり一万円として計算されたもので、日当あるいは拘束料であればともかく本件写真約二〇〇〇点の著作権譲渡の対価としては、算定の方法も金額も不自然であること、前記2(六)認定のとおり、原告がブランカ一九八九年一〇月号の発行後も、本件写真とそのネガの返還を求めなかったのは、他社の依頼で取材した多数の写真をその会社に預けておくと、その中の写真を使用する場合、事前に、使用する旨と使用料の連絡があったことから、被告エアービジネスの場合も同様と考えていたためであり、前記2(七)、(九)の認定のとおり、原告は平成二年一〇月六日に初めて本件写真が一九八九年一〇月号以外のブランカに使用されたことを知ったものであることからすれば、前記のような事実から直ちに本件写真の著作権譲渡の黙示の合意があったものと認定することはできず,他に原告と被告エアービジネスとの間で、原告の帰国後、撮影した写真を直ちに被告エアービジネスに引渡し、被告エアービジネスが当該写真の著作権を取得するとの黙示の合意をしたものと認めるに足りる証拠もない。
  したがって、被告らの著作権譲渡の合意の主張は採用できない。 
5 次に、原告と被告エアービジネスとの間には、本件写真に関し、ブランカ一九八九年一〇月号以外にも使用することができるとの使用許諾契約が成立している旨の被告らの主張について検討する。
  前記2の(一)ないし(九)認定の事実によれば、原告は、直接にはブランカ一九八九年一〇月号のオーストラリア特集に使用する写真を撮影するとの契約に基づいて本件写真を撮影したものであるが、右オーストラリア特集以外には本件写真を被告エアービジネスに使用させない意思ではなく、むしろ、右オーストラリア特集以外にも被告エアービジネスが必要に応じて本件写真を使用することを許し、被告エアービジネスが本件写真を使用した場合相当な著作権使用料の支払いを受ける趣旨で、本件写真及びそのネガを被告エアービジネスに預けていたものと認められ、他方、被告エアービジネスも、原告にオーストラリアの取材を依頼するについては、前記オーストラリア特集用の写真ばかりでなく、他にも使用できるオーストラリアの風景等の写真を入手することも目的としていたものであり、前記オーストラリア特集に使用した写真以外の本件掲載写真についても使用権限があると考えてブランカに掲載していたものであるが、いざ原告から本件掲載写真の一部の使用料を請求されると、これを拒絶する法的根拠を示すこともなく、金銭の支払いを申し出ていることからすると、本件写真については、少なくとも何らかの使用権限はあるが、それに対する金銭の支払いはせざるを得ないとの認識であったものと認められる。
  これらの事実によれば、原告と被告エアービジネスとの間で、本件写真については、ブランカ一九八九年一〇月号のオーストラリア特集以外についても使用を許し、後日相当な使用料を支払うという黙示の使用許諾の合意が成立していたものと認めるのが相当である。
  原告は、使用許諾契約が成立したのは、ブランカ一九八九年一〇月号のオーストラリアの特集記事に掲載する写真に関してのみである旨主張し、原告本人尋問の結果中には右主張に沿う部分があるが、右部分はたやすく信用できず、他に右主張を認めるに足りる証拠はない。
6 そうすると、被告エアービジネスは、原告と被告エアービジネスとの間の本件写真の使用許諾の合意に基づいてブランカ一九八九年八月号、同年九月号、同年一一月号ないし一九九〇年一二月号に本件掲載写真を掲載したものであるから、原告の著作権侵害に基づく損害賠償請求は理由がない。
  なお、原告は、被告らはその顧客である旅行会社に対し、宣伝用写真として本件写真を貸し出し使用させたことも著作権侵害の事由として主張し、《証拠略》中には、前記2(八)のとおり原告がFに電話で本件写真の返還を求めた際、Fは、十数点の写真は外部の会社に回っているので回収できないと説明した旨の部分があるが、それ以上にそれらの本件写真の貸出し先、使用態様を具体的に認定するに足りる証拠はなく、右主張の著作権侵害の事実は未だ認めることができない。
三 本件掲載写真の使用許諾契約に基づく使用料請求(被告エアービジネスに対する予備的請求)について
1 前記二1認定の事実によれば、原告は本件写真の著作権者であり、前記二5に認定判断したとおり、原告は、被告エアービジネスに対し、本件写真を一九八九年一〇月号以外にも使用することについても、後日相当な使用料を支払うということで許諾したものであるところ、被告エアービジネスは、ブランカ一九八九年八月号、同年九月号、同年一一月号ないし一九九〇年一二月号に別紙写真目録記載のとおり本件掲載写真を掲載したのであるから、原告は、被告エアービジネスに対し、本件掲載写真の相当な使用料を請求することができる。
2 本件掲載写真の相当な使用料の額について検討する。
(一) 《証拠略》によれば、次の事実が認められる。
(1) 原告は、東京写真専門学校で二年間写真技術を学んだもので、教員をしながら写真を撮影していたが、昭和六一年からカメラマンとして生計を立てるようになり、旅行のガイドブック用の写真を撮影するなどしていたもので、本件写真を撮影したのはカメラマンとして生計を立てるようになってから三年を経た頃であった。
(2) ブランカは、定価二五〇円で、毎月五万部ないし六万部販売されており、被告エアービジネスは、一号のブランカの中に本件写真のような風景等の写真を約九〇〇点使用して一冊の雑誌を制作している。
(3) ブランカ一九八九年八月号、同年九月号、同年一一月号ないし一九九〇年一二月号における本件掲載写真の使用形態は、一九九〇年一一月号の表紙に使用した一点を除くと、いずれも旅行案内記事、パック旅行紹介記事に添えて、記事等に臨場感を持たせ、読者の興味を惹くものとして掲載された。
(4) 被告エアービジネスは、ブランカに掲載する風景等の写真を、外国政府の観光局、
ホテル、航空会社等から無償で提供を受ける外、Jなど社外の写真家や、写真家から委託を受けて写真の斡旋をしている株式会社キーフォトスなどから有償で調達しており、その場合、被告エアービジネスが支払う写真使用料は、Jの場合、表紙用カラー写真で一点当たり二万二二二二円、中頁用のカラー写真で一点当たり一万一一一一円であり、訴外株式会社キーフォトスの場合、中頁用の写真一点当たり一万五〇〇〇円である。
(5) ブランカと同様の海外旅行情報誌である訴外株式会社リクルート発行の「エイビーロード」に掲載する写真は、写真家から一点当たり代金五〇〇〇円で買い取られている。
(6) また、株式会社世界文化フォトが社外の雑誌、書籍にカラー写真を提供する場合の使用料は、一点につき表紙で三万五〇〇〇円、その他で二万五〇〇〇円であり、株式会社共同通信社写真局の提供する外国のカラー写真原稿料は、一点につき三万円であり、株式会社オリオンプレスが提供する写真の標準料金は、一点につき雑誌の表紙で六万円、見開きで三万五〇〇〇円、中頁で二万五〇〇〇円であり、その他PPS通信社、株式会社スポーツフォトライフ、株式会社ボルボックスの提供する写真の料金も右と同程度以上である。
(二) 右(一)認定の事実に前記二2認定のとおり本件写真が被告エアービジネスの注文に応じて被告エアービジネスの費用負担で撮影されたものであること、原告は、当初表紙分が六万円、中頁が一点につき一万円として計算した請求書を被告エアービジネスに送っていたことを勘案すると、表紙分一点一〇万円、中頁分一点五万円とする原告の主張は極めて過大であり、本件掲載写真中表紙に使用された一点についての使用料は一万円、その他の二〇七点についての使用料は一点当たり五〇〇〇円と認めるのが相当である。
(三) 右(一)(6)の認定のとおり、通信社その他の写真提供業者の提供する写真については原告の主張に近い高額の写真使用料が定められていることが認められるが、それらの写真の取材費は提供者側の負担であり、著名な業者が撮影、収集した多分野の写真原稿についてのものであり、本件掲載写真の使用料として直ちに妥当するものと認めることはできない。
(四) そうすると、原告が被告エアービジネスに対して有する本件掲載写真の使用料は、一〇四万五〇〇〇円と認められる。
四 著作者人格権(氏名表示権)侵害を理由とする請求について
1 前記二1認定の事実によれば、原告は本件写真の著作者である。被告らが、ブランカ一九八九年八月号、同年九月号、同年一一月号ないし一九九〇年一二月号に本件掲載写真を掲載した際、それらの写真の著作者(撮影者)が原告であることを明示しなかったことは当事者間に争いがない(もっとも《証拠略》によれば、ブランカ一九九〇年一一月号の表紙に掲載された写真については、同号の五三五頁に「表紙写真:A」と原告の氏名が表示されていることが認められる。)。
2 被告らは、著作者からの特段の要求がない限り、撮影者たる著作者名は、表示しないという業界の慣行を理由に、被告エアービジネスが原告と著作権使用許諾契約を締結するに際し、両者間において、原告の氏名を表示することなく本件写真をブランカに掲載できる旨の黙示の合意が成立していた旨主張するが、本件全証拠によっても、被告ら主張のような業界の慣行の存在を認めることはできないし、その他原告と被告エアービジネスとの間で原告の氏名を表示することなく本件写真をブランカに掲載できる旨の黙示の合意が成立していたことを認めるに足りる証拠はなく、むしろ、ブランカ一九八九年一〇月号のオーストラリア特集に掲載された本件写真中の写真については撮影者として原告の氏名が表示されていたことは当事者間に争いがなく、同事実に照せば、被告ら主張のような黙示の合意があったとは認めがたい。よって、被告らの右主張は採用することができない。
3 被告らは、本件掲載写真は、著作権法一九条三項により著作者名の表示を省略することができる場合に該当する旨主張する。
  前記二2(一)、三2(一)(2)ないし(4)認定の事実及び《証拠略》によれば、ブランカは、海外旅行希望者、予定者向けに旅行案内、旅行情報提供を主な目的とする発行部数五万部ないし六万部の雑誌で、中頁に掲載された本件掲載写真は、旅行案内やパック旅行紹介の記事に対応した世界各地の観光地の風景、施設、観光対象の写真で、記事に臨場感を持たせ、読者の興味を惹くためのものとして、撮影対象の説明付きで、あるいは説明なしでカット的に使用されていること、一号の雑誌には約九〇〇点の写真が使用されており、一頁に大小合わせて一〇点程度の写真が掲載されている頁もあること、その中には本件掲載写真のように被告エアービジネスが費用を負担して写真家に撮影させた写真、写真家や写真提供業者から有償で提供を受けた写真、外国政府の観光局やホテル、航空会社等から無償で提供を受けた写真が混在していること、ブランカ一九八九年一〇月号のオーストラリア特集の冒頭には「取材・文/E 写真/A」と記載され写真の著作者が明示されており、その特集記事に原告以外の撮影の写真が使用された場合については個別にその著作者名が表示されていたこと、またブランカ各号の末尾に写真提供者として、写真の無償提供をした外国政府観光局、ホテル、航空会社名の外、写真家や写真提供業者の名前も列記されているが、その中には原告の氏名は表示されていないことが認められる。
  右認定のような雑誌ブランカの予定読者、発行部数、一号毎、一頁毎の写真の使用枚数、その写真の著作者、提供者が多数であること、中頁に使用される写真は、主として記事の臨地感を持たせ、読者の興味を惹くためのものではあるが、本件掲載写真の中には撮影対象について説明が付けられて、単に記事を引き立てるだけでなく、記事とは独立して写真自体により観光地の景観等を読者に紹介しているものもあり、また、世界の観光地の風景、施設、観光対象という撮影対象の性質上、写真の美的印象、構図、カメラアングル、露光時間、シャッターチャンス等に著作者の力量が表れ、写真自体が読者の関心を惹くことも充分考えられることを考え合わせれば、右のような中頁に使用される写真についても著作者である原告が創作者であることを主張し、他人の著作物と区別することを求める利益は充分に是認することができ、他方、たとえ、全ての個々の写真毎にその脇に著作者名を表示することが不適切な場合があったとしても、頁毎、あるいは記事のまとまり毎に写真を特定して著作者を表示することまでも不適切とする事情は認められないから、中頁に使用された本件掲載写真について、著作権法一九条三項所定の著作者名の表示を省略できる場合に該当するものとは認められない。
4 以上によれば、被告エアービジネスに原告の著作者人格権(氏名表示権)の侵害につき、故意又は過失があったことは明らかである。
  被告学生援護会が、被告エアービジネスの制作した海外旅行者向けに旅行案内、旅行情報提供を主な目的とする月刊誌ブランカを出版している出版業者であること、ブランカ一九八九年八月号、同年九月号、同年一一月号ないし一九九〇年一二月号に、掲載されている本件写真について撮影者が原告であることを明示しなかったことは、当事者間に争いがなく、《証拠略》によれば、被告学生援護会は、被告エアービジネスの編集会議に参加し、編集方針にも関与していることが認められるところ、右事実によれば、被告学生援護会が、右各号より前の号を見て、同雑誌においては掲載されている写真について著作者の氏名表示をしているか否かを確認すること及び氏名表示がない場合において被告エアービジネスにその事情を確認し、写真の著作者の氏名表示権を侵害することのないよう指示し実行させることは極めて容易なことであり、また、発行前に前記各号を見て、掲載された写真について著作者の氏名表示をしているか否か確認し、氏名表示がない場合には、被告エアービジネスに、著作者から氏名表示を省略することについて同意を得ているか否か確認することも極めて容易であったということができるから、被告学生援護会は、雑誌ブランカの出版者として、掲載された写真の著作者の氏名表示権を侵害することのないように予め調査、指示、確認すべき義務があったものというべきところ、被告学生援護会は、右義務を怠り、漫然と著作者として原告の氏名を表示することなく本件掲載写真を掲載したブランカを出版したのであるから過失責任を免れることはできない。
  被告らは共同不法行為者として各自原告の受けた損害を賠償すべき責任(不真正連帯)がある。
  被告らは、被告学生援護会は、被告エアービジネスに対し業務委託契約によってブランカ制作の全てを一任していたもので、被告学生援護会には、過失を根拠付ける具体的注意義務すら存在しなかったのであり、故意も過失も存在しない旨主張する。
  しかし、自らが出版する雑誌の制作を他人に一任したからといって、出版に伴う注意義務が軽減されたり、免除されたりするものではない上、具体的にみても被告学生援護会には原告の氏名表示権侵害について過失があることは前記判断のとおりであるから、被告らの主張は失当である。
5 《証拠略》によれば、原告は、昭和六二年九月から翌六三年三月までオーストラリアに在住の経験を有する他、同国内を三度取材旅行した経験を生かし、本件写真の撮影について、適切な撮影場所を探し、構図、カメラアングル、露光時間、シャッターチャンス等を自らの判断で選択調整して、被告エアービジネスの注文に沿った写真を撮影したものであって、原告がプロのカメラマンとして自己の作品に誇りを感じていることが認められ、これらの事実に照すと、原告は、右1のとおり原告の氏名を表示せずに本件掲載写真二〇八点をブランカに掲載されたことによって精神的苦痛を被ったと認められ、右3認定の事実その他諸般の事情を考慮すると、原告の被った精神的損害を償うに足りる慰謝料は三五万円が相当と認められる。
6 原告が本訴の提起及び遂行のために弁護士である原告代理人を選任したことは当裁判所に顕著であるところ、本件事案の内容、審理の経緯、訴訟の結果その他諸般の事情を考慮すると、原告に生じた弁護士費用のうち五万円は被告らの氏名表示権侵害の不法行為と相当因果関係のある損害として被告らに負担させるべきものと認めるのが相当である。
7 原告が本件写真を被告エアービジネスのもとに預けていたこと、原告と被告エアービジネスとの間に本件写真の撮影について書面の契約がないことは、氏名表示権侵害による損害についての過失相殺の理由となるものではなく、その他過失相殺をすべき理由を認めるに足りる証拠はない。
五 以上によれば、原告の本訴請求のうち、被告エアービジネスに対し、本件掲載写真の使用料一〇四万五〇〇〇円及びこれに対する催告の日(平成四年九月四日付け原告の準備書面が陳述された第九回口頭弁論期日)の翌日であることが記録上明らかな平成四年九月五日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める部分、被告らに対し、著作者人格権(氏名表示権)侵害による損害賠償として各自四〇万円及びこれに対する平成三年二月五日(不法行為の日以後であることの明らかな本件訴状送達の日)から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める部分は理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項、仮執行宣言について同法一九六条一項を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 西田美昭 裁判官 宍戸充 櫻林正己)
別紙 写真目録《略》


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