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タレント肖像写真事件 東京地裁昭和62年7月10日判決
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【判例ID】   27800339
損害賠償請求事件
東京地裁昭五七(ワ)二九九七号
昭62・7・10民三六部判決
原告 X
被告 Y
右代表者取締役 Y1
同 Y2
右訴訟代理人弁護士 結城康郎

       主   文

原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。

       事   実

第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、原告に対し、金三五万円及びこれに対する昭和五七年三月一三日から支払済みまで年一割五分の割合による金員を支払え。
2 被告が別紙の写真について著作権を有しないことを確認する。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 第1、第3項につき仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
  主文と同旨
第二 当事者の主張
一 請求原因
1(当事者)
  原告は、「X」の名称で主としてパロデイ商品と製作販売を業としている。
  被告は、「カラーミニプロ」の商品名でタレントのブロマイド写真の製作販売等を営業とする会社である。
2(不法行為)
(一)原告は、被告が製作販売する別紙真田広之のブロマイド写真(以下「本件写真」という。)の顔部分をハサミで切抜き、これをキーホルダーのプラスチック製ケース部分に入れた商品(以下「本件キーホルダー」という。)を製作し,Aに販売した。Aは、右キーホルダーを東京都内新宿マイシティ一階Bの店舗において、一般の顧客に販売するべく陳列していた。
(二)被告は昭和五七年五月一三日、右Bの店員に対し、本件キーホルダーは本件写真について被告の有する著作権を侵害するとして、その販売を中止するよう強要した。そのため、A及びBは、本件キーホルダーの販売を中止するに至つた。 
(三)しかし、後述するとおり、本件キーホルダーの製作及び販売はなんら被告の著作権を侵害するものではなく、被告は故意又は過失により、右販売の差止めを求め、原告の営業権を侵害した。
(四)原告は、被告の不法行為により、次の損害を被つた。
(1)逸失利益 金一万円
  本件キーホルダー一個当りの利益は、金七〇円で、六か月で一五〇個以上販売できる可能性があつた。
(2)慰謝料 金三四万円
3(著作権)
(一)被告は、本件写真を製作販売しているところ、これについて著作権を有すると主張している。
(二)しかし、本件写真は著作権法の写真著作物に該当せず、従つて被告は本件写真について著作権を有しない。
  すなわち、著作権法の保護する著作物というためには、思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものでなければならない。
  写真は、レンズと光とフイルムとの関連における科学的作用を利用して、立体的又は平面的な対象を再現するものであるが、他の著作物に比べ、思想、感情の表現とは無関係な技術、科学的作用の部分が多く、最近はカメラのメカニズムの進歩により、単にシャッターを押すだけで、露出、ピント等の決定が得られるものも多くなつている。平面的な対象を撮影した写真については、著作権が認められず、対象が立体的であつても、運転免許証用の顔写真のようなものについては著作権が成立しない。本件のブロマイドは、タレントの人気とりや宣伝のため、量産される商業上の肖像写真であるが、このような肖像写真は、単に被写体を機械的に再製するにとどまつており、作者の思想又は感情を創作的に表現したものでない。
  従つて、本件写真の一部を切抜き、本件キーホルダーに挿入して販売する行為は、なんら著作権侵害に当たらない。
  よつて、原告は被告に対し、不法行為に基づく損害賠償金三五万円及びこれに対する不法行為の日である昭和五七年三月一三日から支払済みまで年一割五分の割合による遅延損害金の支払と、被告が本件写真について著作権を有しないことの確認を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1のうち、被告が、「カラーミニプロ」の商品名でタレントのブロマイド写真の製作販売等を営業とする会社であることは認める。その余は知らない。
2 請求原因2(一)のうち、原告が被告の製作販売する本件写真の顔部分をハサミで切抜き、本件キーホルダーを製作したことは認める。その余は知らない。
同(二)、(三)及び(四)は否認する。
3 請求原因3(一)は認める。
同(二)は否認する。
三 抗弁
  本件写真をはじめ、被告の商品であるプロマイドを製作するためには、撮影、現像、焼付、修正等の過程を経る。撮影にあたつては、被写体のタレントとしての資質や魅力を最大限表現できるよう配慮して、被写体自身にポーズをとらせ、その目線、表情、衣裳、構図に注文をつけ、更に、背景、照明、光の陰影や強度・方向等に工夫をこらし、いかなるシヤツターチヤンスに撮影したらいいかについて細心の注意を払うものである。こうした過程を経て製作された本件写真は、著作権法の保護する写真著作物に該当し、その著作権及び著作人格権は被告に帰属する。従つて、原告が被告の許可なく本件写真の一部を切抜き、他で求めたキーホルダーに挿入して販売する行為は、被告の有する著作者人格権の中の同一性保持権を侵害し、被告が本件キーホルダーの販売中止を要請したことは、なんら違法ではない。
四 抗弁に対する認否
  否認する。
第三 証拠《略》

       理   由

一 当事者
  請求原因1のうち、被告が「カラーミニプロ」の商品名でタレントのブロマイド写真の製作販売等を営業とする会社であることは、当事者間に争いがなく、原告本人尋問の結果によれば、原告は、「X」の名称で主としてパロデイ商品の製作販売を業としていることが認められる。
二 不法行為に基づく損害賠償請求
1 原告が被告の製作販売する本件写真の顔部分をハサミで切抜き、これをキーホルダーのプラスチツク製ケース部分に入れた本件キーホルダーを製作したことは、《証拠略》によれば、原告は昭和五七年二月ころ、本件キーホルダーを他の商品とともにA株式会社に販売し、同会社はこれを東京都内の新宿マイシティ一階Bの店舗に販売して、そのころ、本件キーホルダーが同店舗において陳列されていたことが認められる。
2《証拠略》によれば、被告は昭和五七年三月初めころ、本件キーホルダーが販売されて いることを知り、調査したところ、プラスチツク製のケース部分に切り取られて挿入されていた顔写真部分が被告の製作、複製して販売する本件真田広之のブロマイドの顔部分と同一と判断されたので、被告の専務取締役Cが右Bの店舗に赴き、その仕入先を問いただしたこと、Cが右店舗を訪れたときは、すでに本件キーホルダーは陳列されていなかつたが、同専務は、同店から本件キーホルダーの仕入先がA株式会社である旨聞いたので、同会社に架電し、真田広之の所属するプロダクシヨンや被告の承諾なく、本件ブロマイド写真の一部を切り抜きキーホルダーに挿入して販売することは、被告が右プロダクシヨンから了解を得ておらず、被告が製作したもののように誤解されるおそれがあるので、以後の販売を中止するよう要請したこと、Cからの右苦情を受けたA及びBは、以後本件キーホルダーの販売を中止したことが認められ、右認定に反する証拠はない
3 原告は、被告がAに対し本件キーホルダーの販売中止を要求したことは、違法であると主張するが、後記のとおり被告は本件写真について著作権を有するところ、以上認定の事実によれば、本件写真と同じ複製物の顔部分を切り抜いてキーホルダーにするのは、本件写真のイメージを大きく変えるものであつて、同写真を製作販売する被告が、これを理由にAに対し販売中止を求めた行為は、未だ原告の営業権を侵害する違法なものということはできない。そして、他に被告の右行為が違法であることを認めるに足りる証拠はない。
三 著作権
  著作権法は、思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属する著作物を保護の対象とし(同法二条一項一号)、写真の著作物についても著作物性を承認している(同法一〇条一項八号)。本件写真のような肖像写真は、静止した被写体をカメラで撮影し、その機械的、科学的作用を通じて被写体の表情等を再現するものであるが、かかる肖像写真であつても、被写体のもつ資質や魅力を最大限に引き出すため、被写体にポーズをとらせ、背景、照明による光の陰影あるいはカメラアングル等に工夫をこらすなどして、単なるカメラの機械的作用に依存することなく、撮影者の個性、創造性が現れている場合には、写真著作物として、著作権法の保護の対象になると解するのが相当である。
  そこで、本件写真の著作物性について検討するに、《証拠略》によれば、被告がブロマイドを製作するにあたつては、対象となるタレント及びその所属するプロダクシヨンと交渉したうえ、撮影の日時、場所を決め、専属のカメラマンとして被告に雇用されたDらが撮影すること、Dらは、ブロマイドが若年のフアン層を対象とする性格上、撮影に際し、被写体の特長をひきだすべく被写体にポーズ、表情をとらせ、背景や照明の具合いをみながらシヤツターチヤンスをうかがい、フアンの好みそうな表現のときをねらつて撮影を行つていること、本件写真はこうした操作を経て製作されたことが認められ、この認定に反する証拠はない。
  以上の事実によると、本件写真は被告の営業として販売する意図のもとに製作されたものの、撮影者の個性、創造性を窺うことができ、証明書用の肖像写真のように単なるカメラの機械的作用によつて表現されるものとは異なり、写真著作物というに妨げない。そして、その著作権は、使用者たる被告に帰属するというべきである。
四 よつて、原告の本訴請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 長野益三)
別紙《略》


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