判例一覧
録画ネット事件 東京地裁平成16年10月7日決定
本判決は、第一法規株式会社様のご厚意によりデータの提供を受けて掲載しております。

【判例ID】   28101517
著作隣接権侵害差止請求仮処分命令申立事件
東京地方裁判所平成一六年(ヨ)第二二〇九三号
平成16年10月7日民事第四〇部決定
別紙当事者目録記載のとおり
  上記当事者間の上記仮処分命令申立事件について、当裁判所は、債権者の申立てを相当と認め、債権者に債務者のため二〇〇万円の担保を立てさせた上、次のとおり決定する。

       主   文

債務者は、債務者が「録画ネット」との名称で運営している放送番組の複製・送信サービスにおいて、別紙放送目録記載の放送に係る音又は映像を、録音又は録画の対象としてはならない。

       事実及び理由

第一 申立ての趣旨
  主文同旨
第二 事案の概要
一 前提事実(争いのない事実等)
(1)当事者等
ア 債権者は、放送法によって設立された法人であり、放送事業者として、別紙放送目録一、二記載の放送を行っている。
イ 債務者は、コンピューター及びそのネットワーク、周辺装置、端末機器の設置、保守、点検、メンテナンス業務等を目的とする有限会社であり、後記の「録画ネット」という名称のサービスを顧客に提供している。
(2)本件サービスの具体的内容
  債務者が「録画ネット」という名称で提供しているサービス(以下「本件サービス」という)の具体的内容は、以下のとおりである。
ア 本件サービスの概要
  本件サービスの概要は、債務者が利用者ごとに一台ずつ販売したテレビチューナー付きのパソコン(以下単に「テレビパソコン」という)を、債務者の事務所内にまとめて設置し、テレビアンテナを接続するなどして放送番組を受信可能な状態にするとともに、各利用者がインターネットを通じてテレビパソコンを操作して録画予約し、録画されたファイルを自宅などのパソコンに転送できる環境を提供することにより、海外などにおいて、日本国内のテレビ番組を録画して視聴できるというものである。
イ 本件サービスのシステム構成
  本件サービスのシステム構成は、別紙「本件サービスのシステム構成」のとおりであり、以下の機器類によって構成されている。
(ア)テレビパソコン
  複製機器であると同時に、利用者に録画済みの動画ファイルを送信する際のサーバーでもある。このテレビパソコンには、債務者が開発した、放送番組の録画を予約するためのソフトウェアなどがインストールされている。
(イ)テレビアンテナ、ブースター、分配機
  テレビアンテナにおいて受信された放送波は、画像が劣化しないようブースターで出力を高めた上、分配機を経由して、各利用者ごとのテレビパソコンに供給される。
(ウ)ルーター
  各テレビパソコンとインターネット回線の間に入り、相互の信号やデータの割り振りを行う機器
(エ)ホームページサーバー
  本件サービスのウェブサイト(http://www.6ga.net/以下「本件サイト」という)を管理するサーバーであり、債務者が管理している。各利用者は、本件サイトにアクセスし、そこで認証を受けた後、各自のテレビパソコンにアクセスできる。
(オ)監視サーバー
  各テレビパソコンの起動状態を常時監視するサーバー
ウ 具体的な録画の手順
(ア)ログイン
  本件サイトにアクセスし、画面の上部に表示される「ご契約者様専用Login」ボタンをクリックする。
(イ)ユーザー確認
  ユーザーIDとパスワードを入力し、その下の「ログイン」ボタンをクリックする。
(ウ)録画予約
  録画したい番組の開始日、開始時刻、終了時刻、チャンネル、メモ、画面サイズ、録画モードなどを入力し、「予約する」ボタンをクリックする。そうすると、各テレビパソコンにおいて、設定どおりの録画が自動的に行われ、番組を複製したデータファイルがハードディスクに保存される。
(エ)ダウンロード
(ウ)の画面上部には、「予約」のほか、「録画済み」、「レギュラー予約」「その他」、「番組表リンク」のタブがあり、それぞれをクリックすると画面が切り替わる。そして、「録画済み」タブをクリックすると、録画された番組の一覧が表示される。その中から、自宅のパソコンにダウンロードしたいものを選択すると、「ファイルのダウンロード」のウィンドウが開き、自宅で操作するパソコンに録画したファイルをダウンロードできる。そして、保存したファイルを通常の映像ソフトで再生するなどして、視聴することができる。
  なお、債務者が作成した自動転送ソフトをインストールすることにより、ダウンロードを自動的に行うことも可能である。
エ 本件サービスの加入方法、契約条件等
(ア)債務者は、一定の台数のテレビパソコンを調達した上、本件サイト上でその都度利用者を募集している。これに応じてテレビパソコンを購入することにより、本件サービスの利用者となることができ、購入されたテレビパソコンは、債務者の事務所に設置される。

(イ)代金等
  利用者は、契約時、テレビパソコンの代金(債務者が調達したパソコンの仕様によって、価格が異なる)を支払うほか、保守管理費用として、一か月四九・九五米ドルを支払う。

(ウ)その他の契約条件
a テレビパソコンが故障した場合、債務者はその所有者に通知し、所有者の依頼により、無償で修理、部品交換、本体交換等を行う。
b 契約期間は一年間とするが、両当事者は、相手方に通知することにより、いつでも解約が可能であり、その場合、通知した翌月の末日に契約は終了する。
(エ)利用者は、本件サービスが解約された場合、以下の費用を負担することで、テレビパソコンの処理方法を選択できる。
a 返却 手数料五〇米ドルと実費送料
b 権利放棄 取り外し手数料、廃棄手数料合計五〇米ドル
c 別の契約者への譲渡 各種設定変更手数料として一〇米ドル
オ 本件サービスで録画できるのは、債権者が放送するNHK二局(総合、教育)のほか、日本テレビ、TBS、フジテレビ、テレビ朝日、テレビ東京のアナログ地上波放送である。
カ 本件サービスの利用者は、現在、約二五〇名である。
(3)債権者は、別紙放送目録一、二記載の放送につき、著作隣接権(放送に係る音又は映像の複製権,著作権法九八条)を有しており、また、放送する番組の多くにつき、著作権を有している。
  債権者は、債務者に対し、上記放送番組の複製の許諾を与えていない。 
二 争点
(1)本件サービスにおける放送番組の複製の主体は、債務者であると評価できるか。
(2)本件サービスによる放送番組の複製は、「公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器を用いた複製」(著作権法三〇条一項一号)といえるか。
(3)保全の必要性
三 争点に関する当事者の主張
(1)争点(1)(複製の主体)について
〈債権者の主張の骨子〉
ア 本件サービスの内容・性質
  本件サービスは、海外に居住する利用者を対象に、日本の放送番組をその複製物によって視聴させることのみを目的としたサービスである。このことは、本件サイト上に「録画ネットとは…海外からでも自由に日本のテレビ番組を鑑賞するためのサービスです」と記載されていることからも明らかである。
  利用者もそのことのみを期待して本件サービスに加入しており、単にテレビパソコンを保守、管理してもらうために加入する利用者は皆無である。
イ 管理・支配性
(ア)複製に必要な機器類は、すべて債務者が調達・準備し、設置し、管理していること

a 本件サービスにおいては、テレビパソコン、テレビアンテナ、ブースター、分配機、ホームページサーバー、ルーター、監視サーバー等多くの機器類及びソフトウェアが用いられているが、これらの機器類はすべて債務者が調達し、準備している。テレビパソコンは利用者が購入することとされているが、これも債務者が調達、準備している。
b 債務者は、上記機器類を自らの事務所内に設置し、各機器類を適宜接続し、インターネット回線に接続し、テレビパソコンにソフトウェアをインストールするなどして、一連のシステムを構築し、放送番組の複製ができる状態を整えている。
c テレビパソコンを含め、上記機器類は債務者の事務所に設置され、債務者が直接管理している場所で運用されている。
  そして、債務者は、各機器類に電気を供給し、空調など環境を管理し、パソコンがフリーズしたり故障した場合には必要な保守行為を行い、放送番組の複製に支障がないよう管理している。
d なお、債務者は、テレビパソコンの所有者は利用者であり、債務者はそれを預っているにすぎないと主張する。
  しかし、問題とすべきは、あくまで著作物の利用を実質的に支配・管理している主体であり、テレビパソコンの法的な所有権の帰属ではない。
  また、本件サービスにおいては、テレビパソコンは債務者の管理・支配下に設置され、本件サービス以外の用途に供することができない。テレビパソコンに債務者の社外秘の情報が格納されているとの理由から、利用者は自分が所有するテレビパソコンへのアクセスも禁じられ、返却時にはハードディスクを初期化することとされている。さらに、契約終了時は「返却」以外に、他の利用者への「譲渡」、「放棄」という、通常の販売にはない選択肢も用意されている。
  他方、テレビパソコンが故障した場合は、その原因にかかわらず、期間の限定もなく、債務者が修理するとされている。
  以上によれば、テレビパソコンの所有権の移転という構成そのものが虚構であり、その対価たる購入代金も、本件サービスに加入する初期費用としての意味しかない。
(イ)録画の対象となる放送の選択等
  本件サービスにおいて複製可能な放送は、債務者がアンテナを設置した千葉県松戸市において受信可能で、かつ債務者が対象とした放送に限られている。同所においては、BS放送、CS放送、放送大学、MXテレビ等も受信可能であるが、サービスの対象となっていない。また、関東圏以外の地域にテレビパソコンを設置することにより、同所以外の地域で放送される放送番組を対象とすることも可能である。
  このように、複製される個々の放送は利用者が選択するにしても、それは債務者が選択した範囲内の放送に限られている。
  また、債務者は、テレビアンテナを設置し、さらにブースターによってその出力を強化してテレビパソコンに供給している。すなわち、複製の対象となる放送は、債務者自らが供給している。
  なお、有線テレビジョン放送法によれば、集合住宅やテナントビルのオーナーも、有線放送事業者及び有線放送設備施設者と見なされており、債務者の行為は、自然的観察からも、法的観点からも、複製される著作物の提供といえる。
(ウ)利用者は、本件サイトにアクセスし、債務者による認証手続きを経て初めて、テレビパソコンにアクセスし、録画予約ができる。
(エ)債務者は、録画方法その他本件サービスの利用方法を本件サイトに掲示し、利用者から電子メールで問合せがあった場合には個別に回答するなどして、利用方法を教示している。
  また、債務者は、テレビパソコンをiEPG対応のテレビ番組サイトと連携させ、利用者が見たい番組を簡単に録画予約できるようにしたり、利用者が毎週一定の時間帯の特定の番組を反復して録画できるように反復予約スケジュール機能を付加し、利用者がより簡易に複製する放送番組を選択できるようにしている。
(オ)以上の事実を総合すると、本件サービスにおける放送番組の複製行為は、明らかに債務者の管理・支配下で行われている。
ウ 債務者の利益
  債務者は、本件サービスの提供に当たり、初期費用及び毎月の保守費用を徴収し、本件サービスによって利益を得ている。
エ 以上のとおり、〔1〕本件サービスの目的は、もっぱら利用者に放送番組をその複製物により視聴させることにあり、〔2〕放送番組の複製は、債務者の管理・支配下で行われており、〔3〕本件サービスによって、債務者が直接利益を得ている。
  これらの事情に鑑みれば、本件サービスにおける放送番組の複製行為の主体は、債務者と評価すべきである。
オ なお、著作権侵害の有無の判断において、著作物の利用主体を規範的に把握し、〔1〕利用についての管理・支配の帰属、〔2〕利用による利益の帰属、という観点から総合的に判断するという枠組みは、クラブ・キャッツアイ事件最高裁判決(最判昭和六三年三月一五日民集四二巻三号一九九頁)において示され、その後、多くのカラオケボックスに関する下級審判例やファイルローグ事件判決(東京地判平成一四年四月一一日)などにおいても採用されており、著作権のあらゆる支分権が問題となる事案において前提とされるべきである。
〈債務者の主張の骨子〉
ア 本件サービスの内容・性質
  本件サービスの内容・性質は、テレビパソコンの販売と、そのハウジングサービス(寄託、インターネット接続、保守)である。
  現在販売されているパソコンの多くは、テレビチューナー付きであり、簡易な録画用ソフトウェアもインストールされているし、パソコンの遠隔操作も一般化しつつある。なお、インターネットを経由して遠隔操作でテレビ番組を録画し、手元のモニターで楽しむ機器も多く販売されている。
  とはいえ、パソコンは、テレビ、冷蔵庫など一般的な家電機器と比べると、動作が不安定であり、設置も多少面倒である。そこで、債務者は、パソコンを販売するとともに、保守管理のサービスを提供している。
  すなわち、本件サービスにおいては、利用者が、自己の所有するパソコンを利用して適法な私的複製(著作権法三〇条一項)を行っているにすぎない。利用者の認識も同様である。
イ 管理・支配性について
(ア)債権者の主張イ(ア)(複製に必要な機器類は、すべて債務者が調達、準備し、設置、管理していること)は認める。
  しかし、テレビパソコンの所有権は、実質的も利用者に移転しており、利用者はこれを直接的・排他的に利用している。
(イ)債権者の主張イ(イ)(録画の対象となる放送の選択等)について
  本件サービスにおいて複製できる放送局が限定されているのは、パソコン本体と保守の費用を抑えるため、放送局を選択した結果である。これらの放送局は、本件サービスにおけるテレビパソコンの設置地域で受信できる地上波放送で、同所に在住する視聴者の大多数が視聴しているものであり、ことさらに債務者が選択したものとはいえない。
  テレビアンテナを設置し、さらにブースターによってその出力を強化してテレビパソコンに供給していることは認めるが、債務者が放送を供給していると評価すべきではない。集合住宅、テナントビルなどにおいても、ブースターなどで画像の質を維持しているが、放送の供給の主体はビルオーナーではない。
(ウ)債権者の主張イ(ウ)について
  本件サイトは、本件サービス全体を管理し、司っているのではない。債務者が、利用者に本件サイトへのアクセスを要件としているのは、〔1〕不正アクセスの防止、〔2〕利用者に対する故障などの連絡、チューナーの追加販売などの宣伝、という補助的な役割のほか、〔3〕本件サイトへのアクセス回数を確保し、本件サイトを海外在留邦人の交流の場として機能させることや、添付する広告の効果を高めるためである。
  しかし、本件サイト(及びこれを管理するホームページサーバー)は、本件サービスに不可欠のものではなく、いつでも停止することができる。この点は、監視サーバーも同様である。
(エ)債権者の主張イ(エ)について
  債務者が利用者に教示しているのは、いずれもテレビ録画のため広く世の中に知れ渡っている方策であり、当然の販促行為である。
(オ)以上のとおり、本件サービスにおける放送番組の複製行為が、債務者の管理・支配の下で行われているとはいえない。
ウ 債務者の利益
  債務者が得ているのは、まず現実に販売したテレビパソコンの対価、その後はそれを預ることによる保守管理費用であり、複製のサービスによる対価ではない。
エ 本件サービスにおける複製の主体が債務者であるとの主張は争う。
  複製の主体はあくまで利用者である。現在、市販のパソコンのテレビ録画機能、遠隔操作機能を利用すれば、海外からでも日本国内に所有するパソコンを操作して録画することができる。すなわち、私的複製の時間的、場所的範囲が拡大しているのである。
  債権者の主張は、テレビパソコンを所有し、設置している利用者の私的複製の権利を無視している。
オ クラブ・キャッツアイ事件最高裁判決はあくまで事例判例であり、カラオケスナックにおいて客に歌唱の機会を提供することが、演奏権侵害に当たると判断されたにすぎない。本判例は、カラオケ歌唱が演奏権侵害に当たるという妥当な結論を導くため、管理・支配性と図利性の二要件をもって、店を歌唱の主体と認定したものであり、カラオケの事例以外でこの要件を一般化することは、主体性判断を誤る危険性が大きい。
  カラオケの場合、店がカラオケ機器や楽曲を用意し、客に利用させて直接利益を上げているが、本件サービスは、上記ア、イのとおり、事情は異なる。
  また、ファイルローグ事件は、利用者の行為が著作権侵害に当たり、業者が教唆、幇助ないし共同してそれを行っている事案であり、差止の必要性が高い事案であった。
  これに対し、本件サービスにおける利用者の複製は、私的複製として適法である。
(2)争点(2)(「公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器を用いた複製」といえるか)について
〈債権者の主張の骨子〉
ア 著作権法にいう「公衆」とは、「不特定」の者と、「特定かつ多数」の者が含まれる(同法二条五項)。そして、本件サービスは、申し込めば誰でも加入することができ、債務者との間に個人的な結合関係があることを要しないから、利用者は債務者にとって「不特定」であり、「公衆」に該当する。
イ 本件サービスにおいて、利用者は、好みの番組を選択して録画予約をすれば、それに対応した録画が自動的に行われるのであるから、自動複製機器を用いた複製といえる。
ウ なお、著作権法三〇条一項一号において、問題となるのは自動複製機器の所有権の帰属ではなく、その設置者が誰かである。
  また、本件サービスにおいては、テレビパソコンのほか、テレビアンテナ、ブースター、
分配機、ホームページサーバー、ルーター、監視サーバー等が接続され、全体として大きな一つのシステムが構成されており、利用者はテレビパソコン単体では複製を実現できないのであるから、このようなシステム全体を「自動複製機器」と評価すべきである。
エ 以上によれば、本件サービスによる複製は、利用者による私的複製と評価できるとしても、著作権法三〇条一項一号により違法である。
〈債務者の主張の骨子〉
ア 本件サービスにおいて、テレビパソコンは各利用者に所有権が移転し、その利用者が排他的に使用している。すなわち、個人が使用する目的のものであり、公衆の使用に供されていない。
イ 自動複製機器とは、装置の全部又は主要な部分が押しボタンによる電動方式のように自動化されている機器をいうが、パソコンはそのように自動化されていない。
ウ したがって、本件サービスにおける複製は、著作権法三〇条一項一号によって違法とされる複製に当たらない。
(3)争点(3)(保全の必要性)について
〈債権者の主張の骨子〉
ア 本件サービスにより、債権者の著作隣接権、著作権は日々侵害されている。
イ 債権者の放送番組は、国内で無料で視聴できるが(ただし、テレビの設置の際、放送法に基づく受信料の支払義務は生じる)、債権者は、放送番組をビデオやDVDとして発売したり、国内のネット局や海外の放送局に提供して対価を取得したり、放送番組著作権保護協議会を通じ、海外在住の日本人を対象とするビデオレンタル店にレンタルを許諾するなどして、収益を上げている。
  したがって、本件サービスにより侵害されている放送番組の財産的価値は極めて重要である。しかるに、債務者は、債権者の放送番組を複製することによって「ただ乗り」の利益を得ている。
ウ また、債権者が放送する番組には、他の権利者から許諾を受けて放送しているものが多数存在する。特に、オリンピック、サッカーのワールドカップ、アメリカのメジャーリーグ、映画など、海外のコンテンツは、各国ごとに個別にライセンスが付与されるため、その権利者は、放送を許諾するに当たって、契約条件の中で、放送地域を必ず日本国内に限定している。
  しかし、本件サービスのような事業が適法とされると、このような根底が崩れ、許諾が受けられなくなるおそれがある。
エ また、本件サービスは、現在は大規模とまではいえないが、パソコン、サーバーの小型化、大容量化などの技術の発達により、将来大規模になるおそれがある。債務者は、現在でも新規顧客を広く募集しており、本件サービスを適法と誤解した顧客が拡大するおそれは大きい。その場合、債権者の損害はさらに増大する。
オ 債務者は、平成一五年六月に資本金三〇〇万円で設立された有限会社であり、十分な資産を有しているとは思われず、本案判決により損害賠償請求が認容されたとしても、被害が回復される可能性は低い。
〈債務者の主張の骨子〉
ア 債権者が主張する著しい損害は、いずれも疎明が不十分であり、争う。
イ 上記(1)〈債務者の主張の骨子〉ア、エのとおり、そもそも、技術の発達により、私的複製の時間的、場所的範囲自体が拡大しているという現状がある。
  債務者は、かかる現状において、テレビパソコンを販売し、その保守管理をしているにすぎず、「ただ乗り」と非難されるいわれはない。債務者は損害と主張するが、例えばDVDによる販売という方法は、本質的には時代に取り残されている。
ウ また、上記の現状からすれば、そもそも、海外のコンテンツ権利者との交渉において、海外に滞在する視聴者の存在を視野に入れた交渉をすべきである。
エ 債務者は、本件サイトにおいて、本件仮処分申立てがなされた事実を告知しており、著作権の問題を誤解して加入する利用者が現れるおそれはない。
第三 当裁判所の判断
一 争点(1)(複製の主体)について
(1)本件サービスの具体的内容は、前記前提事実(2)のとおりであるところ、さらに、一件記録及び審尋の結果によれば、以下の事実が認められる(特に争いのある事実等については、認定の根拠とした書証を記載する)。
ア 本件サービスにおいては、テレビパソコン、テレビアンテナ、ブースター、分配機、ルーター、ホームページサーバー、監視サーバーなどの機器が、ネットワーク回線及びテレビアンテナ回線により接続され、さらに債務者によって共通のソフトウェアがインストールされ、環境設定等されることにより、全体として一つのシステムを構成していると評価できる。
イ 上記の機器類、回線類は、いずれも債務者が調達し、債務者の事務所内に設置し、接続、設定を行い、適切に稼働するよう管理している。
ウ 上記の機器類、回線類は、テレビパソコンを除き、債務者が所有している。
エ テレビパソコンについて
(ア)本件サービスにおいては、テレビパソコンは各利用者に一台ずつ売却されており、契約終了時においては、利用者が希望すれば、実際に返却を受けることができる。また、各テレビパソコンは、利用者ごとに区別して管理されている。
(イ)ただし、利用者が購入できるのは、債務者が選定、調達し、適時に販売するテレビパソコンのみであり、市販のパソコンを購入し、それを利用して本件サービスに加入することはできない。また、債務者は、テレビパソコンのみの販売には応じておらず、その設置場所も、債務者が指定する事務所内に限られている。
(ウ)利用者は、本件サイトにアクセスし、認証を受けた後、その所有するテレビパソコンにアクセスし、録画予約の操作を行う。そして、各テレビパソコンにおいて、録画が行われ、ハードディスク内にファイルとして保存される。
(エ)各テレビパソコンには、債務者が作成したテレビ番組録画のための共通のソフトウェアがインストールされている。利用者は、上記(ウ)のように本件サイトで認証を受けると、同ソフトウェアによってテレビパソコンを操作するが、操作できる内容は、録画予約、予約内容の確認、録画済みのファイルの確認等、同ソフトウェアに規定されたもののみである。
(オ)また、各テレビパソコンのハードディスクには、債務者が保守管理の目的で社外秘のファイル、ログなどを記録している。このため、返却時はハードディスクを初期化する条件となっている。
  なお、この事実からしても、各利用者は、上記(エ)以外の方法で、テレビパソコンにアクセスしたり操作することはできないと認められる。
(2)前記前提事実及び上記(1)の事実を前提として、以下判断する。
ア 私的複製について
(ア)著作権法三〇条一項は、私的使用のための複製を、複製権侵害の例外として適法としている。その趣旨は、直接的には、個人が著作物を利用する方法の一つとしてそれを複製することを、適法な行為として認めることにあると解される。
  そして、その許容性を裏付けるのが、家庭内などの私的領域における零細な規模の複製は、著作権者の複製権を侵害する程度が小さいということであり、それを担保するため、〔1〕個人的又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とすること、〔2〕使用する者が複製を行うこと、などの要件が課されている。
(イ)したがって、私的複製に関与する行為は、その「幇助」として評価し得るものである限り、それが第三者により業としてなされる場合であっても、適法行為の「幇助」にすぎない。例えば,ビデオデッキや本件のようなテレビパソコンを製造、販売する行為を違法と解することはできないし、さらに、それらの機器を使用した複製ができるよう、機器の設定や接続等を行うことも、それ自体は適法というべきである。
(ウ)他方、私的複製と認められるためには、使用者自身が複製行為を行うことが要件であるから、第三者が複製を行う場合は、例え使用者に依頼され、その手足として複製を行う場合であっても、その者が家族、友人など「個人的又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内」の者である場合を除き、私的複製とは認められないことになる。例えば、業として録画代行サービスを行うことは、複製権を侵害する行為である(かかる行為は、録画した複製物を販売することと実質的に何ら変わりはないのだから、いわば当然といえる)
。 
(エ)本件において、著作物の複製の主体を評価、認定するに当たっては、これらを前提として、上記の具体的事実を検討し、本件サービスにおける複製にかかる債務者の管理・支配の程度と利用者の管理・支配の程度などを比較衡量した上で、複製行為の主体を認定すべきである。
イ 債務者の管理・支配性
(ア)本件サービスにおいては、上記のとおり、多くの機器類をネットワーク回線等によって接続した一つのシステムが構成されており、それらはすべて債務者が調達、設定し、管理している。
(イ)機器類の中で、各テレビパソコンの所有権は、確かに各利用者に帰属しているが、販売するテレビパソコンは債務者が選定、調達したものであり、販売後の設置場所も債務者の事務所に限られる。さらに、債務者は録画予約等のためのソフトウェアをインストールするほか、各種のデータを記録し、保守管理を行うなどして、利用者が本件サービスを継続する限り、これを管理・支配下に置いている。
(ウ)実際の録画の過程という側面からみても、現実の複製に当たって利用者が行う行為は、上記ソフトウェアの動作に従った録画予約の指定のみであり、その後の録画は、上記のとおり債務者が構築し、管理するシステムによって自動的になされている。さらに、本件サービスにおいては、本件サイトを経由してのみ録画予約が可能になっており、債務者の管理・支配の程度がより強くなっている。この点は、債務者が主張するとおり、本件サービスの本質的な要素ではないとみることもできるが、仮にこれを除外しても、録画の過程が債務者により規定されていることに変わりはない。
ウ 利用者の管理・支配性
(ア)利用者は、テレビパソコンを購入し、その所有権を有しているとはいえ、そもそも、債務者が調達、販売する以外のテレビパソコンを購入して本件サービスに加入することはできず、テレビパソコンの設置場所も債務者の事務所に限られている。
(イ)さらに、テレビパソコンについて利用者ができる操作は、上記ソフトウェアを通じたもののみであり、それ以外の用途に利用することも、それ以外の方法でハードディスクのデータにアクセスすることもできない。テレビパソコンの返還を受けることはできるが、それは本件サービスを解約した場合のことであるから、本件サービスにおいて、利用者がテレビパソコンを管理・支配する程度は、極めて弱いといわざるを得ない。
(ウ)実際の録画の過程についても、上記イ(ウ)のとおり、利用者の行為は限られたものである。
エ 以上のとおり、本件サービスにおける複製は、債務者の強い管理・支配下において行われており、利用者が管理・支配する程度は極めて弱いものである。
  より具体的にいえば、本件サービスは、解約時にテレビパソコンのハードウェアの返還を受けられるという点を除き、実質的に、債務者による録画代行サービスと何ら変わりがない。債務者が主張する、テレビパソコンの販売とその保守管理というのは、本件サービスの一部を捉えたものにすぎず、サービス全体の本質とはいえない。
オ 以上によれば、本件サービスにおいて、複製の主体は債務者であると評価すべきである。
カ なお、債務者が主張するように、パソコンの性能の向上、インターネットやネットワーク技術の発達により、私的複製の領域が拡大していることは否定できない。その結果、著作物の使用者による私的複製が、第三者の管理・支配下にない状態で、しかも本件サービスの利用者のそれと同じような簡便さで可能となることは、十分考えられる。
  しかし、本件サービスは、同様に技術の発展によって可能となったものとはいえ、上記のとおり債務者の管理・支配性が強いものであり、利用者による私的複製と評価することはできない。
二 争点(3)(保全の必要性の有無)について
  以上のとおり、債務者は、本件サービスより、放送番組の複製を行い、債権者の著作隣接権(著作権法九八条)を侵害している。
  そして、債務者は、現在も本件サービスを継続し、約二五〇名の利用者に対し、その要求に応じて常時複製できる状態を維持しており、新規の利用者を募集する姿勢すらみせている。
  そうすると、本件サービスを差止めなければ、債権者に著しい損害が生じるといえるから、保全の必要性は認められる。
三 よって、その余の点を判断するまでもなく、本件申立ては理由があるから、主文のとおり決定する。
(裁判官 頼晋一)

別紙 当事者目録
債権者 日本放送協会
同代表者会長 海老沢勝二
同訴訟代理人弁護士 梅田康宏
債務者 有限会社エフエービジョン
同代表者代表取締役 乙山松夫
同訴訟代理人弁護士 春日秀文
別紙 放送目録一、二《略》
別紙一 本件サービスのシステム構成


メニューに戻る
トップページに戻る