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船荷証券事件 東京地裁昭和40年8月31日判決
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【判例ID】   27755008
損害賠償請求訴訟事件
東京地方昭三九(ワ)第二六八六号
昭四〇、八、三一判決
原告 X
被告 Y

       主   文

原告の請求は、いずれも棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。

       事   実

第一、当事者の求める裁判
一、原告
(一)、一次的請求
1、被告は原告に対し、金九〇〇万円およびこれに対する昭和三九年四月八日から支払ずみまで年五分の割合による金員の支払をせよ。
2、訴訟費用は、被告の負担とする。
との判決および仮執行の宣言
(二)、二次的請求
1、被告は、原告に対し、金九〇〇万円およびこれに対する昭和三七年一〇月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員の支払をせよ。
2、訴訟費用は、被告の負担とする。
との判決および仮執行の宣言
二、被告
主文と同趣旨の判決
第二、請求の原因
一、一次的請求の原因
(一)、原告は、昭和三二年一一月初旬、被告との間に左記契約をした。
1、原告は、被告に対し、別紙(省略)記載のビル・オブ・レーデイング用紙(「本件ビー・エル」という。)総数五〇〇万枚を、被告の引渡指定に応じて印刷し、その指定場所に納入すること。
2、代金額は、現物の引渡時の時価によつて、原、被告双方で協定すること。
3、被告は、ビー・エル五〇〇万枚に達するまでは、本件ビー・エルのフオームを使用し、他のフオームを使用しないこと。
(二)、原告は、被告の注文によつて昭和三二年一二月本件ビー・エル一三〇万枚を、昭和三五年二月、七〇万枚をそれぞれ被告に納入した。
(三)、ところが、被告は、昭和三七年九月以後、本件ビー・エルを使用しないこととして、原告に対するビー・エルの引渡指定をしなくなつた。そのため原告は、次のような得べかりし利益を失つた。
  原告は、本件ビー・エルをオリヂナル一枚とコピー三枚を一組として被告に販売していたが、その販売価額は、オリヂナル一枚金四円、コピー一枚金三円五〇銭であり、原価は、オリヂナル一枚金一円、コピー一枚金五〇銭であつたから、オリヂナル、コピー各一枚につき金三円の利益があつた。従つて、残りの三〇〇万枚について原告の得べかりし利益は合計金九〇〇万円である。
(四)、よつて、原告は、被告に対し、債務不履行に基く損害として、金九〇〇万円およびこれに対する訴状送達の翌日である昭和三九年四月八日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二、二次的請求の原因
(一)、原告は、昭和三二年一〇月ころ、本件ビー・エルを作成した。従つて、原告はこれについて著作権を有する。
(二)、被告は、昭和三五年から昭和三七年九月までの間に本件ビー・エルをオフセツト写真版で、表左上部の旗印を異にするほか全く同一内容のビー・エル二五〇万枚を作成し、これを被告の本店、支店、代理店等において使用した。
(三)、被告のこの行為は、原告の有する本件ビー・エルの著作権を侵害するものであつて、原告は、被告の不法行為により、次の損害を受けた。
1、財産的損害金七五〇万円
  前記のとおり、原告は、本件ビー・エル一枚につき金三円の利益を得られるところ、被告の本件不法行為がなかつたら原告は二五〇万枚について合計金七五〇万円の利益を得たはずである。これは、原告が被告の不法行為によつて受けた財産的損害である。
2、精神的損害金一五〇万円
  本件ビー・エルは原告が大正一二年以来専門的に研究努力してきた結果に基く労作であり、被告がその著作権を侵害したことを認めながら原告に対し陳謝の意を表することもない態度を考慮すると、原告の被つた精神的苦痛は多大であり、これを金銭で償うとすれば、金一五〇万円が相当である。
(四)、よつて、原告は、被告に対し、不法行為による損害として、合計金九〇〇万円およびこれに対する不法行為の後である昭和三七年一〇月一日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
第三、被告の答弁
一、一次的請求原因に対する答弁
(一)、認否
1、請求原因(一)の事実は否認する。
2、同(二)の事実は認める。
3、同(三)は、否認する。
(二)、主張
  被告は次に述べるとおり、原告からの二回にわたる注文要請によつて、その都度これを検討し、原告に対し、必要に応じて本件ビー・エルの印刷納入を依頼したものであつて、原告の主張する五〇〇万枚は原告の一方的な見込数にすぎない。
1、原告は、昭和三二年一一月一八日、被告に対し、本件ビー・エルのオリヂナル三〇万枚を単価金一円五〇銭、コピー一〇〇万枚を単価金一円、緊急(夜業)印刷費一枚につき金二〇銭で納入したいと申し入れて来たが、更に、同月二五日、オリヂナルの単価を金二円五〇銭、コピーの単価を金一円、緊急作成費一枚につき金三〇銭にする旨申し入れて来た。そこで、被告は、原告と種々接渉した末、同年一二月六日、オリヂナル三〇万枚を単価金二円七〇銭、コピー一〇〇万枚を単価金一円一五銭、緊急作成費一枚について金三〇銭とする旨の合意が成立し、これに基いて、原告は本件ビー・エル一三〇万枚を被告に納入した。
2、その後、原告は、昭和三五年一月二三日に至り、被告に対し、二回目の注文を要請して来たが、その条件は、オリヂナルの単価を注文枚数四万枚以上のとき金四円、一〇万枚以上のとき金三円五〇銭、五〇万枚以上のとき金三円、一〇〇万枚以上のとき金二円七〇銭、コピーの単価を注文枚数四万枚以上のとき金三円五〇銭、一〇万枚以上のとき金三円、五〇万以上のとき金二円五〇銭、一〇〇万枚以上のとき金二円二〇銭とする旨申し入れて来た。そこで、被告は、原告に対し、同年二月六日、オリヂナル二〇万枚を単価金二円、コピー五〇万枚を単価金一円七〇銭で引き受ける旨申し出で、原告がこれを容れて、被告に対し本件ビー・エル七〇万枚を納入した。
二、二次的請求の原因に対する答弁
(一)、認否
1、請求原因(一)の事実のうち原告が著作権を有することを否認し、その余は、認める。
2、同(二)の事実はビー・エルの枚数を除いて認める。被告の作成したビー・エルの枚数は六〇万枚である。
3、同(三)は、否認する。
(二)、主張
1、仮に原告が本件ビー・エルについて著作権を有しているとしても、被告が昭和三二年一二月六日原告に対して本件ビー・エル一三〇万枚の納入を注文した際、その出版権を被告に設定する旨の合意が成立し、被告は原告に対してその対価として金三〇万円を支払つた。そこで、被告は、訴外Aに対して、昭和三六年七月五日、本件ビー・エルのオリヂナル一〇万枚、コピー三〇万枚を、同年九月五日、コピー一〇万枚を、同年一二月一日、オリヂナル一〇万枚を各印刷納入することを注文し、その納入にかゝるもののうち一部を使用したのである。
2、仮りに、被告の前記行為が原告の著作権を侵害することになるとしても、昭和三五年当時の印刷原価は、一枚につき金二円から金一円七〇銭までであり、昭和三六年当時の印刷原価は、原版費を含んでも一枚につき最高金二円六〇銭であつたから、原告主張のような損害は発生しない。
第四、被告の答弁に対する原告の応答
  被告の主張事実のうち被告がAに対して本件ビー・エル六〇万枚の印刷を注文し納入させたことは認めるが、その余は否認する。
証拠
(省略)

       理   由

一、一次的請求について。
  成立に争いのない甲第二号証、乙第四号証の一、二、海上取引研究所作成部分につきいずれも成立に争いのない乙第一号証の一、第二号証、第三号証の一、証人B、C、Cの各証言、原告本人(第一回)尋問の結果を総合すると、次の事実を認めることができる。
  被告は、昭和三二年一〇月ころ、同年一一月からの北米定期航路の開設および国際海上物品運送法の施行(昭和三三年一月一日施行)を目前に控えて、被告独自の船荷証券を作成すべく、原告にその原案の作成を依頼し、その原案は、被告営業部と原告との間でまとまつた。被告は、同年一二月にロスアンゼルス港から出帆する被告の汽船に使用しうるように、原告に対してその希望のとおり本件ビー・エルの印刷納入を依頼することになつた。
そして、その費用については、原告と被告経理部用度課との間で接渉することになり、原告は、同年一一月一八日、被告の一色刷の希望に応じた見積書を提出し、次いで、被告の二色刷の要請による見積書を出して、結局同年一二月六日、本件ビー・エルにつきオリヂナル三〇万枚を単価金二円七〇銭、コピー一〇〇万枚を単価金一円一五銭、緊急作成費一枚につき金三〇銭と定めて同年一二月二五日までに納入すること、代金は、発注と同時に三分の一、残額を翌年一月五日ころ支払うとの契約が成立し、原告は同年一二月これを納入した。昭和三五年一月、被告から本件ビー・エルの印刷納入代金の問い合わせをうけて、原告は注文枚数に応じた単価を申し入れ、同年二月六日、原、被告間に、本件ビー・エルにつき、紙質をオリヂナル、コピーともに特ズキのスカシ入りとし、オリヂナル二〇万枚を単価金二円、コピー五〇万枚を単価金一円七〇銭と定め,納期をオリヂナル二万枚を同月一五日、オリヂナルの残分とコピー五〇万枚を同月末日とし、代金の支払方法を、発注と同時に金四〇万円、残金八五万円を同年三月末日とする契約が成立し、原告は納期にこれを納入した。この二回目の契約の際、原告は、被告が本件ビー・エルのフオームを今回限りで使用しないことを知り、他のフオームを使用することになつても、原告に注文されたい旨被告に申入れた。
  以上認定の事実からすると、原、被告間の本件ビー・エルに関する取引は、その都度、枚数、紙質、単価、納入時期等を確定してされたものであつて、原告はその以前に本件ビー・エル五〇〇万枚の印刷納入契約があつたと主張するけれども、この点に関する原告本人(第一、二回)尋問の結果は採用し難く、ほかに原告主張の事実を肯認するに足りる証拠はない。 
  従つて、債務不履行を原因とする一次的請求は、その余の点について判断するまでもなく、失当として排斥を免れない。
二、二次的請求について
原告は本件ビー・エルについて著作権を有すると主張するが、著作物とは、精神的労作の所産である思想または感情の独創的表白であつて、客観的存在を有し、しかも文芸、学術、美術の範囲に属するものと解されるところ、前記認定のように、本件ビー・エルは、被告がその海上物品運送取引に使用する目的でその作成を原告に依頼した船荷証券の用紙である。それは被告が後日依頼者との間に海上物品運送取引契約を締結するに際してそこに記載された条項のうち空白部分を埋め、契約当事者双方が署名又は署名押印することによつて契約締結のしるしとする契約書の草案に過ぎない。本件ビー・エルに表示されているものは、被告ないしその取引相手方の将来なすべき契約の意思表示に過ぎないのであつて、原告の思想はなんら表白されていないのである。従つて、そこに原告の著作権の生ずる余地はないといわなければならない。原告が本件ビー・エルの契約条項の取捨選択にいかに研究努力を重ねたにせよ、その苦心努力は著作権保護の対象とはなり得ないのである。
  してみると、本件ビー・エルにつき原告に著作権のあることを前提とする二次的請求も、既にこの点において失当であるから、爾余の点について判断するまでもなく理由がない。

三、むすび
  よつて、原告の本訴各請求はいずれも理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 古関敏正 水田耕一 野沢明)


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