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スモーキングスタンド事件 東京地裁平成9年4月25日判決
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【判例ID】   28021370
著作権侵害行為差止等請求事件
東京地裁平五(ワ)二二二〇五号
平9・4・25民二九部判決
原告 X
右訴訟代理人弁護士 石角完爾
被告 Y
右代表者代表取締役 Y1
右訴訟代理人弁護士 藤森茂一

       主   文

一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。

       事   実

第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、別紙1物件目録及び被告カタログ写真目録記載の物件の製造及び販売をしてはならない。
2 被告は、別紙2謝罪広告案記載の内容の謝罪広告を別紙3雑誌目録記載の雑誌に全面一頁の大きさで一六ポイント以上の活字の大きさを使い、各一回掲載せよ。
3 被告は、原告に対し、金二〇〇万円及びこれに対する平成六年二月五日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は被告の負担とする。
5 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告の設計図制作
  原告は、A(以下「A」という。)の依頼に応じ、インテリア備品であるスモーキングスタンド、ダストボックス、レインスタンド、プラントボックスの設計図二一枚(以下「本件設計図」という。甲第二号証ないし甲第二二号証)を制作した。
2 被告の行為
(一)被告は、昭和六二年ころから本件訴状送達の日である平成六年二月四日まで、別紙1物件目録及び被告カタログ写真目録記載の物件(以下「被告商品」という。)を製造、販売している。
(二)被告商品は、本件設計図を用いたならば製作されるであろう商品と同一または酷似している。
3 著作権侵害に基づく請求
(一)本件設計図の著作物性
  本件設計図は、ステンレスを主たる素材とした高級インテリア備品が、ポストモダニズムの近代建築物の都市空間にあって、単なる機能としての使用目的のみならず、シンプルな形態、幾何形態をデザインの基本として設定された厳格なフォルム、直線を基本構成要素として近代都市空間、近代都市建築物における融和性を念頭におき、シンメトリックに構成される表現美、使用目的としての機能美と美術を芸術性にまで昇華させ、設置空間におけるオブジェとしての美的存在感をアピールするべく、計算され尽くしたシャープなディテールと製造に関わる職人の技の高度な技術の融合がなし遂げられるよう、「simple is best simple is whereever」の設計コンセプトに基づき著作されたもので、独創性を見出すことが出来、設計図制作者としての右の着想と、知識と技術を駆使しなければ描けないものであって、著作権法で保護されるべき著作物といえる。
(二)著作権の侵害
(1)複製権の侵害
(a)被告は、本件設計図の複製物たるAの商品を購入又は取寄せ、Aの商品の各部を採寸し、あるいは分解して計測し、これを二次元的に再生して本件設計図と実質的に同一の設計図を再現した。Aの商品と被告商品が同一又は酷似していることからすれば、右設計図は、本件設計図に依拠して作成されたことは明らかであり、原告の本件設計図の複製権を侵害したものである。
(b)被告は、本件設計図を用いたならば製作されるであろう商品と同一または著しく酷似した商品を製造販売することにより、原告の本件設計図の複製権を侵害したものである。
(2)変形権の侵害
  仮に被告商品が本件設計図の複製権を侵害するものでないとしても、原告は、著作権法二七条に基づき、本件設計図につきこれを変形する排他的権利を有するものであるところ、
被告は、原告の許諾なく、本件設計図に基づいて作られたAの商品を模倣し、または参考にすることにより、本件設計図の二次的著作物たる被告の設計図を制作し、これを有形的に再生した被告商品を製造販売することにより、右二次的著作物を現実に利用し、もって、原告の本件設計図に対して有する変形権を侵害した。
(3)設計図の利用許諾権の侵害
(a)原告は、著作権法六三条に基づき、本件設計図の利用を他人に許諾し、その許諾の対価としてロイヤリティー収入を得ることができる経済的利益を有するもので、設計図の著作権の第三者に対する利用許諾権を専有する。
(b)しかるに、被告は、昭和六二年ころから、原告から適法な利用許諾を得ることなく、本件設計図に基づいて製作された商品と同一又は酷似した被告商品を製造、販売して、原告の利用許諾権を侵害した。
(4)被告の故意又は過失
  Aは、B(以下「B」という。)に対し、本件設計図の写し又はAの商品を製造するのに必要な情報を加えた図面を交付して、Aの商品を下請製造させていたものであるが、被告は、Aと同じBに被告商品の製造を行わせ、さらに仕上げの孫請、職人も同一であって、故意又は過失が存在することは明らかである。
4 著作者人格権侵害に基づく請求
(一)本件設計図が著作物であることは、前記3(一)のとおりである。
(二)著作者人格権(同一性保持権)の侵害
(1)被告は、原告に無断で、一般通常人が通常の注意力をもってしてもほとんど見分けが難しいほど主要部分において同一もしくは酷似した設計図をその表現形式上同一の創作発想に基づき、本件設計図又はAの商品を土台として、これを変造して制作した。
(2)被告は、原告に無断で、一般通常人が通常の注意力をもってしてもほとんど見分けが難しいほど主要部分において、本件設計図を用いて忠実に製造したならば得られるであろう商品と同一もしくは酷似した商品を、その表現形式上本件設計図と同一の創作発想に基づき、これを変形して製造販売した。
(三)謝罪広告請求(著作権法一一五条に基づく名誉回復措置)
  前記のとおり、被告は、原告の著作者人格権を侵害して、原告の名誉、声望を害した。

5 人格権侵害に対する防止権に基づく請求
(一)インナー・アーキテクトとしての職業人の名誉、信用
(1)原告は、建築物の内部の設備、造作、備品等のデザインを行うインテリア・デザイナー(以下「インナー・アーキテクト」という。)であり、一級建築士と並び称せられる職業デザイナーである。
(2)原告の経歴は、次のとおりである。昭和三六年千葉大学工学部木材工芸科を卒業し、昭和三七年から同四〇年まで四年連続して、日本を代表する家具メーカーである天童木工、コスガのデザインコンペで金賞、銀賞を受賞し、昭和四二年フリーデザイナーとなり、昭和四三年、京王プラザホテルのインテリアデザインの実施設計を担当した。昭和四六年、今崎務デザイン研究所を設立し、通商産業省グッドデザイン選定商品を多数デザインした。
(3)このように、原告は、確立された評価のあるインナー・アーキテクトとしての職業人の名誉、信用を有する。
(二)被告の名誉、信用毀損行為
(1)被告は、原告の本件設計図により製作されたと一般通常人が誤認、混同するような模倣品を製造販売することにより、一般通常人またはAの商品の消費者、需要者、業界、インナー・アーキテクト仲間において原告がAのみならず被告にも利用許諾しているかのような誤った印象を与え、同業他社にもライセンスしているという節操のないインナー・アーキテクトであるかのような印象を与えた。
(2)被告は、安価な粗悪品を原告のデザインしたライセンス許諾商品であるかのような印象を与えることによって販売し、原告の確立されたインナー・アーキテクトとしての地位と名誉を汚した。
(3)被告は、原告のデザインにより適法に製造された製品の模造物を製造販売し、通商産業省グッドデザイン賞受賞作家としての原告の名誉を傷つけた。
(4)被告は、Aでは行っていないパーツ販売を行い、統一されたデザインコンセプトでデザインされた原告の設計イメージを著しく低からしめ、原告のインナー・アーキテクトとしての名誉と信用を毀損した。
(5)被告は、統一されたデザインコンセプトでデザインされた原告の本件設計図にかかる商品のうち、一部商品のみ模倣し、統一デザインコンセプトを乱し、単品デザイナーのごときイメージを世間に与え、原告のインナー・アーキテクトとしての名誉を毀損した。

(三)謝罪広告請求(民法七三二条に基づく原状回復措置)
  前記のとおり、被告は、原告のインナー・アーキテクトとしての職業人の名誉、信用を毀損する不法行為を行った。
6 設計図の所有権に基づく請求
(一)設計図の所有権
  仮に、本件設計図が著作物でないとしても、原告は本件設計図を第三者に利用させ、その利用許諾の対価を得る目的で制作したものであるから、原告は、本件設計図の所有権を有する。
  したがって、民法二〇六条に基づき、原告は、本件設計図を自由に使用、収益、処分する権利の一つとして、設計図を他人に利用させ使用の許諾の対価として使用料を収益する権利、すなわち第三者に利用許諾する権利を専有する。
(二)被告の権利侵害行為
  被告は、昭和六二年ころから、故意又は過失により、原告から適法な利用許諾を得ることなく、本件設計図に基づいて製作された商品と同一又は酷似した被告商品を製造、販売した。
7 損害額
(一)財産的損害
  被告は、昭和六二年から本件訴状送達の日である平成六年二月四日まで、被告商品を販売していたところ、昭和六二年から平成六年七月期までの売上高は、別表のとおりであり、年平均二〇億円であって、そのうち侵害品は三割に相当する。ロイヤリティーが五パーセントとすると、原告の通常受けるべき使用料たる損害額は、一〇〇万円を下回ることはない。
(二)精神的損害(請求原因5による損害)
  前記5記載のとおり、被告が、原告のインナー・アーキテクトとしての職業人の名誉、信用を毀損する不法行為を行ったことにより被った原告の精神的損害は、一〇〇万円を下回ることはない。
8 よって、原告は、被告に対し、
(一)著作権侵害、著作者人格権侵害、人格権侵害による防止権としての差止請求権、所有権による妨害排除請求権に基づき、被告商品の製造販売の差止めを、
(二)著作者人格権侵害に対する名誉回復措置として著作権法一一五条に基づき、及び不法行為に対する原状回復措置として民法七二三条に基づき、謝罪広告を、
(三)民法七〇九条、著作権法一一五条に基づき、金二〇〇万円の損害賠償請求を、それぞれ求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実は知らない。
2(一)請求原因2(一)の事実は認める。
(二)同2(二)の事実は否認する。Aの商品と被告商品は、寸法、内部の構造、形、外部の仕上げ、商品番号等が異なる。
3(一)請求原因3(一)の事実は否認する。灰皿やゴミ箱(スモーキングスタンド、ダストボックス)は実用品であって独創性のない形態であり、文芸や学術の範囲に属するものでもない。本件設計図は、灰皿やゴミ箱等の客観的に定まった形状をごくありふれた手法で書いた略図であって、そのような独創性や芸術性のないゴミを捨てるという機能を持つ容器の略図にすぎないものであり、「思想又は感情」を「創作的」に表現したものといえないから、著作物とはいえない。また原告がAとの間で本件設計図を作成し、Aがこれに基づき商品を製造販売するような場合、メーカーであるAがデザイナーである原告に一定額のデザイン料を支払って、原告が本件設計図に対して有する一切の権利を取得するのが通常であり、原告には本件設計図に対する著作権はない。
(二)(1)請求原因3(二)(1)の事実は否認する。被告は、本件設計図を見たことはないし、見る必要もなく、被告商品を開発する際、Aの商品を参考にしたことはない。また、Aの製品と被告商品は、寸法、素材、仕上げ、色、構造等が異なる。Aの商品は独自の特徴や商品形態を有しておらず、平凡な形状で、誰が作っても同様な形状になるものであるから、仮にAの商品と被告商品が同一または著しく酷似していたとしても、本件設計図に依拠して作成されたことにはならない。また、被告がAと同一の下請工場であるBに製造させているのは、二パーセントにすぎず、しかもBに発注しているのはAはステンレス製商品であり、被告は真鍮製商品であって、加工方法が異なるうえ、Bは、被告独自の設計図にもとづいて被告商品を製造している。
(2)同3(二)(2)の事実は否認する。本件設計図に著作物性がないから、その変形権もない。著作権法上は実施権を認めていないから、本件設計図にしたがって製品を作ることは、著作権法上の権利の及ぶところではない。
(3)同3(二)(3)の事実は否認する。メーカーがデザイナーにデザインを依頼する場合、一定金額の支払いによりデザインの権利が移転するのが普通であり、デザイナーにロイヤリティーが支払われることはないから、利用許諾権なるものも有り得ない。
(4)同3(二)(4)のうち、Bに製造を行わせていることは認め、その余は否認する。
4 請求原因4の事実はいずれも否認する。
5(一)請求原因5(一)の事実は否認する。インテリア産業協会によるインテリア・コーディネーターという資格、社団法人建築技術教育普及センターによるインテリア・プランナーという資格はあるが、インテリア・デザイナーという資格はない。
(二)(1)同5(二)(1)の事実は否認する。被告は、原告が本件設計図を作成する以前からごみ箱、灰皿等の商品を被告自身の設計、デザインにより制作、販売しており、原告の本件設計図を模倣したことはない。また、一般通常人は原告がAの商品の設計をしたことは知らないし、被告商品が原告の本件設計図により製作されたと誤認、混同することはない。Aの商品と被告商品は、寸法、内部構造、形、外部仕上げ、商品番号、売先等が異なり、混同は生じない。
(2)同5(二)(2)は否認する。被告商品は、対応するAの商品より高額で高品質の優良品であり、安価な粗悪品を製造したことはない。
(3)同5(二)(3)の事実は否認する。被告商品の基本形態は、意匠登録、実用新案登録を有し、グッドデザイン賞や東京都優良選定合格品を取得している。
(4)同5(二)(4)の事実は否認する。パーツ販売は、メーカーとして正当な販売行為であり、消費者に対するサービス行為である。
(5)同5(二)(5)の事実は否認する。
(三)請求原因5(三)の事実は否認する。
6(一)請求原因6(一)の事実は否認する。原告がAとの間で本件設計図を作成し、Aがこれに基づき商品を製造販売するような場合、メーカーであるAがデザイナーである原告に一定額のデザイン料を支払って、原告が本件設計図に対して有する一切の権利を取得するのが通常であり、原告には本件設計図に対する所有権もない。
(二)同6(二)のうち、被告商品の製造販売は認め、その余は否認する。
7 請求原因7の事実は否認する。
8 請求原因8は争う。
第三 《証拠関係略》

       理   由

一 請求原因1について
  《証拠略》によれば、本件設計図の下部に「今崎務デザイン研究所」との記載があること、原告とAは本件設計図にかかる製品につき、原告がデザインし、Aが実施することにより報酬を支払う旨のロイヤリティー契約書を締結したことが認められ、右認定の事実によれば、本件設計図はAの依頼に基づき原告が制作したものと推認され、右認定を左右するに足りる証拠はない。
二 請求原因2(一)の事実は、当事者間に争いがない。
三 請求原因3(著作権侵害に基づく請求)について
1 本件設計図の著作物性
(一)《証拠略》によれば、本件設計図のうち甲第二号証ないし甲第一八号証は、スモーキングスタンド、ダストボックス、レインスタンド、プラントボックスの平面図及び立面図(一部には内部のすり鉢状の中容器が記載された断面図になっている)を寸法付きで表現したものであり、「Iシリーズ」は、平面図が円形、立面図がほぼ長方形であり、円筒状の基本的構成からなるスモーキングスタンド、ダストボックス、レインスタンド、プラントボックスを表現したものであること、「Rシリーズ」は、平面図が円形、立面図が長方形の上部の角を円弧状にした形状であり、上縁又は上縁及び下縁に丸みをつけた円筒状の基本的構成からなるスモーキングスタンド、ダストボックス、プラントボックス、傘立てを表現したものであること、本件設計図のうち甲第一九号証ないし甲第二一号証は、「Rシリーズ」のうち下端R型のスモーキングスタンド及びダストボックスの詳細図、甲第二二号証は、「Vシリーズ」のダストボックスの詳細図で、いずれも実物大の立面図の一半を断面図とし、寸法、アールの大きさ、材質、ボルト止めをする位置等の記載がなされた図面であること、本件設計図の記載の仕方そのものは、通常の製図法によって表現したものであって、特別な表現方法によっているものではないことが認められる。
(二)本件設計図は、前記認定のとおり、Aがスモーキングスタンド、ダストボックス等の工業的に量産される商品を生産するため、Aの依頼に応じて制作されたものであり、製造を行うAの工場又は下請業者が、設計者である原告及び発注者であるAの意図したとおりに商品を製造することができるよう、具体的な什器の構造、デザインを細部にわたって通常の製図法によって表現したものである。工業製品の設計図は、そのための基本的訓練を受けた者であれば、だれでも理解できる共通のルールに従って表現されているのが通常であり、その表現方法そのものに独創性を見出す余地はなく、本件設計図もそのような通常の設計図であり、その表現方法に独創性、創作性は認められない。本件設計図から読みとることのできる什器の具体的デザインは、本件設計図との関係でいえば表現の対象である思想又はアイデアであり、その具体的デザインを設計図として通常の方法で表そうとすると、本件設計図上に現に表現されている直線、曲線等からなる図形、補助線、寸法、数値、材質等の注記と大同小異のものにならざるを得ないのであって、本件設計図上に現に表現されている直線、曲線等からなる図形、補助線、寸法、数値、材質等の注記等は、表現の対象の思想である什器の具体的デザインと不可分のものである。本件設計図の右のような性質と、本件設計図に表現された什器の実物そのものは、デザイン思想を表現したものとはいえ、大量生産される実用品であって、著作物とはいえないことを考え合わせると、本件設計図を著作物と認めることはできない。
2 以上のとおり、本件設計図を著作物と認めることができない以上、複製権、変形権、利用許諾権の侵害に基づく請求は、いずれも理由がない。
四 請求原因4(著作者人格権侵害に基づく請求)について
  前記三認定のとおり、本件設計図が著作物と認められない以上、著作者人格権侵害に基づく請求は理由がない。
五 請求原因5(人格権侵害に基づく請求)について
1 本件設計図に基づいて製作される商品と被告商品が同一又は酷似しているかについてはさておき、請求原因5(二)の侵害の有無について判断する。
2 《証拠略》によれば、本件設計図の一つにより製作される商品は、素材や仕上げの方法等により、必ずしも一種類とは限らず、数種類の商品が存在しうること、これらの商品は、形態のみならず素材、仕上げ、色彩等によっても異なった印象を与えるものであることが認められる。他方、原告が本件設計図により製作されたと主張するAの商品の種類は相当数に及ぶところ、それらの商品に、原告がデザインしたものと一般通常人や消費者が認識できるような表示等がなされていることを認めるに足りる証拠はない。
  右認定の事実によれば,仮にAの商品と被告商品が同一又は酷似しているとしても、一般通常人や消費者においてはもちろん、業界やインナー・アーキテクト仲間としても、デザイナーである原告がA商品の設計図やデザインをデザイン依頼者であるAだけでなく、Aと競争関係にある被告にも利用許諾しているとの印象を持つとは考えにくく、そのような場合を仮定すると、むしろ、被告が大量に製造販売されているAの商品を模倣したとの印象を抱くものと解される。 
  これに反し、被告商品に接した相当数の者が、原告がAばかりでなく被告にも利用許諾する節操のない人物であるとの印象を現に受けたことを認めるに足りる証拠はない。

 したがって、原告が被告にも利用許諾しているとの印象を持つことを前提とする請求原因5(二)(1)、(2)、(4)及び(5)の事実を認めるに足りる証拠はない。また、仮に、被告が原告のデザインしたAの商品の模倣品を同5(二)(2)ないし(5)のような態様で製造販売したとしても、そのことによって原告自身が不愉快に感じることは別として、原告の社会的評価や信用が低下するものとは考えられないし、被告が被告商品を製造販売する前と比べて原告の社会的評価や信用が低下した事実を認めるに足りる証拠はない。
六 請求原因6(設計図の所有権に基づく請求)について
1 設計図の所有権の帰属について
  《証拠略》によれば、原告とAのロイヤリティー契約書において、工業所有権及び著作権は原告に帰属し、原告がAに対し、期間を定めて複製権を認めること、設計図書の複製費は、試作品完成まで原告の負担とし、その他はAの負担とすること、Aは採用しなかった場合に設計図書を原告に返還すること等の条項があることが認められ、右事実に原告が甲第二号証ないし第二二号証を提出したことをあわせ考えれば、いわゆる原図やAに渡された複写物はともかく、少なくとも、現に甲第二号証ないし甲第二二号証として提出された有体動産である本件設計図の所有権は、原告に帰属するものと推認される。
2 しかしながら、有体動産である本件設計図に対する所有権は、その有体物の排他的支配にとどまるものであり、仮に、被告が何らかの機会に本件設計図に接して本件設計図の表現を知り、本件設計図に表現されたところから認識できるデザインと同一又は酷似した商品を製造、販売したとしても、その行為は、本件設計図の所有権を侵害することにはならない。
七 結論
  よって、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 西田美昭 裁判官 高部眞規子 池田信彦)

別紙 物件目録《略》
    謝罪広告《略》
    雑誌目録《略》
別表 《略》
別紙 被告カタログ写真目録


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