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北アルプス鳥瞰図事件 長野地裁平成6年3月10日判決
本判決は、第一法規株式会社様のご厚意によりデータの提供を受けて掲載しております。

【判例ID】   28019590
図画等使用禁止等請求事件
長野地裁昭和六〇年(ワ)第二二八号
平成六年三月一〇日判決
原告 信濃航空株式会社
右代表者代表取締役 X
右訴訟代理人弁護士 川上眞足
被告 有限会社長野デザインセンター
右代表者代表取締役 Y1
右訴訟代理人弁護士 村下武司
同 河合英男
村下武司訴訟復代理人弁護士 板谷洋
同 村下憲司
被告 大町市
右代表者市長 Y2
被告 白馬村
右代表者村長 Y3
被告 小谷村
右代表者村長 Y4
右三名訴訟代理人弁護士 石津廣司

       事実及び理由

第三 争点に対する判断
三 原告が被告三市村に対する著作権等の譲渡契約に基づき著作権等を喪失したか(争点6)について
  原告は、昭和五七年九月以降の被告らの行為をとらえて損害賠償請求をしているところ、被告らは、原告は、著作権の譲渡契約に基づき、昭和五四年三月六日ころには既に著作権を喪失していたと主張する。
1 〔証拠略〕を総合すれば、以下の事実が認められる(争いのない事実も含む。)。
(一)昭和五一年秋ころ、原告代表者は、白馬村観光商工課を訪れ、パンフレット作成を受注したいと申入れた。白馬村担当者は、原告が将来制作するイラストを利用する場合の料金について見積書を提出するよう原告代表者に指示した。
(二)昭和五二年二月二〇日、原告代表者は、被告白馬村に対し、被告三市村宛のイラストの全面使用の場合の使用料三〇万円、全面使用が三回以上になれば、一切の版権が譲渡されるとの記載のある見積書(〔証拠略〕)を交付した。その際、原告代表者は、イラスト使用の目的を特にパンフレットに限るとの限定はしなかった。被告白馬村の担当者は、見積書に著作権の譲渡に関する条件が記載されていると考え、被告三市村は、右のような理解を前提に右見積書の内容を検討し、原告のイラストを利用する方針を決め、原告にその意向を回答した。
(三)同年九月一二日、被告大町市は、被告三市村が使用する冬季合同宣伝用パンフレット作成のため(〔証拠略〕)、指名競争入札の方式により、柳沢印刷との間で、印刷請負契約を締結した(〔証拠略〕)。その際、被告三市村は、原告に支払うべきイラスト使用料三〇万円を各自一〇万円ずつ直接原告に対して支払うこととし、被告大町市が昭和五三年一月二六日、被告白馬村が同年二月一七日、被告小谷村が同年四月一七日、各一〇万円ずつを原告に支払った(〔証拠略〕)。
(四)昭和五二年一〇月一五日、原告は、随意契約の方式により、被告三市村の合同宣伝用ポスター作成のため、被告三市村との間で(ただし、被告小谷村については、小谷村観光協会名義で)、代金をイラスト使用料三〇万円を含めて合計一一〇万円として、印刷請負契約を締結し(〔証拠略〕)、被告三市村は、一一〇万円のうち各自の負担分をそれぞれ原告に支払った(〔証拠略〕)。
(五)昭和五三年一〇月一一日、被告大町市は、被告三市村の合同宣伝用ポスターを作成するため、代金を原告に支払うべきイラスト使用料三〇万円及び判下代一〇万円を含めて合計一一五万円として、野崎印刷株式会社との間で、印刷請負契約を締結した(〔証拠略〕)。野崎印刷株式会社は、昭和五四年一月二〇日、被告三市村が野崎印刷株式会社に対して支払った代金のうち原告に対して支払うべきイラスト使用料三〇万円及び判下代一〇万円を原告に対して支払った(〔証拠略〕)。
(六)原告代表者は、昭和五四年に本件原画一の原本を被告大町市に渡し、以後、本件原画一は、被告大町市が保管している。
(七)その後、原告代表者は、昭和六〇年七月二日になって、代表者個人名で本件原画一をもとに作成されたポスターの第一発行年月日の登録を申請した(〔証拠略〕)。
  〔中略〕
2 著作権譲渡に関する合意について
  右認定の事実によれば、昭和五二年二月二〇日ころ、原告と被告三市村との間で、原告のイラストを全面使用する場合の使用料は一回三〇万円とし、全面使用を三回以上行ったときは、著作権及び本件原画一の所有権を被告三市村に譲渡するとの合意がされたこと、その際、全面使用の対象はパンフレットに限定されていなかったことが認められる。
  これに対し、原告は、イラストの使用に関する合意の内容に関し、全面使用を三回以上行ったときは、使用料が無料になるという意味での出版権設定契約がされたにすぎないと主張し、原告代表者は、代表者尋問(第一、二回)においてこれに沿う供述をする。しかし、右認定の見積書には「一切の」版権が「譲渡」されるという文言が使用され、出版権の「設定」等の文言が使用されていないこと、一般に版権という言葉は、著作権法制定前は、著作権の意味でも用いられており(公刊された図書により当裁判所に顕著である。)、見積書に版権という言葉が用いられていることをもって、出版権に関する合意が成立したと決めつけることはできないこと、原告代表者と最初に交渉をもった被告白馬村の観光商工係長のZも、右見積書の版権を著作権の意味に理解していたこと、原告制作のイラスト利用は、原告から積極的に売り込んだものであり、被告三市村を説得するため、出版権に限定せず著作権を譲渡する旨の合意がされたと考えるのが自然であること、原告は、右1(三)ないし(五)認定の被告三市村のイラスト利用から約六年間第一発行年月日の登録を申請していないことなどを考慮すると、原告代表者が、昭和五二年二月一〇日ころ、被告三市村が九〇万円を支払った場合でも、畜作権自体は原告に帰属するとの意識を有していたかについては疑問が残る。したがって、右供述は採用できない。
  また、原告代表者は、本件原画一制作までに相当額の経費がかかっているから、九〇万円でその著作権を譲渡する筈がないと供述する(第二回)。しかし、同尋問の結果によれば、原告としては、当初、被告三市村から継続的にポスター等の受注が受けられ、これにより利益を得られるものと目論んでいたところ、結果的に原告が随意契約で被告三市村から受注を受けることができなくなったため、右目論見がはずれたという事情が窺われるから、当初の目論見をもとに、右内容の契約を締結したことが不自然、不合理ということはできない。
3 右合意に基づく弁済経過及び著作権等の移転について
  右1認定の事実によれば、被告三市村は、(1)昭和五二年印刷の被告三市村合同宣伝用パンフレット、(2)同年印刷の被告三市村合同宣伝用ポスター、(3)昭和五三年印刷の被告三市村合同宣伝用ポスターのための原告のイラスト使用料合計九〇万円を支払ったことが認められ、最後の支払日である昭和五四年一月二〇日、原告は、本件原画一にかかる著作権及び本件原画一の所有権を喪失したものと認められる。
  〔中略〕
五 著作者人格権侵害の主張(争点9、11)について
  原告は、被告らが、(一)本件原画一を使用したポスターやパンフレットに原告名を表示せず、「制作構成大町市・白馬村・小谷村」と表示したのは、氏名表示権の、(二)本件原画一を単独宣伝用に分割使用し、また、鉄道等を表示したのは、同一性保持権の、各侵害であると主張し、右のとおり表示した事実及び分割使用した事実は、〔証拠略〕により認められる。しかしながら、〔証拠略〕によれば、宮尾は、本件契約締結に際して,原告代表者に従前被告三市村が他社に作成させた合同宣伝用パンフレットを示して、同種のものを作成するよう依頼しており、そのパンフレットには観光客の便宜のため鉄道、道路等原画にはない表示が印刷段階で付け加えられていたが、本件契約により制作される原画においてもこれと同様の扱いとなることが前提とされていたこと、現に原告が構成を担当し、本件原画一を使用した昭和五二年用被告三市村合同宣伝用パンフレット及びポスターにも鉄道等の表示がなされたが、原告はこれに異議を述べていなかったこと、前記三1(二)認定の見積書には「部分的使用料は別に定めるものとする」と記載され、部分的使用がありうることを是認していたこと、また、前記三1(三)ないし(五)に認定のパンフレットやポスターにおいても、著作者としての原告の氏名表示はなく、その表示がなされないことを、原告は事実上黙認していたこと、以上の事実を認めることができる。
  右認定によれば、本件契約締結に際し、原告は、本件原画一の分割使用、本件原画一を使用したパンフレットやポスターに原告の氏名を表示しないこと、本件原画一に鉄道等の表示を付加することにつき、少なくとも黙示的に承諾していたものと認めるのが相当である、。したがって、著作者人格権の侵害を理由とする損害賠償請求も理由がない。 
(裁判長裁判官 前島勝三 裁判官 菊地健治 和久田斉)


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