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冷蔵倉庫事件 大阪地裁昭和54年2月23日判決
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【判例ID】   27755038
著作権侵害差止等請求事件
大阪地裁昭五一(ワ)第二九九一号
昭54・2・23第二一民事部判決
原告 X
右訴訟代理人 本渡諒一
被告 Y
被告 Y1
被告 Y2
右被告ら三名訴訟代理人 高村一水

       主   文

一 原告の被告らに対する請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。

       事   実

一 請求の趣旨
(一)被告らは各自原告に対し金八〇〇万円およびこれに対する昭和五一年六月二五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
(二)被告Y1および被告Yは各自別紙目録記載の被告建物を廃棄せよ。
(三)訴訟費用は被告らの負担とする。
との判決および仮執行宣言。
二 請求の趣旨に対する被告らの答弁
主文同旨
三 請求原因
(一)(原告の甲設計図著作権)
1 原告はかつて訴外Aから冷蔵倉庫の設計監理を依頼された。そこで原告代表者はこれを受けて直ちに建築設計図二〇葉の作成にとりかかり昭和四八年八月これを完成した(甲一号証の一ないし二〇参照。以下、その全体を甲設計図という。なお、甲設計図に従つて建築された建物が別紙目録(原告建物)記載の冷蔵倉庫であつて、これは昭和四九年九月二七日に着工、翌五〇年三月末日に完成されている。)。
2 そして、甲設計図は以下述べるとおり建築工学上の技術思想を創作的に表現した学術的な性質を有する図面であるから著作権法所定の一個の著作物であり(同法二条一号、一〇条一項六号)、またこれは原告代表者が原告会社の職務上原告名義をもつて作成したものであるからその著作権は原告に帰属するものである。すなわち、
(イ)もともと冷蔵倉庫の設計は他の一般の家屋などの設計とは異なり、これを作成するには多年の経験を必要とし、設計者の独自の知識と経験に基づき与えられた設計条件のもとに設計されるものであるから出来上つた図面はいずれも個性的であり、類似の図面は殆んどないのが通例である。原告代表者の場合も、冷蔵倉庫の設計において草分け的存在といわれた父X1から多年に亘り受継いだ独創的設計技術に基づき甲設計図を作成している。特に苦心を要したのは、外壁に対する結露、床下の凍上等の妨止を始めとし、冷蔵能力を効果的に維持させ、かつ完成後の営業面からは冷凍機の消費能力をより少くするために、地中梁構造、室内前室構造、ならびに断熱材の選定およびその施工方法等の点であり、これらについての独創的苦心の総合体が建築図面として表現されるのである。
(ロ)右のとおり甲設計図は原告が独自に開発した工法を随所に取入れ作図しているのであるが、そのうち特に学術性が高いと思われる表現部分を具体的に例示すると次の諸点が挙げられる。
(1)換気用スリープの設置に関する表現(甲一号証の一三の(4))
  冷蔵室床下の冷たくなつた空気のため地中の凍上現象が発生するがこれを妨止するためには床下の空気の冷化を防止する必要があり、この床下空気の冷化防止は床下空気と外気との接触によつて達成することができるとした部分。
  またプラツトフオーム下は冷化防止の必要性がないので空気層を作らずこの為に冷蔵室と外気との空気流通用として貫通パイプ設置方式をとることとした部分。
(2)外壁取付部の表現(同号証の一七の(8))
  外壁の下面取付方法には最低の調整困難なためボルト方式によるものを考案した部分。

(3)前室設置の表現(同号証の一一の(15)(16)、一五の(15)(18))
  プラツトホームと冷蔵室との間には従来は準備室なるものがあつたが、これがあまり価値がないのでこれを廃止し、扉の開閉の際の熱損失については冷蔵室(温度零下三〇度)に外気(温度三〇度)が直接入らないようにすれば熱損失を防ぐことができるのでただその目的のために前室を設けた。そして、腐蝕、破損、補修を考えて軸組を木骨とし、前室内の雪の結晶体が冷蔵室に入らぬ様、且つ雪除けが容易になるようタレ壁を設け、また外温の前室に侵入するのを防ぐために前室床のコンクリート下部分のプラツト側への防熱材の張り増しを行い同様の目的から前室マグサおよび袖壁部分の防熱施工をウレタンの現場発泡で行うこととした。以上に関する表現部分。
(4)冷蔵室入隅部分の防熱材の取合(同号証の一六の(21)、一三の(21))
  コーナー部分であるから時間の経過とともに冷気の滞流のため防熱材の中に冷気が侵透するのでこれを防ぐため、一層目のグラスウールを入隈部で廃止しこれにかえてスタイロフオームとし、更に突合せ部にウレタン発泡処理をする技術方法を考案した部分。
(5)天井と壁の防熱材の取合(同号証の一三の(24))
天井裏よりの外壁隅部からの冷蔵室内への外気の侵入を防ぐため外壁廻りに全周に亘り一定の大きさの断熱材を別途貼り増すこととした部分。
(二)(被告らの甲設計図著作権侵害)
1 被告Y2(以下被告Y2と略称)の侵害行為
  被告Y2は昭和四九年一二月被告Y(以下被告Yと略称)から冷蔵倉庫の設計依頼を受け、昭和五〇年八月二三日設計図一三葉(甲三号証の一ないし一三参照。以下その全体を乙設計図という。なお、後述のとおり、これに従い建築されたのが別紙目録(被告建物)の冷蔵倉庫である。)を作成したが、これは以下述べるとおり甲設計図を複製したものである。かりにそうでないとしても甲設計図の著作権者である原告の許諾なくして作成された二次的著作物である。すなわち、
  乙設計図は別紙対比表記載のとおり十カ所において甲設計図の表現形式をそのまま引用している。そして右引用箇所が極めて学術性の高いもので甲設計図の本質的な要部であることは前記(一)2(ロ)で述べたところによつて明らかである。結局、甲、乙設計図双方の相違点は表現されている建物の規模が後者において小であるとか、外観上の形式、間取りが違うといつた点のみであつて、前述した冷蔵倉庫の設計要部ともいうべき内部構造、特に断熱に関する苦心点については施工材、寸法、施工方法の各点とも多少の微差はあつてもほとんど同一であり乙設計図は甲設計図の引き写しであり、冷蔵倉庫に対する原告の思想の全くの模倣である。
  以上の点に関し、被告は設計図の複製とは「まるまるコピーする」かまたはこれに似た極めて狭い範囲にかぎつて認められるべきであると主張しているが首肯できない。著作権法が著作者の精神労働の成果たる表現形式を保護することを目的としている点を考慮すると、著作物の本質的な、あるいは要部ともいうべき表現形態が著作者に無断で作出される現象は許容されるべきでなく、本質的な表現形態に修正増減を加え、あるいは数種の著作物に加除作業を加え別個の著作物を作つたとしても、そこになお、原著作物の本質的な表現形式が見出される限り、その本質的な表現形式は保護されるのが当然で、このような場合もやはり複製であり、または二次的著作となると解すべきである。そして、対比表で指摘した乙設計図の引用部分はまさに甲設計図の本質的部分に関する表現である。
2 その余の被告ら両名の侵害行為
  被告Y1(以下、被告Y1と略称)は被告Yの注文に応じ、昭和五〇年一〇月から同五一年六月にかけて乙設計図に従つて被告建物を建築完成したものであり、被告Yはそのころ右被告建物の引渡を受けて現にこれを所有しているものである。
  そして、前記甲、乙両設計図の関係からすると、右被告建物の建築は甲設計図を実施したもの、すなわち甲設計図を有形的に再生した甲設計図の複製物にほかならない(著作権法二条一項一五号前段と後段ロ参照)。右の見解が正当であることは同法が著作物について上演、上映の権利を認めている趣旨を参照することによつても裏付けられる(同法二条一項一六号、一九号参照)。建築設計図の複製を文書的複製のみに限定しようとする被告らの見解は誤りである。したがつて、右被告ら両名は原告の甲設計図著作権を侵害している。
(三)(被告らの責任と原告の損害)
  被員らの以上のような関係からすると、被告らは前記のような態様によつて故意または過失により共同で原告の甲設計図著作権を侵害したものであり、これによつて原告が甲設計図の設計料八〇〇万円相当の損害を蒙つたことも明らかである。
(四)(結論)
  よつて、原告は(イ)被告らに対し、各自金八〇〇万円及びこれに対する昭和五一年六月二五日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを、(ロ)被告Y1と被告Yに対しては著作権法一一二条二項に基き、前記著作権侵害の停止に代る損害賠償請求に際し、当該侵害行為によつて作成された物である被告建物の廃棄を、それぞれ求める。
四 請求原因に対する答弁
(一)請求原因(一)1の事実は不知。
  同(一)2の事実のうち、甲設計図の具体的な作成者が原告代表者である、との点は不知、その余の主張は争う。
(三)同(三)の主張も争う。
(二)同(二)1のうち被告Y2が原告主張のとおり乙設計図を作成したこと、乙設計図に従つて建築した建物が被告建物にほかならないこと(ただし、その名称は正確には「★★地域水産物産地流通加工センター冷凍冷蔵施設」というべきである。)、甲乙両設計図の表現上の相違点として原告主張のような点も存することは認めるがその余は争う。
  同(二)2の主張も争う。
五 被告らの主張
1 乙設計図は甲設計図の複製物ではない。
(一)著作権法が建築設計図を「学術的な性質を有する図面」たる著作物(同法一〇条一項六号)として保護している場合があるとしても、当該設計図において保護されているものは技術的思想そのものの創作性ではなく、図面の表現自体の独創性である。工学上の技術思想は特許法その他でみられるとおり特許庁における一定の審査を経て付与される建前をとる一連の工業所有権として別途保護されるべきものである。したがつて、たとえ二つの設計図に表現されている部分についてたまたま技術的思想を共通にする部分があつたとしても、その図面表現の方法が双方異なれば一方を他方の複製と断ずることはできない。右のような場合、著作物たる図面の独創性は当該技術的思想をそのような図面として表現した表現そのものに求めるべきである。このように考えてくると一般に設計図の複製とは文書的複製にかぎられるのはもちろん、その限度も「まるまるコピーする」とか、縮尺したとか、せいぜいあちこち一寸手を入れただけという極めて狭い範囲でしか認められないものと解さなければならない。また、これを別の観点からいうと、もともと図面による意思伝達は言語によるそれにくらべ、記号その他その表現方法に多くの約束事があるから、表現選択の自由度はあまり大きくないのも性質上やむをえないところであるということもできる。したがつて、建築設計図という表現形式においては創作性は非常に出しにくいともいえる。
  これを本件についてみるに、乙設計図は原告も自認するとおり甲設計図で表現されている建物の二分の一以下の規模の外形的にも全く異なる建物についての、図面であり、更に甲設計図と違つて凍結室を有する等内部的にも多くの相違点を有しており、両者の全体側面図及び平面図を比較してみてもその内部構造、間取り、外観形状共に明らかに相違する。その結果、乙設計図は甲設計図とは別の個性を持つた全くの異なる図面となつているのであつて、とうていこれを甲設計図の複製といいうるような関係にはない。原告は図面上似ているところがあるから図面の著作権侵害であると主張しているが、それは実は図面のある一部を取出しその構造の同一性を云々しているにすぎないのであつて、著作物性の観点からみた比較をしているのではない。
(二)またいまかりに原告の指摘する工法に由来する表現部分をとつてみても、いうところの工法はすべて技術的見地からしても公知のものであつて、何ら独創性のあるものでもないから、当然その表現においても特段独創性を見出すことのできないものである。
  かえつて、乙設計図は技術上も被告Y2の独自の工夫により注文主の需要に応えて作成したものである。すなわち、乙設計図は被告建物の目的である★★地域中小水産加工業者に対する水産物安定供給のための鮮魚の冷凍冷蔵に適応できるように種々の工夫がなされ、その設計上の配慮は図面の上に特異性をもつて表現されている。たとえば、(1)運びこまれた鮮魚の鮮度を保つために急速に鮮魚を凍結し、しかる後冷蔵室に移すために凍結室1及び2を配置したこと(甲三号証の四参照)、冷蔵室については一般冷蔵のため常時マイナス三〇度を保つ冷蔵室1、小口用あるいは時期によつては一時保管用で零度からマイナス二五度に調節できる小さい冷蔵室3及び長期保管用の冷蔵室2を配置し、特に冷蔵室3については長期保管で発生しがちな鮮魚の焼け縮みなどを防ぐ目的で天井面全体から平均に微風を吹きおろすようにする工夫として二重天井とし、天井面にスリツトをあけ、そのスリツトをクーラーから遠くなるにつれて間隔をあけるという配置にしてあること(甲三号証の四、六及び七参照)などが図面に表現されている。また(2)、施設建築場所の地盤が軟弱であることからその対策として基礎の設計を十分にし(甲三号証の一二)、又積雪地であるためその対策をどうするかも十分検討の結果,積つた雪は屋根に乗せたままにしておくという結論から屋根は平らにした。
2 乙設計図は甲設計図の二次的著作物でもない。 
  原告のこの点に関する主張は、乙設計図は甲設計図を翻案して創作したものというにあると思われる(著作権法二条一項一一号参照)。ところが、ここに翻案とは、脚色、映画化といつた例があげられているように外面的な形式としては大幅に変更されてはいるが、もとの著作物の著作物性はそのままとりこまれている場合をいうものと解すべきである。しかるに原告が乙設計図中にとりこまれていると主張するのは、甲設計図の中の一〇箇所の部分に表現されている構造であつて、それらは何ら甲設計図の著作物性を根拠づけるものでないことは前述したとおりであるから、乙設計図は甲設計図の著作物性をとりこんでいるとはいえない。
3 乙設計図に従つて建築された被告建物を甲設計図の複製ということはできない。
  元来、被告建物は、甲設計図の複製ということのできない全く別異の乙設計図に従つて建築された建物であるから、著作権法上原告から何ら問責されるべきものでないことは明らかである。
  のみならず、建築物を当該建築物設計図面の複製物であるという原告の主張自体首肯することができない。すなわち、図面の著作物である設計図面の複製がその文書的複製に限られることはすでに述べたとおりである。この点に関しては、図面の著作物は建築の著作物とは違うことを留意すべきである(著作権法一〇条一項の六号と五号とを参照)。原告は同法二条一五号前段を根拠として建物は設計図の「有形的再製」であると主張しているが、それならば右法条号後段ロの規定をどう説明すべきか。右ロは、「建築に関する図面に従つて建築物を完成すること」を「建築の著作物」の複製概念に含むと規定しているのであつて、ここで注意すべきことは、ロは建築図面の複製に関する定義ではないということである。この規定は、建築物がまだできあがつておらず、設計図があるだけであるという場合に、できあがつていない建築の著作物をできあがつたものと同様に評価して、図面に従つて建築物を完成すれば、それは設計図によつて表現されている建築の著作物を複製したものである、と特に定めたものである。
  また、原告はこの点に関し同法二条一項一六号、一九号の「上演」「上映」の規定を援用している。その趣旨必らずしも明らかでないが、おそらく同法条項一五号後段イの規定とあいまつて「複製」概念を拡張しようとするものであると思われる。しかし右イ項において脚本の複製に含むとされるものは「上演」そのものではなく「上演を録音し、録画すること」であつて、脚本を上演する権利は、複製権の保護(同法二一条)とは別に同法二二条で保護せられ、「上演」と「複製」とは明確に区別されている。また、「上映」については映画の脚本の上映を念頭においていると思われるが、映画脚本の映画化も複製権とは別の映画化権として同法二七条で保護せられ、またその映画化された著作物すなわち映画の著作物の「上映権」も同法二六条で保護せられており、いずれにしても「上映」が映画脚本の複製とされてはいない。従つて、図面とその図面の実施との関係が、仮に脚本とその上演、上映との関係に比すべきものとしても、図面の実施が図面の複製であるということにはならない。
4 以上いずれにしても本訴における原告の主張は失当である。
六 証拠〈省略〉

       理   由

一 原告の甲設計図に対する著作権
  〈証拠〉を総合すると、原告代表者は昭和四八年八月原告会社の職務上原告会社の名において冷蔵倉庫の設計図面である本件甲設計図を作成完成したこと(また、右甲設計図に従つて建築された建物が別紙目録記載の原告建物であつて、その着工、完成日時が原告主張のとおりであること)、および甲設計図は一般の住宅、事務所等の建物とは異なり防熱、防湿等の点で特別の建築工学上の技術を必要とする冷蔵倉庫に関するものであつて、全体として個性ある設計図となつていることが認められ、他に反証はない。
  右認定事実によれば、甲設計図は全体として冷蔵倉庫に関する建築工学上の技術思想を創作的に表現した学術的な性質を有する図面として一応の著作物と解することができ、また右甲設計図の著作権は原告に帰属するものであることが認められる(著作権法二条一号、一〇条一項六号)。
二 被告Y2の甲設計図著作権侵害の存否(同被告の作成した乙設計図は甲設計図の複製か、および許諾のない二次的著作物か)
1 被告Y2が昭和五〇年八月原告主張のとおり冷蔵倉庫に関する乙設計図を作成したこと(また、これに従つて建築された建物が別紙目録記載の被告建物であること)は当事者間に争いがない。ただし、本件では、被告建物の名称が被告ら主張のように正確には冷蔵倉庫ではなく冷凍冷蔵施設であるか否かは暫らくおく。
2 そこで、乙設計図が甲設計図の複製であるか否かについて検討する。
(一)まず、原告は乙設計図を甲設計図の複製であると主張しているが、その趣旨は全部複製というのではなく、部分複製または部分引用による著作権侵害をいつているものと解される。けだし、証拠によつて対比するまでもなく、甲、乙両設計図がそれに表現されている冷蔵倉庫の規模形態、間取りにおいて異なることは原告の自認するところであつて(これらに従つて建築されたことに争いない別紙目録記載の原告建物と被告建物とを比較参照)、いま複製の概念について単に原著作物のそのままの再生のみではなく、たとえ多少の修正増減があつても、それが著作物全体の同一性を損わない限度のものである場合(建物設計図についていえば作成者名義を削除するとか、僅少な部分すなわち建物の仕切、採光部分等に一部修正があるような場合)にはなおこれを複製であると解すべきものであるとしても、本件では一見して双方右の限度を超える相違があること明白であるからである。
(二)そこで、すすんで前記部分複製の主張の当否について検討するに、一般に一個の著作物の部分引用は、当該引用部分が原著作物の本質的な部分であつてそれだけでも独創性または個性的特徴を具有している部分についてはこれを引用するものは部分複製をしたものとして著作権侵害を認めるべきである。
  ただ、この場合に当該部分が本質的であるか否かは具体的または有形的な表現形式自体についての独創性または個性的特徴の存否によつて決すべきであつて、当該原著作物によつて認識し、読みとりうる思想またはアイデイア(本件では冷蔵倉庫建築上の技術思想)のそれを対比検討して決すべきではない。それが著作権の及ぶ範囲ではなく専ら工業所有権によつて保護されるべきものであることは被告ら主張のとおりである。
  また、部分検討にさいしては単にある部分とある部分とを比較するのではなく、当該部分が一個の著作物全体の表現との関係でその全体に対して果している役割をも考慮すべきである。また本件では、著作物が建築設計図であることからする特殊性すなわち建築設計図はその性質上主として点または線を用い、これに当業者間で共通に使用されている記号、数値等を付加して二次元的に表現するもので、極めて技術的機能的な性格の著作物であるためその表現方法の選択の余地はあまり多いとは考えられず、同種の建物に同種の工法技術を採用しようとすれば結果としておのずから類似の表現を採らざるをえないという点にも留意しなければならない(たとえば言語表現方法の多様性参照)。
(三)いまこれを本件についてみるに、前掲甲一号証の一ないし二〇(甲設計図)、原本の存在と成立に争いない同三号証の一ないし一三(乙設計図の写し)を対比すると、原告主張の対比表記載の部分ことに(8)(17)(ただし、これは線対称)(18)(21)
(24)の表現部分(前室の構造、床、壁の防湿、防熱構造の各技術に関する表現部分)はそのままコピーしたものとはいえないとしてもかなり類似した表現となつていることが認められる。以上の事実と次のような事情すなわち先に甲設計図に従つて建築された原告建物の所在地が被告Y2の所在地、乙建物の所在地に近く、また乙設計図の作成が着手されたのは原告建物建築中の時点であつたこと、乙設計図を実際に作成した同被告の取締役設計部長Cも当法廷においてげんに乙設計図作成中に原告建物を車窓からではあるが見聞したことまではこれを認める証言をしていること等を総合して考えると乙設計図はあるいは甲設計図の部分引用、偽作をしているのではないかとの疑念がないではない。しかし、他方前記証人Cは乙設計図作成中、甲設計図を見たり原告建物の内部構造を見たことはなく、ただ出入りの下請業者から原告建物の資材メーカーに関する情報をえた程度であること、かえつて、Cとしては乙設計図作成にあたつては他の多くの既存冷蔵庫を親しく見学し(成立に争いない乙一号証参照)、また部品資材メーカーのカタログも検討し注文主被告Yの要望をいれ特に凍結室の配置、大小の冷蔵室、二重天井とそのスリツト、地盤強化、積雪を考慮した平らな屋根等の点に独自の工夫をこらしこれを図面に表現した旨を証言しているのであつて、本件においては前記の事実だけをもつてCがことさら甲設計図を部分的にせよ盗用偽作したと断ずることは困難である。
  のみならず、前示(二)の一般的見解に照らして原告指摘の対比表を再見すると本件においては次のような事情もこれを看過することができない。すなわち、(イ)原告指摘の類似部分は前記のとおりいずれも前室構造、防熱、防湿構造等冷蔵倉庫においては重要な技術構造に関する部分であるからその技術思想の独創性がひいては表現の独創性に影響を及ぼすことのあることは否みえないとしても、本件では比較されるべきものは結局は技術思想そのものではなくその表現自体であること、またその比較にさいしては著作物が建築設計図であることによる特殊性(要するに同種の技術の表現はおのずから類似せざるをえないこと)にも留意すべきであること等前示のような点を考慮し、さらにまた原告の指摘する偽作引用部分は乙設計図一三葉のうちそのほとんど一葉(甲三号証の八)に集中しているのであつて、全体からみると僅少な一部といえなくはないところ、およそ一個の冷蔵倉庫を表現した著作物たる設計図全体の偽作引用を決するためには右のような一葉の表現部分のほか他の葉における全体の規模、形態その他の点もこれを無視できない表現部分として考慮すべきである。(ロ)また、原告が独創的であると主張する技術部分のなかにも公知のものが存し(たとえば、(4)の換気用スリーブは旭ダウ株式社のカタログー乙一三号証ー七、八頁に、(15)(16)(19)(18)の前室構造は日本ジヤミソン株式会社のカタログー乙一〇号証ーの「グラヴイテイ・カムドアの取付」欄に、それぞれすでに示唆されていたことが明らかである等)、また、原告代表者本人が甲設計図の独創的部分であると強調する(8)(24)の部分にしてもその技術思想自体は何ら工業所有権によつて保護されているものではなく、以上のような技術思想自体はいうまでもなく万人の自由な使用が認められている。
(四)以上のような点を彼此総合して検討してみると、結局、原告指摘の乙設計図類似部分は未だこれを甲設計図の部分複製としてその著作権を侵害したものと解することはできない。前示の判断と異なる甲四号証の一、二(大成建設株式会社勤務一級建築士Cの鑑定書)の記載と原告代表者本人の供述は採用することができない。前記鑑定書が著作物としての設計図の表現における「本質」と「見かけ」との相違に関する指摘等はそれ自体は一つの見識として十分諒解しうるところであるが、結局のところは、著作権法で保護される「表現」を対比するにさいして、表現されている無形の工学技術思想そのものを対比しようとするものであるが、もしくは少なくとも技術思想そのものに力点を置いて「表現」を理解しようとするものであると解され、にわかに首肯し難い。
3 原告の無許諾の二次的著作に関する主張も失当である。けだし、2でるる認定説示したところによれば乙設計図は甲設計図を基礎とし、これを利用し成立したものということのできないものであること明らかであつて、この点に関する被告らの主張(五の2)は首肯することができるからである(著作権法二条一項一一号参照)。
4 そうすると、原告の被告Y2に対する著作権侵害の主張は失当である。
三 被告Y、被告Y1の甲設計図著作権侵害の存否
  被告Y1が被告Y2作成の前記乙設計図に従つて被告建物を建築完成し,被告Yがげんにこれを所有していることは被告も明らかに争わないところである。
  しかし、右のような被告ら三名の関係に照らすと、乙設計図が原告の甲設計図著作権を侵害するものでないこと前示のとおりである以上、被告Y、被告Y1は如何なる意味においても原告の甲設計図著作権を侵害することにならないこと明白である。 
  なお、この点に関し原告がその主張の前提として採つていると解される見解すなわち「建築設計図に従つて建物を建築することもしくは建築された建物は当該設計図の有形的な再製たる複製である。」との見解も独自の見解であつて、とうてい首肯することはできない。右の点に関しては「建築設計図の複製は文書的複製に限られる。」とする被告らの主張(五の3)がその理由とともに正当であると解される。
四 結論
  よつて、原告の被告らに対する請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(畑郁夫 中田忠男 小圷真史)
目録
(原告建物)
富山市西二俣二番地上
一、鉄骨造屋根瓦棒葺壁穴あきP・C板貼り冷蔵倉庫
建築面積五、一四五・四六平方メートル、延面積四六一六・八七平方メートル(敷地面積一六・七七四・〇二平方メートル)、冷蔵能力六・四六一トン
(被告建物)
富山県氷見市堀田字砂子田三一八三の四地上
一、鉄骨造屋根長尺塩ビ鋼板葺平家建の冷蔵倉庫
建築面積二三七一・二〇平方メートル、延面積二一九二・四〇平方メートル(敷地面積四九六〇平方メートル)、冷蔵能力二、六〇〇トン、冷凍能力一六トン
対比表〈省略〉


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