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松本清張小説リスト事件 東京地裁平成11年2月25日判決
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【判例ID】   28041043
著作権侵害差止等請求事件
東京地裁平一〇(ワ)第一二一〇九号
平11・2・25民事第四六部判決
原告 X
右訴訟代理人弁護士 本橋美智子
同 小川昌宏
被告 Y
右代表者代表取締役 Y1
被告 Y2
右両名訴訟代理人弁護士 竹内澄夫
同 得丸大輔

       主   文

原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。

       事実及び理由

第一 原告の請求
一 被告Y(以下「被告会社」という。)は、別紙「書籍目録」一及び二記載の書籍を出版、販売、頒布してはならない。
二 被告会社は、その住所地、営業所に存する被告会社所有の別紙「書籍目録」一及び二記載の書籍を廃棄せよ。
三 被告らは、原告に対し、連帯して金四〇〇万円及びこれに対する平成一〇年六月一〇日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 被告らは、原告に対し、東京都中央区築地〈番地略〉所在の朝日新聞社発行の朝日新聞日刊に、別紙「謝罪広告目録」一記載の謝罪広告を同目録二記載の掲載条件で一回掲載せよ。
第二 事案の概要
  本件は、原告が、別紙「松本清張作品映画化リスト」及び「松本清張作品テレビ化リスト」記載の松本清張の映像化された小説のリスト(以下「原告リスト」という。)についての著作権及び著作者人格権の侵害を理由として、被告会社に対し、被告会社発行の書籍について、出版・販売等の差止めと廃棄を求めるとともに、被告らに対し、謝罪広告の掲載と損害賠償の支払(訴状送達の日の翌日からの遅延損害金の支払を含む。)を求めている事案である。
一 争いのない事実
1 原告は、昭和五四年から昭和五九年までの間、作家・松本清張の著作に係る小説の映像化に関する業務を行うX1(以下「X1」という。)の従業員であり、昭和六〇年五月からは、X1と同様の業務を行う有限会社X2事務所(以下「X2」という。)の取締役兼従業員であった。
  被告会社は,雑誌図書の発行及び販売等を業とする株式会社であり、被告Y2(以下「被告Y2」という。)は、直木賞を受賞した作家である。 
2 被告会社は、平成八年四月、別紙「書籍目録」一記載の書籍(以下「本件書籍一」という。)を発行し、以来これを販売しているが、その巻末の「編集エッセイ」には、別紙「被告リスト」記載の映画化リスト及びテレビ・ドラマ化リスト(以下「被告リスト」という。)が被告Y2の著作に係るものとして掲載されている。
  また、被告会社は、平成九年一二月、同目録二記載の書籍(本件書籍一を含む「松本清張小説セレクション」全三六巻の巻末において被告Y2が執筆したエッセイを集めて一冊の本としたもの。以下「本件書籍二」といい、本件書籍一と本件書籍二を合わせて「本件書籍」と総称する。)を発行し、以来これを販売しているが、本件書籍二には、被告リストが転載されている。
二 争点
1 原告リストが著作物又は編集著作物に当たるか。
(原告の主張)
  原告リストは、松本清張の映像化された小説について、映画化されたものとテレビドラマ化されたものの二種類に区分したり、項目立てや脚本作成者や主な出演者の記載等に工夫を加えるなどして作成されたものであって、原告の思想を創作的に表現した、文芸及び学術の範囲に属する言語の著作物であり、そうでないとしても、素材の選択又は配列に創作性のある編集物として編集著作物に当たる。
  松本清張の小説は、極めて多数かつ長期間にわたって映像化されているため、その映像化に関するリストの作成には多くの困難を伴うものであって、原告リストは、極めて価値の高い貴重な資料である。
(被告らの主張)
  原告リストは、歴史的な事実のみをありのまま簡潔に記載したものであり、思想又は感情を創作的に表現したものとはいえないから、言語の著作物に当たらない。また、原告リストが編集物であるとしても、その素材の事実情報たる性質上、素材の選択又は配列に創作性を発揮する余地は極めて少なく、編集著作物になり得るものでもない。
2 原告リストの著作者が原告か。
(原告の主張)
  原告は、昭和五六年ころに自らの判断で松本清張の小説の映像化に関するリストの作成に着手し、昭和六〇年六、七月ころからこれに本格的に取組み、原告リストを作成したものであり、X1ないしX2の職務上作成したものではなく、X1ないしX2の名義で原告リストを公表したこともない。したがって、原告リストの著作者は、原告である。
(被告らの主張)
  仮に原告リストが著作物に当たるとしても、原告リストは、X1ないしX2の発意に基づき、その名義で公表することを予定して、その従業員である原告が職務上作成したものであるから、原告リストの著作者は、X1ないしX2であって、原告ではない。

3 被告リストの掲載が原告の著作権及び著作者人格権を侵害するか。
(原告の主張)
  原告は、平成六年一二月一八日、被告会社の従業員であるA(以下「A」という。)から、被告Y2が清張作品の映像化についてのエッセイを執筆する際の参考資料として、清張作品の映像化リストを送付するよう依頼を受け、Aに対し、原告リストを送付した。被告Y2は、原告がAに対して送付した原告リストに依拠し、その一部について改変、削除を行って、原告リストと極めて類似する被告リストを著作し、これを被告Y2の著作に係るものとして本件書籍に掲載した。したがって、被告リストの掲載は、原告リストの複製に当たり、原告の著作権及び著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)を侵害する。
4 原告の損害額
(原告の主張)
  原告は、被告らの右著作権侵害行為によって、精神的損害を被ったところ、これを慰謝するに足りる金額は、二〇〇万円を下らない。
  また、原告は、被告らの右著作者人格権侵害行為によって、精神的損害を被ったところ、これを慰謝するに足りる金額は、二〇〇万円を下らない。
5 謝罪広告の要否
(原告の主張)
  原告の著作者としての名誉は、金銭支払で償えるものではなく、これを回復するためには、第一(原告の請求)の四記載の謝罪広告が必要である。
第三 当裁判所の判断
一 争点1について
1 原告リストは、別紙「松本清張作品映画化リスト」及び「松本清張作品テレビ化リスト」記載のとおり、まず、松本清張の小説の映画化に関する事項のうち、題名、封切年、製作会社名、監督名、脚本作成者名、主な出演者名を、また、そのテレビドラマ化に関する事項のうち、題名、放送年月日、番組名、放送局名、製作会社名、監督名、脚本作成者名、主な出演者名、視聴率を、それぞれ一覧表にまとめたものである。
  映画化に関する事項については、昭和三二年封切りの「顔」を筆頭に昭和五九年封切りの「彩り河」に至るまでの全三五作品が封切年順に並べられ、各作品ごとに「題名」、「封切年」、「製作会社」、「監督」、「脚本」、「主な出演者」の順序で記載欄が設けられ、それぞれの該当事項が記されている(ただし、「黄色い風土」という映画については、「主な出演者」が記されていない。)。「題名」の欄には、原作の題名と映画の題名が異なるものについて原作の題名が併せて括弧書きで記されており、「脚本」及び「主な出演者」の欄には、いずれも脚本作成者及び主な出演者の名前が最大二名まで上下二段書き又は左右並記の形式で記されている。
  テレビドラマ化に関する事項については、昭和五〇年一〇月一八日放送の「遠い接近」から平成七年一月一六日放送の「父系の指」に至るまでの、昭和五一年放送分のものを除く一五五作品が放送年月日順に並べられ、最後に「微笑の儀式」が加えられて、合計一五六の各作品ごとに「題名」、「放送年月日」、「番組名」、「放送局」、「制作会社」、「監督」、「脚本」、「主な出演者」、「視聴率」の順序で記載欄が設けられ、それぞれの該当事項が記されている(ただし、該当事項が一部記されていないものもある。)。「題名」の欄には、原作の題名とテレビドラマの題名が異なるものについてテレビドラマの題名が併せて括弧書きで記されており、「監督」、「脚本」及び「主な出演者」の欄には、いずれも監督、脚本作成者及び主な出演者の名前が最大二名まで上下二段書き又は左右並記の形式で記されている。「視聴率」の欄には、一つないし異なる二つの数値が記され、連続ドラマについては、平均視聴率が記されている。
2 原告リストは、前記のとおり、松本清張の小説の映画化及びテレビドラマ化に関する事項を一覧表にまとめたものであり、該当事項以外には何らの言語的記載がないから、その記載内容をもって、思想又は感情を創作的に表現したものということはできない。したがって、原告リストが言語の著作物に当たるということはできない。
3 もっとも、原告リストは、一応、事実情報を素材とした編集物ということができるから、その素材たる事実情報の選択や配列に創作性があれば、編集著作物として著作権法上保護される余地がある。そこで、更にこの点について検討することとする。
(一)乙第一号証ないし第三号証、第四号証の1及び2、第五号証の1ないし3、第六号証の1ないし3、第八号証の1ないし3、第九号証の1及び2、第一〇号証、第一一号証の1及び2並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(1)映画の宣伝広告においては、一般に、原作者名、製作会社名、監督名、主な出演者名、脚本作成者名が記されており、テレビドラマの宣伝広告や新聞におけるテレビ番組表などにおいても、原作者名、監督名、主な出演者名、脚本作成者名が記されているのが一般である。また、映画の宣伝広告等においては、必ずしも原作の内容に従ってその主人公を演じる者を主な出演者として記しているものではなく、例えば、昭和五二年封切りの映画「霧の旗」の宣伝広告には、主な出演者として「山口百恵/三浦友和」と記されている。
(2)「映画年鑑」という書籍には、昭和一一年の出版以来、題名、封切年月日、製作会社、企画者、監督名、原作者名、脚本作成者名、美術担当者名、音楽担当者名、主な出演者名などの事項が、個々の映画ごとに順次記される形式で多数収載されている。また、平成一〇年四月二五日発行の「ぴあシネマクラブ」という書籍には、題名、製作年、製作会社、製作総指揮者名、製作者名、監督名、原作者名、脚本作成者名、美術担当者名、音楽担当者名、主な出演者名、カラー・モノクロの別、上映時間、主要映画祭受賞記録などの映画に関する事項が、個々の映画ごとに順次記される形式で多数収載されている。
(3)平成六年五月一日発行の「テレビドラマ全史」という書籍には、昭和二八年から平成六年までに放送されたテレビドラマについて、題名、放送局名、放送日時、脚本作成者、原作者名、演出者名、出演者名などの事項が、個々のドラマごとに放送日時順に従って一覧表の形式で収載されている。
(二)前記認定の事実に照らせば、小説の映画化に関する事項に関し、題名、封切年、製作会社名、監督名、脚本作成者名、主な出演者名を、また、小説のテレビドラマ化に関する事項に関し、題名、放送年月日、番組名、放送局名、制作会社名、監督名、脚本作成者名、主な出演者名、視聴率を、それぞれ項目として選択し、その順序に従って配列して、右の該当事実を整理・編集することは、従来の事実情報資料においても採られていたものであって、原告リストがこの点において何らかの独自性、新規性を有するとは認めることができず、また、題名、監督名、脚本作成者名、主な出演者名等の各事項における個々の事実情報の選択・配列の点においても、原告リストが著作物として保護すべき創作性を有するものとは認められない。
(三)なお、原告は、原告リストについて、その作成の困難性や資料としての価値の高さを強調するが、著作権法により編集物著作物として保護されるのは、編集物に具現された素材の選択・配列における創作性であり、素材それ自体の価値や素材の収集の労力は、著作権法によって保護されるものではないから、仮に原告が事実情報の収集に相当の労を費やし、その保有する情報に高い価値を認め得るとしても、そのことをもって原告リストの著作物性を認めることはできない。
(四)以上検討したところによれば、原告リストが編集著作物に当たるということもできない。
二 したがって、原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。

 よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 三村量一 裁判官 長谷川浩二 裁判官 中吉徹郎)
別紙 書籍目録〈省略〉
別紙 謝罪広告目録〈省略〉
別紙 被告リスト〈省略〉
別紙 松本清張作品映画化リスト
別紙 松本清張作品テレビ化リスト


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